うさぎ ソファに座ってテレビを付けると、動物番組が流れていた。今日はうさぎ特集のようで、ふわふわとした毛の固まりが、画面の中をぴょんぴょんと歩いている。しばらく見ていると、品種の紹介と共に、ネットに投稿されていたと思わしき動画が再生され始めた。性格も個体それぞれで、飼い主の呼びかけに応えるように走ってくる子もいれば、ベッドの上で丸まって眠っている子もいるし、もしゃもしゃと野菜を食んでいる子もいる。かわいい姿が画面に映し出される度に、ワイプの出演者たちが口々に歓声を上げた。
僕は、隣に座るルチアーノに視線を向けた。彼は、退屈そうに胡座をかきながら、ぼんやりとテレビを見つめている。画面の中で跳び跳ねるうさぎを見て退屈そうにあくびをすると、僕の肩に頭を凭れかけてきた。ソファからはみ出した足は、僕の膝の上に乗っている。
「思ったんだけどさ、ルチアーノってうさぎに似てるよね」
画面に視線を向けたまま、僕は何気なく呟いた。そこでは、垂れ耳のもこもこしたうさぎが飼い主にべったりと甘えている。その姿は、いつもは気の無い振りをしてるのに、寂しくなると僕に甘えてくるルチアーノにそっくりだと思った。
「どうしてそうなるんだよ。何か理由でもあるのか?」
隣から、ルチアーノの声が聞こえてくる。興味の無いような、退屈そうな声だった。
「だって、うさぎは寂しいと死んじゃうんでしょう? ルチアーノだって、寂しくなると泣いちゃうから」
僕が言うと、彼はゆっくりと顔を上げた。僕の顔を覗き込むと、一呼吸置いてからケラケラと笑う。心底おかしそうな、お腹から出された声だった。
「どうしたの? そんなに笑って」
尋ねると、ルチアーノは大きく深呼吸をした。目元を潤ませながら、呆れたように言う。
「君、本気でそんなこと思ってるのかい?」
「へ?」
僕はぽかんとした顔をしてしまった。ルチアーノが何を言っているのか、いまいち分からなかったのだ。理解してないことに気がつくと、ルチアーノは再び呆れ顔を見せた。
「うさぎは寂しいと死ぬ、ってやつだよ。あれ、ただの迷信だぜ?」
「そうなの!?」
びっくりして、大きな声が出てしまった。ソファから背を離すと、ルチアーノの顔を見つめる。支えを失って、彼の身体はソファに倒れそうになった。体勢を整えると、呆れ顔のまま口を開く。
「本気で信じてたのかよ。けっこう有名だぜ?」
「知らなかった……」
僕が呟くと、ルチアーノはソファに座り直した。テレビの中では、出演者たちがうさぎと戯れている。女性の膝に抱かれる毛玉を眺めながら、ルチアーノが何気なく呟いた。
「僕からしたら、君の方がうさぎみたいだけどね」
「え? どうして?」
尋ねると、彼はにやりと笑う。クスクスと鼻を鳴らすと、上目遣いで僕を見た。
「それくらい、自分で考えなよ」
頭を巡らせてみるが、何も思い付かなかった。ルチアーノに視線を向けるが、にやにやと笑いながらごまかされてしまう。
「分かんないよ。教えて」
「嫌だよ。そんな恥ずかしいこと、言うわけないじゃないか」
「恥ずかしいこと……?」
彼の言葉をヒントに、再び頭を巡らせる。考えては見るが、やっぱり分からなかった。
ルチアーノは、にやにやとした笑みを浮かべている。意地悪な笑いに、僕も意地悪を返したくなった。
僕は、ルチアーノに顔を近づけた。唇に高さを合わせると、自分の唇を押し当てる。割れ目をこじ開けると、無防備な口内に舌を差し込んだ。
「んんっ……!」
ルチアーノが驚きの声を上げる。それに構わずに、僕は舌を動かした。頬を舐め、口蓋を舐め、舌先を絡める。それなりに好き勝手やっているが、抵抗はされなかった。唇から唾液を溢しながら、彼の口内を貪る。
しばらくすると、僕はようやく唇を離した。ルチアーノが、唇から垂れた唾液を手の甲で拭う。僕を見上げると、少し不満そうにこう言った。
「なにするんだよ、急に」
「ルチアーノが意地悪するからだよ」
僕が言うと、彼は小さく鼻を鳴らした。ソファから立ち上がると、僕の膝の上に乗ってくる。にやりと笑うと、両手で僕の頬を掴んだ。
「本当に、君はうさぎに似てるよな。呆れるぜ」
「ねぇ、その、うさぎに似てるってどういう意味なの? そろそろ教えてよ」
僕が言うと、彼は小さくため息をついた。渋々と言った様子を示しながら、淡々とした声で言葉を発する。
「仕方ないなぁ。分からないみたいだから、教えてやるよ」
そう言うと、彼は一度言葉を切った。勿体ぶった様子で間を空けると、はっきりした声で言う。
「うさぎは、年中発情期だって言うじゃないか。年がら年中盛ってる君にはぴったりだろ」
彼の言葉を聞いて、僕は頬を赤く染めてしまった。確かに、僕は彼に対していかがわしいことばかりしているし、えっちなことばかり考えてしまう。しかし、それを真正面から指摘されるのは、穴に入りたくなるほど恥ずかしかった。
「そんなこと言わないでよ。僕がえっちなことしか考えてないみたいじゃん」
「その通りだろ? 君は、毎日のように僕を誘ってくるじゃないか。えっちしよう、ってさ」
「うぅ……」
僕は、羞恥に身を捩った。これは、なんという羞恥プレイなのだろう。恥ずかしいのに、身体が熱くなってしまう。
「ふーん。こんなんで興奮してるんだ。やっぱり君って変態だね」
僕の上で身体を動かしながら、ルチアーノはにやにやと笑う。その笑顔に、余計に身体が高ぶってしまった。
「もう、やめてよ。恥ずかしいから」
そう言うと、彼は甲高い声で笑った。にやにやと笑いながら、僕の身体に手を伸ばす。彼の小さな手のひらは、僕の服の中へと侵入した。
「変態な君には、お仕置きが必要だよな」
からかうような笑顔で、ルチアーノは言葉を吐く。これから起きることへの期待に、僕の身体は余計に熱を持った。
「変態じゃないよ」
答えながらも、僕は少しも抵抗できなかった。身体は、彼から与えられる愛撫を待っているのだ。観念して、僕はその指先に身を委ねた。