この季節ともなるとすっかり空気は冷え込んで、冷たい空気が肌をさす。
まだ上りたての朝日を背に、伸びゆく草木のように立つ脇差は、その身体で新鮮な空気をスーッと吸い込むと、ゆっくり遠くへ声を飛ばす。発声練習だ。篭手切江の朝はこの声出しから始まる。
朝から精が出るな、と思う。他の刀曰く、豊前江ら他の江のものがやってくる前からの習慣らしい。
今日は偶々早起きした豊前江はその様子を眺めていた。
早朝の冷たい空気を吸い込んだ篭手切の肺は、じんわりと体から湧き上がるエネルギーを集めて、外へと息を吹き返す。歌声の基本は呼吸だ。丁寧に温められた身体を通して、長く長くブレスが伸びていく。その呼吸に乗る声は段々といつもの篭手切の凛とした声に近づいてくる。
974