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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。TF主くんがルチに連れられて筋トレをしに行く話。ルチに雑に応援されたいという幻覚の産物です。

    ##TF主ルチ

    筋トレ 家に帰って荷物を置くと、真っ直ぐにリビングへと向かった。重い身体を引きずりながら、這うような体勢でソファに上がる。うつ伏せに寝転がると、僕は大きく息を吐いた。
    「疲れた…………」
     そのまま、何度か深呼吸をして息を整える。全身の筋肉が悲鳴を上げていて、今にも破裂しそうだった。明日の筋肉痛のことを考えると、余計に身体が重くなる。そんな僕を見て、ルチアーノは呆れたように言った。
    「情けないなぁ。その程度でへばってたら、僕のパートナーは勤まらないぞ」
    「その程度なんかじゃないよ! 休みなしのデュエル五連戦なんて、大会だってやらないでしょ!」
     ソファの生地に顔を押し付けたまま、僕は大きな声で反論する。今日も今日とて、ルチアーノのスパルタ指導に巻き込まれていたのだ。デュエリストと言えどもほぼ一般人に近い僕は、遊星たちのような飛び抜けた身体能力を持っているわけではない。その不足を補うために、彼はとんでもないプログラムを持ち出すことがあった。
    「休憩は取ってただろ? それに、たった三時間くらいのことじゃないか」
    「水分補給とトイレ休憩は、休憩のうちに入らないよ。ルチアーノのデュエルは実際のダメージが入るし、毎回死にそうになってるんだからね。少しは僕のことも考えてよ」
     子供のように言い返してから、寝返りを打って横を向く。視界に入るルチアーノの姿は、やはりにやにやと笑っていた。
    「君のことを考えてるから、特訓をしてやってるんだろ。身体ができてないうちにシグナーの攻撃を受けたら、それこそ本当に死ぬかもしれないぜ」
    「それは、そうかもしれないけど……」
     いつものように言い返されて、僕は口を閉じる。彼の言うことは横暴ではあるが、いつももっともな意見のだ。僕の身体は、遊星たちのように頑丈ではない。このままシグナーの竜と戦ったら、死んでしまうかもしれなかった。
    「それにしても、君がここまで体力がなかったとはな。驚いたよ」
     黙り込む僕を見下ろしたまま、ルチアーノは言葉を続ける。ソファの前を何度か歩き回ってから、思い付いたように言った。
    「そうだ」
    「今度は、何?」
     嫌な予感がして、僕は重たい声を上げた。あまり印象のいい返事ではないが、疲労困憊なのだから仕方ない。ルチアーノも対して気にすることなく、平然と言葉を続けた。
    「基礎体力が無いなら、一から鍛えればいいんだ。筋トレってやつだよ」
    「へ?」
     予想外の言葉に、僕は疑問符を浮かべてしまう。ポカンと口を開ける姿に、ルチアーノは呆れ顔を浮かべた。
    「聞こえなかったのか、筋トレをするんだよ」
     もう一度聞いても、同じ答えが返ってくる。あまりピンと来ない提案に、しばらく思考を巡らせた。確かに、スポーツにおいて筋肉を鍛えることは基本中の基本である。しかし、デュエルのために筋トレをするなんて、一度も聞いたことがないのだ。
    「チームニューワールドのスポンサーには、スポーツジムを運営する企業もあるからな。要望を出せば、直ぐに用意してもらえるだろうぜ」
     混乱する僕をよそに、彼は淡々と言葉を重ねる。あっという間に、ジムへの入会が決まってしまった。
    「これで、いつ行っても受け入れてもらえるぜ。良かったな」
    「ルチアーノって、本当に勝手だよね」
     僕が言い返すと、甲高い笑い声が返ってくる。なんだかおもちゃにされている気がして、さらに身体が重くなった。

     数日後、僕たちは繁華街を歩いていた。ルチアーノに先導されながら、いつもは通らない道を進んでいく。大通りを抜けた片隅に、その建物は鎮座していた。
    「ここだぜ」
     僕の方を振り返ってから、ルチアーノが楽しそうに言う。既にからかわれている気がするが、何も言わずについていくことにした。エレベーターで二階へと上がり、入ってすぐのフロアで受付を済ませる。更衣室で体操着に着替えると、そのままトレーニングエリアへと向かった。
    「うわぁ」
     目の前に広がる光景に、思わず声が出てしまった。そこには、テレビでしか見たことの無いようなマシンが並んでいたのだ。寝転がったままダンベルを持ち上げる機械、両腕でバーを掴んで左右に動かす機械、サイクリングマシンやランニングマシンと呼ばれる機械まで、びっしりと並べられている。
     ぽつぽつと稼働しているマシンの上では、男の人が身体を動かしていた。かなりの常連らしく、その体躯は筋肉に覆われている。中の一人が持ち上げているダンベルは、テレビで見る映像かと思うほどに大きかった。
    「運動を始める前に、ストレッチをしないとな。こっちだぜ」
     僕の服の裾を引っ張りながら、ルチアーノはエリアの奥へと歩いていく。そこには、床にマットの敷かれたスペースが広がっていた。ルチアーノと二人で床に座り、しっかりと身体を伸ばす。ぐいぐいと背中を押され、関節がキリキリと痛んだ。
    「いたたた。何するの?」
    「僕は、君のためを想ってやってるんだよ。しっかり身体を伸ばしておかないと、怪我するのは君の方だぜ」
    「そうだけどさ……」
     準備運動を終えると、ようやくトレーニングだ。とは言っても、僕にはスポーツの心得が無いから、どのような順番に鍛えればいいのかが分からない。目の前に並ぶマシンに視線を向けると、ルチアーノに問いかけた。
    「で、何からやるの?」
    「そんなこと知るかよ。ランニングマシンとかでいいんじゃないか?」
     彼も心得がないのか、適当な返事が返ってきた。言われた通りに、ランニングマシンのスイッチを入れる。最初だからとゆっくりめに設定すると、開始のボタンを押す。
     静かな音を立てながら、僕の足元に敷かれたキャタピラーが動き出した。小走り程度のペースだったが、しばらく走っていると息が上がってきた。
    「そんなんでトレーニングになるのかよ。もっと早くしようぜ」
     僕の姿を見ていたルチアーノが、機械の操作盤に手を伸ばす。甲高い声で笑いながら、速度を上げるボタンを押した。
    「ちょっと、待ってよ!」
     止める間もなく、足元のキャタピラーはスピードを上げる。しっかり足を動かさなくては追い付かなくて、僕は慌てて足を前に出した。さすがに、このスピードでずっと走ることなどできない。タイミングを見計らうと、軽くジャンプして台から降りた。
    「なんで降りるんだよ。トレーニングにならないだろ」
     隣から、ルチアーノの不満そうな声が聞こえる。肩で大きく息をしながら、やっとの思いで反論した。
    「こんなに早くされたら、ずっとは乗っていられないでしょ。常に全力を出し続けるなんて、人間にはできないんだよ」
    「ふーん。人間ってのは、コスパの悪い生きものなんだな」
     ルチアーノの軽口を聞きながら、スポーツドリンクを流し込む。少しの間しか走っていないのに、喉がカラカラになっていた。椅子に腰かけて呼吸を整えていると、ルチアーノが先に立ち上がる。
    「ウォーミングアップは済んだから、今度は筋肉作りだな。ほら、行くぞ」
    「えー! もう行くの!?」
     反論するが、ルチアーノはお構い無しという態度で僕の服を引っ張った。僕も抵抗はしないまま、マシンの前へと移動する。名前は分からないが、両腕でバーを動かす機械だった。
    「これは、腕の筋肉を鍛える機械だな。ほら、やってみろよ」
     椅子の上に腰かけると、縦に伸びたバーを両手で握る。力を入れて押し込むと、それは外側に開いた。
     そのまま、何度かバーを開いたり戻したりする。押し込むにはそこそこの力がいるから、すぐに疲れてしまった。
    「もう、だめ……」
     情けない声を上げながら、両手を離してへたり込む。そんな僕を見下ろしながら、ルチアーノは楽しそうに笑った。
    「情けないなぁ。ほら、がんばれ、がんばれ」
    「それ応援してないでしょ!」
     そんなことを言いながらも、少し元気が出たのは確かだった。もう一度バーを握りしめると、力を込めて奥へと押し込む。しかし、それも長くは続かなかった。
    「疲れた……。これくらいで許してよ」
     バーから手を離すと、窺うようにルチアーノを見る。彼はにやにやと笑っていたが、満足したのか承諾してくれた。
    「分かったよ。じゃあ、次のトレーニングだな」
    「まだやるの!?」
     地面に座り込みながら言うと、彼はきひひと声を上げる。
    「当たり前だろ。せっかく来たんだから」
    「せめて、休憩は取らせて……!」
     なんとか身体を休める時間をもらって、次のマシンへと移動する。ウエイトリフティングの選手が使うような、オーソドックスな機械だった。
    「これを、やるの?」
     ベッド型の台とダンベルを見つめながら、僕はおずおずと声を出す。疲労困憊の身体でこれを持ち上げるのは、なかなかに酷だと思った。
    「軽いのにしてやるからさ。がんばれよ」
     楽しそうに笑いながら、ルチアーノはダンベルをセットする。そういえば、彼はさっきからずっと笑っている。僕をからかうのが、そんなにも楽しいのだろうか。
     台の上に寝転がると、ゆっくりとバーを持ち上げる。一番軽いダンベルのはずなのに、それはびくともしなかった。
    「全然動かないよ! 本当に軽いダンベルなの?」
    「一番軽いやつだぜ。ほら、もっと力を入れな」
     さっきよりも力を入れると、ようやく少しだけ持ち上がった。さらに力を加えて、上へと上げようとする。酷使された腕の筋肉が、負荷にミシミシと軋んだ。
    「ほら、がんばれ、がんばれ」
     隣からは、ルチアーノの甲高い声が聞こえてくる。応援してるのかからかってるのか分からない、笑いを含んだ声だった。彼を見返したい一心で、必死にダンベルを上に上げる。
     力を込めると、一瞬だけ腕が真っ直ぐに伸びた。それも長くは続かずに、次の瞬間には下へと落ちてしまう。途中で減速することもできなくて、ガシャンと大きな音がした。
    「良く頑張ったな。今日は、これで終わりにしていいぜ」
     頭上からは、ルチアーノの声が聞こえてくる。珍しく笑っていない声に、やって良かったという気持ちになった。散々痛め付けられたのに、僕はなんと現金なのだろう。
     更衣室に向かうと、併設されたシャワールームに向かった。汗びっしょりになった身体を、温かいシャワーで流していく。慣れないトレーニングをしたから、身体中の筋肉が痛んでいた。これは、明日も筋肉痛になるだろう。
     服を着替えると、ルチアーノと並んで建物の外へ出る。何時間も居たような気分だったが、日は高く登っていた。時計を見ると、三時間ほどしか経っていない。
    「楽しかったな。また来ようぜ」
     楽しそうに笑いながら、ルチアーノが僕を見上げる。生乾きの赤い髪が、尻尾のように後ろへと垂れていた。ほとんどトレーニングをしていなかったのに、ちゃっかりシャワーだけは浴びていたのだ。
    「今度は、もう少し優しいプログラムにしてよね」
    「どうだかな。あんまり手加減すると、トレーニングにならないだろ」
    「あんまり身体を痛め付けても、トレーニングにはならないよ」
     言葉を交わしながら、僕たちは家への道のりを歩いていく。雲一つない青空が、僕たちの姿を見下ろしていた。
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