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    柊夏那

    @33holly_8

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    柊夏那

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    暇つぶしに打ったSS。首切迅雷の日常の切れ端。

    ##刀神
    ##SS

     頭上のくうをつばめが切った。淀んだ雲のその下で、つばめは八の字を二度描いてまた上へと舞い上がる。
     滑空。その字面に見劣りしないほど、滑るように美しく飛ぶ鳥だと、首切迅雷は頭の上を見つめながら思う。これが晴れていたなら更に気持ちのいい光景だったろうに​──。
    「……こりゃあ絶対降るな」
     風が僅かに吹いた。
     頭上の空には分厚い雨雲。水分を抱えて淀んで垂れこみ、気分まで重たくしてしまうような曇天がすぐそこにある。まるで油粘土を塗って固めたような、そういう嫌な天気だった。道理でつばめが低く飛んでいるはずだ。きっと雨天を察知した羽虫たちはさっさと草むらに身を沈めてしまったのだろう。隠れる方も集める方も大変だなぁ……と、首切は他人事の食物連鎖にすん、と鼻を鳴らして笑った。
    「ま、なぁんも釣れねぇし帰るかねェ」
     少し手首を揺らすと、握った竿の穂先がようやく動いた。音沙汰なく川面に垂らした釣り糸は沈黙を続けていた。浮き沈みもしないルアーがそこに浮かび、ずうっと緩やかな流れに弄ばれてぷかぷかしているだけだった。
     そんな時に羽織ったビニルジャンパーのポケットから空気を読まない着信音が聞こえ、首切はうげっと口元を歪めた。重厚で、言うなればゲームのラスボス手前に鳴るようなBGM。首切はラスボスからの呼び出しに小さく舌を鳴らしつつ着信に震えるスマホを手に取り、通話に応じた。
    「へぇい」
    『もしもし。あんた今どこほっつき歩いてるの? 友達と一緒?』
     端末の向こうから聞き飽きるくらい聞き慣れた女の声がした。家の中でなにか料理でもしているのか、鍋が煮える沸騰音もかすかに通話音声に割り込んでいる。
    「んー? 河原の方。ボッチで橋んトコで釣りしてる」
    『そ。近いならいいけど。雨降りそうだから早く帰ってきなさい。味噌煮込みうどん作ってるから今帰宅すればアツアツのが食べられるわよ?』
     おっ……! と、思わず首切の口角が上がる。こいつ美味そうなものの名前で釣ってきたなぁと。
     急かされずとも帰る気では居たのだが、これは足を早める必要まで出てきてしまった。
     釣る前に釣られてしまった首切はとりあえず、手元の竿をぐいと川から引き上げ、座る尻のすぐ隣りに寝かせておいた。
    「すぐ帰るわ。あっ、ちなみに収穫はゼロだから差し入れとか無いぜ?」
    『都会の川でドブの泥吸った川魚なんか料理に要らないから。そういうのは田舎の清流で鮎でも釣った時に言う事ね。フナとかオイカワでギリギリオーケーかな?』
    「う、うるせぇなぁ……」
    『じゃ、帰ってきたらね。…………一応、言っとくけど』
     朱理の口調のトーンが突然低く落ちた。首切の勘が説教の合図を察知した。
    『ちゃんと玄関から帰って来なさいよ。ベランダの鍵は開けとかないから』
    「ウッス」
     ものぐさせずに玄関から家に入れと注意を念押しされ、通話はそこで途切れた。
    「……ったく、あいつカーチャンかよ」
     と言うのは、この十年で何度も呟いた台詞だ。人間で言う母親のような小言をバディはよく言う。家庭的で面倒見がいい証拠なのかもしれないが、時々すなおに鬱陶しいなぁと思う。
     スマホを懐にしまい、寝かせた竿を掴んで起こし、首切はリールの糸を地道に巻きとる。手繰り寄せた糸の先に着いているのはルアーと綺麗な釣り針のみ。どうやら器用な魚に見事に餌だけ食われていたようで、首切はうわ、と苦笑いを浮かべてしまった。
     ジャンパーの裾についた砂を手で払い、ガニ股の膝をバネにのそりと立ち上がる。すぐ横を、また低空飛行のつばめが通り過ぎていった。
    「おめーも往生際悪いことやっとらんで、とっとと巣に帰れよぉー」
     風を切るつばめに一言添えて。つばめは首切の言うことなんて聞いていないし、首切だってつばめが何をしようと知ったことでは無い。ただ、同じ狩場に居た者として変な親近感が湧いたというだけ。
     自宅……もといバディの住処で自分を待つ味噌煮込みうどんの味に思いを馳せ、釣竿を担ぐ刀神は河原から土手を上がり、変質者丸出しのスキップを踏みながら平坦な帰路を遡って行くのだった。
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