とっておきの一杯 いつからそこにあったのか。もう記憶にはない。
幼い頃からそこにあったような気もするし、違うかもしれない。
その場所に今、僕は立っている。
秋になると、店の庭に植えてあるイチョウの葉がよく舞っているのが目に入る。軒下には、橙色の光る石が置いてあり、夜に通りかかると足元を照らしてくれている。この石は何という名のものなのかはわからないが、この辺ではここでしか見掛けないものだ。
何屋だろう? と長年疑問に思っていたが、そこが喫茶店だということを最近祖母に教えてもらった。
外には看板もなく、何が置いてあるのかもさっぱりわからない。ただ、いつ見てもその店の外観は変わっていない気がする。壁にひび割れや、朽ちている箇所もない。
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