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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。TF主くんが出られない部屋の条件で女装させられるだけの話です。

    ##TF主ルチ

    コスプレしないと出られない部屋 気がついたら、見慣れない部屋の中にいた。周囲を真っ白な壁で囲まれた、僕の部屋と変わらないくらいの大きさの部屋だ。無機質な姿は病院のようで、少し気味が悪い。ゆっくりと身体を起こすと、部屋の中を見渡した。
     隣には、ルチアーノが寝転がっていた。両目はしっかりと閉じられているが、意識を失っているだけだろう。揺さぶると、すぐに目を覚ました。
    「どこだよ、ここ」
     身体を起こすと、ゆっくりと周囲を見渡す。部屋の内装を捉えると、何かを察したように黙りこんだ。
    「どうやら、いつもの部屋みたいだね」
     彼の言葉を代弁して、僕が口を開く。この手の部屋なら、僕たちは何度も閉じ込められているのだ。
    「面倒臭いな。今度は何なんだよ」
     不機嫌を隠さずに吐き捨てると、ルチアーノは背後を睨み付けた。そこには、巨大なモニターが取り付けられている。これこそが、部屋の主と僕たちを繋ぐ唯一のアイテムだった。
     ルチアーノの言葉に答えるように、真っ白な画面に色彩が溢れ始める。そこに表れた文字列は、このような文章を示していた。

    ──どちらかがコスプレをしないと出られない部屋

    「はぁ?」
     僕が言葉を発するよりも先に、ルチアーノが声を出す。僅かな間を開けてから、甲高い声で言葉を続けた。
    「コスプレって何だよ!? フリフリのドレスでも着せられるのか!?」
     物言わぬ画面に向かって、ルチアーノは早口で問い詰める。甲高くて大きな声が、部屋の中に響き渡った。耳が壊れそうになってしまって、慌てて耳を塞ぐ。
    「ちょっと落ち着いてよ。耳が割けちゃうよ」
     緩んだ袖を引っ張って、なんとかルチアーノを引き戻す。彼は、頬を赤くして僕を睨み付けた。
    「これが落ち着いてられるかよ! この部屋は、また分けの分からないことをやらせようとしてるんだぞ!」
     言い争いをしているうちに、画面の文字は次の内容に切り替わった。どうやら、部屋の解除条件の説明らしい。僕たちの内輪揉めなど気にしていないようだった。

    ─この部屋のクローゼットには、コスプレの衣装が入っています。お二人のうちのどちらかが、この中の衣装を着用してください。衣装に組み込まれたシステムが着用を感知したら、無事にミッションクリアとなります。

     文字列は、淡々とルールを説明していく。僕は、黙ってその画面を見つめていた。隣のルチアーノも、正気を取り戻したように黙り込む。しばらくすると、画面の文字はゆっくりと切り替わった。

    ──コスプレは、古くから伝わるカップルのコミュニケーションツールのひとつです。普段とは違う格好をしたパートナーは、いつもより魅力的に見えることでしょう。是非とも、楽しんで脱出してくださいね

    「誰が楽しめるか!」
     画面が消灯すると共に、ルチアーノの声が室内に響き渡る。どうやら、黙っていられなかったらしい。甲高い声が耳に突き刺さって、僕は再び顔をしかめた。
    「ルチアーノ、落ち着いてよ」
     なんとか宥めながら、僕は室内を見渡した。僕たちから見て左側の壁に、不自然な取っ手が取り付けられている。明らかにクローゼットだとしか思えなかった。
    「クローゼットは、これみたいだね」
     恐る恐る歩み寄ると、スライド式の扉を開ける。中には、色とりどりの洋服が詰められていた。
    「うわぁ」
     隣で、ルチアーノが不快そうな声を上げる。彼がそうなってしまうのも無理はない。この部屋のクローゼットは、撮影スタジオのような衣装しかなかったのだ。
     サブカルチャーの定番であるメイド服や制服はもちろん、着物や振り袖のような晴れ着から、パーティーで着るようなカラードレス、フリフリのロリータファッションまで揃えられている。サイズもきちんと考慮されているようで、小学生の衣装のようなかわいらしいものから、明らかに成人男性を想定した大きなものまであった。
    「着るしかないみたいだね」
     そう言うと、ルチアーノに視線を移した。彼は、目の前に並んだ衣装を見つめながら、悔しそうに唇を噛んでいる。僕の顔を見上げると、歪んだ顔を見せつけた。
    「僕は嫌だからな。コスプレなんて馬鹿げたこと、するわけないだろ! 君が着ろよ」
    「ルチアーノが着た方がいいでしょ。ルチアーノは、こういう服が似合うんだから。僕が着たところで、事故にしかならないよ」
     彼の迫力に負けないように、僕も言葉を返す。成人男性がコスプレなんかしたって、グロくて見られたものじゃない。それに、ルチアーノは僕を笑い者にするつもりなのだ。乗るわけにはいかなかった。
    「誰がこんなもん着るかよ! 女の服なんて、恥さらしでしかないじゃないか」
     ルチアーノも負けじと言葉を続ける。そんな彼に、僕は小さな声で囁いた。
    「…………そんなこと言って、こっそりメイド服を着てた癖に」
     ルチアーノの表情が、僅かに揺らいだ。すぐにその片鱗は消え、鋭い視線が僕を睨む。
    「それは、君が落ち込むと思って仕方なくだな……」
    「仕方なくで、ピースまでして写真を撮ったんだ。そんなにサービス精神があるんだね」
    「もう、その話はいいだろ! そんなことを言ってる暇があったら、脱出することを考えろよ!」
     頬を真っ赤に染めたまま、ルチアーノは僕に詰め寄る。僕としても、言い争いをしている場合ではないのだ。おとなしく言葉を飲み込んだ。
    「で、どうするの? コスプレするしかないんだよ」
    「…………僕は着ないからな。君が着ろよ」
     そう言うと、彼はその場に座り込んでしまった。堂々と胡座をかき、クローゼットと僕を見つめる。こうなってしまえば、彼は梃子でも動かない。仕方なく衣装を探ることにした。
     隙間なく敷き詰められた服を掻き分けて、着られそうなものが無いかを探していく。かけられている服は、女性の着るものばかりで、まともな衣装はひとつもなかった。制服のようなワンピースやチープなコスプレ衣装、フリルのついたスカートを掻き分けながら、僕は大きく溜め息をついた。
    「なあ、君、これを着てみろよ」
     不意に、隣から声が聞こえてきた。いつの間にか近くまで来ていたルチアーノが、クローゼットの中を探っていたのだ。彼は服の山に手を突っ込むと、中のひとつを取り出した。
     それは、フリルのたくさんついたワンピースだった。赤くて重そうな生地をベースに、白色の布地が段を作るように縫い付けられている。裾という裾にはリボンがつけられ、上にはメイド服のようなエプロンがかけられていた。
    「嫌だよ。絶対に似合わないし、目も当てられないことになると思うよ」
     僕が言うと、彼は冷ややかな視線を向けてきた。拗ねたような声色を作ると、軽蔑するような眼差しで語る。
    「ふーん。君は、そういうやつなんだ。僕にだけコスプレを強要して、自分は逃れるつもりなんだな」
    「そうは言うけど、ルチアーノだって楽しそうだったでしょ。」
    「嫌々着たこともあったぜ。君は変態だから、変なものばかり着せたよな」
    「うぅ……」
     結局、僕が負けることになった。この手の言い合いに持ち込まれてしまうと、僕はどうしても弱いのだ。人々との駆け引きを本業にしているルチアーノに、言葉で勝てるはずがなかった。
    「分かったよ」
     小さな声で言うと、僕はフリフリの布地を手に取った。ずっしりとした重みを持つワンピースを、慎重にハンガーから外していく。手にとってみると、ワンピースだと思っていたその服は、ブラウスとジャンパースカートのセットだった。
     自分の着ていた服を脱ぐと、ブラウスに袖を通していく。ごわごわとした生地は、あまり着心地がよくなかった。ハート型のボタンを留めると、上からジャンパースカートを被る。正しい着方かは分からないが、なんとか着ることができた。
    「服だけじゃ中途半端だろ。これも付けろよ」
     隣から、ルチアーノが手を出してくる。そこには、ヘッドドレスとハイソックスが握られていた。どちらもフリルがこれでもかと言うほどついた可愛らしいものである。突き出された布地に視線を向けると、恐る恐る尋ねた。
    「これも着るの?」
    「当たり前だろ。君は、服だけ着て外に出るのかい?」
     淡々とした、しかし、脅すような響きを持った声でルチアーノは言う。仕方なく、僕はそのセットを受け取った。
     靴下を履いてから、ヘッドドレスに手を伸ばす。広げたところで、付け方が分からないことに気がついた。
    「ねぇ、これってどうやって付けるの?」
     尋ねると、彼は小さな声で笑った。僕の手から布地を引ったくると、にやにやしながら歩み寄る。
    「仕方ないな。僕が付けてやるよ」
     両手を伸ばすと、頭の上に布地を乗せ、首のしたでリボンを結んだ。ごわごわした布製の紐が、顎のしたで固定される。違和感を感じるが、文句は言えなかった。
    「ひひっ。結構似合ってるぜ」
     笑みを含んだ声で、ルチアーノはそんなことを言う。僕は、恥ずかしくて顔も上げられなかった。頬がじんわりと熱くなり、心臓がバクバクと鳴る。スカートを履いているはずなのに、あまり涼しさは感じなかった。
    「あんまり、見ないでよ……」
     その場に座り込むと、スカートが円のように広がる。その赤い布を見ながら、今の僕はどんな姿をしているのだろうかと思った。
     しばらくすると、沈黙を保っていたモニターが光を宿した。『mission clear』の文字が浮かび上がり、背後からカチリと音がする。待ち構えていたかのように、ルチアーノが扉の方を振り返った。
    「ほら、行くぞ」
     そう言うと、僕を残して歩き始める。その背中に、慌てながら声をかけた。
    「待ってよ。まだ着替えてないんだから」
    「似合ってるんだから、そのまま出ればいいだろ。こんな部屋に閉じ込められたんだ。それくらいしても許されるさ」
    「そういう問題じゃないんだよ。恥ずかしいの」
     答えながら、慌ててジャンパースカートに手を伸ばす。急いで脱ぎ捨てると、自分の着てきた服に身を包んだ。上着に手を通しながら、ルチアーノの後を追いかける。彼も置いていくつもりは無いようで、部屋の入り口に佇んでいた。
    「残念だな。僕は、君のかわいい姿をもうちょっと拝みたかったんだけどな」
     隣から、ルチアーノの声が聞こえてくる。それがからかいでしかないことは、僕が一番よく分かっていた。
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