玉鋼の心臓 からんと、一つ。ししおどしが立てた乾いた音で、玉響はそろそろお時間ですねと切り出し、やかんで蒸していた茶葉を茶漉ごとゆるりと引き上げた。蓋が開けられた容器から香ばしくも甘い香りがふんわりと漂い始め、い草の青い香りと編み込むように混ざり合っていく。
「緋姫様にはお好みの濃さなどございますか? ほうじ茶なのですが、ミルクを入れようと思っていまして」
玉響はミルクを入れた真鍮のポットを持ち上げ、向かい合って座る薄桃色の桔梗の女性に問う。すると彼女はわぁ、と掌を合わせて頷いた。
「ミルクティーでしょうか? 牛乳濃い目でお願いします」
「承りました……と、その前に。忘れてしまう所でした……。お砂糖も入れますか? ミルクを入れるとその後どうしても冷めてしまい風味も変わるゆえ、お砂糖を入れるタイミングを誤る訳にはいかなくて」
「まぁ……それでは入れましょうか、お砂糖」
「はい。それでは……」
湖面にさらさらと砂糖を適量、気持ち多めに。そして少しかき混ぜてからミルクを注ぐと、赤錆にほんのり枯茶を混ぜたような色が牛乳の乳白と混ざり合い、微かに泡立った薄桃の鏡が完成した。
「おまたせしました。ほうじ茶ラテです」
「これは……とても甘い香り。ほうじ茶独特の渋みのある香りと合わさって、よい調和が取れています。色もほのかに桃色で、とっても可愛らしい……!お店でもほうじ茶ラテは売っていますが、こちらの方が色が綺麗ですね……?」
うんうんと胸の前で手を合わせ、緋姫はほうじ茶ラテの薄桃色に目を輝かせた。玉響はそれをにこにこと眺めながら、彼女の髪や目の色とよく似ている、などと考えたりもした。
「ふふ、冷めないうちに召し上がって? 綺麗な色が出るのはいい茶葉を丁寧に蒸す過程があってこそです!」
「ええ、それは冷めてしまうのがもったいない。わたしもお茶菓子を作ってまいりましたので」
「ふふ、そちらも頂きますね。……では」
「……いただきます」
二人で手作りのほうじ茶ラテを啜る。甘くとろけるようで、それでいてほうじ茶特有の香りと渋みも残している。けれども、喉越しは爽やか且つ後味も心地良い。
これは茶葉の抽出のみで頂ける物に比べ、美味しく作ろうとすれば多少の手間が掛かる代物だが、その分味わい深い品が出来上がるものだ。熱湯で茶葉を蒸し、抽出したほうじ茶にぬるい牛乳を注ぐ事で舌触りの良い適温になり、呑み口もまろやかさを増すのだ。
「わたくし玉響菊花、実は少々猫舌気味なのでこれくらいの温度の方が飲みやすいのです……お恥ずかしながら」
「まぁ、そうなの? とても美味しゅうございます。やはり、玉響さまの淹れるお茶であれば味に間違いはありませんね!」
「うふふ、大袈裟ですよ。いつも煎茶や抹茶ばかりですので、たまにはと趣向を変えてみました。緋姫様も今度ぜひお試しくださいませ。茶葉の方、お持ち帰り用に少し取り分けておきましたので」
「あら、まあ……!ありがとうございます。でも、よいのでしょうか? この茶葉って高価な物なのでしょう?」
「いつもお話を楽しませて頂いていますから。お礼だと思って受け取ってくださいませ」
「感謝致します! ふふっ……碧月も喜ぶかしら……!」
────喜びに色白の頬を緩ませる緋姫が、愛する伴侶の名を口に出した。それはそれは嬉しそうに声を弾ませながら。
彼女、岡止々岐香緋姫とその伴侶は遥か昔、生前でも刀に宿った後でも否応なしに別離を繰り返すという激動の運命を辿ってきたが、ここ天照でまた再会を果たし改めて結ばれたという、硬い愛と絆で結ばれた夫婦刀なのだ。
それはまるで恋愛を軸に回る御伽噺のよう────玉響は、よくこうして和室に集まっては友人の緋姫とお茶を飲みながら談笑し、絶えず飛び出す彼女の惚気け話にこころをときめかせていた。
伴侶との事を語る緋姫はとても楽しそうで、頬を緩ませては桔梗に飾られた薄桃の綺麗な髪をふりふり揺らし、楽しそうに笑う。玉響はそんな緋姫の惚気け話に付き合うのが好きだったし、愛にときめく緋姫本人を見て、幸せを分けてもらっているような気分にもなっていた。
────けれども、今は。今だけは、いつもと違った。
「玉響さま?」
「……あ。ええ、なんでしょう?」
「お加減が悪いのですか? ぼうっと、熱に浮かされたようなお顔をして……」
「……ごっ、ごめんなさい! 少し、こちらでいろいろありまして…………!」
なるほど。どうやら。ここでもかと。
友人と会う時くらい気持ちをどこかに置いておけないものだろうか。そう考えると己の不器用さにいい加減嫌気が差してきた。
自分はあれ以来────天霧からの告白を受けてから、向けられた想いについてあれこれと考えるようになり、他の人間や刀神の惚気け話の聞き手でいる事を心から楽しめない状態になってしまっていた。
緋姫とはお茶会の約束をかなり前から取り付けていた事もあり突然の時期には断りづらく、こうなる事を薄々察しながらも結局ここに集まってしまった訳だ。
(ああ……。緋姫様も退屈してしまいますでしょうか……。この方とのお茶会でお話する事なんて、だいたいが緋姫様による旦那様とのお話ですし……。なんだかこのままでは悪い事をしてしまう気が……ここは早々にお開きにするべきですかね……?)
ぐるぐると、考える。答えは、出ない。
ほうじ茶ラテを覗き込むと、薄桃の水面になんとも情けなく眉を垂れ下げた玉響菊花が映り込んでいた。なんとも弱気な顔をしていて、それが自分。滑稽なことこの上ない。
「……緋姫様」
どうしてこんなにも悲しい気持ちになるのか。他人の幸せで悲しむなど、護り刀の風上にも置けないではないか。
そして一つ、どうして悲しいのかその答えは出ないけれど、玉響は一つ大切な事を思い出した。
謝らねばならぬと。自分はこの方にも無礼なことをしていたのだと、たった今になって思い出した。
「……なんでございましょう……? 玉響さま」
「改まってになりますが、お話したいことがございます」
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言わなくてもいい事だったのかもしれない。彼女はその話題が好きだから。
言うべきではない事だったのかもしれない。天霧だけでなく彼女まで傷つけてしまいそうだから。
けれども、どうしても。玉響はそれまでの事を不義理に感じてしまって、謝らねば……と、思っていた。茶をこさえて世間話に華を咲かせていたもので切り出すタイミングが掴めず今となってしまったが、もう、おそらくは今しか切り出せる機会がない。
玉響菊花は、人の惚気け話を聞くことで叶わぬ恋慕の辛い記憶を慰める愚か者。ずるくて最低な、「恋バナの寄生虫」では居たくないから。
===
玉響はぽつりぽつりと、緋姫にありのままを話した。
天霧からの告白があったことについては彼の名や特徴をぼかして説明し、あの出来事に伴って気づいてしまった己の浅はかさ、緋姫とその伴侶との話も、叶わぬ恋に縋り続ける自身を慰めるために聞いていたのだ、と。
そういう事を、心底申し訳なく思いながら緋姫に伝えた。
「……成程。玉響さまの言い分は、わたしも理解致しました」
「ええ。申した通りです。楽しいお茶会の場でこのような話を切り出してしまったことは、とても申し訳なく思います」
「いいえ。言いたい事はそうではなくて、です」
畳に向けて額を下げようとする玉響を、緋姫は待ったという風に小さく手を上げ制止した。
「玉響さまは悪いことなどしていません。いつもわたしたちのお話を、それはそれは楽しそうに聞いてくださるではないですか。まるでご自身の事のようににこにこと微笑んで……。それの何を、あなたはいけないと言うのですか?」
謝る玉響を諫めるように、訴えかけるように。そう言う緋姫の態度は毅然としていた。
普段の談笑でこちらに見せるような柔和で穏やかなものとは異なる態度、語り。強固な芯を持った彼女の声色。玉響はそれに思わず怯んで、手を揃えて置いてしゅっと背筋を伸ばしてしまった。
「……恋そのものから離れられない自分がとても醜いように思えてしまいます。今寄せられている想いにも未だに応えられていないのですよ? 己が意気地無しだと知って、やっと気がついたのです……」
「碧月とのお話はわたしがお話したくて玉響さまにお話しているのです。ゆえに、あなたは何も悪くない。いいですね?」
「で、でも!」
「だっても糸瓜も打刀もございません。今はそういう事にして…………まずは玉響さまのお話をしませんか?」
「わたくしの?」
「そう、あなたの」
少々張り詰めていた緋姫の顔に微笑みが戻って、玉響はそこでようやくホッと胸をなでおろした。
圧……という程のものではないのだが、それなりに強い「気」のようなものを、緋姫の言葉と毅然とした振る舞いから感じたような、そんな気がして、玉響は内心では穏やかでやさしい友人が新たに見せた一面に驚いていた。
===
緋姫との会話はそれなりに長引いた。
けれども緋姫は、友人の語る恋の相談ごとを真摯に受け止め、時には意見し、時には揶揄を挟みながらもしっかりと聴いてくれた。
玉響の話すことが他人ごとでは無いかのように。まるで、玉響が彼女らの惚気話を自分の事のように聞き入った、いつものお茶会の時間と同じように、少しばかり身を乗り出して────。
飲み始めに話題を切り出した為に飲み物の残ったぶんはすっかりと冷めてしまったが、「これはこれで美味しいものです」と、緋姫はカップの底に沈んだ砂糖をマドラーでかき混ぜながらやわく微笑んだ。いつもこちらに見せてくれるような、穏やかで柔和な友の笑顔だった。
「成程。玉響さまは……そのお方をとても大切に思っていらっしゃるのね」
「ご友人として、です」
「あら。そこまで気にかけ、御相手の素敵な所をたくさん理解しているではありませんか。玉響さまから見たその殿方のお話はとても素敵なものだと、僭越ながらではありますが思いました。……その殿方のことを語る玉響さまが素敵に見える……という方が正しいかしら?」
「えぇ? わたくしが……?」
「ええ。彼の事をとても慈しんでいるのだと、常に身と心を案じておいでだと、すぐ理解に及びました。歌人が花を愛で、それを詩にするような……慈愛の精神、とでも言いましょうか」
慈愛の……と、緋姫の言う事を追うように小さく呟いた。
果たしてほんとうにそうなのだろうか?
自分から天霧へ、暖かいものを向けていた自覚はある。────否、自覚がつい最近芽生えたと言う方が正しいかもしれない。
だが、まだしっくりとは来ない。玉響が天霧に向けていたまなざしは、思いは、言葉は。慈愛などと言えるほど大それたものだったのだろうか。自分だけでは分からなかった部分ゆえに、未だ実感が湧かないのだ。
「……彼は。とても感性豊かでお話をしていてたのしいお方です。けれども、少しばかり暗くて、放っておけないと言いますか。きっと自己評価があまりに低いのです。わたくしに力など無いにしても、あの方を護らねばいけないのだ……と言う気持ちにさせられるのです……。何故でしょう? わたくしったら天霧様にとってはただの他人ですのに」
顎に指を当て、時々擦りながら独り言のように喋れば、緋姫が口元に手を当て「まあ、」と微笑む。
「ふふっ……まあ。まあまあ……! まあ……!」
「? どうしました? わたくし何かおかしな事を……?」
「いいえ、玉響さま。おかしくなんてありません! きっと……きっとね、母性ですよ。それ」
────────『ぼせい』
(ぼせい…………………………?)
刹那のあいだ、玉響の思考の中でその三文字がふわふわと浮かび、彼女が思いつく限りの二文字へと変わっていく。
────────『母性』、と言いましたか? 嘘でしょう…………?
「ぼ、母性ぃ……⁉ そんなっ、おともだちの殿方に対してそんな筈ありませんっ……揶揄うのはおやめください緋姫様……! わたくしは天霧様のお母様ではありません……‼」
「まあ。あらあら。わたし、玉響さまは母性が強そうな女人だと以前より考えておりましたが? ……あと、あなたもうお名前言っちゃってますよ。天霧さまというのですね。御相手の方は」
「も、もう~……っ!」
くすくすと玉響を揶揄う緋姫。もはやこちらの反応ごと楽しまれてる気がして少々癪というか、玉響は恥ずかしさのあまり入れる穴に入りたいくらいの羞恥を覚えていた。
「まあ。兎にも角にも。そこまでの慈愛を向けられる殿方など、そう簡単に何人も存在するものではないでしょう?」
「え、ええ。それはもちろん。……そんなに居たら流石に、ね?」
「あなたにとっては、そのお気持ちの対象となるのが大昔の悲恋の御相手と、想いを告白してくださった殿方……その二人なのでは?」
「まぁ、そう………………ううん……? でも、主様に対しては違う気がします……。彼はどちらかと言うと…………ぁ……!」
言いかけて、はっと、玉響は熟考していた顔を上げる。金の瞳がこれでもかと見開かれる、ぽかんと口を開け微かに一言をつぶやき、すぐに結んだ。見開かれた視線が行き着くのは、正面に座する緋姫のさらに後ろ。花水木が陽だまりに揺れる中庭の景色だった。
(そうだ……そうでした)
玉響の口が小さく動くと同時にもう一度、自分らの佇むところ、その後ろの庭でししおどしが鳴った。
竹筒がからん、と乾いた音を響かせ、その音に驚いた小鳥が二羽、中庭をぐるりと舞っては空へ飛び立っていく。
「玉響さま?」
「少し……わかったかもしれません。出すべき結論が。……何を選び、何を背負うべきなのか。明瞭では無くても、掴めそうなのです……!」
言うと、緋姫は薄く微笑み「そうですか」、と静かに頷いた。
「ここからは、玉響さま御本人で結論に導くべきでしょうね。わたしからのお節介はここまでといたしましょう……」
緋姫はそう言うと、正座の姿勢をそのままに、身を乗り出して玉響の掌を自分のそれで包み込んだ。白くて、滑らかな綺麗な手だ。
「お返事は熟考するくらいで良いと思います。ですが、これだけは覚えておいてくださいませ。───────どんな結論でも、あなたが後悔する事の無いように。どんなに悔やんでも変えられるのは未来だけ。大切なのはその悔いを残さないようどうするか……です」
緋姫の掌は暖かかった。あなたならば大丈夫だと訴えかける薄紅の瞳に、玉響も力強く頷いて見せた。
「……まあ、巡り巡って今こうして幸せを享受しているわたしが言えた事ではないでしょうが……」
「いい、いいえ……。お二人の強い絆と揺るぎない愛あってこそ手に入れられた幸福でしょう。素晴らしいことではありませんか。……この上なく」
────ああ……。
これが、意思を以て想いを成す者の芯の強さ。
恋を実らせ、愛を結べる鋼の心。
強き女性の美しさ、そして気高さ。
この女性は。岡止々岐香緋姫という刀神は。自分が聴いて想像してきたよりもずっと強く気高い女性だったのだ。
「……わたくしの決意が固まったら、またお話にきます」
「ええ。いつでも。今度は温かいお茶を楽しみながら。幾らでも聴きますよ」
握られた手を、玉響はきゅっと握り返してみる。そうすれば緋姫はもっと強くきゅっと手を握ってきて、やはり。あぁ。まだ敵いそうにない……と。そう思ったのだった。
わたくし共は乙女という名の気高き刀刃。
内に宿すは揺らがぬ覚悟。決して折れぬ決意の心。
乙女の覚悟の芯となるは、玉鋼の心臓なり
ーーーーーーー
───────別日の昼前。とても天気のいい日だった。
玉響はバディとは別行動をして天照じゅうを動き回っていた。
どこだろうと、どこに居るのだろうと。
廊下を駆け抜け、オフィスを見渡し、刀神専用にとあつらえられた中庭に出て彼の姿を探した。縁側では別の刀神が日向の温かさに夢現の様子で気持ちよさそうに寝転んでいる。
すると、そう奥まってもいない日当たりの良い場所に佇み、呆けたような顔でぼんやりと虚空を見下ろす天霧が居た。軍服に軍帽に杖、顔には痛々しいほどに巻かれた包帯。何よりどう足掻いても目立って視界に入るような長身の背中。見間違うはずも無いその姿がそこにあった。
そんな彼の視線の先にあるのは、桃色よりももっと鮮やかな花の群れ、土の上に所狭しと花咲くサクラソウの花だった。
玉響はその姿を視認すると、ぺちぺちと頬を叩いて引き締め、ぐっと肩を上下させ、ふ…!、と短く息をついてから庭に佇む大きな背中に声をかけた。
「天霧様、こんにちは……」
「……玉殿ですか? …………こんにちは」
「……」
「……」
玉響はサクラソウと天霧の顔を交互に見つめながら、天霧は驚いたように視線を泳がせて、しばしの間二人で沈黙した。
「……えっと。天霧様」
「……っ、はい……」
「突然ではありますが……明日の午後三時、以前わたくし共が会いお茶会をした場所で、お待ちしております」
────瞬間、暗く曇った天霧の瞳がわずかに開かれた。左の紅の中心で瞳孔が小さく揺れているのが見えた。それを視認出来るほどに自分の方から天霧を真っ直ぐに見つめていたのだ。
動揺か。失意か。それとも、喜びか。
いまの玉響には彼の真意がどちらなのかを判断できるような材料は無い。或いは、それらのどれでも無いのかもしれない。最悪の形ならば嫌悪や絶望かもしれない。
そうだとしても、玉響菊花は願っている。
わたくしはあまりにも貴方様を知らないのだ。ゆえに、願う。────貴方様を知りたい、と。
突然のこちらからの誘いに硬直する天霧の返答を待たず玉響は「では、」と一言残し、一礼を区切りとしてくるりと背を向けた。
天霧はいまどんな表情で、どんな心持ちで、髪を揺らして去っていく自分の背を見送っているのだろう。
振り向きたいけれど、今はきっと振り向くべきではない。自分達は明日あの場所で正面から向かい合い、話し合い、答え合わせをするべきなのだから。
ふと自分の眼下、つまり足元にあたる場所を見ると、サクラソウが岩肌から飛び降りて足元にも群れを伸ばしている様子が伺えた。ここには陽がよく当たるからだろうか。春の花というものは、つくづく陽だまりによく集る生き物だ。
春先に咲く桃の花。地を這い鮮やかに咲くちいさなちいさな桜の華。
けれども、木漏れ日を浴びて輝くそれは、夏前には散ってしまうような儚い花なのだ。
────『青春の恋』『あなた無しでは生きられない』
そういう花言葉がたしかこの花にはあったな、と。自身が持つ植物図鑑の記述を思い返しつつ、玉響は元いたバディのもとへ戻って行った。天照の外側で、正午の鐘が高く鳴り響く音を聴きながら。