サンドイッチ パンを上下に切ると、断面にマーガリンとマヨネーズを塗る。具材は少し悩んでから、ベーコンとレタスとトマトを取り出した。慎重にパンの上に重ねると、跳ねないようにそうっと上のパンを乗せる。最後に赤い旗のピックを刺したら、サンドイッチの完成だ。
少し離れたところから、ポケモンが浮遊する音が聞こえた。二つ目のサンドイッチを作りながら、少年はそちらに意識を向ける。次の具材は、レタスとピクルスとハムだった。自由に作るサンドイッチは、未知の領域に踏み込む冒険のようだ。まだ見ぬ究極の味を求めて、彼は探求を続けている。
「アギャッス!」
少年の隣からテーブルを覗き込むと、ミライドンは大きな鳴き声を上げた。頭をゆらゆらと揺らしながら、並べられたサンドイッチを凝視する。サンドイッチは、ミライドンの大好物なのだ。その鳴き声に釣られるように、他のポケモンたちも集まってきた。
「オーガポン、おいで」
少し振り返ると、少年はポケモンたちの背後に声をかける。そこでは、二足歩行する丸いポケモンが、遠巻きに少年たちの様子を眺めていた。恐る恐る足を踏み出すと、ポケモンの影から顔を覗かせる。
「ごはんだよ。一緒に食べよう」
さらに声をかけると、オーガポンは少年の隣まで歩いてきた。ミライドンとは反対側から、テーブルの上を覗き込む。
「ぽに……?」
オーガポンには、サンドイッチというものが分からないらしかった。長い年月を山の中で過ごしていたから、外の文化に触れることがなかったのだろう。今にもかぶりつきそうになっているミライドンを見て、不思議そうに首を傾げている。
「これはね、サンドイッチって言うんだよ。今から分けるから、少し待っててね」
そう言うと、少年は荷物からパン切り包丁を取り出した。少し危なっかしい手つきで、サンドイッチを三等分する。それぞれを皿に乗せると、ポケモンたちに向かって差し出した。
ポケモンたちが、嬉しそうにサンドイッチに齧りつく。両手に持って食べるもの、器用に齧りつくもの、一口で飲み込むものなど、食べ方もそれぞれだ。困ったように視線を動かすオーガポンを見て、少年が皿を持ち上げた。
「はい。これがオーガポンの分だよ。食べてみて」
恐る恐るといった様子で、オーガポンがパンを手に取る。両手で抱えると、少し匂いを嗅いでから、思いきった様子で口をつけた。
彼女の大きな両目が、キラキラと輝きを浮かべる。勢いよく顔を上げると、大きな鳴き声を上げた。
「ぽにお!」
「おいしかった? よかった。まだ作れるから、たくさん食べてね」
少年が言うと、嬉しそうにパンに齧りつく。あっという間に、彼女の皿は空になった。
「ぽに、ぽにお!」
オーガポンの小さい手が、少年の服の裾を引っ張る。それに乗じるように、ミライドンも皿を持ち上げた。
「アギャッス!」
他のポケモンたちも、催促するような視線を向ける。ピクニックバッグの中を探ると、少年はポケモンたちに言った。
「分かってるよ。まだあるからね」
中からパンを取り出すと、今度はベリージャムとホイップクリームを塗った。上に乗せる具材は、いちごとバナナとパインだ。パンを乗せ、青い旗のピックを刺すと、デザートサンドイッチが完成する。
同じ具材のものをもうひとつ作ると、さっきと同じように三等分にした。皿の上に乗せると、ポケモンたちの前に差し出す。
「できたよ。みんなで食べてね」
オーガポンの前にも、同じように皿が置かれた。匂いが違うのが気になるのか、様子を窺うようにパンを持ち上げる。回りのポケモンを眺めてから、パンの隅に口をつけた。
「ぽに……!」
再び、両目がキラキラと輝いた。甘いデザートサンドイッチも、彼女の味覚には合うようだ。両手でしっかりと抱え込むと、大口を開けて平らげる。
「ぽに、がおー!」
嬉しそうに身体を揺らしながら、オーガポンは少年の回りを歩き回った。身に纏った緑色の法被が、風に煽られてゆらゆらと揺れる。その頭を撫でながら、少年も嬉しそうに笑った。
「気に入った? また食べようね」
「ぽにお!」
少年の言葉に答えるように、オーガポンはゆらゆらと身体を揺らす。その、無邪気な子供のような姿を見て、少年は優しく微笑んだ。