十二月一八日
師走もラストスパートに差し掛かる。
第三日曜日。
忙しなさに追われながらもしっかり休日を確保した二人は朝から大掃除に明け暮れ、その褒美として昼にビールを開け、晩御飯ラーメンでいっかという菅原の提案に「いやむしろラーメンがいい」と前のめりに返答した澤村によって非常食であった「札幌ラーメン」が封切られた。
冷凍してあったチャーシューと、冷蔵庫の奥で忘れかけていた漬け卵、菅原がいつか買ってきた辛いメンマ、そしてお歳暮で送られてきた海苔によって、即席インスタントラーメンがちょっと豪華な休日飯になった。
もちろんそんなものでは足りないので、冷凍ご飯をチンして残りのスープに入れた。「炭水化物がすぎないか」と憂いの声をあげる澤村に「たまにはいーべ」と何の根拠もない菅原のお許しが出れば、まぁいっかと思ってしまうのが澤村の悪い癖でもある。
「こーゆーのは、美味しい〜!って食べればそれでいいんだって!あ〜カロリーがぁ…あ〜太る…あ〜また食べてしまったとか思うから脂肪がつくんだって」無理やりすぎる理論なのに妙に納得してしまうのは菅原が教師という職業だからだろうか。
自信満々、たっぷり笑顔で「はぁ〜うまかった〜!」と気持ちよく平らげるからだろうか。
多分どっちもなんだろうな、と思いながら澤村は今日も菅原に騙される。
そして風呂に入る前に体重計に乗って後悔するのである。
「あ〜懐かしい!この曲めっちゃ聴いた!」
こたつで暖をとりながら見るのは特番の歌番組。
澤村はコタツの上に集められたみかんに手を伸ばす。いや、デザートは別腹というか、みかんはまぁ野菜みたいなもんだろ、と菅原よりめちゃくちゃな持論を独り言ちながら。
しかし。
不思議なもので…剥いても剥いても腹がいっぱいにならないのだ。
テーブルの上に転がったオレンジ色の皮を数える、ひー、ふーみー、
数え方が若者っぽくない!と菅原にダメ出しされたのはいつだったか、確か同じクラスになってまもない頃だった。
気づけばいつも近くに菅原はいた。
「このみかん、甘くてうまいな」
途中まで数えたとこで菅原の上機嫌な声が遮る。
あっ!
「スガ、俺まだ食べてないんだけど」
不服を申し立てるとニヒヒと笑った菅原は澤村の太ももにのしかかった。
重い。なかなか重い。
普段なら滅多にとらないような体勢。
またがるようにのった菅原の服装はパーカーにちゃんちゃんこ(しかも俺の)で全く色気はないはずなのに、条件反射のように元気になる俺の息子はなんなんだろうか。
「食べさしちゃろうか?」
菅原の右手に握られたオレンジ色の甘い果実は、俺がついさっき剥いたやつだ。白い筋まで綺麗にとったやつ。
「俺が剥いたんだけど」
「まぁまぁ」
ニヒヒ、ではない
もっと淫靡な微笑みが菅原の顔にさして…。
結論で言うと甘い果実は菅原の唇に挟まれて、澤村の口元まで運ばれた。
甘く伸びていく果実の後味の後ろから、もっと甘ったるい余韻が忍びこむ。
「いつになるかと思った」
そう言って菅原は笑った。
誰かさんはせっかくの休日なのにずっと掃除と片付けに夢中でさ、と愚痴りながら。