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    ざっそう

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    ざっそう

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    n番煎じのご都合秘境ネタ。
    先生が便利能力使ってたり捏造設定ありなので、なんでも許せる人向けです

    先生のおまじない 無妄の丘に見たこともない秘境が現れた。
     そんな噂が璃月港で流れ、タルタリヤと鍾離は実態を調べるべく無妄の丘に突如現れたという秘境に来ていた。
     いつ来ても薄暗く人気のない場所とはいえ、正体不明の秘境に一般人や経験の浅い冒険者が迷い込んで事故が起きる可能性や、ファデュイが何かしらの実験もとい悪巧みをしている可能性も否定しきれないため様子を見に行ってくれと旅人に言われたからである。ちなみに旅人自身も何回か足を運んだが、ついぞ秘境には辿り着けなかったとの事だった。
     ファデュイの企み云々に関しては、タルタリヤ自身は何もしてないし知らないとの事だったので保留中.....と言いつつ無関係だと結論付け済みである。
     同じ組織に属していても、お互いに何をしているのか知らない場合が往々にしてあるというのはオセルの件や層岩巨淵の件を通して証明済みなのと、本人の気質や言動に多少の問題があるにしても執行官クラスのタルタリヤが知らないのであれば、タルタリヤとその直轄の者に関しては関係はないと考えても問題ないと判断したからだ。
    「それにしても......ここはいつ来ても涼しいね」
     周りの様子を伺いつつタルタリヤは鍾離に話しかける。
    「そうか、公子殿はそう感じているんだな。それとも言葉を選んでいるのか?」
     鍾離は意外そうな顔をするも、もう少し違った感想があるのではないかと思い真意を探ろうとする。
    「えっと......言葉を選ぶも何も、率直な感想だけど?」
    「そうか。ここは見ての通りいつも暗く空気も湿っていて、快適な環境とは言えない。公子殿に見えているのかいないのかは分からないが、そこかしこに魄も浮かんでいるだろう?ハッキリと見える者も見えない者も、皆一様に『薄気味悪い』『早く去りたい』と忌避する場所だ。俺はとくに気にはならないが、公子殿も平気そうだな」
    「はく?が何かは分からないけど、ここってそんなヤバいところなの?」
    「魄は俗にいう霊魂とか幽霊と呼ばれる類のものだ。危険度で言えばそこまで危なくはないが、それでも行き場のないものが彷徨っている場には変わりない。軽率に遊び半分や肝試しで来て良い場所ではないな。それほど危なくないとはいえ、希死感が強い者が訪れれば引きずり込まれる可能性もあるし、おそらくここには引きずり込まれた者も混ざっているだろう」
     鍾離の説明でようやく言葉の意味や場所柄を知り、タルタリヤの顔色は一気に青褪めた。その様子を目の当たりにした鍾離は、タルタリヤの「涼しい」で済まされた感想やここに至る言動は強がりや無関心などではなく、肝がすわっている上に本当に何も見えていないし殆ど何も感じていなかったためだと悟る。しかし何かしらいると知った途端の反応を見るに、タルタリヤに怖いものなどないと思っていた鍾離は少し意外に思うと同時に、タルタリヤもやはり人の子であったのだとどこか安堵する。
    「公子殿、ここに漂っている者の個々の力は弱く殆どのものが無害であったとしても、過剰に反応しては悪い刺激を与えてしまいかねない。無理に付き合うことはないぞ」
    「あはは、やだな先生。俺がビビって逃げるとでも?約束した以上、ちゃんと最後までやり通すよ」
     暗に怖いなら帰れと言われたタルタリヤは、引き攣った笑顔で自らの退路を断つ。
    「約束」という言葉を出してきた以上、タルタリヤに引き返すという選択肢ははなから無いのだと理解した鍾離は、何かあった際にすぐに対応できる準備だけ心の中でしておくことにした。
     

     秘境自体はかなり奥まったところにあり、秘境そのものに用がない限りは人が入ってくる事もなさそうな場所だった。
    「相棒からは何回か来たけど辿り着けなかったって聞いてたけど、わりとあっさり辿り着いちゃったね。ここは草も木も茂ってて遠くからじゃ見えないとはいえ、こんな大きな物を見落とすとも思えないし......一応ここがその秘境なんだよね?」
     パッと見は普通だが、どことなく不気味な感じのする秘境ーーぽっと出感が強いーーを前に拍子抜けしたタルタリヤは、それでも警戒は怠らずにあたりの様子を窺う。
    「旅人が辿り着けなかった事に関しては俺も分からないが、噂の秘境はここのことだろうな。璃月港で流れてる噂自体に関しては多くの人間を介しているため信憑性は薄いが、旅人の話や噂の内容を照らし合わせればここに辿り着くためには何らかの条件があるのだろう。デマであれ本当であれ、辿り着けたのは幸いだったな」
    「条件ねぇ......俺と先生が来れて、旅人は来れなかったって情報だけじゃ分からないね。そもそも噂の出所が何なのかも分からないし」
    「噂話とはそんなものだろう。人から人へと伝言ゲームの形でおかしな広がり方をした事には変わりない。今回の件はたまたま本当だったというだけだ」
    「それもそうか。じゃあ噂の秘境も拝めたし、さっそく調査開始といきますか」
    「そうするとしよう」
     念のため鍾離が秘境付近に認識阻害の術を施し、周辺や秘境の入り口付近を罠やよく分からないヤバそうなものがないか念入りにチェックする。
    「はぁ......便利だし安全を取るならこうするのが一番だけどさぁ......凡人はこう......認識阻害の術とかは使わないし使えないんだよねぇ。先生、凡人になる気、ある?」
     警戒は怠らないまま、タルタリヤは周辺を探りつつ鍾離に凡人の何たるかを諭そうとする。
    「そうは言っても、俺たちが入った後に誰かが入ってしまっては大変だろう。......公子殿、こっちは問題なさそうだ。そちらはどうだ?」
    「あぁ、こっちも人為的な罠に関しては問題なさそうだ。念のため軽くチェックだけお願いするよ」
    「公子殿......凡人の何たるかを俺に説く割には、お前は俺を凡人として扱わないのか?」
     仙人や璃月特有の怪異が仕掛けたものに関しては感知できないので、最終チェックは任せたとバトンタッチしようとするタルタリヤに苦言を呈する。
    「なんかもう凡人じゃない事を隠す気がないのかなって。まぁそれは冗談だけど、さすがにここで何かあったら面倒だろう?念には念を入れて困ることはない。これは何事においても同じだ。仮に何かあっても先生ならドーンとどうにかしちゃいそうだし」
    「それは最終手段だ」
    「分かってる。まずは調査、必要に応じて破壊でしょ?」
     何が何でも破壊したいかのようなタルタリヤの言に、本当に分かっているのか?と鍾離は呆れる。
    「......まぁいい。確認したが、外側には問題はなさそうだ」
    「了解。それじゃあ、中に入るとしますか」
     そう言って、タルタリヤは扉から一歩離れたところでじっとしている。
    「入らないのか?」
    「俺は仙人の術や璃月特有のものは感知できない可能性があるからね、後ろから着いていくよ。それに先生が先頭を歩いた方が、そういう面倒事も避けれそうだろう?」
     鍾離はタルタリヤが内心ビビっているのを察し、プライドを傷つけないように「分かった」とだけ言い先頭を歩く事にした。
     念のため床や壁、天井に至るまで罠がないか確認しながら足を踏み入れる。
     秘境内は薄暗くジメジメとしていたが先に進めないほど暗くもなく、一番懸念していた崩落の心配や足場周りや空気などの環境がそこまで悪くなかったのは幸いだった。光源が何なのかは謎だが、最悪の場合として崩落寸前かつ劣悪な環境下で調査をすることも念頭に置いていた鍾離は、物理的な危機が1つ減った事に少しだけ安堵した。それでも決して長居したい場所ではないので、引き続き警戒はしつつもそこそこの速度で先に進む。
     天井が高く周りに音を吸収するような設置物もないためか、やけに足音が大きく響く。最大限気配や足音には気を付けてはいるが、魔物や敵がいた場合は相手にこちらの存在を知らしめてしまう事は避けられそうになかった。逆に相手の立てる物音も聞こえるため、いざ戦闘になったとしてもそこまで不利な状況にはならないだろうと、いつでも戦える準備はしておく。
     特に拓けた場所もなく、大人4人が横並びで歩けるほどの幅の通路が時折曲がりくねりながらずっと続いている。その間も鍾離は警戒を怠らずずっと目線だけであちこちを確認するように睨んでいた。タルタリヤも常になくピリついた気配を鍾離から感じ、警戒はしつつもあまりの居心地の悪さに口を開かずにはいられなかった。
    「内部構造的にこう......もっと入り組んでて複雑なのかと思ってたけど、逆に何もないのが気になるね。ギミックも一個もないし、朽ちてこうなったとかじゃなくて初めから何もなかったと言われた方が納得できるかも」
    「そうだな。朽ちたのであれば何かしらの残骸があるはずだが、それらが見当たらない以上、元から何もなかったのだろう。それか、意図してこういう造りにしたか、あるいは造っている途中で何らかの理由で放棄されたか」
    「途中で放棄って......そんな事ってある?」
     さすがのタルタリヤもそれっどうなの?という顔で鍾離を見やる。
    「ない事もない。例えば飽きっぽい仙人が造った秘境であれば、未完のまま放棄される事もありえるというだけだ。過去にそういう例もある。その場合は造った本人が自分で撤去するか、自然に消滅する」
    「あるんだ......」
     仙人って結構いい加減なのか?とタルタリヤは呆気に取られる。
    「この秘境に関してはあまりにも情報がなさ過ぎて現時点では判断が付かない、としか言いようがないな」
    「まぁ、そうだよね」
     その後は特に会話もなく、揃って黙々と歩き続ける。
     相変わらず鍾離からはピリついた空気を感じるし、薄暗い上に景色も変わり映えしないためどれほどの距離を歩いているかも分からなくなり、タルタリヤはだんだんと不安になってくる。どれほどの時間が経ったかも分からないまま一体どこまで続くんだと思っていたら、突如拓けた場所に出た。
     今まで壁や天井は洞窟の中のような岩肌が剥き出しのものだったのに対し、目の前に広がる空間は天井も壁も床も真っ白なきちんとした部屋で、天井からは『誰かに呪いをかけないと出られない部屋ーー出る時は2人揃って出るようにーー』と書かれたふざけたプレートが下がっていた。
     部屋の中央には机が設置されており、その上には藁人形や五寸釘、見たこともないコインやよく分からない言葉が書かれた紙や木の板など、いかにもな道具が並べられていた。
    「何このふざけた空間。それに部屋って何だよ。扉とかないで......しょ......?ぇ??」
     タルタリヤが呆れて何気なく後ろを振り向くと、先ほどまで歩いていた通路は消え、代わりにピッタリ閉まった扉が現れていた。
    「これは......迂闊だったな。まさか閉じ込められるとは」
     タルタリヤに続いて後ろを見た鍾離は、興味深そうに扉や部屋全体に視線を走らせる。
    「一応聞くけど、これって鍾離先生がやったんじゃないよね?」
    「あぁ、俺ではない。それに公子殿を驚かすのであれば、もっと徹底的に弱点を突く」
     何故かドヤ顔で謎の宣言をしてくる元岩神。
    「ビックリするくらい悪趣味だね」
     タルタリヤは青褪めた顔を歪めながら、無駄だとは思いつつも扉を開けようと奮闘し始める。
     見た目は普通の扉なのに、押しても引いてもスライドしようとしても開かない上に渾身の体当たりをしてもびくともしない。驚きの頑丈さであった。
    「無駄だぞ公子殿。それに出る方法は、おそらくあのプレートに書かれていることを実行する事だと思うが。幸いにして難しいものではないようだし、ものは試しだ。やってみよう」
    「えぇ......道具的に怪しさ満点じゃん。大丈夫なの?」
    「だが、普通には出られそうもない。無理に秘境そのものを破壊しても無事に出られるとは限らないし、下手に破壊すれば空間の歪みに落ちる可能性もある。郷に入れば郷に従え、だ。こちらへ」
     鍾離は怪しげな道具がずらりと並べられた机の前に、躊躇なく近寄る。タルタリヤはその半歩後ろから机を覗き込むが、何度見てもよろしくない道具が並んでるとしか思えない。
    「この藁人形とか釘とか何に使うの?いや、使い方が分からなくてもロクなものじゃなさそうなのは分かるけど」
    「これは稲妻の方で使われる道具だな。丑の刻参りという儀式に使われる道具だ。やり方は諸説あるが大体の流れとして、丑の刻と言われる夜中の2時〜3時頃に適当な大きさの木の前に立ち、呪いをかけたい相手の髪の毛、もしくは名前を書いた紙を藁人形の中に入れ、呪詛を吐きながらこの釘を藁人形に打ち込むんだ。顔だったり心臓の辺りだったりだな」
    「何それ......呪い殺すつもり?」
    「端的に言えばそうだな。そしてこの儀式は絶対に人に見られてはならない」
    「え、もし見られたらどうなるの?」
    「呪いが自分に跳ね返ってくる。稲妻には人を呪わば穴二つという言葉もあるし、あまりないとは思うが呪詛返しをされても返ってくるので、まぁただでは済まないだろう。最悪の場合は死に至る」
    「怖っ」
    「呪いとは往々にしてそういうものだ」
     机の上の呪いグッズを眺めながら、鍾離は淡々と答える。
     今更ながらとんでもない秘境に入ってしまったなと思ったタルタリヤは、軽く絶望しながら机の上の禍々しい道具を見つめる。やるやらないは別として、別にこんなものに頼らなくとも自分でどうとでもできるだけの地位や実力のあるタルタリヤには、なんとも理解し難い秘境だった。
    そして悶々と考えていて気付く。
    「まさか......俺たちこの見るからに怪しげな道具を使って誰かを呪わないと、一生ここから出られないって事?!」
    「正確には俺か公子殿のどちらか、だ。『互いに』という文言がないから、片方が実行すれば出られるはずだ」
     タルタリヤがたった今得たばかりの情報に慄いていると、鍾離が更なる追い討ちをかける。
    「余計に悪いよ!なんだって呪ったり呪われたりしなきゃならないんだ......よりにもよって鍾離先生が相手なんて、何が起こるか分かったもんじゃない」
    「それに関しては俺も同意見だ。だがしかし......ふむ」
     鍾離は呪いのグッズを見つめながら考え込み、そのまま黙り込んでしまった。タルタリヤとしては聞きたい事が山のようにあったが、鍾離の真剣な表情を見て思考の邪魔をしてはいけないと思い、不安げにじっと鍾離の背中を見つめて言葉を待つ。タルタリヤ自身は思考を放棄したのではないが、門外漢ゆえに考えても妙案など浮かぶはずもないと判断してのことだった。
     やや暫く考え込んだ末、ようやく鍾離が口を開く。
    「公子殿、不安......というか、信用できないのは百も承知だが、ここは俺に任せてくれないか?悪いようにはしない。必要であれば契約してもいい」
     鍾離の様子からは何か企んでいるようには見えないし、何よりも鍾離の口から『契約』という言葉が飛び出してきたので、タルタリヤはこの件に関しては鍾離を全面的に信用することにした。
    「いや、契約まではしなくて良いよ。先生には過去にいいように踊らされたことはあるけど、この件に関してはお互いに謀をしても得られるものがないからね。2人で無事に出るって約束だけしてくれれば良い」
    「分かった、約束しよう。少しばかり触れるが、じっとしていてくれ」
    「ん、分かった」
     身体ごと振り向いた鍾離は、まずタルタリヤの手を握ってすぐ離し、それから両手で頬をそっと挟み互いの額を合わせる。フワリと鍾離の纏う香りがタルタリヤの鼻腔をくすぐり互いの視線がバチリと合ったが、すぐに鍾離は目を閉じる。急に顔を寄せられたタルタリヤは驚きビクリと肩が跳ねたが、じっとしていろと言われたのもあり何とか逃げを打ちそうになる身体を抑える。それと同時に、初めて近距離で見た石珀のような瞳がとても綺麗で、すぐに見えなくなったのを少し残念に思った。
     ものの数秒ほどでそっと鍾離が離れていき、それと同時にどこかから鍵が開いたガチャンという音がした。
     突然の出来事に対処しきれなかったタルタリヤは、ただただ呆然と鍾離の顔を見つめるしか出来なかった。
    「扉が開いたな。さぁ、出よう公子殿」
    「え?あっ......そ、そうだね」
     鍾離に声をかけられ、かろうじて返事をする。
     扉に手をかけると、先ほどまでは何をしてもびくともしなかったのが嘘のようにスッと開く。そのまま扉を潜ると、秘境の外に出る事ができた。
    「ここは......入ってきたところ、かな?」
    「そのようだな。しかし、これはある意味では非常に危険な秘境だったな。もう殆ど朽ちかけているし、正しい手順を踏んだとしても次は無事に出られる保証もないだろう。残しておく理由もないし、ここで破壊しておくとしよう」
     言い終わると同時にさっくりと隕石を降らせて物理的に秘境を破壊する鍾離をタルタリヤは呆然と眺めていたが、いやいや雑すぎでしょ!と我に返りツッコミを入れようとした。その刹那、背後から殺気を感じ2人とも臨戦態勢に入る。
    「先生、物理的に破壊するのは良い案だったと思うけど、さすがに雑過ぎなんじゃない?ものすごい物音のせいで魔物が出てきちゃったじゃないか」
    「そうか?こういうのは徹底的にと言うだろう?それに、期待していたような戦闘もなく退屈していたであろう公子殿への配慮のつもりだったんだが」
    「はぁー......よく言うよ。じゃあサクッと片付けますか!!」
     ため息をつきつつも、やはり身体を動かしている方が性に合っているタルタリヤは嬉々として地を踏み高く跳躍する。そしてそのまま水元素で双剣を創り出し、魔物へと全体重を乗せて振り下ろした。
     まるで憂さ晴らしとでも言わんばかりに踊るように次々と魔物を薙ぎ払っていくが、普段の戦い方とは違いあまりにも背中がガラ空きで無謀とも言える様子だった。
     鍾離はため息をひとつ吐き、そのガラ空きの背中をフォローするように回り込みタルタリヤが取りこぼした敵や後ろに回り込もうとした敵を薙ぎ払う。
     数は多くても武神と武人のタッグにそこいらの魔物が敵うはずもなく、囲まれた状況でも危なげなくものの数分で片がついていた。
    「はぁー、なんだか最後に気晴らしは出来たけど、めちゃくちゃ疲れる一日だったよまったく......。先生、ご飯行こうご飯!今日は璃月港に香菱ちゃんがいるんだろう?万民堂で美味しいもの食べて帰ろう!」
     服についた埃を払いながら、タルタリヤは来た道を引き返そうと踵を返す。その切り替えの速さに感心しつつもいつもの調子に戻ったタルタリヤの背中を見た鍾離はフッと笑いを一つこぼし、その背中についていく。
    「そうだな、今日は美味い酒が飲めそうだ」

     
     万民堂に着いた2人は適当に酒と料理を何品か注文し、屋外の席に着いた。反省会というわけではないが、今日の出来事を2人で振り返る。
    「あの秘境は鍾離先生が壊しちゃったからもうないけど、結局のところ何だったの?」
    「あれはおそらく呪い好きの仙人が造ったものだろう」
    「まじない?」
     タルタリヤは突然出てきた単語にキョトンとする。
    「子どもの頃にやらなかったか?痛いの痛いの飛んでけとか、おまじないと言われるものを」
    「それと呪いとどんな関係が?」
    「『まじない』も『のろい』も、いずれも同じ字なんだ。おまじないとは可愛らしく言っても、それも呪いの一種ではある。おそらくあの秘境内にあった道具類は全部引っ掛けだったのだろう」
    「引っ掛けって......じゃあ間違えたらどうなってたの?」
    「さぁ......それは造った本人にしか知り得ない事だろう。出るための条件として、“誰かに呪いをかける”のと“2人揃って出ること”が掲げられていたところから、推測の域は出ないが間違えたら出られなかった可能性が高い。それに条件の文も引っ掛けのように思う。明確に誰という指定ではなく、どうとでも取れるような“誰かに”としか書かれてない。あの道具を見れば、用途が分かっている者ならば普通は恨みを持つ相手をターゲットに儀式を実行するだろう。あの環境下に置かれた場合、どれだけの者が落とし穴に気付けるか。そもそも一緒に入った相手に儀式を目撃されている時点で、必ず呪詛は自分に返ってくる。内容如何ではその場で儀式を行なった者が命を落とすし、その時点で“2人揃って”が達成できなくなる。いずれにせよ、引っ掛けにかかった時点で出られないものだと思って間違いはないだろう」
    「めちゃくちゃ危ないじゃないか!!」
    「だからこそ壊したんだ」
    「さすがに雑だったと思うけどね?!」
    「元より壊れかけてたし、完全に崩れるのも時間の問題だ。ならば俺があの場で壊したところで何も問題はないだろう」
     涼しい顔をして自身の行いを正当化する鍾離を、タルタリヤは複雑な気持ちで見る。むしろ破壊活動は己の専門分野なのにと思うが、話がややこしくなりそうなのでそこはグッと我慢して黙ることにした。
     ちょうどそのタイミングで注文していた品が運ばれてきたので、秘境破壊についてはこれ以降お互いに話題にしないことにした。
    「そういえば最後にやってたあれ、なんだったの?」
    「あれ、とは?」
    「ほら、おでこ同士くっつけてたやつ」
    「あぁ、その事か。まず、まじないというのはその内容を他者に知られては効果がなくなる。ゆえに本来であれば教えないものだ。今回はもう既に成就してるから話すが、前提として俺は今は神の座を降りた凡人の身なれど、魔神としての力がなくなったわけではない。あの秘境がそこまで強い効果を発揮するようなものでなかったとしても、何が起こるか分からない以上へたなまじないは避けるべきだと思った。それで無難に『公子殿が無事にこの秘境を出られますように』と願った」
    「え?それだけ??」
    「十分だろう。これくらいならば......と何が起こるか分からないようなまじないをかけるより遥かにリスクが低い。相手や内容に指定がない以上、あってもなくても全く影響がないものでちょうどいい。それに俺と公子殿が揃ってるんだ。わざわざよく分からないものに祈らなくとも出られるだろう」
     もっと大層なまじないをかけられたと思っていたタルタリヤは、言い方は悪いがあまりにもショボい内容だったので肩透かしを食らった気分になる。
    「そりゃそうだけど......そんなもんで良いんだ?」
    「お互い立場というものがあるからな、あまり影響の大きな内容だと各方面が迷惑を被る可能性もある。それにまじないなどほんの些細な内容のものが殆どだ。好きな相手に振り向いてもらいたいとか、明日天気になれとか。あの秘境を造った者も不測の事態に陥った場合に出る人の本性や、どれほどの者が真相に辿り着けるのかが見たいといった理由で造ったんだろう」
    「......悪趣味」
     タルタリヤは鍾離の話を聞きながら秘境の机の上にあった物を思い出し、改めてうんざりする。
    「俺もそう思う。あんなものは発見し次第壊した方がいい」
     鍾離は淡々と語っているようには見えるが、秘境を出た後の思い切りのいい破壊活動やオマケの戦闘を思い出し、あれは雑な対応だったのではなく相当腹を立てていたんだなと思い至る。
    「あはは、確かに!先生思いっきり壊すから、その音で魔物まで出てきちゃうしもうメチャクチャだよ。おかげで憂さ晴らしはできたけどさ」
     少し気分が晴れたタルタリヤは、話しながら取り分け用の小皿や箸を手際よく用意し、鍾離に渡す。
    「そういえば、あの戦闘の際の公子殿の戦い方は随分と雑に見えたが?背中がガラ空きだった。陽動するためにわざとやっているのかとも思ったが、あの状況ではあまり意味がない。公子殿の実力であれば問題なく立ち回れたと思うが?」
     タルタリヤから小皿と箸を受け取り、鍾離は料理を小皿に取り分けながら秘境を出た後の戦闘について切り出した。
    「へぇ、先生ってば俺のこと随分と買ってくれてるんだね?でも別にあれは何かしようと思ってたわけじゃないよ」
    「では何故?」
    「後ろに先生がいるからだよ」
    「俺が?」
     突然出た自分の名前に、料理を小皿に分けていた手が止まる。
    「そう。俺は基本的には先生のことを全て疑ってるわけじゃないけど、あまり信用してない部分もあるのは事実だ。神の心の件とか立場的にね。まぁもう終わったことだし、あの件に関しては気にしてないよ。あれは見抜けなかった俺も悪かったんだ。それを抜きにして、かつての武神である先生の実力や判断は信頼してる。それにお互いの利益が一致している間は後ろから刺したり寝首を掻いたりなんてマネはしないだろう?せっかく穏便に契約が履行されたのに、わざわざ自分から国際問題を起こす利益だってないはずだ」
    「なるほど、公子殿は随分と俺を買ってくれていたんだな」
     意外な言葉が聞けた鍾離は、最後に美味しいが箸に不慣れな者にはとびきり食べ辛い翠玉福袋を皿に乗せてタルタリヤに手渡す。
    「そうそう。だから背中は任せたよ、先生。そして先生の背中は俺に任せてよね」
     タルタリヤは礼を言いながら皿を受け取り、とびきりいい笑顔で背中は任せておけと宣言する。それを見た鍾離は心臓のあたりがキュッとなるのを感じた。
     そして言われた内容を反芻し、普段は誰も見ることのないとても柔らかい笑みを浮かべながら答える。
    「いいだろう。背中は任された」
     鍾離の表情に驚きつつも執行官スマイルを崩さなかったタルタリヤは、内心そんな顔を俺に見せちゃって良いの?!と大慌てしていた。だがそれを悟られるとなんだか面倒なことになりそうと判断し、話題を無難なものへ誘導しつつ酒と料理を堪能することにした。
     その後も話は色んな方向へとっ散らかりながらも、鍾離とタルタリヤは閉店時間ギリギリまで会話や料理を楽しんだ。
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