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    ふぃー

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    ふぃー

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    月が綺麗なタル蛍の話。
    テイワットって言語一つだけだっけ…?ちょっとよく分からない。

    #タル蛍
    chilumi

    白月だけが見てる「今日、とても月が綺麗だよ!相棒、見てくれ!」

    青年が指差す先には、澄んだ星空に浮かぶ月がある。
    いつも通りと言えばそうかもしれないが、暫く雨や曇が続いた璃月に身を置いていたタルタリヤにとっては、久し振りの月に感慨深いものがあったのだ。

    「俺の故郷は、厳しい寒さだって話しただろ?確かに生活するには厳しいんだけど、辛いことばかりじゃないんだ。空気が乾燥して、空が澄み渡っているから、星や月が良く見えるんだよ」

    故郷の美しい風景を思い出し、饒舌になったタルタリヤだったが、しまったと口を閉ざす。先程から隣を歩く少女―蛍は、一言も言葉を発していない。一人だけ浮かれて馬鹿みたいに話し続けるのは、あまりに滑稽ではなかろうか。そんな気持ちが、タルタリヤの心の中に湧き上がった。
    しかし、それにしてもあまりに反応が薄い。いつもであれば、どんな話題でも会話が途切れる事は無いと言うのに。
    柄にもなく、不安な気持ちが募ったタルタリヤは、歩みを止めて隣の少女の顔を覗き込んだ。
    そして、思わず「え!?」と声を上げてしまった。
    タルタリヤの声に、ハッと我に返った様子の蛍も「え!?」と声を上げた。

    「な、なに?耳元で大声出さないで」
    「いや、だって…その顔、なに?」
    「顔…?何のこと?」
    「真っ赤だよ、顔」

    その言葉に、蛍はパッと自分の顔に手を当てる。そして、ふいっと視線を外した。

    「…なんでもない…」

    確実に何かあった様子で誤魔化そうとする蛍に、タルタリヤは訝しげな視線を投げた。

    「…なに?」
    「こっちの台詞。…俺、何か言ったっけ?」

    璃月港に戻るまでの畦道。辺りを見渡しても面白みのあるものなどなく、変化があるとすれば、伸びた雑草が風に吹かれていたり、ヤマガラが飛び立ったり、赤狐が前を横切るぐらいである。蛍の様子に何かしらの変化があるとすれば、それは確実に己の言動が原因だと言える。普段から自分の言動にそこまで注目している訳では無いので、今話した内容を思い返しても何が蛍の琴線に触れたのか皆目見当もつかなかった。
    うーんと唸り始めたタルタリヤに、蛍は慌てたように弁解を始める。

    「違う…これは、違う。ただ、思い出しただけで」
    「何を?」
    「それ、は」
    「教えてくれよ。そんな顔されたら気になるじゃないか。後学の為にもさ?」

    タルタリヤがそう言うと、蛍は躊躇いつつも納得したように言葉を続けた。幾分か火照った頬も落ち着いている。

    「前に旅した世界の話だよ。その世界ではテイワットの様に、世界が一つの言語で統一されてはいなかったの。だから、別の言語を母語に直す作業が必要だったんだ」
    「……え?待って。言語が、なに?」
    「……んー。ヒルチャール語…の本とか知ってる?」
    「…知ってはいる。真面目に読んだことは無いけどね。何書いてるのか分からないし」
    「そんな感じ」
    「…じゃ、まともに意思疎通出来ないって事?大変だなその世界」
    「すんなり受け入れてくれて安心した…」
    「正直、まだ理解しきってない」
    「だろうね。でも、タルタリヤが言った通りだよ。違う言語を使っている人同士では、意思疎通が難しいんだ。だから、自分たちが使っている言語に一度直さないといけなかったの」
    「へぇ…」
    「それで………その、あ、いしてるって言葉をね」

    蛍がつっかえながら口にした言葉に、他の世界の話を興味津々に聞いていたタルタリヤの身体もビクッと震えた。
    全く想像していなかった言葉が飛び出してきて、動揺を隠せなかったのだ。

    「…愛してるって言葉を、奥手な人が多い国の母語で表すとき、『月が綺麗ですね』って言うことが…あるんだって」

    聞き覚えのある言葉に、タルタリヤは一瞬歩みを止める。先程自分が発した言葉と全く同じ。場を繋ぐ為の雑談として片付けられても仕方がないような言葉に、そんな意味を持たせるとは奥手にも程があるんじゃないかと、彼女が考えた訳では無いのに蛍に対して声を荒らげたくなる。
    無論、認めてしまえば、これは照れ隠しだ。
    他の世界の定石を知るわけもないのだから気にしなければいいだけの話なのだ。だが、蛍に対する言葉であれば、それは明確な意味を持つ。
    ずっと前から気づいていた事を、言語化する気はなかったのに、そのきっかけが突然現れてしまった。それだけの事だ。

    「ごめん。タルタリヤが知るわけ無いのにね。…なんか、思い出しちゃった」

    「早く帰ろ」と、歩みを止めたままのタルタリヤを振り返って、蛍は明るくそう言った。
    明るくそう言って、タルタリヤの顔を見て、蛍はまたもやぽわぽわと顔が熱くなっていく。
    そんな顔を見たいと思ったことは無かった。
    良い意味でも悪い意味でも、「相棒」という立場に甘んじておけばよかった。
    余計なことを思い出さず、口にしなければ良かったのだ。
    後退る蛍の腕を、タルタリヤが逃がさないというようにしっかり捕まえてしまう。されるがまま、引き寄せられた少女の耳元で青年が囁いた。

    「月、綺麗だよ。本当に」

    熱の篭った瞳に、蜜を垂らすような声。
    少女は、後悔と諦念と、そして微かな期待を含む瞳で青年を見上げた。
    煌々と輝く月だけが、二人の行く末を照らし出している。
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