ばぼすこちゃんギャルソンが得意気に語る蘊蓄を右から左へと受け流しながら、注がれた赤ワインを混ぜるようにして男はグラスを大きく左右に傾けていた。その度に赤い液体はワイングラスの中で踊るように波打ちながらその色を深めていく。すっかり血と見分けがつかないほど赤を強めた液体を見て、男は満足そうにそれをひと飲みした。
「随分と行儀が悪いのね、バーボン」
「おや、それは失礼しました。なにぶん教養がないものでね……」
呆れたように口に出したベルモットの言葉に、バーボンは悪びれた様子もなくその金糸を軽く揺らして肩を竦めた。その視線の先には闇を知らない東京の夜景が広がっている。ネオンサインがまるで星空のように煌めく街をぼんやりと見下ろしながら、退屈そうに再びグラスを傾け始める姿にベルモットは小さくため息をつき、グラスの中のワインを煽った。まったく、嫌なくらいわかりやすい男だ。
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