神山高校の参観日 とある日の神山高校の昼休み。いつもよりずっと、皆はざわざわとしていて、落ち着きがない。そしてしきりに廊下へと視線を投げる。
その理由は簡単だ。今年初の参観日だからだ。
斯く言うオレは別にいつも通りだ。親には参観日の事なんて言ってねえし、誰も来ないのは分かってるからだ。
そもそも、高校にもなって親に授業を見られるとかイヤに決まってる。
「彰人、どうかしたか?」
立ったまま考えていたオレの思考を、聞き慣れた相棒の声が遮断する。
「……いや、皆浮き足立ってるなーって思った。冬弥のとこは……来ねえか」
「一応日程は伝えたが、忙しいだろうしな」
「言ってるだけ偉いなお前。オレは言ってすらねえよ」
「そうか。……ところで彰人、もう授業開始2分前だ。教室へ戻った方がいい」
時計へと視線をやると、確かにその通りだった。
参観は5限と6限。教室の後ろに数人の親が居る。……ギリギリ教室に駆け込むのもカッコ悪いか。
「そうだな、帰ることにする。じゃあ、また放課後な、冬弥」
「ああ。またな、彰人」
オレは別れを告げ、教室を後にした。
その日の5限は数学で、普通に過ぎた。
今は休み時間だ。
「なぁ彰人ー、母ちゃん来てんだけどー」
友人が怠そうに声をかけてくる。
「紙渡すからだろ」
「違えって、俺は渡してない。なんか誰かの母ちゃんが連絡したらしいんだよ」
「……それはご愁傷さま」
自業自得でないのなら、それはもうどうしようもないと思う。
「あーマジで帰りてえ」
そう言って友人は、廊下に目を向けた。
そして、目を丸くして、オレを見る。
「なぁ、アレ! 誰かの姉弟なんじゃね? ってここ入ってきてる、誰の姉ちゃんなんだよ」
そこまで言うので無視は出来ない。オレは友人の指す方を向いた。
そして、硬直する。
「は……絵名?」
信じたくなかったが、こっちに視線を寄こすのは間違いなく絵名だ。
「え、何だよ知り合いか?」
呑気にそう言う友人。
「知り合いも何もオレの姉だ」
「え? え、おまえの姉ちゃん!? あんな美人なん!?」
「うるせぇから声抑えろ」
慌てて止めたが、時すでに遅し。
絵名はこっちに近付いてくる。
「初めまして。彰人の姉の東雲絵名です。これからも彰人の事、よろしくね」
「は、はい! えっと、俺は……」
友人は明らかに嬉しそうに、自己紹介までしだす。
「……何で絵名がいんの? 忘れ物でも取りに来たのか?」
「この間学校で、今日が参観って聞いたの。どうせあんたの事だし、誰にも言ってないだろうなと思って、来たの。今日は早く起きたから」