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    柊夏那

    @33holly_8

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    柊夏那

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    ##SS
    ##刀神

    湯煙に誘われて 仲間同士の連携、情報整理。任務の為の「そういう作業」に忙しない刀遣いとは違い、手持ち無沙汰になった刀神というのはなかなか退屈なものだった。
     しかし刀神とはいえ十人十色。それを良しとする刀神が居る一方で、そうでない者も居る。石蕗丸はどちらかと言えば後者で、する事が特に無いとなると些か気持ちが急いてしまう。神様にしては損な性分をしているなと、時折自分でも思う。
     夜間、バディが会議に招集されて案の定暇になってしまい、さて、どうしたものか、と気分転換に宿内を宛もなく歩き、その途中で石蕗丸はある事柄に思い至るのだった。
     閃きのきっかけは視界の端に映った男子便所。入口に掛けられた暖簾のコバルトブルーである。
     ────そうだ。風呂に行こう。

     この任務で知り合った刀遣いや刀神、みなが口を揃えてこの宿の湯は最高だ! ……と絶賛の嵐を吹かせていた。そんな事をふっと、特に前ぶれもなく思い出した。
     湯浴ゆあみなど刀神にとっては間違いなく不要な物だが、石蕗丸は特段それが好きだった。同じく湯浸りを好む兄と連れ立ち、最寄りの銭湯へ出向くことだってそれなりにある。
     身体を湯船に沈ませると、少しの水圧に加え身体に染み渡るような温さがじわり、じわりと肌に返ってくる。風呂でしか味わえないあの温かさが、日向で光を浴びている時のぬるい感触とよく似ている。それが石蕗丸にとって、とても心地よくて────。

    「タオルは……うん。貸し出し品だったはず……」
     背筋を伸ばし、すたすたと板張りの廊下を進んでいく男。もとい、人の振りをした刀神。
     彼はまだ見ぬステキな温泉の存在に心踊らせ、歩幅広めに大浴場へと向かうのだった。

     該当する時間帯、石蕗丸とすれ違った天照職員曰く、日頃から強ばりがちな彼の口元は微妙に笑い、琥珀の色をたたえた目は目尻から絶妙に緩んでいたという……。




    ===

     脱衣所にて衣服を預け、小銭入れは施錠ロッカーにしまい、貸し出しのタオルを肩に掛け​────準備は万端だ。
     どこからどう見ても、鏡に映っているのはいっぱしの成人男性そのものである(と本人は思っている)。
     石蕗丸は一糸まとわぬ己の裸体を脱衣所の鏡に映し、ひとりでうんうんと頷いていた。そんな、ぱっと見た人からナルシストと間違われそうな事をひとりでにやっていると、背後に居た湯上り直後と思しき老人が鏡の端に現れ、石蕗丸の背中に威勢のいい声を掛けてきた。
    「おっ!金髪のあんちゃん、アンタいい体してんねえ!もしかして海外の人?」
    「えっ……ああ。お褒めに預かり光栄です。あと俺は一応……日本人です」
    「ふぅ〜ん。あんちゃんに限らず、な〜んか今日はねえ、やたらガタイのいい若モンが風呂に沢山居てなあ〜。俺も若ぇ頃を思い出しちまってよ。今から卓球やりぃ行くだ!卓・球!」
    「そ、そうですか……。湯冷めにはお気をつけて……」
    「おうよ!じゃあな、あんちゃん!カラダでけぇんだから石鹸踏んで転ぶなよ〜!ガッハッハ!」
     いちいち欠けた歯と銀歯を見せつけるようにして大口を開ける老人に、思わず圧倒されてしまった。
     毎度の事ながら思うが、元気な老人の語りというのはとにかく凄い。間髪入れずに、とでも言おうか。あれはまるでお昼の洋画で見たマシンガンのようだと思う。とにかく声が必要以上にでかいのだ。
    (現代日本のご老人は湯治の効果で元気なのだろうか? すごいな……やはり温泉は侮れないという事か)
    (愛想笑いの別れ際となってしまったが、あのご老人には是非ともこのまま元気に過ごしてほしいものだ)
    「……さてと」
     静かになったところで気を取り直し、白い湯煙が盛んに立ち昇る大浴場へ裸足で繰り出す。曇りガラスが張られた引き戸をガララと開けてみれば、そこは既に天国の玄関口である。
     大浴場へ踏み入れば、まずは掛け湯の為にと湯がどっぷりと貯められた水瓶と目が合う。そのすぐ傍には『からだをきれいに流してから湯にお入りください』の注意書き。幼い子供に配慮してか、安っぽいゴシック体に漢字控えめのゆるい文面となっている。
    「……うむ……」
     石蕗丸はその場で肘を上げ、おもむろに腕の匂いを嗅いだ。……別に臭くは無い。汚れてもいない。筋をなぞって擦ったところで何も出てこない。事ある毎に垢が溜まる人の身体に比べれば断然清潔ではある。​────が、
    (……いちおう洗っておくか。頭と身体も)
     現在いまは天照側の指示とはいえ人間に擬態をしているような身分だ。刀神臭さ、擬態の違和感を減らすという意味でもマナーとして定められた事はやっておく方がいいだろうという結論に至った。
     備え付けの桶に手を掛け、湯を汲みザバザバと肩の辺りを流す。肌触りのいいサラサラとした湯が心地よかったので、シャワーで洗いに行く前にもうひとかけ、頭から湯を被っておいた。

    ===
    「あぁ……………………。なるほど……!」
     評判通りのいい湯だ。
     じわじわと四肢を伝い身体の芯へと染み渡る暖かみに、石蕗丸は思わず感嘆の声を上げた。
     水面を滑り、空へ立ち上っていく湯けむりを眺めながら、背にした岩肌にぐっと肘を据える。うっとりと嘆息し上を仰いで喉仏を晒している姿は、きっと刀神の威厳はおろか、緊張感の欠けらすら無いことだろう。
    「いや、早く入っておけばよかったな……」
     心からの賛辞だ。それにしてはあまりにも独り言すぎるのだが。
    ===

     岩肌に背を預け、湯の心地良さに身を委ねつつ、湯気の向こうで瞬く星々と視線を交わしたりもしてみる。
     今宵は半月。ここから見上げればお月様ともばっちり目が合った。相も変わらず淑やかで美しい、生まれ持った引力で人の目線すらも引き寄せてしまう女神様。そんな彼女と見つめあっていると、不意にすぐ近くでざぶざぶと湯を踏む音が聴こえてきた。
    「隣、いいかね?」
     足音と声の主は知り合いだった。正確に言えば、兄を通じて知り合った刀神。人柄について詳しいとまでは行かないが、それはきっと、彼もお互い様だろう。
     刀神・漆羽黒曜鴉無影うるしばこくよううむえいは、日ごろ背に流しがちな黒髪をひとつに束ね、片腕には風呂桶を抱え、何やら珍妙な眼鏡を装着してこちらへ向かってきていた。
     人に擬態し溶け込むことに気を払っていた先程までの己が馬鹿馬鹿しくなるくらいには、彼の出で立ちは胡散臭い者のそれであった。だいたいは変な眼鏡が原因なのだが。
    「構いませんが……無影殿。その眼鏡は取った方がよろしいかと……」
    「いや、いたく気に入ってしまってな」
    (悪い意味で目立つだろうという意味で言ったのだが……まあいいか)
     石蕗丸がどうぞ、と岩に掛けていた肘を退けて隣を開けると、無影はすっと鳩尾まで湯に浸かり、抱えていた桶を湯に浮かせた。ぷかぷかと浮かぶ桶の中には、手ぬぐいと揃えて酒の容器とぐい呑みがふたつ。僅かにだが、日本酒独特の鋭い香りが湯気に混ざって漂ってきた。
    「絶妙な湯加減。それに夜間にしか味わえぬ灯火と夜空の調和、天へと立ち上る白き湯煙……すべてに風情があるとは思わんかね?」
    「ええ。同感です。もしや、それが目当てでこのような時間帯に?」
    「いや、此度こたびの任務における握り手が、連れと夕餉ゆうげに出てしまってな。時を持て余している」
    「なるほど。暇ということですか。かく言う俺も似たようなものですが」
    「では、暇人……いや、暇神同士、話相手として不足はあるまいな」
     無影はそう言うと満足気に微笑み、ほれ。と酒を注いだ器を石蕗丸に渡してきた。手のひらに収まる程度のぐい呑みには米由来の酒がなみなみと。
    「俺はアルコールへの耐性があまり無いので……一杯だけ頂きます。残りは無影殿がどうぞ」
    「うむ、そうしよう」
     いただきますと、陶器を傾け酒を口へと流し、少し味わってから呑み込むと、キツめの香りが喉から鼻へと突き抜けていった。焼けるような感覚が喉にひりりと染み付き、想像していたよりもキツい喉越しに思わず喉を鳴らしてうぐ、とえづいた。
    「あ、兄上のようにはいかないな……」
    「うむ。たしかに兄君の方はよく呑むな。少なくとも酔っている場面に出くわしたような記憶は無い」
    「それは無影殿もそうでしょう。天照には人も神も問わず酒豪が多いのです。恐ろしい所だ……」
     そこでふと石蕗丸の脳裏にチラついたのは兄の顔。一升瓶を胡座に抱えて酒をがばがばと流し込む兄は、口を開けて絶句するほど下品に見えたものだ。
    「まあ。兄弟といえど受け付けるものはそれぞれ違うということで。……ところで、無影殿」
    「なんだね」
    「……首尾の程は如何ですか?」
     ──任務のこと。まばらにだが周囲に散見する一般客に聞こえぬよう、声量を低く落としつつ石蕗丸は無影に尋ねてみた。
    「上々……とも言えんな」
     無影は手にした器を指で傾け、酒を一口啜る。
    「上々とは言えないなりに、興味深いものは幾らか見つけた」
    「ならば……少しばかり情報交換をしませんか?」
    「ふむ、いいだろう。そちらの話も聞かせてもらうとするか」
     無影は申し出に頷きながら、ヘンテコな眼鏡をやっと額から外した。彼は折り畳んだそれをぽん…と、波にあそばれる桶へと預け、桶のたがを指で謎りながら、渾身のドヤ顔でこう言い放った。

    「これは、宿の土産屋に売っていた物でな」
    「あぁ。それについては別に聞いていません」
    ===

     ​───────。

     降り注ぎそうなくらい、こぼれ落ちそうなほどに星が浮かぶ夜空の袂にて。
     任務のことやら普段のことやら、あとは少しばかり兄姉へ贈る土産物の相談など。
     星空が映る湯に浸かりながら結構な時間まで語らっていれば、湯殿から出る頃には消灯時間ギリギリになってしまっていた。
     それなりに有意義な時を過ごし、心地のいい満足感を得て。
     石蕗丸は薄暗い廊下を伝い、己が戻るべき場所へと戻って行った。
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