輪廻転生行灯が灯る部屋に敷かれた上質な布団の上で、襦袢姿のふたりー冨岡と村田ーがぎこちなく膝を突き合わせている。間に落ちる沈黙を先に破ったのは、冨岡だった。
「痣者の寿命は二十五歳までらしい。だから
……」
村田は一瞬、大きく目を見開くと富岡の言葉を強い口調で遮った
「鬼舞辻無惨を消滅させたんだ!!痣の寿命だって変わるのかもしれないだろっ!!」
「すまない……」
目に涙を一杯に溜め、捲し立てる村田の肩に触れた途端。
村田は止まることなく流れ出る涙をそのままに、肩に置かれた富岡の手首を掴み、開いた唇にその掌を重ねた。
ただ黙って凝視している冨岡を下から目線だけを返して。
ゆっくりと唇から手が離される。
「出会ってきた全ての人たちから繋いでもらった命なんだぞ……そんな風に言うなよ……。それに……覚悟を決めた俺にも失礼だからなっ!!!」
村田の頬が赤く染まっていく。
「むら……」
名前を言い終わる前に胸ぐらを掴まれ口を何かで塞がれた。ほんの一瞬だけ。それが村田の唇だと判断が遅れた冨岡に「愛してる」
村田が泣き顔のままくすりと笑った。
意識を手放し、こと切れたように眠る村田は互いの欲にまみれ酷い姿だ。
首筋、胸元、腰骨…そして太腿にまで。淡い色が滲んだその肌には冨岡が印した真っ赤な鬱血が至るところに散っていた。その姿に愛しさと充足感が込み上げてくる。
もしも村田の魂にむしゃぶるように唇を押し付け,印を残すことが出来たらどれほど幸せだろうか。未来永劫、自分のモノに出来るのに。
蓋をし見ないふりをしてきた浅ましく薄汚い欲望がのたうち回る。それは村田の幸せではなく村田への呪いであり狂気じみた愛だ。
冨岡は心中で零した言葉の後、小さく嗤った。
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眩しさを感じて、瞼をゆっくりと持ち上げた村田は、全身を支配する倦怠感を引き摺りながら、ぐしゃぐしゃのシーツからなんとか身を起こす。
紅い痕が散りばめられた自分の肢体に低く呻いていると、起きたか。と頭上から声が降ってきた。
「冨岡ぁ……いくらなんでもつけすぎ……」
「……足りないくらいだが?」
「……教師としての倫理観はないの?」
「(村田はもう生徒ではない。)問題無い」
「いや、そうじゃなくて……うん、まぁいいや。俺シャワー浴びてくる」
どうせ禅問答みたいになるのは目に見えてる。村田は、軽く息を吐いてベッドから降りると緩慢な動きでバスルームへと向かった。
シャワーを浴びながら、村田はゆっくりと痕をなぞる。なぜかはわからない。ただ冨岡が与えてくれるものは全て手放したくない…。消えゆく鬱血痕すら。
自分の性嗜好は女性だ。多分冨岡も。けれど出会った瞬間、コイツだと思ったのだ。まるで細胞が反応するかのように。
こーゆうの運命……っていうのかな。
心中で零した言葉に苦笑いしながら村田は、キュッとシャワーのレバーを止めた。
[手のひらにキスする意味 = 懇願
唇にキスする意味 = 愛情
首・首筋にキスする意味 = 執着
胸にキスする意味 = 所有
腰にキスする意味 = 束縛
太ももにキスする意味 = 支配]