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    しん風書く(描く)人
    固ツイに♥️で18↑表記あればリスイン
    完結し次第支部に出します
    @trick_snkz904 (h'|ッЛ)

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    女々しいkzmの話

    未完成

    #しん風
    newStyle

    声に出さなきゃわからないだろある日突然、本当になんの前触れもなく僕のしんのすけへの『好き』のキャパシティが
    『好き』を貯めるための容器が
    ずっと表面張力で耐えていたのに
    つい、またその中に『好き』を注いでしまって

    溢れ出てしまった―――

    なんで最近そんなに思わせぶりなことすんだよ。勘違いしちゃっただろ。もっと好きになっちゃっただろ。僕だけ?他の人にもやってんのかよ。
    そんなんみんな好きになっちゃうじゃないか。
    ほら、またそうやってキュンキュンすることする。
    どうしよう…どうしょうもなく―――



    「……好き。」


    ハッと気づいて手で口を抑えた時にはもう手遅れだった。

    自分が何を零したのか。何を口に出してしまったのか。考えるだけで罪悪感と絶望感がぶつかり合いながら押し寄せる。

    しんのすけの顔が見れない。

    もしかしたら、顔を歪められて引かれてるかも。
    困らせて、気を使われて作り笑いされてるかも。
    逆にオラも好きだゾ?……なんて…ないよな……

    最悪、金輪際話しかけても貰えないかも……


    どの返事パターンを考えても行き着くのは悪いことばかり。
    もう誤魔化すしかない。
    でもどう誤魔化したら……


    しんのすけは年上のお姉さんが好きなんだ。
    男は本当にダメで、男の娘も受け付けないのは周知の事実だし、僕だってわかってたはずだ。

    口をついて出てしまったその言葉を誤魔化すのは簡単だ。でも、僕の中のどこかにあった何かが、しんのすけの返事を待ち望んで渇望している。

    咄嗟に誤魔化しも否定もできず、なにも返事も反応もなく、しんのすけとの間に沈黙が続く。


    沈黙が重く胸にドロドロとした黒いものを落としていく。そりゃそうだ。僕だって意識なんてまったくしてなかった幼なじみの男が突然思いを告げてきたら返事に困る。親友だと思ってたヤツだったら特にだ。
    この場から逃げ出してしまいたい。
    そう出来ればどんなに楽か。
    わかってるよ。
    僕はしんのすけにとってただの親友で…
    幼なじみでしかないんだって―――


    「そっか」


    沈黙にピリオドを打った返事は短かった。
    それは同時に僕の中のこの想いにも打たれる。


    あぁ。終わったな。

    僕から1度溢れ出た『好き』が、無理やりダムで塞き止めて耐えてた分、ダムの決壊とともに『好きだった』が目から溢れ出そうになる。


    「風間くんはどうしたいの?」


    え?

    突然の質問にことばを失う。

    僕が……どうしたいか?



    「風間くんは、オラと付き合いたいの?」


    つき……あいたい……?

    そうだ。僕は今好きって言ったんだ。
    そりゃ付き合いたいのかってなるのはわかる。
    でもしんのすけ、お前僕がもし付き合いたいって言ったとして、どうすんだよ。
    そんな質問、酷すぎるだろ。
    もし付き合ってくれるなら。
    もしも、本当に付き合ってくれたなら。
    そのあとからでも僕のことを意識し始めて、好きになってくれる。なんてそんな漫画みたいなことがあるかもしれない。
    なんてな。そんなこと、ありえないけど。
    どうせごめん無理って言うんだろ…
    わかってる。わかってるけど。

    でもお前がそんな質問者してくるのが悪いんだ。

    僕からの返事に困ればいいんだ。


    「うん」


    返事に困ればいいだなんて。
    頷いてはみたけど、返事が怖くて顔が上げられない。


    結局困ってるのはずっと僕だ。


    もし、今顔を上げて、しんのすけが顔をゆがめてたり、からかうように、冗談だったのにって笑ってたら……

    ごめん無理って―――


    「いいよ。」


    ほらね、やっぱり。


    ……ん?


    「……へ?」


    今なんて言った……?いいよ??

    顔を上げると、しんのすけがヘラりと笑っていた。


    「じゃあ今日からオラ達恋人だゾ!」



    それが僕らの始まりだった。

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    丁度大学に入る時期だったから、しんのすけの提案で、ルームシェアをすることになった。

    何故かベッドはクイーンサイズ。
    理由はしんのすけが。って言えばわかるかな。


    大学1年の半年くらいの間に、しんのすけとは、恋人らしいそういうことやあぁいうことを、色々してきた。

    でもしんのすけは僕のことどう思ってるんだろう。

    どうせしんのすけは、僕のことをまぁいっか、恋人になるって言っちゃったしな。って軽い気持ちで付き合ってくれてるんだ。あの日からきっと気持ちは変わってない。だって恋人になって変わったことなんて、恋人っぽい行為が加わったくらいで全くと言っていいほど何も変わっていない。どうせこの関係は、アイツにとっては親友の頼みだから。学生の間の、そういうこともあったね。って笑い合える、思い出作りに過ぎないんだ。僕はその思い出を一生大事にするべく、海馬という宝箱に日々詰め込んでる。きっとしんのすけと別れが来ても一生今の輝かしい日々を思い出しながら生きていくんだ。
    もちろん、未だにしんのすけが本当に好きになってくれれば…なんて欲もあるけども。

    初めて身体を繋げた時、初めては痛いし、辛いって調べてて知ってたのに、しんのすけは、僕のことをぐずぐずに溶かしてから、すごいゆっくり、僕に合わせて丁寧に抱いてくれた。まるで、僕のことを本当に好きみたいな……いやいやいや、勘違いしちゃダメだトオル!勘違いして傷つくのはお前だからな!しんのすけはその名の通り付き合ってくれてるだけ!付き合ってくれてるだけ…なんだから……。

    その後も何回か身体を合わせたけど、変わらず優しく抱いてくれるし、いっぱいキスしてくれるし、いっぱい好きって言ってくれたし、自分のって見せつけるような痕だって沢山つけてくれて……


    本当に嬉しかった……


    しんのすけは、僕のこと親友の関係を超えて、恋人として本当にちゃんと好きなんじゃないかって、勘違いしそうになるくらい。
    いつまで続くかわからないこの幸せを噛み締めて、大切に経験という記憶としてしまっていく。

    大丈夫。まだ大丈夫。引き返せる。


    幸せな時間は長く続かないなんて言い出したのは誰だったか。いっぱいしてくれたキスも、沢山残してくれた痕も、それっきり……1回だけだった。

    しんのすけは僕のを咥えてくれたり、汚いとこ、全部舐めたりもしてくれた。

    好きじゃなきゃ出来ないと思ってたこと。
    全部、全部してくれて……でもそれも、それっきり。1回きりだった。

    思っていたよりも。いや、僕はいつの間にか期待していたのかもしれない。
    終わりが近づいてることに恐怖を感じ始めている自分がいる。

    1度やってダメだったのかな、僕のこと、好きって言ってくれてたのはやっぱりその場の雰囲気だけだったのかな。やっぱり好きにはなって貰うなんて烏滸がましすぎたのかな。親友に戻れなくなるのは困るもんな……

    そうだよな…しんのすけにとって、これらは全部学生の間の気まぐれ。まだ戻れるラインなんだ。僕とのこの関係だって、ただのおままごとの延長で付き合って上げてるだけに過ぎないんだ……


    今までは小中高全部違って行き帰りと休みの日しか会って無かったのに、大学に入ってしんのすけと同じ部屋で過ごす日々が長くなれば長くなる度、どんどん、どんどんしんのすけに対するどろりと重い気持ちが募っていく。

    恋人でいてくれてる間に気の迷いで僕に惚れてくれないかな、なんて思う度に、現実に引き戻されて悲しくなる。

    ルームシェアを始めて、すぐの頃は僕の方を向いて寝てくれてたのに、いつの間にか僕に背を向けて寝る姿。

    僕の横で寝息をたてる大きな背中にギュッとしてみたいし、僕との隙間が無くなるくらいくっついて、足を絡めてもみたい。

    そんなこと。そんな恋人みたいなこと、きっとしんのすけは僕に合わせて、してくれはするだろう。けど、もしも、もしも本当に潮時が近づいてるんだとしたら。めんどくさいって思われるかもしれない。今後一緒に寝てくれなくなるかもしれない。そんなことが頭をよぎって邪魔をする。


    抱き枕を抱く手につい力が入る。
    しんのすけに背を向けて、体が縮こまっていく。


    もう何日…いや、何週間ご無沙汰だろうか。


    僕からなんて、誘えない。誘えるわけが無い。
    これ以上嫌われる必要は無い。


    気分じゃないから誘ってこない相手に、誘って困った顔をされたら。面倒くさそうな顔をされたら……


    多分僕は我慢できずに泣いちゃうんじゃないかと思う。

    そしてまたしんのすけを困らせるんだ。



    なんて、最近はずっと女々しい妄想を繰り広げて眠りにつく。


    しんのすけが僕を本当に好きになればいいのに。毎日僕を求めてくれたら……

    まだ学生は始まったばかりだろうが。どうせならもっと思い出をくれよ……


    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    風間くんとの帰り道。

    なんでもないように装ってるけど、風間くんは多分オラのことが好きだ。

    なんで気づいたかって?

    なんとな〜く、風間くんのことを見てたら、なんとな〜くわかっちゃって。

    オラもそれに気づいてからだけど風間くんのことをかわいいなぁ〜好きだなぁ〜って思うようになったから。

    風間くんは、オラがちょ〜とだけ、好きな子にする態度に変えるようになってからも、全然気にしない振りして、すごい童謡してるのがバレバレで。

    すごく、可愛い……

    風間くんがオラに、一言『好き』って言ってくれればいいのに。そしたらおつつきあいできるのに。オラから言ったら絶対色々考えちゃって断られるのわかってるんだゾ!
    早く…早く…早くしないとオラが先にポロっておもらししちゃうゾ。もしかして、まさか風間くん自分でオラのことが好きって気づいてないのかな?まさかそんなわけ……風間くんならありえるゾ。

    いつの間にか、オラは風間くんに『好き』って認めさせて、言わせることが目標になった。

    そして、遂に風間くんに『好き』って言わせることが出来た。

    ハッと口に出してることに気づいて、口を抑える風間くんの顔が、どんどん真っ赤になっていって、指先まで赤くて、ちょっとだけ面白かった。

    本当にここまで長かった。

    オラに対して『好き』って感情があることに、多分気づいたんだろうなってわかった時には心の中でガッツポーズをした。

    オラのこといっぱい意識して、動揺して、でも普段と変わりないふりをする風間くんが可愛くて可愛くて。

    でもそこからがまた長かった。

    オラのこと『好き』って言うまで、2年…いや、3年くらい?かかった。

    そんな日々が走馬灯みたいにオラの中に流れ込んできて、胸がジーンと暖かくなってくる。

    「……そっか」

    なんだか、肩に掛けてた重い荷物を降ろしたみたいに、気が軽くなる。安心?喜び?全部が一気に来て、気の抜けたみたいな返事がでてきた。

    風間くんの次の言葉を待っていたのに、なかなか次が出てこない。それどころか、なんだか顔が赤から白に変わってく。


    まるで言ってしまったことを後悔してて、全く期待してないみたい。


    もしかしたら、この次に出てくる言葉で何も無かったことにされちゃうかもしれない。
    それだけは絶対に嫌だゾ……!


    オラの心は嬉しさから焦りに変わっていく。
    どうすればいいのか全然わからない。
    でも、次の言葉、決定的な何かを言わせないといけない。


    「風間くんはどうしたいの?」


    風間くんの頭に?が浮かぶ。

    あれ、もしかして、唯一未二になりたいのってオラだけだった……?幼なじみから、恋人とか、何か別の関係に変わりたいのは、オラだけ……?


    「風間くんは、オラと付き合いたいの?」


    ずるい聞き方。だって、オラが言わせるんじゃ意味無いもん。
    オラはね、すっごくお付き合いしたいゾ……


    風間くんは顔を真っ赤に染めて「うん」と頷いた。


    嬉しくて、ニヤけがとまらなくて、オラは手で口元を抑えた。

    あぁ、早く返事しないといけないのに、ニヤけがとまらない。

    長かった。やっと。やっと。

    やっと風間くんはオラだけの宝物に。誰にも取られる心配も無くなったゾ。

    頑張れオラのほっぺ!!

    「いいよ」

    震えないように、震えないようにって思ってたら、思ったよりもすっごい甘い声が出た。
    風間くんが、ゆっくり顔をあげた。

    今初めて、風間くんがオラをしっかりと見た。

    顔、ニヤけてないかな……?


    風間くんは、オラの返事に、困惑してるみたいで、何も喋らない。


    伝わらなかったかな?


    「じゃあ今日からオラ達恋人だゾ!」


    これで……これで風間くんはオラの……


    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    風間くんにどうにかお願いして、大学入学と同時に、同棲を始めた。


    お付き合いも始めたし、2人の愛の巣も出来た。


    恋人らしいことを、だんだんと、ゆっくりと進めていって、風間くんと初めてセックスしたのは、お付き合いから半年後くらいになった。


    初めてだったけど、風間くんも気持ちよさそうで、オラもすごく気持ちよかった。半年お勉強してて良かったゾ。

    それから、風間くんとセックスすることは、たま〜に予定の合う日にあった。けど、風間くんはいっぱいキスしたり、痕を付けられたりするのが嫌みたいだった。

    キスをしようとしても、痕を付けようとしても、「イヤ」と言う。

    2回目にした時、見た目が痛そうなほど痕を付けちゃった次の日から、痕が消えるまで、ずっと痕を気にしていたのも気づいていた。

    風間くんが「イヤ」という事は別にしたい訳じゃない。

    ホントは毎回、いっぱいキスしたいし、いっぱい風間くんのスベスベのお肌を頬張って、いっぱい「オラの」って印を付けたい。

    風間くんを抱く度に薄くなっていく痕がすごく寂しくて、一生消えなきゃいいのにって思った。そして遂に消えてしまった時には、また付けたいというショードーを抑えるのでいっぱいいっぱいだった。

    風間くんはノーマルな、ただ繋がるだけのセックスがいいみたい。

    何をしようにも、「イヤ」という風間くん。
    もうここまで来ると、逆に加ギャグ心が出てくるゾ……


    オラが寝てると思って、オラの手をいじいじしてるの知ってるんだからね?オラのこと大好きなの、でもイヤなものはイヤなのもわかってるから。そういうとこも全部可愛くて、風間くんに夢中で、昔からずっとオラの大切な宝物の中にいるの、伝わってるかな……?伝わってるよね、風間くんからの「好き」がバレバレなんだもん。



    最近夜も暑くなってきて風間くんを抱きしめて寝てると、大量の汗をかいて寝苦しそうにしてるのに気づいて、可哀想で抱きしめて寝るのを辞めた。

    そりゃ、せっかく広くて余裕のあるベッドにしたのに、大の男子大学生2人がくっついて寝てたら暑くもなるよね。

    寂しそうな背中と、いつの間にか抱き始めたクッションをいじいじしてるのが可愛すぎてつい抱きしめそうになるけど、我慢我慢。抱きしめて欲しいって自分から言うのが恥ずかしいんだなぁ、きっと。言いたそうにしてるのが可愛いし、風間くんが抱いて♡って言ってくれたら…なんて。気長に、抱いて♡って言ってくるまで待ちますかなぁ。そんなこんなで、無意識につい抱きしめないように、いつの間にか背中を向けて寝るようになった。


    早く冬が来ればいいのになぁ―――

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    10月。ついこの間まで、昼間の残暑で夜中も熱帯夜が続いていたのに、所々で秋を感じるようになって肌寒い気候になってきた。


    朝。

    あれ、なんか暖か……い……?


    え???あれ???なんで???


    ここ最近全然寝てる時抱きついてこなかったしんのすけが、何故か僕を抱いて寝てる。

    どういう風の吹き回しだ???


    しかも、手が……


    しんのすけの右手は僕の右の内太腿の柔らかいところから、足の付け根の際どいどころを揉んでいた。左足はしんのすけの足に固められて動けない。

    左腕はいつ入れたのかわからないけど、腕枕になっている。こちら側に出てる手も、ピクっと動き出して、服の上から僕の胸の辺りを触れる。

    あ、朝からなにやって……?!

    「んっ……///」

    あ、ヤバっ、変な声出た、起きたか???

    規則的な息遣いが頭上の髪を揺らす。

    セ、セーフ……!

    じゃなくて!!どうしよう……

    こんなに触れられるなんて、情事の時以外なかったから、どうすればいいか全然わからない。というか、今まで僕どうしてたんだっけ?



    しんのすけの左手にゆっくりと触れる。

    僕のと同じくらいの大きさなのに、僕より角張ったしんのすけの手を両手で触れる。

    少しかさついてて、この手で頬に触れて欲しくて、今、腕枕をしてるが為にできないその行為に少しだけもどかしさを感じる。


    暖かいな……


    「ッ……」

    頭の上のしんのすけの口から、舌で鳴らした破裂音が聞こえた。
    しんのすけの指がビクリと動き、僕の手を一瞬握り返す。

    起きたか?


    「……マ…き……」


    またすぐに力が抜けて、規則的な寝息が髪を撫でた。


    は?



    僕は、しんのすけの手に触れていた両手を静かに離した。

    しんのすけの右手を太腿から取って脇腹の上に乗せる。


    この腕は、今夢の中で誰を抱いてるんだろう。


    夢で女を抱くしんのすけは、実際は僕に抱きついで暖を取る。


    お前が付き合ってくれるって言ったんだろ?
    恋人になってくれるっていったんだろ?


    まるでお前が部屋で遊んで、飽きて散らかされっぱなしになったおもちゃみたいじゃないか。
    僕はおもちゃじゃないんだぞ。

    朝から最悪な気分だ。
    怒りにも悲しみにも似た何かに唇を噛み締める。


    最後まで責任もって僕に付き合えよ。
    もう……飽きたのかよ……


    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    しんのすけが、サークルの人と一緒に飲みに行くらしい。

    おやつの時間から夜の9時までの間だから早く帰って来れるし、中には女子もいるみたいだけど、男子が多いし、既に相手のいる女の子がほとんどなんだと、何故かしんのすけは、僕に事細かと説明してくる。少しだけ、少しだけモヤッとするけど、僕がなんか言ってもしんのすけが困るだけだ。そんなこと細かに言われたって反応に困る。

    何も言わないよりかはいいけど、別に、ご飯いるかいらないかがわかればいいし、帰りが遅くならなければいいんだ。そんなの。


    当日。夜9時。そういえばそろそろ終わる頃か、とスマホを手に取ろうとすると、スマホの通知で画面に明かりがつく。


    メッセージ?


    『今友達の家にいるから遅くなる』

    胸がモヤモヤする。

    友達?しんのすけの大学の友達の話なんて1度も聞いたことがない。

    まぁ、遅くなるって言ってるだけだし、今日中には帰ってくるだろ……。




    その日、しんのすけは何故か日付を超えた深夜に帰ってきた。

    昼間に着ていった服と別の服。な気がする。
    胸の重りが喉を引っ張る。

    どうしたの?って聞こうと思ったけど、なんでか声が出なかった。

    「おかえり〜、あ、まだ起きてた!
    ……?どしたの?」


    「…いや、なんでもないよ。おかえり」


    しんのすけは、すぐ部屋着に着替えて、布団にはいろうとする。

    「お前、風呂は?」

    声が震えた気がする。

    「お?あぁ、友達の家で入ってきたゾ?」

    「……っ?」

    なんで……?
    どうして飲みに行っただけで他人の家の風呂に入るんだよ。そんな、おかしいだろ?

    「風間くん??あ!違うぞ!飲み物こぼされちゃってお風呂借りて服替えただけだから!!心配しないで?ね?」

    しんのすけが僕に近づいてくる。

    ふっとしんのすけからした匂いが鼻を通った。

    気づいたら近づいてきたしんのすけをドンッと手で押しのけていた。

    しんのすけの顔が見れない。

    「オラ、やっぱりもっかいお風呂入ってくるゾ」

    しんのすけが洗面所に入る音が聞こえて、寝室のベッドに倒れ込む。さすがにやりすぎたかもしれない。遊びで付き合ってるやつがあんなこと……重すぎるな。気まずすぎて僕は戻ってくる前に意識を手放すことにした。


    次の日の、洗濯物を片付けてた時。
    干してあった下着を手に取って違和感に気づく。

    しんのすけ、こんな下着持ってたっけ?

    ラベルにはコンビニのメーカー名が書いてある。

    昨日の、服だけじゃなくて、下着も新しかったのか。

    また胸がモヤモヤする。
    飲み物をこぼされたって言ってたじゃないか。
    その時に下着まで濡れちゃったんだろ…きっと…
    こんなことごときで指摘するのは重いよな……


    数日後、しんのすけのタンスの中に服を片付けていると、見覚えのある服を見つけた。
    確か、昨日まではなかった気がする。
    それを手に取って広げる。

    あ、飲みに行った日に着てったやつ。確かこれだった気がする。洗った覚えがないのになんでタンスに戻ってるんだ?

    ふわりと香る柔軟剤の匂いに、鼻を近づける。

    うちの柔軟剤の匂いじゃないなぁ……なんて、考えてたら、ポタっ、ポタっと、手に持っていた服が濡れていく。


    あれ……?


    指を目元に持っていくと、指を伝って、また服を濡らす。


    あぁ、跡になっちゃう。また洗わないと。


    僕はその服をドラム缶洗濯機に入れた。


    服が回るのを、洗濯機の目の前に座ってじっと見つめているとき、あぁ、そういえば、この服どうしたんだろう。どこで誰が洗ったのかな。あ、そういえば友達?に風呂借りたって言ってたし、友達?の家の柔軟剤の匂いなのかな。って思い始めたら立ち上がっていた。足はしんのすけの服が入ってるタンスへ向かっていく。

    引き出しを開けて、見覚えのあるズボンを手に取って匂いを嗅ぐ。あの柔軟剤の匂いがしたら、腕に引っ掛けて、靴下とかパンツも同じように腕に引っ掛けていく。

    それらを全部洗濯機に入れて、柔軟剤を少し多めに入れてもう一度回した。

    涙が床を濡らす。

    洗濯機の前でうずくまってこの暴れだしそうな心と体に、鎮まれ。鎮まれ。と語りかける。

    僕は悲しいのか、怒っているのか、落胆してるのか、それとも……

    僕にはもうそんな感情を持っていい資格はしんのすけの中にないのかもしれない。

    何してんだろ、僕。

    あの日引き止めなかったのは僕。
    しんのすけを飽きさせてしまったのも僕。
    数日前しんのすけからした匂いがいつもと違うってだけで嫌で突き放したのも僕。
    今柔軟剤の匂いが違うってだけでバカみたいにタンスを漁って勝手に洗濯機を回してるのも僕。


    悪いのは全部僕なのに……


    嫉妬する資格なんて無いのに―――


    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    「えぇ〜、それオラ行かなきゃダメ?」

    「しんのすけが来ないと女子の集まりが良くないんだよ〜頼むよ〜」

    「合コンじゃなくてただの集まりの飲みでしょ〜」

    「それでも!しんのすけがいるかいないかで参加率が左右されるんだよぉ〜頼む!このとおり!」

    えぇ……オラ、正直そういう席に来る積極的な人怖いんだよなぁ……

    オラには心に決めた風間くんっていうフィオンセがいるのに、そういう押せ押せな女の子は本当に何をしでかしてくるかわからない。

    「オラ早く帰るよ?」

    「いい!それでいいから!お昼15:00集合で、ボーリングカラオケしてから最後飲みやって、二次会行く人は行く感じだから!しんのすけは二次会も出来れば来て欲しいけど、二次会前の飲みまで確実に居てくれればいいから!!」

    なんて必死さ……

    「わかったゾ……あ、じゃあオラの参加条件、立木くん連れてきて!」

    「タッピー?おっしゃ!任せとけ!!」

    「じゃ、そゆことで〜」

    立木くんが来てくれるなら何とかなるかな、立木くんも可愛い彼氏がいるみたいだし、早めに一緒に帰ってくれそうだしね、オラ冴えてるぅ〜




    「で、なんで俺まで参加なんだよしんのすけ」

    「えぇ〜オラとタッピーの中じゃ〜ん」

    「タッ…お前普段タッピーなんて呼ばねぇだろうが…そもそもタッツーならまだしもなんでタッピーなんだ!これだからパリピの考えるあだ名には付いて行けん!ホントに…お前のせいでこっちはアイツに説明するの凄い苦労したんだからな…」

    「ほうほう…オラも説明したゾ?」

    風間くんはオラが説明してる間ずっと?を頭に浮かべて、「とりあえず晩御飯はいらないのな?」なんて、オラのこと全く心配してなさそうだったけど…もうちょっと、それって女の子どれぐらい出るの(モジモジ)とか、行かないで(うるうる)とか、早く帰ってきてね(行ってきますのちゅー)とか、ちょーーーーっとだけ、ちょーーーーーーっとだけ期待してたけど、それ抜きにしてもそんな返答オラ寂しいゾ!
    まぁ、信頼されてるってことですかな!!

    「しんのすけ、嫉妬されたかったのか?」

    「うーん。まぁ、してくれたらいいんだけど、おらが何言ってもそういうのは伝わらないみたいなんだゾ」

    「お前の説明は説明になって無さそうだな……」




    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


    思ってたより女が多いな……

    なんて思い始めたのはカラオケBOXから出てきて飲みだけ参加の人たちが合流して来てからのこと。

    サークル部員の誰かの実家の店?を貸切にしたからか、広い座敷が幾つかある中で人がお酒を片手に行き来して色んな人と交流を深めていく。
    そんな中、俺はずっと時計を眺めていた。
    絶対すぐ帰ってきて…と可愛くお願いされたら誰だって早く帰りたくもなる。今日は熱い夜になりそうだな。と夜の事を想像するだけで酒が旨くなる。いや、いかんいかん、飲みすぎると本番に使い物にならなくなる。でもまぁ、アイツの俺に触られて心底気持ちいいって顔が見られるなら、俺のエクスカリバーは封印してアイツを愛撫で……
    おいおいおい鎮まれ俺のエクスカリバー、ここで妄想ごときで誤作動を起こすな!!!なにか別のことを考え……

    「え〜オラ〜?オラはピーマンは嫌いだけど長ネギは好き〜」

    それにしてもしんのすけは、こんなにずっと女の子の相手をして疲れないのだろうか……

    しんのすけはボーリング場からだったか、カラオケBOXからだったか、しんのすけの隣で何やら積極的にずっと話しかけてくる女の子数人の話を右から左に受け流して適当に返事を返しながら時計の針を眺めていた。
    その中でも1番積極的に話しかけている女……
    こいつ絶対しんのすけのこと狙ってんだろ、大丈夫かよおい……

    「しんちゃん!も〜私の話聞いてる〜??」

    「聞いてるゾ〜新しく飼った猫が……魚咥えて追っかけたんだっけ?」

    「ち〜が〜う!!!猫の名前を考えるのに、しんちゃんの実家の犬の名前参考にしたいから教えてって言ってるの!!」

    「あぁ〜、うちデカイのはシロで、シロの子供たちは、ジュとニアの次がシロ太、シロ吉、シロ子、シロ美、シロ太郎、シロ次郎、シロ丸、シローネ、シローン、シロットだゾ」

    「へ…へぇ〜…しんちゃん家の犬白いの?みんな白がついてるね最初の子供たち以外……」

    あ、危なっ、吹き出すところだったわ‪w
    ちょっ、ネーミングセンスどうなってんだよ‪w
    女もめちゃくちゃ引いてるじゃんか‪w

    まじでしんのすけはおもしろい。
    出会った時、名前をずっと「リッキー!」だとか「イタチくん」「タイツくん」「ガッキー」「田中くん」だとか……「タツキだ!!!立木!!!」特に最後のは誰なんだ!!!と、毎回毎回言い間違えられるのは気に触ったが、まぁ、わざとではない?らしい……
    ただ、こいつの周りはいつも騒がしくて大学入って初めて出会った奴で、たまたま講義が被ることが多いだけの奴だけど、全然一緒に居て飽きない。それに、俺と同じ。可愛い彼氏が家で待ってるなんて、こんなに気の合う奴は初めてだ。
    俺の彼氏にもしんのすけの話をしたら今度会いたいって言うから絶対に会わせてやりたいと密かに思っている。向こうの彼氏ももし良ければ一緒に…と。


    そろそろ21時。会は終盤。これから二次会もあるって言うんだから、本当に普通の大学生は元気だな。俺としんのすけは21時になったらおいたますることになってるし、しんのすけもずっと心ここに在らず。ずっと時計を見てそわそわしてる。
    早く帰ってアイツを抱きしめたいなぁ……

    「あっ!!!」

    コップが倒れる音と、バシャッと零れる音が聞こえて音の方を向くと、しんのすけの服からズボンにかけてが酒で…色的に焼酎か?日本酒か?でビシャビシャに濡れていた。

    しんのすけこんな強い酒何杯も飲まされて大丈夫なのか…?

    いやいやそれより……

    「しんちゃんっ、ゴメンなさい!!こんな濡れちゃって、すぐ洗わないと匂い落ちなくなっちゃうよ!?……あの、私の家ここから近いんだけど来れる?服も弁償するから!」

    うわぁ……エグイな……
    サークル内の部員の実家なんだから部員の奴に相談すれば洗濯も服もどうにかなるだろ……明らかすぎる……
    はぁ、しんのすけ、これは貸しだぞ。

    「しんのすけ。お前俺と体格近いから俺の服貸してやるよ。うち来い。うちまじでここ近くだから。すまんな、今日は俺もしんのすけも9時には元々帰る予定だったんだ。先失礼するぞ。」

    「えっ、あ、しん……」

    「おぉ〜!!立木くん!オラ丁度濡れた服で電車乗って帰るのどうしようって思ってたんだよね!!助かるゾ〜!」

    「てことで。金はもう始めに家主に出てるし、いつ出ても問題ないよな。」

    「そうですなぁ〜じゃ、そゆことで〜」

    「……〜っ、うん、じゃあね…おつかれ…」


    女はしんのすけに一瞬伸ばしかけた手を引っ込めて顔を真っ赤にして俺を睨みつけた。

    お〜怖っ、明日から虐められたらお前のせいだからなしんのすけ。お前にはこの大学生活の間は絶対に一緒に昼飯食ってもらうからな!!



    「いやぁ〜助かったゾ〜」

    「お前油断しすぎだろ…あと少しでお持ち帰りコースだったぞ」

    「さすがのオラでもお家誘われた時はちょっと引いちゃったゾ…。オラ押しの強い女の子苦手なんだよねぇ昔から」

    「へぇ、意外だな。そういえばお前の彼氏いつ出会ったんだ?」

    「お母さん教室?」

    「おかっ、え?お前どういうことだ?お互い子持ち…いや、違うよな??自分たちの母親ってことだよな?それ生まれてすぐじゃねぇか」

    「母ちゃんに聞いただけで、さすがにそこでのはじめましては覚えてないから、多分ちゃんと認識したのは幼稚園入ってからだと思う。たぶん。まぁ、はじめましてはオラも風間くんも覚えてないけど、いつの間にかずっと一緒にいたかな〜」

    「へ、へぇ……小中高も一緒だったのか?」

    「違うぞ?小中高大全部別だけど、オラ達実家が近かったし帰り道でべったり会ってそのまま帰ったり、休みの日に遊びに行ったりしてただけ」

    「ばったりだろ…付き合い長いけどお互いずっとべったりだったわけではないんだな。俺らの方はは全寮制の中高一貫男子校で寮の部屋が一緒だったから6年間ずっと一緒にいれたけど。お前らいつから付き合ってるんだ?」

    「ギリギリ高校3だゾ。いま10月だから〜あと4ヶ月で1年〜」

    「へぇ、意外だな。結構付き合い始めは最近なんだな。お前から?」

    「なんでさっきからそんな聞いてくるの」

    「はぁ?家まで歩くのに黙ってろって言うのかよ」

    「それは…まぁ、そうだけど」

    「それともあんまり触れたくない話題なわけ?」

    「いや、そんなことも無いけど…。綿密にいえばオラからじゃないゾ」

    「厳密な。あれ、さっき押しが強いの無理って言ってなかったか?」

    「風間くんはっ!違うもん……。元々オラのこと好きなくせになんも言ってこなかったっていうか、両思いなのにオラの気持ちも風間くんの気持ちもわかってなかったっていうか、みじかくというか……」

    「無自覚ってやつか」

    「そう!だからオラにズブズブにして好きって言わせたんだゾ!!」

    「ふーん」

    「聞いてきたくせに興味無さそうですな」

    「お前の隣で喋ってた女の話よりかは数億倍面白いぞ?」

    「それ程でも〜」

    「褒めてない。あ、ほらここだよ」

    しんのすけは家に上がるなり大きく自己紹介をして、俺の服に着替え、風呂も借り、和気あいあいと俺の彼氏を独占しやがり、俺の今夜の予定をことごとく潰してきたが、まぁいい。

    結局服は今度洗濯して返すってことで、終電より早い時間には返した。
    これからは俺らだけの時間だ。しんのすけに奪われた2時間を今から取り返すか……


    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    「おかえりボの利用は計画的に〜」

    あれ?風間くん居ないのかな?

    リビングのドア越しに真っ暗の中淡い光が漏れ出ている。風間くんは中にいるようだけど、帰ってきたのに気づいてないみたい?

    ドアを開けると、真っ暗な部屋の中、ソファーに座ってじっとイアホンの繋がったスマホを眺める風間くんの姿があった。

    「風間くん……?」

    返事がない。こちらを振り向きもしない。
    オラが風間くんに近づくと、イヤホンからの音漏れが聞こえてきた。スマホを覗くと、映画か、それともドラマか、わからないけど何やら不穏そうな恋愛を題材にしていそうなものを見ているみたいだった。

    どれだけでかい音でこの子はこれを見てるんだろ?オラが帰ってきたのに気づきもしないなんて、オラの風間くんの大事な大事なお耳が、 壊れたり聞こえなくなっちゃったり、感じなくなっちゃったりしたらどうするんだゾ。

    「風間くん、帰ったゾ」

    風間くんの肩に手を置いた瞬間、バッとこちらを振り返り、オラの顔を見た。風間くんは安堵のような、落胆のような顔色を浮かべた。

    「びっくりしたじゃないか、帰ってきたなら電気つけろよな。……っじゃない、気づかなくてごめん。おかえりなさい。……あっ、僕、お風呂沸かしてないや。ご飯も…できてないや……」

    なにやら風間くんの様子がおかしい。
    そんな、普段から風間くんはたまにお風呂沸かし忘れる時もあれば、気分で夕飯を作らない時だってある。もちろんそれが両方被る時だってある。別に今日特別忘れちゃっただけのことではないはずなのに。普段別にそんなことでこんなにしょげて謝りもしないのに。
    今日の風間くんはなにやら様子がおかしい気がする。

    オラはソファーの風間くんの隣に座って、風間くんの顔を覗き込んだ。だんだん暗闇に目が慣れてきて、スマホから漏れ出る光を光源に風間くんの顔がだんだんとはっきり見えてくる。


    あれ、風間くん……

    「泣いたの?」

    風間くんの頬に手を伸ばす。

    パシッ

    え……?




    な、オラ、今、振り払われた?


    なんで???



    風間くんも振り払った手をみて驚いた表情をしてる。
    なるほどなるほど。わざとじゃなかったのね?大学で嫌なことでもあったかな?なんか上手くいかないことでもあったのかな?それならそれなら〜今日は思いっきり甘々に甘やかすことにしますかぁ。

    「ち、ちがっ……」

    風間くんが振り払った自分の手を引っ込め、ギュッと握って目を逸らす。
    可愛い唇をキュッと噛んで目を伏せる。

    もう、風間くんったら…その唇は風間くんのだけどオラのでもあるんだゾ…

    「風間くん」

    体はピクっと体が揺れたけど、返事はない。さらに顔を伏せてしまって、目元が前髪で隠れてどんな表情か読み取れない。

    「触れていい?」

    風間くんの体から少し力が抜ける。
    そしてゆっくり、こくりと頷いた。

    オラが風間くんの唇の端を親指で触れると、唇を噛む力が緩んだのがわかった。そのまま真ん中の方へふにふにと指をすすめると、下唇が歯に引っかかっていたのがぷるんと出てくる。
    柔らかくて、暖かくて、触り心地がいい。

    あぁ、キスしたい。

    じゃなくて、今は風間くんの話を聞いてあげなきゃだったゾ。

    視線をあげると、風間くんとバチリと目が合う。
    風間くんは怪訝そうな目でオラを見ていた。
    目尻にほんのりと赤みがある。やっぱり見間違いじゃなかったみたいだ。

    唇から手を離し、頬に手を添えて目尻を親指でなぞると、くすぐったそうに目尻が細まり手のひらに少しだけ重みが乗る。

    うっ、可愛……

    じゃなくって!


    「風間くん?どうしたの…?」


    風間くんの顔色は暗いまま、どこか悲しそうな目をしている。

    「なんでもない。」

    「風間くん」

    「……なんだよ」

    「ギュッてしてもいい?」

    風間くんはこちらをチラリと見て、少し考えてからこくりと頷いた。

    「……いい」

    「じゃあ失礼するゾ〜」

    オラは風間くんを引き寄せて、頭と背中に手を回してよしよし、いい子いい子、トントンと撫でながら風間くんの顔をオラの胸に押し当てた。

    風間くんはオラの背中に手を回そうとしないから、風間くんの後ろに足を回してもっと近寄って、風間くんのことを足でも抱え込む。

    風間くんがオラに寄りかかる重みを感じて、よしよししながらギューっと締め付けてふと緩めると、ぷはっと可愛い声が聞こえて胸がギュッっと締め付けられる。それに合わせてもっとギュッと締め付けるとさすがに背中をバシバシ叩かれた。

    風間くんの髪に顔を埋めると、いつも使ってるオラと同じシャンプーの香りがしてくる。

    「風間くん、いつも家のことほぼ全部やってくれてありがとう。」

    風間くんは答えない。
    でもちゃんとオラの声は届いてるのはわかってるから風間くんをトントンしながら言い聞かせる。

    ふと顔をあげると、洗濯物干に洗濯物が乾かしてあるのが見えた。

    「おっ。風間くん。洗濯物回してくれたの?」

    ピクっと風間くんが反応を見せる。

    片付けてなかったのを気にしてるのかな…?

    「乾いてたらオラが後でしまっておくから気にしなくて大丈夫だゾ?」

    ふと違和感を感じて洗濯物に目がいく。

    なんだろう、この違和感。

    洗濯物がやけにいつもより多い?

    目をこらしてみると、オラの洋服が2着ある。

    あれ?オラ一昨日出し忘れたっけ?
    でも、一昨日着てた服じゃない気が……

    あっ。あの服……

    オラはその事実に気づいた瞬間、一気に頭に血が上る感覚がした。
    いや、まさか、そんなはずは……?!
    もう一度確認してみても、その日履いていたズボンやパンツまで見覚えがある気がしなくもなくもない。
    そういえば、この前風呂を借りた時怒ってたのも。

    まさか……



    だって、あの風間くんが?!もし、オラが今考えてることが合ってるとすれば……えっ、うそっ、風間くん可愛すぎる……?!

    「……っ?!しんのすけ、痛い……!」

    どうしても腕に力が入ってしまう。
    あーもう、どうしてこの子はこんなに可愛いんだろう。

    「ごめんね、風間くん」

    ちょっと今は、風間くんが可愛すぎて腕の力を抜けそうにないゾ…──

    痛みに強ばっていた風間くんの体から力がスっと抜けてオラの体にかかっていた重みが増す。

    さすがに絞めすぎたかと腕にかかっていた力を少し緩めると、ポタッとオラの服に何か当たる感覚と音がした。

    もしかして??

    「ごめん風間くん!オラきつく絞めすぎちゃった?!痛かった?!ごめんね……!!」

    風間くんがゆっくり顔を上げる。

    と、ピシッと風間くんが固まって目を見開いた。

    そして、バシッっと両手でオラの頬を両手で挟んで顔を近づける。

    この流れでキス……?

    オラは目を閉じ―――

    「お前、顔真っ赤だぞ?!酒飲んでないよな?!匂いしないし、どうしよ、頭痛いか?熱、熱計らないと?!」

    へ?

    「顔、めちゃくちゃ熱いじゃないか!!なんで具合悪いのに言わないんだよこのおバカ!!」


    「ち、ちがっ、風間くん!とりあえず落ち着いて!!」

    「違うわけないだろ!!お前気づいてないだろうけど顔真っ赤なんだぞ?!」

    オラは体温計を取りに行こうとする風間くんの腕をグッと引っ張って抱きしめる。

    「おい!お前何して?!」

    「風間くん!!」

    ビクッと風間くんが震えて離れようとする。

    「ごめん。余計なこと……だったよな……」

    「風間くん。違うから。ダメ。離れないで。」

    風間くんの動きが止まる。

    「オラね、今すごい嬉しくて、嬉しくて、風間くんをぎゅーーーってしたい気分なの」

    「嬉しい……?何が……」

    「風間くんがオラのこと、だ〜〜い好き!!ってことがわかって嬉しいんだゾ」

    オラがぎゅーっとしながら耳元で優しく言うと、風間くんは明らかに動揺した。

    「はぁ?!なんっ」

    「風間くんがオラのことで嫉妬してくれて嬉しいの!!」

    「嫉……っ、は……?!いや、ちっ、ちが……
    (ボソツ)重いだろ……」

    「え〜重くないし嬉しいってば!もう!トオルちゃんったら!オラこんな心配されるのも嬉しいんだゾ!」

    「なんでだよ……」

    「なんでって?」

    「もー!風間くんさっきからなんでなんでばっか!恋人なんだから嬉しいに決まってるゾ!!」

    風間くんがえ?って顔をする。
    オラもその顔を見て固まる。

    え……?
    何その顔……

    まさか…いや、そんなわけ……

    いや、もしかしてだけど風間くんなら有り得るゾ……?!

    いや、もしそうだとしたら……


    もしかして、ずっと、付き合ってると思ってたのオラだけだった……?

    ってことは、つまりつまり?どういうこと?

    風間くんがオラから目を逸らす。

    風間くんは、オラが好きで?
    オラも風間くんが好きで?
    風間くんとお付き合いして、一緒に住んでるのはオラで?

    オラ達、いつからお付き合いしてなかったの??

    風間くんは恋人じゃなくても、自分が相手を好きなら
    相手が自分を好きかどうか関係なしに一緒に住めるし?
    相手に尽くすし?
    キスもセックスもできちゃうの??

    今度はサーっと顔から血の気が引けていく。

    「……お前、僕のことちゃんと恋人って認識してたんだな?」



    お??

    どゆこと??

    「当たり前だゾ?!」

    ってことは風間くんもちゃんと恋人って一応は思ってたってことだよね??そうだよね??
    良かったぁ……あ?でも、オラが、風間くんを恋人だと思ってないって思ってたってこと??それは人外だぞ!!

    「えっ。当たり前?」

    どういうこと?って顔をしてるなさては。
    オラ風間くんのことずっと見てるから分かるんだもんねーだ!これはわからせってやつが必要なのでは?!すごい!恋人っぽいゾ!!

    じゃなくって!!!

    でもなんで恋人だと思ってないなんて思ったんだろ?あなたっ私のことは遊びだったっていうのっ?!酷いっ!!そうさ、お前は俺のいっときのおもちゃに過ぎないんだよ。そんなっ!酷いわっ!!って思ってたってこと?!

    こ、怖いけど聞いてみなきゃだゾ……

    「風間くん。オラがずっと恋人と思ってないって思ってたの?なんで?」

    そ、その顔は?!
    逆になんで?って顔だなさては?!
    オラ、そんなに酷い彼氏だった……?
    それはそれで傷つくゾ……。
    オラ、ずっとちゃんと風間くんに大好きって伝えてたよね?
    風間くんを1番に優先して、優先しなかったことなんてなかったよね?
    風間くんを大切にしてたよね?
    傷つけるようなことしてないよね?

    オラの頭には?が沢山積もっていく。

    だって今の今まで、風間くんが大切で、1番で、父ちゃんの言ってた人生をかけて夢中になれるもので、オラの宝物で。大事に、大事に……してたと思ってただけ……だったってこと?

    つまりオラの自己満足……

    え、そうだとしたらだいぶショックだし風間くんに悪いことしたゾ……

    「……しんのすけ、僕のこと…」

    どう思ってるの?
    ってこと?そんなこともオラに言えないくらいオラの返事が怖いの?
    やっぱり風間くんから見てオラって、そんな……

    「ちょ、しんのすけ?!何泣いてんだ?!どうした?どっか痛いのか?それとも……」

    「うぅ〜っ、ごめん、ごめんね風間く〜ん」

    伝わらないって…伝わってないって…
    こんなにも苦しいんだね……

    オラ、風間くんを宝物だと思って大事に大事にしてたと思ってたんだゾ。

    けどオラ、大事にしてると思ってただけだったんだね。

    本気だって。
    伝えること…出来てなかったんだね……

    「え、え?何?」

    「オラ、オラ、悪い彼氏だったゾぉ〜」

    「ちょっと、落ち着けって、何言ってるかわかんないからっ」

    「オラ、風間くんからっ、貰ってばっかりで、ちゃんと本気で『好き』なのっ、伝えられて無かったんでしょ?」

    「へ???」

    ほら、こんなに驚いた顔して。
    やっぱり、風間くんにオラも好きって全然、全くもって、1ミリも伝わってなかった。
    オラ、好きって伝えてたのに。
    普段の時もイチャイチャしてる時も好きって。

    本気って思われてなかったんだね。

    伝わってなかったんだね。

    こんな、こんな悲しいこと、オラずっと、風間くんのこといつも本気だったのに。

    どうして……

    どうやったら、伝わるの?

    「風間くん。オラが本気じゃないって思ったの、全部理由聞かせて。全部直すから。全部ちゃんとするから。お願いだから、捨てないで……」

    「捨て?!捨てるわけないだろ?!」

    「ほんと?」

    「本当だよ。なんで僕が捨てるんだよ。捨てられるのは僕の方……」

    「うぅ〜っ、捨てると思わせてごめんねっ」

    「は?!ちがっ、なんか調子狂うな……わかった、1つ1つちゃんと言うからだから泣きやめって、話ができないだろ……」

    「うん…っ」




    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    つまらない。こんな面白くないドラマこの世に存在したんだな。

    現実逃避で見始めた長編ドラマだけど、最初はミステリーとかちょっとSFっぽさもあって面白かったのに、何故か途中からドロドロの恋愛ものに成り果てて最後の方は全然面白くなくなってる。

    なんでこの登場人物達は自分が愛されてると信じず、なんで相手が別の人が好きだと思い、こんなにお互いのことを攻め合っているのか、それだけなら面白そうなのに、何故そこから本当に別の人へ路線変更するのか、全然わからない。だって好きだったんじゃないのか?意味がわからん。

    「…くん、…ゾ」

    肩に誰かが突然手を置いた感触がして、イヤホンを外してバッと振り返る。
    なんだ、しんのすけか……

    「びっくりしたじゃないか、帰ってきたなら電気つけろよな。……っじゃない、気づかなくてごめん。おかえりなさい。……あっ、僕、お風呂沸かしてないや。ご飯も…できてないや……」

    突然のことに対する驚きから、安堵、そして現実へ引き戻されて絶望と不安にに変わっていく。

    僕、ホントに自分のことばっかで、しんのすけのために何も出来てない。

    それなのに僕ばっかり一方的に求めるなんて。

    「泣いたの?」

    パシッ

    え……?

    僕、今何して?

    しんのすけを振り払っちゃった……?

    ど、どうしよう、これでほんとに嫌われ……

    「ち、ちがっ……」

    「風間くん」

    ドキッと胸が跳ねる。
    痛かったよな、見損なったって言われるのかな、どうしよう、別れるなんて言われたら……

    「触れていい?」

    へ?
    別れるって言われなかった安堵で体から少し力が抜ける。
    触れる……どこに?

    僕はこくりと頷いた。

    しんのすけが唇の端を親指で触れると同時に、ドキッと胸が跳ねる。どうしよう、しんのすけが触れたところが熱い。キス、されるのかな……僕はギュッと目をつぶった。しんのすけの親指がふにふにと唇をなぞっていくのを感じる。なかなか降りてこないしんのすけの唇。少し目を開けると、しんのすけは僕の唇をジッと見てるみたいだった。下唇が歯に引っかかっていたのが外れると同時に、僕が唇を思いっきり噛んでいた事に気がついた。

    しんのすけの視線が上がり、しんのすけとバチリと目が合う。

    どうやらキスでは無かったみたいだ。
    早とちりして、期待して、恥ずかしいやつ。

    唇から手を離され、頬に手が添えられる。
    温かいしんのすけの手のひらが頬を包んで気持ちがいい。
    目尻を親指でなぞられると、少しくすぐったい。


    「風間くん?どうしたの…?」

    なにが?なにか顔について……
    『泣いたの…?』
    あ、そうか、泣いた理由か。

    「なんでもない。」

    別に本当になんでもない。
    僕が勝手にお前に嫉妬しただけ。
    それだけなんだ。

    「風間くん」

    名前を呼ばれる度に身体が嬉しさで疼く。
    今だけは僕の名前を呼んで僕だけを見て、僕だけのことを考えていてくれてる。

    「……なんだよ」

    内心喜んでるくせに、ぶっきらぼうな答え。
    そんなんだから飽きられるんだ。って悪魔が囁く。

    「ギュッてしてもいい?」

    え?今なんて?

    僕はしんのすけをチラリと見た。
    いつ最後になるかもわからない。
    貰えるものは貰わないと。

    「……いい」

    「じゃあ失礼するゾ〜」

    しんのすけは僕を引き寄せて、頭と背中に手を回してよしよし、いい子いい子、トントンと撫でながら僕の顔を自分の胸に押し当てる。

    これヤバイ。しんのすけの匂いに包まれて、すごい勢いで脳みそを溶かしていく。

    僕はしんのすけの背中にしがみつきそうになる手を何とか理性で抑える。のに、しんのすけは僕の後ろに足を回してもっと近寄り、僕のことを足でも抱え込んでくる。

    そんなに近づいたら……!!

    僕の全身から力が抜けて、しんのすけに寄りかかる。しんのすけの匂い。よしよしされて、ギューってされて、脳が溶けて……ふっと力を緩めるられると、外気が入ってきてぷはっと息が漏れた。危なかった、しんのすけで窒息するところだっ……っ?!突然またギュッと締め付けられて、今度は本当に息が出来なくてしんのすけの背中をバシバシ叩く。

    ちょっとだけ力が緩まったけど、頭もしんのすけの顔でホールドされて、完全にしんのすけの匂いに閉じ込められる。

    このまま死ねたら本望だろうな。

    「風間くん、いつも家のことほぼ全部やってくれてありがとう。」

    しんのすけ?突然どうした?
    具合でも悪いのか?普段そんな事言わないじゃないか?なんか変なものでも食ったのか?

    「おっ。風間くん。洗濯物回してくれたの?」

    ドキッと胸が跳ねる。
    まずい。洗濯物、隠し忘れてた……!
    明らかに洗濯物が多いから絶対気づかれる?!
    他人の家で洗われたやつを洗い直すなんて、失礼だし気持ち悪すぎるだろ?!

    「乾いてたらオラが後でしまっておくから気にしなくて大丈夫だゾ?」

    どうしよう、どうしよう、絶対バレる……っ?!

    「……っ?!しんのすけ、痛い……!」

    な、突然なんだ?!なんでこんな力入れて、痛いっ、息できなっ……

    「ごめんね、風間くん」

    えっ、どういうこと?
    僕、しんのすけに殺されるの?
    ついに存在が邪魔になっちゃった?
    言ってくれればいつだって目の前から消えたのに。でもしんのすけを忘れるなんて、僕には出来ないだろうからここで、しんのすけの匂いに包まれて。

    こいつに殺されて死んだ方が幸せなのかな……

    スっと少し力が緩むと同時に、ポタッと涙がこぼれる。

    「ごめん風間くん!オラきつく絞めすぎちゃった?!痛かった?!ごめんね……!!」

    ゆっくりと顔を上げると、目の前には顔がゆでダコみたいに真っ赤になったしんのすけがいた。


    バシッっと両手でしんのすけの頬を両手で挟んで顔を近づける。

    「お前、顔真っ赤だぞ?!酒飲んでないよな?!匂いしないし、どうしよ、頭痛いか?熱、熱計らないと?!顔、めちゃくちゃ熱いじゃないか!!なんで具合悪いのに言わないんだよこのおバカ!!」

    どうしよう、しんのすけ本当に具合悪かったんだ、しんのすけの手が外から帰ってきたのに暖かかったのももしかして具合が悪かったからで……そんなことにも気づけないなんて?!

    「ち、ちがっ、風間くん!とりあえず落ち着いて!!」

    「違うわけないだろ!!お前気づいてないだろうけど顔真っ赤なんだぞ?!」

    僕は体温計を取りに行こうと立ち上がると、腕をグッと引っ張っられてバランスを崩し、そのまま座ってるしんのすけの上に倒れ込む。同時にギュッとホールドされてどこにも行けなくなった。

    「おい!お前何して?!」

    「風間くん!!」

    ドキッと胸が跳ねる。あ、また僕、焦って空回りして、しんのすけに迷惑……

    「ごめん。余計なこと……だったよな……」

    僕はしんのすけの胸を押し返して離れようとしてるのに、しんのすけは力で僕を抑え込む。

    「風間くん。違うから。ダメ。離れないで。」

    しんのすけに力で勝てるわけが無い。しんのすけの方が体格がいいし、悔しいことに筋肉の肉付きもちがう。ここは大人しく、これ以上面倒なやつと思われないようにジッとしてよう。

    「オラね、今すごい嬉しくて、嬉しくて、風間くんをぎゅーーーってしたい気分なの」

    は?嬉…しい?

    「嬉しい……?何が……」

    「風間くんがオラのこと、だ〜〜い好き!!ってことがわかって嬉しいんだゾ」

    だっ?!大好き?!僕、そんなに目に見えてバレっ……?!

    「はぁ?!なんっ?!」

    「風間くんがオラのことで嫉妬してくれて嬉しいの!!」

    何言ってんだ???

    「嫉……っ?!は……?!いや、ちっ、ちが……
    (ボソツ)重いだろ……」

    だって、僕に嫉妬なんてされても、面倒臭いししんのすけの好きに動けなくなるし何より……

    「え〜重くないし嬉しいってば!もう!トオルちゃんったら!オラこんな心配されるのも嬉しいんだゾ!」

    こいつ、正気か???
    僕に嫉妬されて嬉しいなんて、いや、何僕喜んでるんだよ。理由、理由があるはずだ……!

    「なんでだよ……」

    「なんでって?」

    なんでって??理由もなく嬉しいのか??
    しんのすけってもしかして、僕のこと……

    「もー!風間くんさっきからなんでなんでばっか!恋人なんだから嬉しいに決まってるゾ!!」

    え?

    今なんて…?

    恋人…?

    「……お前、僕のことちゃんと恋人って認識してたんだな?」

    すごく不思議な気分だ。
    しんのすけが、僕のことを恋人として…?

    「当たり前だぞ?!」

    「えっ。当たり前?」

    どういうことだ??当たり前??

    当たり前、そっか、当たり前に僕のこと恋人って思っててくれて……え、うそ、嬉しい……泣きそう……

    「風間くん。オラがずっと恋人と思ってないって思ってたの?なんで?」

    なんで?なんでって言われても……
    だってしんのすけ、僕のこと…

    本気じゃないんじゃなかったのか?

    僕のこと、もう飽きちゃったんじゃないのか?
    学生の間の思い出作りじゃなかったのか?

    そんな質問、まるで、僕のこと……

    「……しんのすけ、僕のこと…」

    本気で好きみたいじゃないか……??

    「ちょ、しんのすけ?!何泣いてんだ?!どうした?どっか痛いのか?それとも……」

    突然目の前の大型犬が泣き始めたら誰だって驚くだろう。だってしんのすけだぞ?僕だって幼少期にしんのすけが泣いてるところなんて数回しか見た事ないくらい普段泣かないやつなのに?!

    「うぅ〜っ、ごめん、ごめんね風間く〜ん。」

    「え、え?何?」

    僕??僕がなにかしちゃったのか?!

    「オラ、オラ、悪い彼氏だったゾぉ〜」

    しんのすけが悪い彼氏?!なんで?!学生の間の付き合ってくれてる間十分僕に尽くしてくれてたし思い出も沢山くれたけど?!

    「ちょっと、落ち着けって、何言ってるかわかんないからっ」

    「オラ、風間くんからっ、貰ってばっかりで、ちゃんと本気で『好き』なのっ、伝えられて無かったんでしょ?」

    「へ???」

    今なんて??

    しんのすけが僕を本気で『すき』?

    ま、まさか、しんのすけ…僕と本気で付き合ってくれてたのか?!

    だとしたら、僕、なんてこと……

    頭からサーッと血の気が引いていく。

    「風間くん。オラが本気じゃないって思ったの、全部理由聞かせて。全部直すから。全部ちゃんとするから。お願いだから、捨てないで……」

    しんのすけが僕の手を握って頭を下げてくる。

    は?

    捨てないで??

    僕がお前を捨てる?!

    「捨て?!捨てるわけないだろ?!」

    「ほんと……?」

    しんのすけが不安げに顔を上げ、本当に捨てられた子犬…じゃないな、大型犬みたいな顔で見てくる。
    うっ、ちょっと可愛いって思ってしまった……。
    いかんいかん。

    「本当だよ。なんで僕が捨てるんだよ。捨てられるのは僕の方……」

    「うぅ〜っ、捨てると思わせてごめんね……っ」

    またしんのすけが俯いて僕の握り込む手の上に涙の大粒が2つ3つと落ちていく。
    な、なんか僕が泣かしてるみたいじゃないか?!

    「は?!ちがっ、なんか調子狂うな……わかった、1つ1つちゃんと言うからだから泣きやめって、話ができないだろ……」

    「うん…っ」

    しんのすけは袖で目を思いっきり擦るもんだから、僕は机の上のティッシュで目元を抑えて拭いてやる。
    そんなに思いっきり擦ったら赤くなっちゃうだろうが。
    しんのすけも机の上のティッシュを2、3枚取って鼻をかんでゴミ箱に捨てる。
    やっと泣き止んだしんのすけとバッチリ目が合って恥ずかしくて少し視線を逸らした。

    「まずどこから話せばいいか……」

    「はじめから全部話してほしいゾ……!」

    しんのすけが僕の手を握って前のめりに目をキラキラさせる。

    「は、はじめ?!えっと、じゃあ、僕が告白しちゃった時、お前僕のこと本気で好きだったのか?」

    「好きだったゾ?」

    しんのすけは、?を頭に浮かべて、さも当然かのように答えた。
    本気で好きだったのか?!あれで??

    「なんで?!」

    「なんでって、オラ風間くんがオラのこと好きなの知ってたし、オラも風間くんのこと好きだったし、オラから告白しても風間くん将来とか色々考えちゃって断るだろうから、告白されるの待ってたんだゾ」

    正論すぎて何も言えない。
    確かに僕は絶対に将来のことうじうじ考えて断るだろう。

    では次だ。次は……時系列を追うと、あと、これ以降は……

    い、言えるわけがないだろうが?!

    そんな、僕が自分でやって欲しいって言うなんて、恥ずかしすぎて言えるわけが無い!!

    「あとはないの?ありそうな顔してるけど……
    オラ、言ってもらわないとわからないゾ」

    まただ、コイツは捨てられた子犬……いや、大型犬のような顔をして何故か見える耳としっぽを垂らす。

    「わ、わかった、言うから……!その、恥ずかしいんだよ……」

    「大丈夫!全部受け止めるゾ!!」

    う、受け止められても……

    「えっと……」

    「えっと?」

    「その……」

    「その?」

    は、恥ずかしい……!!!
    なんで寝てる時抱きついてくれなかったのかとか、別に抱きついてくれないとちょーっとだけ、ちょーーーっとだけ寂しい…だけであって!!全然なくても寝れるけど!!なんで新しいプレイする度に次からはそのプレイをしないのかとか、別にそのプレイが気に入ったわけでもないけど!!ただ、しんのすけにとって特別だからして貰えるのかなって、ちょっとだけ、ちょーーーっとだけ思っただけだし?!スるときは痕をつけて欲しい…とか、いや、別につけて欲しいわけでも無いけど!!た、ただつけてもらった時、ちょっとだけ、ちょーーーっとだけ嬉しかっただけであってだな?!そ、そもそもなんで抱いてくれないのとか……!!いや、別にもっとしんのすけとシたい…わけでもなくもなくもないけど!!!

    言えるわけないじゃないか!!
    そんな恥ずかしいし、自分でして欲しいって言ってるみたいじゃないか?!

    そりゃ、して欲しいかして欲しくないかって言われたら全部、たまには?して欲しいけど……。

    ほ、他に、他になにか言えるもの……!

    そ、そうだ!!

    「友達!友達って誰でどんな人なんだよ」

    「友達?どの?」

    どの?だって??まぁ、しんのすけは友達多いだろうけど。

    「この前飲み会の後遊びに行ってただろうが!」

    「おぉ〜!立木くんのことか?!」

    立木っていうのか?!立木マキか?!
    ん?たちき…くん?

    「えっと、男だったのか…?」

    「立木くんは男だゾ?彼氏と同棲してて〜いつも彼氏が可愛いって自慢してくるんだけど、実物は風間くんの方が1億万倍くらい可愛かったゾ」

    しんのすけはうんうんと頷きながら腕を組む。

    は、はぁぁぁぁあ?!
    男の、しかも彼氏持ちの友達の家?!
    僕はてっきりマキって子の家かと……。
    いや、でもその同棲してる彼氏くんの名前がマキなのかもしれないし?!
    それはそれですっごい嫌だけど……。

    「その話はわかった。ところでマキって誰だよ」

    「マキ?マキ…マキ…マキ?誰それ」

    しんのすけは顎に指を置いて考え込む。
    本当に誰か思い出せないのか、心当たりがあるけど言えないのか。

    「僕が先に聞いてるんだよ。寝言で言ってたろマキって!」

    「えぇ?!オラ、マキなんて子知らないゾ!!」

    「寝てる時僕に抱きついてこことかこことか!触りながら言ってたんだよ!!」

    僕はしんのすけが寝ぼけて誰かと間違えて触れていた自分の胸と内太腿に触れてみせた。

    「えぇ?!オラ、風間くんのこと寝てる間抱きついてたの?!」

    ズキッと胸に痛みが走る。
    僕に抱きついてたのがそんなに驚くことなのかよ。そんなにありえない事なのかよ。
    だって僕のことさっき本気で好きって言ってたじゃないか。なのに……

    「僕に抱きつくのがそんなに嫌かよ!!!」

    目の前が溢れる涙で霞んでいく。
    だってここ4ヶ月くらい、僕はずっとしんのすけに背を向けられて寝てたんだ。
    そんな、態度でわかる事じゃないか。

    涙を零し始めた僕をみて、さっきまで泣いてたやつがあわあわと慌てふためく。

    涙が零れる瞬間、目をつぶると、ふわっとしんのすけの匂いがして、背中をトントンとたたきながら、しんのすけが優しい声で風間くん?って耳元で囁いた。

    「オラ嫌じゃないゾ。風間くんはオラが寝てる時ぎゅってするの嫌じゃない?」

    僕はすぐ頷くのは恥ずかしくて、ちょっと考えたフリして頷いた。

    「オラね、実は風間くんがオラがぎゅーってしなくて寂しがってたの知ってたんだゾ」

    「別に寂しがってない」

    嘘。本当は寂しかったけど、何故か僕の口は素直には回ってくれない。

    「でもね、夏の間、オラがぎゅーってしてると、風間くん寝苦しそうにしてたから、オラ我慢してたんだゾ?」

    え…?

    もしかして、しんのすけは僕のために?
    僕のこと考えて?

    「別に……汗かいたら着替えればいいし。朝風呂入ればいいもん。」

    抱きしめられてる腕に急に力が入る。
    なんだか心地いいから僕もしんのすけの背中に腕を回してぎゅーってしてあげた。

    「これからは寒くなるしいっぱいぎゅーってするゾ!」

    あぁ、どうしよう。
    なんかすごい、胸までぎゅーってする。
    しんのすけの心臓の音、凄い心地がいい。
    しんのすけの心臓の音がこんなに感じるなら、僕の心臓の音もきっとしんのすけに伝わっちゃってるだろうか。

    ずっとこの時間が続けばいいのに。


    しんのすけとこうしていられる時間が。


    どうしょうもなく……嬉しい……



    「風間くん」

    その時間は名前を呼ばれる声と共に終わりを告げた。お互いの腕の力が緩む。

    またしんのすけと向き合う形になったのに、顔を見られるのが恥ずかしくて顔があげられない。

    今、僕絶対顔が真っ赤だ。

    「オラね、風間くんの嫌なことはやらないから。風間くん。オラね、今すっごい風間くんにちゅーしたい。だめ?」

    ゆっくりと目線だけあげると、しんのすけもちょっと目元が潤んで顔が真っ赤だった。

    胸がギュンって引っ張られて締め付けられるみたいにどっかに持ってかれる。
    胸に残ったのはバクバク鳴り響く心臓の音だけだった。

    僕の手の指と指の間に、しんのすけの熱い指が滑り込んでいく。指に隙間が無くなって、手のひらに汗が吹き出す。

    しんのすけのゴツゴツした男らしい指が動いて、僕の手の甲を撫でたり、にぎにぎしたり。

    なんだかさっきよりも顔が暑い気がする。

    僕はそれを目で追いながらゆっくりと頷いた。



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    PAST風間トオルがデレないと出れない部屋

    ⚠️アテンション
    ・未来パロ(17歳、高2)
    ・しん風
    ・中学から付き合ってるしん風
    ・以前高1の頃○○しないと出れない部屋にて初体験は終えている。(いつか書くし描く)
    ・部屋は意志を持ってます
    ・部屋目線メイン
    ・ほぼ会話文

    ・過去にTwitterにて投稿済のもの+α
    『風間トオルがデレないと出れない部屋』

    kz「...」
    sn「...oh......寒っ...」
    kz「...お前、ダジャレって思ったろ...」
    sn「ヤレヤレ...ほんとセンスの塊もないですなぁ」
    kz「それを言うなら、センスの欠片もない、だろ!」
    sn「そーともゆーハウアーユ〜」
    kz「はぁ...前の部屋は最悪な課題だったけど、今回のは簡単だな、さっさと出よう...」

    sn「.........え???;」

    kz「なんだよその目は(睨✧︎)」

    sn「風間くんがデレるなんて、ベンチがひっくり返ってもありえないゾ...」
    kz「それを言うなら、天地がひっくり返ってもありえない!...って、そんなわけないだろ!!ボクだってな!やればできるんだよ!」

    sn「えぇ...;」

    kz「(ボクがどれだけアニメで知識を得てると思ってんだ...(ボソッ))」
    kz「...セリフ考える。そこにベッドがあるし座って待ってろよ...、ん?ベッド?」
    sn「ホウホウ、やることはひとつですな」
    kz「やらない」
    sn「オラ何とまでは言ってないゾ?」
    kz「やらない」
    sn「そう言わず〜」
    kz「やら 2442

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