同期こぼれ落ちた命はいくらでもあった。故郷の人間も、家族も、たった一人自分を守った男も。その男が命を賭して守った命が至極簡単に失われていく。
怒りで沸騰する血の音が聞こえ、息をするたびに鍛えていたはずの肺が焼けるように痛かった。さびとのように守れない自分に。生殺与奪を握らせ弱者として死んでい同期がひとり、またひとりと目の前で失われていいくごとに、さびとが薄れていくことに。
柱になりたかったわけではない。荒事は今でも好まない。出来るだけ剣を握らなくて済むなら、それに越したことはない。所詮、自分は仮の水柱だ。そもそも他の柱とは何もかもが違う。ただただ、さびとの死をこれ以上意味のない形骸にしたくなった。強くならねば。さびとのように。
同期で残ったのは村田のみ。村田はさびとの命を無駄にしていない。格段に剣技や呼吸に優れているわけではないが、しかし生き抜いている。しかもたくさんの人を助けて。あの時も俺を守った。7日間、怪我人の自分を連れて生き延びる術を見出した。
それは村田の才なのだ。
無惨と対峙していた時に村田の姿が目の端に入った刹那、躊躇することなく村田の名を叫んだ。当然村田は自分のことなど覚えてはいないだろう。だが、俺は違う。ずっとずっと見ていた。八年間ずっと。だから、炭治郎を助けてやれるのは、村田。お前だけだ。
現在、昼時を少し過ぎた蕎麦屋で衝撃の事実を告げられ俺は困惑している。
俺が鬼殺隊に所属していた期間、八年だぞ、八年!!柱の顔というか、誰が柱かわからないなんてないだろ、ふつーは。こっちはお館様にたまに呼ばれてたし、なんなら柱合会議の後、会ったよな?無視されてたけど。だから俺のことなんて覚てないと思ってたんだけど……。
冨岡の目が覚めてしばらくしてから同期だったこと、選別の時一緒にいたこと、俺の名を叫んでくれて嬉しかったこと、戦いが終わった今、一緒に飯を食いに行きたいと思っていることなどなど話したその時になぜ言わねぇんだ。ほんと柱、意味がわからんやつ多すぎる。説明無意味だったじゃねえか。飯を食いに行きたい以外は。
「冨岡、俺のこと覚えていたんだ」
「忘れるわけがない」
「そっか……うん、ありがとうな。冨岡さえ良ければなんだけど、これからもたまにこうして飯を食ったりしようぜ」
「……あぁ」
花のかんばせが軽く綻ぶ。
(あ……ッ、冨岡の笑った顔、初めて見た)