貴方しか知らないたった一度。
名取が高校卒業を間近に控えた、たった一度だけ。
知識が乏しい二人で肌を重ねた事があった。
散々なもので的場には痛みと多少の流血もあったし、それを見た名取の方が顔面蒼白で失神しそうな有様だった。
俗世と離れがちな者同士では準備も用意も足りず本当に拙い性交だったが、それでもどちらともが「止めよう」と言い出さなかったのは、この時を逃したら相手はきっと自分が知らぬ誰かのモノになるだろうという確信があったからだ。
冷や汗で濡れる冷たい躰では気持ち良さも到底なかったけれど、相手を奪えたその一時は刻印のように名取と的場の記憶に焼き付いた。
それから時は経ち成人を迎えれば、予想した通り名取と的場の関係は希薄になった。
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