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    昔書いた霊乃さんの過去小説です。
    この霊人って子は既に死んでるんですが、その辺の話も追々かけたらいいなぁって思ってます

    霊乃憂力の過去話あの日は酷く晴れた日だった。
    高く澄み渡った青色に、誰もが清々しく感じたことだろう。

    「●●!!」

    しかし俺は、焦りと憎しみと無力さと後悔が同時に襲ってきたような、そんな気持ちの悪い感情しか湧かなかった。
    だって目の前で、幼馴染が胸を刺されているのだから。
    無様にも尻もちをつき、恐怖で動けない俺を庇って彼女は通り魔に刺された。
    この時の彼女の苦痛に満ちた顔は、一生忘れることは無いのだろう。

    ◇◆◇◆◇◆

    「今週の売上トップも平田だった。他の者も彼を見習って励むように」

    週の終わりの朝礼で行う、今週の売上ランキングの発表が今日も行われた。
    1位と書かれた場所には『平田憂力』という文字が書かれている。そのことに大した達成感も感動もない。あるのはただ、社畜生活による疲労と同じことを機械のように繰り返す日々である。
    つまらない。と、漠然と思う。
    もういっそ辞めてしまおうか。しかし、辞めたところで今の社会では再就職先を探すのにも苦労するだろう。

    「俺は何のために生きてんだろうな…」

    小さく呟いた言葉に、同期のひとりが反応した。

    「そらぁお前、生きるためだろ」

    生きるために生きる。イマイチ答えになっていないような気がする。

    「そんじゃぁ、生きたくなくなったらどうするんだ?」

    そんな問いに、同僚はケラケラと笑って答える。

    「死ぬんじゃねーか?」
    「………」
    「おいおい、冗談に決まってんだろ?本気にすんなよ、怖ぇなぁ…」
    「ん?あぁ、悪い。ちょっと考えてただけだ」
    「……死にたいとか言うなよ?」
    「安心しろ。それは流石にない」
    「だよなぁ。俺の冗談で自殺されちゃ適わねぇし…。でもまぁ、こんな生活じゃ仕方ねぇか」

    こんな生活とはまさに、ついさっき自分が考えていたことだろう。社畜生活に嫌気がさしているのは皆同じだ。

    「ま、生きがいの一つや二つ持ってた方が人生楽しいぞ?だからさ?今度2人でキャバクラにでも…」
    「キャバっ!?……それは遠慮しとく」
    「おいお前wwその反応もしかして童t」
    「うるせぇ!悪いかよ!!」

    仕方ないだろ。女を前にするとあの時のこと思い出してまともに勃たないんだから。そんな事は露も知らない同僚は、頑張れよと実に不快に笑いながら仕事へ戻って行った。

    就業時刻を大幅に回った深夜2時。ようやく残業が終わった俺は、暗い夜道を歩いている最中である。
    自宅が会社から徒歩圏内ということもあり、何かと残業させられることが多いのは本当にやめてもらいたい。こんなことなら2駅くらい離れた場所に借りればよかった。
    度重なる残業による疲労からフラフラと歩いていた俺は、なにかに躓いて為す術なく転倒した。

    「痛っ……はぁ、コケたのなんて何年ぶりだ?」

    立ち上がろうとした俺は、鈍い膝の痛みに顔を顰める。見るとスーツごと身が抉られていたらしく、なかなかにグロい見た目だった。

    「……あの、大丈夫です、か?」

    不意に背後から声がかけられた。声変わりしたてくらいの少年の声だろうか。振り返るとボサボサで薄汚れた中学生くらいの少年が、恐る恐るこちらを伺っている。

    「ひ、膝が!?酷い怪我じゃないですか!!」

    体を捻ったことで隠れていた膝が見えたのか、少年は慌てて駆け寄ってきた。

    「あ、あぁ。大丈夫だ。そこまで痛くはない」

    なんで中学生がこんな夜中に?という疑問は疲労からかどこかへ行ってしまったようだ。治療する時間も惜しいから、早く帰って寝ようと再びフラフラと歩き始める。いや、もういっそこのまま……

    「待ってください!家まで送りますから!!」

    当たり前のように俺の体を支える少年に、なんの疑問も抱かずに体を預けた。
    この選択が後に、俺に大きな影響を与えるとは知らずに。


    ◆◆◆◆◆◆◆


    朝目を覚ます。
    時計を見ると朝の10時だ。

    「やっっっばい!!会社!!!」

    会社の出社時刻は8時。それを2時間も上回ってしまったという事実に、眠気もいっぺんに吹っ飛んだ。急いで服を脱ぎ、スーツに袖を通そうとしたその時。

    「あ、起きたんですね!あと今日は休日なので仕事は無いと思いますよ?」

    若く元気な少年の声が部屋に響いた。

    「…え?」

    唐突な少年の登場に頭が真っ白になる。

    「あ、そっか。僕は霊人と申します!昨日はごめんなさい」

    唐突に名乗り始める少年。
    昨日…?昨日………確か帰り道転んだんだ。

    「あぁ!あの時の少年か!!」

    そうだ。確か何かに躓いて転んだところをこの少年に助けられたのだった。

    「いや、その件は助かった。謝る必要は無いぞ」
    「謝りますよ!だって僕が座ってたせいで貴方が躓いて転んでしまったので……」
    「ん……?」

    そこで状況に追いついた頭がやっと回り始めた。
    そもそもなんでこいつは……

    「なんで子供があんな所にいたんだ?1時を回ってただろ?」
    「……あ、いや、それは」

    今まであんなに意気揚々としていたのに、少年は突然言葉につまる。
    まあそらそうか、言えない理由があるからあそこにいたんだもんな。

    「……はぁ、まあいい。理由は言いたくないんだろ?」
    「…え?」

    予想外の言葉だったのか、少年はキョトン顔をする。

    「とりあえずお前風呂入れ。泥だらけじゃないか」
    「え、あの…」
    「お前が入った後で俺も入るんだからサッサと行ってこい!」
    「は、はいっ」



    ◆◇◆◇◆◇



    あれから数日あって今日、俺は会社を辞めた。
    上司には辞めるなと泣きつかれたが、そんなことは知らん。
    完全にブラックという訳ではなかったから、残業や業績トップのボーナスやらで溜まっていたお金を使い、事務所を立てた。
    その名も――

    「霊乃相談事務所。なかなかいいだろ?」

    そう隣に立つ霊人に話しかけるが、少々苦笑い気味である。

    「いい、ですね……ところでなんで霊乃なんですか?」

    そう。事務所名は霊乃だ。
    平田でもなく霊乃。
    違和感を持つのも当然だろう。

    「偽名だよ偽名。それに霊乃って名前、霊人に似てて良いだろ?」
    「そんな安直な…」

    理由を聞いた霊人は、呆れつつもどこか嬉しそうだ。

    「ねえ、平田さん」
    「なんだ?改まって」
    「どうして僕のこと信じてくれたんですか?」

    ___________________


    事は10日ほど前に遡る。
    霊人と出会ってから数日、行く宛のないと言う霊人をほっぽり出すことは出来ず、自宅に住まわせていた。とは言っても安いアパートである自宅は狭い。
    相手がJKなどではなくて良かったと安堵しつつも、傍から見たら事案に見られなくもないので最大限に注意している。お互いに少しばかり共同生活に慣れてきた、そんな頃に事件は起きた。

    「平田さん。何ですかそれ」

    いつものように仕事から帰宅した俺に、霊人は若干顔面蒼白になりつつ尋ねてきた。指さす先は、帰り道に拾った人形である。

    「あー、これな?道のど真ん中に落ちてたから拾ったんだよ。さすがにあのままはちょっとな…と、思って……」
    「今すぐ元の場所に戻してきて下さい!!!」
    「…っ!!?」

    言葉を遮るように霊人は声を荒らげた。ここに来てから、霊人がこんなにも取り乱すのは初めてである。
    顔を見ると、俺ではなく人形を物凄い形相で睨んでいる。

    「ど、どうしたんだよ霊人?そんなに人形嫌いだったのか?」
    「そう言うんじゃないです!早く、早くしないと貴方まで居なくなってしまう…僕のせいで、僕のせいで!!!」
    「落ち着け!取り敢えず深呼吸しろ!!」

    突然何かを思い出したかのように過呼吸に陥る霊人を落ち着かせるべく近づこうとするが、

    「来ないでください!やっぱり、やっぱり僕がいるせいで貴方まで不幸にする」
    「…なに?」
    「僕は…僕は悪霊を引き寄せてしまうんです」

    悪霊?悪霊と言ったか?あまりの突拍子のない発言に思わず言葉につまった。

    「信じ、られないですよね」

    俺の反応に霊人は顔を曇らせる。
    不味い。
    そう思った瞬間、霊人は俺の手から人形を奪い、玄関を出るために俺の脇を走り抜けようとしていた。

    「待て!霊人!!」

    持ち前の反射神経を働かせ、玄関のドアノブに手をかけた霊人の腕をすんでのところで掴んだ。
    昔義祖父に鍛えられたからか、体は思ったよりもスムーズに動いた。義祖父に感謝しないとな。

    「離してください!」
    「離すわけないだろ」

    霊人の顔はどんどんと曇っていく。

    「どうせ誰も信じてくれない。皆僕をバケモノって呼ぶんだ。どれだけ僕が頑張っても、みんな僕から離れていく。そして皆、みんな………」

    霊人の顔から雫が落ちた。
    なんでこんな子供が化物と呼ばれ、誰にも愛されずに、1人で全部を抱え込んでいるのか。こんなにも苦しまねばならないのか。
    そして、俺がそんなにクソな人間だと思われていたのが。そう思わせた今までの人間たちが許せなかった。

    「霊人、お前。俺がそんな薄情なやつだと思うのか?」
    「当たり前だ!皆僕のこの力を知ったら離れていくんだ。そらそうだろ?だって僕がいるだけで不幸が起こるんだから」
    「知るかそんな力」
    「…え?」

    不幸になる?霊を寄せつける?それがどうした。

    「いちばん辛い思いしてるのはお前自身じゃないか」
    「……」
    「今まで周りのヤツらに何言われたのか知らないが、少なくとも俺はそんなこと言わんぞ」
    「……」
    「お前から離れる?笑わせんな。意地でもこの手を離してやらん!」
    「……」
    「それに、お前はバケモノなんかじゃない。お前は霊人だろ?世話焼きで気遣いが過ぎてて料理が上手くて、でもちょっと小生意気な1人の人間だ」
    「……ぅ」
    「今までよく頑張ったな。霊人」

    逃げようと抵抗していた力が霊人から抜け落ちるのを感じて、俺は霊人をそっと引き寄せた。
    ボロボロと大粒の涙が落ちていくのに床を見て気づく。

    「今からは、俺にも背負わせてくれ」
    「…え?」
    「俺、会社辞めるわ」
    「……ぇえ!?」

    霊人はさっきまで伏せていた顔をガバッと勢いよく上げた。
    目元は赤く腫れ上がり、乾ききっていない涙と鼻水のあとが顔中にくっついたままだ。

    「ははっ!ひどい顔だな霊人!」
    「うぇ!?ってなんで会社辞めるんですか??」

    急いで袖で顔を拭う霊人が、戸惑いつつ聞いてくる。

    「前から辞めるタイミングを探してたんだ。丁度いいし、2人で霊能事務所でも立ち上げるか!!」
    「ちょっ!?何勝手に決めてるんですか!!ていうかそんな簡単に……」
    「いいんだよ」
    「え?」

    すっと目を閉じながら、あの時のことを思い出す。
    本当は恥ずかしいから言わないでおこうと思っていたが、霊人が秘密を明かしたのに俺が言わないのはフェアじゃないだろう。

    「正直、霊人と出会ったあの時、俺は死んでもいいと思ってた。あのままぶっ倒れて死ぬのも悪くないかと本気で思っていたんだ。でも、お前と出会ったから俺は今生きている」

    「俺にはもう、お前が必要なんだよ。だから、俺と一緒に…」
    「ぶはっ!はははっ!!」
    「な、何だ?なんで笑うんだ?俺は真剣に」

    いきなり笑い始めた霊人に、俺は顔を顰める。

    「だって、そんなん告白みたいで」
    「……あ」

    必死だったから気づかなかったが、相当恥ずかしいことを言っている。その事実に思わず顔が赤くなるのを止められない。
    って、何で中学生の男相手に恥ずかしがってるんだよ。

    「べ、別にそういう意味では」

    この言い訳は墓穴を掘っているんじゃ……

    「それだとそういう意味に聞こえますけど」
    「ぐわぁ〜!何で俺はこう、いつも最後の最後で決まらないんだ……!!」

    穴があったら入りたいとはこのことだ。

    「でも、嬉しかったです」
    「ん?」
    「一緒に事務所やりましょう!」

    霊人がみせた笑顔は、涙で酷い顔をしていたが、出会ってから見せた中で1番の顔だった。
    その顔に、俺も心からの笑顔で答えよう。

    「頼りにしてるからな?」
    「はいっ!!」



    ________________




    「まーだそんなこと言ってんのか?」
    「だって、あんなこと言われたの平田さんが初めてですし」
    「あ、あれは忘れろ!!」

    あんなことっていうのは、あの告白っぽい言葉のことだろ?
    後悔はしていないが、掘り返されると普通に恥ずかしい。
    だが、忘れろという言葉に霊人は少しキョトンとしている。
    あ、コレは自分で墓穴ほったな。
    そう思うまもなく、霊人の顔は徐々に笑みをましていく。

    「忘れませーん」
    「お前なぁ!」

    これ以上なんか言うとまた墓穴を掘りそうだな。

    「まあ、あれだ」
    「あ、逃げた」
    「お前だから信じたんだよ」


    ここからだ。ここから俺と霊人の第2の人生が始まる。
    空は2人の門出を祝福するかのように透き通った青空だった。



    ◇◆◇◆◇◆◇◆



    おまけ

    『私を忘れて何いい雰囲気作ってんだ』
    「あ、人形忘れてた」
    「え!?人形が喋ってる!!?」
    「悪霊ですからね。喋ります」
    『そうとも。私はこの人形に取り憑いた上級悪霊。喋ることなぞ造作もなi』
    「うるさい」
    『あっちょっ!待って!!せめてもっと出番を……』

    シュウウ…

    「えっと、何やったんだ?」
    「除霊?ですかね?」
    「…お前凄いな」
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