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    さめはだ

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    さめはだ

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    大学生拓2♀

     視界を閉ざさんとする靄は、ステージ上で焚いてるスモークなのかホールの熱気なのか俺には区別がつかない。それぐらいボルテージが上がってる空間は、贔屓目なしでカッコいいステージを見せてくれたからなんだろうと思った。

     

    「…いやぁ……圧巻でしたね輝一さん…」
    「…なんだよそれ…。…まあ、そうですね…拓也さん」

     狭くて長い廊下をてくてくと歩きながら、ほぉ…とため息を吐き出した。場違いにも程がある。ひと一人すれ違うのがやっとの幅しかない廊下で、横を通るのはついさっきステージの上ですげぇ演奏を見せてくれた人ばかり…。みんな俺たちと同じ大学生だから、緊張するのもおかしな話だ。でも自然とそう感じちまうぐらい、輝一にも言った通り圧巻だったのだ。
     
     まぁ、輝二のステージングが一番かっこよかったけどな。

     楽器も、音楽のことも何にもわかんない俺は、やれ新しいエフェクターがどうやら、やれあそこの箱の音響が良いだとか、声を弾ませながら語る輝二に気まずそうな表情を浮かべていた。だってそうだろ、輝二に教えてもらうまでギターの弦が基本6本なことすら知らなかったんだから。ちなみに輝二は6弦も、7弦のも持っているらしい。…6本じゃなかったの?

     今日のライブに誘ってきた時、得意げに言った「惚れなおすぜ」って言葉通り目が離せなかった。白Tシャツに黒のスキニーパンツってラフな恰好なのに、どのバンドのどのパートの人よりも輝いて見えた。ステージに現れた瞬間浮かんだ、そのTシャツ俺のじゃんッ!って言葉は、音がかき鳴らされた瞬間どこかへ消え失せた。輝二以外男で構成されたバンドメンバーの中で、輝二が一番かっこよかった。アイツお得意の澄まし顔でリフを奏でたかと思えば、ギターソロのときにはその口元をにやりと歪め、楽器がフレーズを高らかに歌い上げる。

     うっ…わ……かっけぇ…。

     小学生みたいな感想しか出なかった。それは輝一も同じなようで、演奏が終わった後二人して呆け切ってしまった。ちょっと…ちょーっと下心はあった。ファンサっていうの?ホールにいるたくさんの学生の中から俺を見つけ出し、合図を送ってくれたり…とかな。結果は、一度も目は合わなかった。けど、そんなの気にならない。それはもう、釘付けだった。額から流れ落ちる汗を手首で拭ってからボーカルと目くばせしてニッと笑う顔とか、難しそうなフレーズなのに何でもないように弾いてるとことか、足元のスピーカーに足をかけながらリズムをとる姿とか…何度も言うけど、本当にかっこよかった。

     
     すべてのバンドの演奏が終わり、前もって楽屋に来るように言われていた俺たちは放心状態のまま赴いた。出演者の学生たちで混雑を見せる廊下を小さくなりながら進み、開けっ放しの楽屋の扉の前へと立ち並ぶ。一応バンドメンバーと顔を合わせたことはあるけれど、向こうが覚えているとはかぎらない。教室の前で「源、呼んでくれますか」って近くにいる人に声をかけるのとはわけが違う。不安いっぱいの俺たちを見つけてくれた、確かドラムの男が、タオルを顔面にかけてソファに脱力している輝二の肩を突いた。弾かれたように起き上がった輝二が、俺の姿をその大きな瞳で捉えた瞬間飛び出した。一直線に俺の方目掛けて駆け出して、そして、飛びついた。

    「拓也っ!」
    「ッ、?!」

     呼ばれて返事する間もなく、俺の唇が勢いよく奪われた。

     大勢の人がいる中で、俺の隣にはコイツの兄貴もいて。時間にして数秒なのに何時間もそうしている気がしてきた。
     輝一が目を丸め、口元を手で覆った。輝二が座っていたソファにいたメンバーたちが「源やる~っ!」と茶化す声が聞こえてくる。

     こんな公然の前でまさか熱烈なキスが贈られるとは思わないだろう。盛大に驚き、目を見張る。
     
     合わさった唇が離れ、柔らかく笑い、そして隠しきれない高ぶりを宿したぎらついた眼が俺を見つめてきた。

    「今夜、お前んち行くから。風呂入って待ってろよ」

     唇を赤くて小さい舌でぺろりと舐められ、トドメを刺されてしまった。

    「は、はひっ」

     情けねぇ声を出した。胸、当たってんだけど…。汗の匂いが生々しい。

     いつの間にか首に回されてた腕が離れ、ばしばしと肩を叩かれる。うんうん満足そうに笑った輝二が「あ~っ、もう……最高ッ!!」と叫び、メンバーの元へと戻っていく。


    「……」
    「…だ、大丈夫か…?」
    「……こーいちぃ…アイツ今、『今夜は寝かさないぞ』って、言った…?」
    「……大丈夫か?」

     遅れて上ってきた血が頭のてっぺんまで集まり、湯気を出しそうになりながらその場でへなへなとしゃがみ込む。真っ赤になってるであろう熱い顔面を両手で覆い、長く息を吐き出した。

    「…ー……かっこよすぎんだろ…」

     もしかしたら今晩俺が抱かれちまうかも〜♡と馬鹿みたいな事を思いながら苦笑いを浮かべ、手のひらで隠れた唇を舐めた。あんなハイになった輝二は久しぶりにみたぞ…。


    「……上乗ってくれっかもな…」
    「…お前、本当に大丈夫か…?」
    「…ん~…今、お前の妹に勇ましさに心が追い付いてねぇとこなの…。……さっき輝二、ベッドで待ってろって言った…?」 
    「……本当に、大丈夫か?」



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    Replies from the creator

    さめはだ

    DONE成長拓2♀
     これが何度目のデートなんてもうわからない。ガキの頃からの付き合いだし、それこそ二人で出かけた回数なんて数えきれないぐらいだ。良く言えば居心地の良さ、悪く言えば慣れ。それだけの時間を、俺は輝二と過ごしてるんだしな。やれ記念日だやれイベントだとはしゃぎたてる性格はしていない。俺の方がテンション上がっちまって「落ち着け」と宥められる始末で、だからこそ何もないただのおデートってなりゃお互いに平坦な心持になる。

     でもさ……。

    『明日、お前が好きそうなことしようと思う。まあ、あまり期待はしないでくれ』

     ってきたら、ただの休日もハッピーでスペシャルな休日に早変わりってもんよッ!!



     待ち合わせは12時。普段の俺たちは合流してから飯食って、買い物したけりゃ付き合うし逆に付き合ってももらう流れが主流だ。映画だったり水族館だったり、行こうぜの言葉にいいなって返事が俺たちには性が合ってる。前回は輝二が気になっていたパンケーキだったから、今日は俺が行きたかったハンバーグを食べに行った。お目当てのマウンテンハンバーグを前に「ちゃんと食い切れんのか」と若干引き気味な輝二の手元にはいろんな一口ハンバーグがのった定食が。おろしポン酢がのった数個が美味そうでハンバーグ山一切れと交換し合い舌鼓を打つ。小さい口がせっせか動くさまは小動物のようで笑いが漏れ出てしまった。俺を見て、不思議そうに小首を傾げる仕草が小動物感に拍車をかけている。あーかわい。
    1780

    さめはだ

    DONEモブ目線、成長一二。
     鍵を差し込んで解錠し、ドアノブを回す音が聞こえてきた。壁を隔てた向こう側の会話の内容までは聞こえないが、笑い声混じりの話し声はこのボロアパートじゃ振動となって伝わってくる。思わずついて出た特大のため息の後、「くそがァ…」と殺気混じりの呟きがこぼれ落ちた。

     俺の入居と入れ違いで退去していった角部屋にここ最近新しい入居者が入ってきた。このご時世にわざわざ挨拶に来てくれた時、俺が無愛想だったのにも関わらずにこやかに菓子折りを渡してくれた青年に好感を持ったのが記憶に新しい。

     だが、それは幻想だったんじゃないかと思い始めるまでそんなに時間はかからなかった。


    『あッ、ああっ…んぅ…ぁっ…!』

     
    「……」

     ほーら始まった。帰宅して早々、ぱこぱこぱんぱん。今日も今日とていい加減にしてほしい。残業もなく、定時に帰れたことを祝して買った発泡酒が途端に不味くなる。…いや、嘘です。正直、めちゃくちゃ興奮してる。出会いもなく、花のない生活を送っている俺にとってこんな刺激的な出来事は他にない。漏れないように抑えた声もたまらないけど耐えきれず出た裏返った掠れた声も唆られる。あの好青年がどんな美人を連れ込んでるのかと、何度想像したことか…。
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