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    tooooruuuuakn02

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    tooooruuuuakn02

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    【ハンルス】
    グスキャロの年齢とルスの年齢と、アナポリス卒業の頃を考えて、もしかして二人はショットガンマリッジでは?と思ってそれを踏まえての、お墓参りのお話し。
    特に甘くも辛くも無い、平坦なお話しです。

    色が変わる日 ――ね、ブラッドリー。

     優しい、懐かしい声に目が覚めた。
     できることならその声の人を見せてほしくて目を閉じたけれど、覚醒した頭はもう微睡の世界に連れて行ってはくれなかった。残念だなと思って、仕方がなくゆっくりと開く瞼は、訪れた今日がまた天気のいい日だと教えてくれる光りの量に少しだけ怖気付く。
     まだ隣で眠っているハングマンは、枕に顔の半分を埋めて静かな寝息を立てている。苦しくないのかなと思うけれど、規則正しく深い呼吸はしっかりと眠れているのだと教えてくれるようだ。
     徐に体を起こして、カーテンの隙間から差し込む光りに緩く目を細めた。
     穏やかな静寂に包まれるこの部屋を、あと数時間後には出なくてはいけない。ハングマンが目覚めて動き出せば、ルースターの一日が始まる。そうしたら、その時はすぐに来る。
     帰りたくないな、と思う。
     決して口にはしないけれど、このまま一緒にいられたらいいのにと、もう何度思って口にしたくて飲み込んだかわからない。異動をすればその願いは叶うかもしれないが、そのあとに別れることになったら、悲惨だ。
     保守的に回る頭は、必ず訪れる最後を怖がって決断をしきれない。

     ――ね、ブラッドリー。

     頭に残る小さな声が、優しく肩を抱くようだ。ありもしない気配に一度見開いた目を細めて、ルースターは未だ眠るハングマンに抱きついた。
     少しばかり伸し掛かったようなそれは、ぅぐ、と苦しそうな声を出させてしまう。
     ――ああまだ起きないで。もう少しだけ、寝てて。
     彼が目覚めた途端に動き出す世界が嫌だ。
     ぎゅっと抱きしめたハングマンは温かくて、このまま一緒に眠ってしまえたら、時間が止まらないだろうかと馬鹿なことを思う。
     もぞもぞと顔の位置を変えるハングマンは不快そうに眉を寄せていたけれど、その双眸は開くことはなかった。少しだけ寂しく感じながらも、ほっと息を吐いて。ルースターは剥き出しの肩にそっと、口付けた。


    「今度の休暇?」
    「そう。ちょっと、遠出しようぜ」
     空港までの道すがら、ハングマンが言い出したことにルースターは大きく眉を寄せていた。
     遠出もなにも、どちらかの家に訪れるなら超大移動している。それを忘れたのかと言うように怪訝な眼差しを向けると、わかってると笑う横顔が見えた。なら、一体どこへ。首を傾げて続きを促すと、前を見ているはずなのにハングマンは頷いている。
    「決めてない」
    「……決めてないのに誘ったのかよ」
    「どこでもいいんだ。お互いの家の行き来以外に、お前と出かけたい」
     マーケットとかは論外だぞと笑う声につられて笑うけれど、どこかに行きたいかと問われても一つも思い浮かばない。そういった願望がないわけではないが、すぐに思いついて提案できるほどのものでもない。この広いアメリカで、行ったことがないところは山のようにあるけれど、それで人生を損していると思ったことは一度もないわけで。お互いの居住地から中間地点辺りなら程よいのではとぼんやり思うが、思い出される州はテキサス、オクラホマ、カンザス辺り。もっと北へ上がればまだあるけれど、移動距離がどんどん伸びてしまうだろう。
     テキサスは確か、ハングマンの故郷だ。暗にそこに行こうと言っているのだろうかと、ゆっくりとした瞬きでハングマンの横顔を見るけれど、機嫌よく車を運転する姿からはそんな思惑は感じ取れなかった。
     でもテキサスならヒューストンがある。宇宙センターは少し興味があるな、と小さく笑ったところで、頭に描いていた地図が東へずれた。
     ふっと消える笑みと、脳裏に聞こえる優しい声。
     ゆっくりと窓の外へ向けた目は、晴れ渡っている青空を映して。閉じ込めるように、ルースターは目を閉じた。
    「ブラッドリー?」
    「……ごめんちょっと、思い出したんだけど」
    「うん」
    「次の休暇、一人で済ませたい用事がある」
    「……そうか、わかった」
     ごめんとか、次は、とか。
     頭に浮かんだ言葉が出ていかなかった。
     何故なのかはわからないけれど、次の休暇でさえ数か月後。さらにその先なんて、約束できないと思ったのかもしれない。
     ハングマンの視線がチラリと向いたのがわかったけれど、ルースターはじっと窓の外を見て気付かなかったフリをした。
     怒らせただろうか。嫌な気持ちを抱かせただろうか。あとから沸き起こる後悔にも似た気持ちが、ぐるぐると腹の中で渦を巻く。それでも、やらなければと思ったことを考えたら、仕方がないだろうとムスッとした感情が現れてくる。実に自分勝手だなと、まだ冷静な部分がそう指摘したのがわかった。
    「ルースター」
    「……うん?」
    「……いや、なんでもない」
     曖昧に笑った横顔は前を向いたまま。
     綺麗な鼻筋が日差しに照らされて、触れたいな、なんて思って目を閉じる。少しだけハングマンを遠ざけたのは自分で、彼が先ほどの言動をどう捉えたかはわからないけれど、少なくとも僅かな落胆はさせているだろう。それなのにコロコロと態度を変えれば、一層ハングマンの気持ちを見ていない気がして重たく息を吐いてしまう。
     周りの車に合わせて速度を調整しながら、ハングマンが操る車は目の前に迫る空港の駐車場のほうへレーンを変えていく。
    「降ろしてくれるだけでいいよ」
     そのほうが、駐車場代はかからない。毎回言っていることだけれど、ハングマンはそれには耳を貸さず、駐車場に車を走らせる。毎度のやり取りとなっているそれは、ハングマンがバージニアに来ても同じように行われる、じゃれ合いのようなやり取り。
    「わかった」
     カチリとウインカーが出されて、走行レーンが変わった。
     ああこれは怒らせているな、と。
     嫌でもわかり、ルースターは苦しい胸の内を開放したくて、腹を膨らませて静かに息を吐き出した。
     予定があるから休暇を一緒に過ごせないというのは、そんなに気に障ることか。苛立つ気持ちを押し込めて考えるけれど、うきうきとした気持ちを抱えて提案したのに一人で済ませたい用事がと言われれば、やはり少しは嫌になるかもしれない。
     休日に済ませられないのか。休暇でなければ済ませられないのか。
     当然に抱く気持ちだろう。
     なかなか合わせることのできない休暇を必死に合わせて、少しでも一緒に過ごしたい。そう思うのは、ルースターも同じなのだけれど。でも宣言してしまうくらいに、ルースターは次の休暇で一人を選びたかった。
     車は空港の乗降エリアに滑るように停車して、ルースターは「ありがとう」と一言告げると助手席を降りた。後部座席に置いてある荷物を取れば、そのままハングマンは出ていく、ということはなく。現在非常に腹に据えかねる状態であっても、一応挨拶はしようと思ってくれたのか。助手席のパワーウィンドウがするすると降りて行く。
     何を言ったらいいだろうか。もごもごと口を動かして、座席一つ分奥にいるハングマンを見つめた。こちらにじっと視線を向ける顔に乗る口は少し開いていて、息を吸えば言葉が出てきそうな様子だ。でも、視線が合って数秒。静かにその口が閉ざされた。
     言うことなどないと、そういうことか。
     ふ、と小さく笑えば、ハングマンは指先をチョイチョイと曲げ、近付けと伝えてくる。
    「なに?」
     ドアに触れて窓から顔を覗かせると、いつの間にシートベルトを外したのか、ハングマンが身を乗り出してもっと、と指先を曲げた。荷物の金具で車を傷付けないように足元に置いてからもう一度窓に顔を見せると、ぬっと伸びてきたハングマンの手がルースターの後頭部に回って、かなり強引に引っ張られた。
    「ちょ、っと!」
     慌てて両手をドアについて体を支えたけれど、遠慮のないハングマンは逃がさないとばかりに手に力を入れて、顔を寄せてきた。
     唇に触れてきたのはハングマンの唇で。押し付けるだけのようなそれだけれど、複雑な気持ちをどうしたらいいのか迷っているのが確かに伝わってきて。驚いて咄嗟に入れた体の力を抜くと、ゆっくりとハングマンの顔が離れていく。
    「……不機嫌なまま離れるのは嫌だ」
    「……うん、悪かった」
     何するんだ、と。頭にきて喧嘩に発展する可能性は高かったハングマンの行動だけれど、ルースターも後ろめたいと思っていたからこそ受け入れることができて。だからこそ、何をムキになっていたのだろうと腹に重たくあった気持ちが解けていく。まだ追える距離を詰めて、ルースターからも押し付けるように口付ければ僅かに見開いた目が、すぐに柔らかく細まったのがぼんやりと確認できた。
     柔らかく合わせるだけの、愛おしいという気持ちの擦り合わせ。
     不快だった気持ちは驚くほどすんなりと消えてなくなり、ルースターは唇が離れたあとに額をそっと押し当てる。鼻先が触れてくすぐったくて、揃って笑みが零れた。
    「ごめんな、唐突に思い出して、やらなきゃって思って。……必ず、穴埋めはするから」
    「わかった。無茶なことじゃないな?」
    「大丈夫だよ。ちょっと自分の中で、けじめっていうか、つけたいだけ」
    「……けじめって言われると不穏な気配を感じるんだが?」
     大丈夫だから、とルースターが笑えばそれは伝わったのだろう。目の前のハングマンの眼差しが和らいで、笑みを浮かべてくれる。
     ひっきりなしに車が来ては去っていく空港の玄関口で、今になって別れを惜しむようにルースターとハングマンは互いを抱き寄せるように首に腕を回し。いつになるかわからない次の再会までその感触を忘れまいと、しっかりとお互いを腕に閉じ込めた。


     揺れるバスの中、襲い来るような睡魔に抗うルースターは、正直なところもう限界だった。
     昨日、と言うよりはもう今日。日付が変わってから数時間仕事をしていた。
     それは自分の仕事ではなく仲間の尻ぬぐいのようなものであったけれど、連帯責任だと言われてはやらざるを得なくて。休みなく働き詰めだった体は悲鳴を上げていたが、どうしても今日の休みを勝ち取りたかったから必死に耐え抜いたのだ。
     仕事が切り上がったのはもうすっかりと空は明るくなった時間で、徹夜のハイテンションのままに基地をあとにしたルースターは、どうにか飛行機に乗り込んでこの地へとやって来た。
     飛行場からはバスで、見知らぬ土地を眺めている。
     眠ってしまいたい。でも、耐えなければ。
     目を擦って欠伸をして、上半身を動かして足を伸ばして。あらゆることを他の乗客の迷惑にならないようにするけれど、まとわりつくような眠気はちっとも消えてくれない。こんなことなら、飛行機の中で眠れたらよかったのに。そう思っても、もう遅い。
     バージニア州からのフライト時間は約四時間。たっぷりと眠れるはずだった。
     隣の席の老夫婦が喧嘩を始めなければ。
     大声で叩き合うような喧嘩ではなかったけれど、小言を延々と二人で言い合って、黙ったかと思えばまた始まって。そんな緩急はいらないと遠い目をしながら無視して眠ろうとしても、棘のある物言いと最初から全てを否定するような物言いの応酬は、正直なところ精神的な部分を削られるようで、妙に神経が過敏に反応してしまった。
     おかげで眠気はどこへやら。
     大きくずれ込んで今に至る。
     ――無視、できたらよかったのにな。
     ガタン、と大きな振動が、力の抜けている上半身をグラリと揺らした。
     大きく揺れる頭に従って視界も揺れる。すっかりと見慣れたバスの車内が、妙に広く感じられた。
     飛行機の中の夫婦の喧嘩は、彼らの息子に対してのものだった。聞くつもりはなかったけれど聞こえてしまったので、すぐに忘れてしまいたかった頭はそれを記憶してしまったのだ。彼らの息子の名が〝ニック〟だったから。
     駆け落ち同然に彼女と姿を消したという息子。今まで大切に育てて、いい大学に行かせて。今後の人生で不利になることが少ないようにと、金と時間をかけて道を整えたのに。それなのに、突然目の前から消えた。子供ができたと、それだけを告げて。夫婦には余程衝撃的だったのだろう。もしかしたら、彼女の存在も息子は明かしていなかったのかもしれない。ずっと夫婦の理想の息子でいたのを、一人の女性と出会ったことで辞めてしまった。
     息子を奪った女のことも、腹の中の子供のことも、妻のほうは許そうとは思っていないようだった。認めないと頑なに口にしていたから。でも夫のほうはそこは少し柔和で、生まれる子供に罪はないだろうと言っていた。ただ、息子を大学まで行かせたその資金は恐らく彼が働いた努力の結晶。その辺りは、納得がいかないと口にしていた。
     何故だろうとぼんやり聞いていたら、それなりに有名な会社に入社したというのに、駆け落ちでドロップアウトしたと苦々しく口にしていた。それは確かにちょっとまずいだろうなと、ルースターは飛行機の壁に頭を預けて思っていた。窓が前の席と被っているおかげで横を見てもちっとも楽しくないので、ひたすらに夫婦の会話をラジオ替わりに耳にするしかない状況が少し悲しい。
     子供ができたと報告を突然もらって、そのまま行方を眩ませたという息子。唖然としていた夫婦のもとに息子が務めていた会社から連絡が来たのは、それから一週間が経ったあとで。無断欠席をしていると、そう言って来たらしい。子供ができたのなら仕事は続けるべきだろうと思うが、そうはできない理由があったのかなとぼんやり考えていた。
     この夫婦。特に母親のほうが相手を良く思っていないのなら、息子の家に乗り込んで大喧嘩が始まると思ったのかもしれない。それがとても面倒で大変だから、逃げたのか。
     今一つ相手のことも分からないらしい夫婦は、これからどこへ向かうのか。
     少しだけ気になったけれど、少々ループの多い言い合いと会話はそこで終わりを迎えてしまった。
     飛行機は多少気流で揺れながら、無事に飛行場に到着したからだ。
     ――なんか、父さんと母さんのこと、みたいだったんだよな。
     揺れるバスの外の景色は、覚えがあるような、ないような。
     この地へルースターがやって来たのは、海軍へ入隊が決まった日が最後だ。忙しいということに構かけて、長い時間ほったらかしにしてしまった。あの場所に両親がいるとは思っていないが、それでも眠っている場所だ。もっとこまめに来てあげればよかったと、足元に置いた小さな花束に目を落とす。
     真っ赤なバラと小さなカスミソウをまとめてもらった花束は、これからデートでと口にしたらにっこりと笑顔を貰いそうな、そんな花束だ。
     これを墓に置くのだと口にすれば、店員はきっと怪訝な顔をしただろうなと思う。ルースターは、ゆっくりと視線を窓の外に向けた。
     白いユリやカーネーションをと思ってもいたのだけれど、いざ花屋でバラを目にしたらこれだろうと一択になってしまった。バラを手に笑う母親の顔が、思い出されたから。
     記憶にはもうほとんどないけれど、渡せる状況であれば父親が手にしていたという赤いバラは、母親への変わらぬ愛の象徴だったのだろうと思う。
     自分がそれを送るのはどうかと思って、生前は気恥ずかしさもありバラは避けて記念日に様々な花を渡していた。
     それでも嬉しそうに笑ってくれていたから、あの頃はそれで満足していた。
     でも今日は、父親のようにバラを選んだ。一輪ではなく花束で。
     真似事ではなく、確かに自分の気持ちを込めるために。
     柔らかく頭に蘇る声は、またふわりと寄り添ってくれるようだ。
     覚えがあるような、ないような。そんな道をバスに揺られて、ルースターは両親の墓を目指す。
     少しだけ力強く打った鼓動に応じるように、眠気はスルリと消えていった。


    「え」
    「よお」
    「え?」
    「俺だけだよ」
    「ええ!?」
    「嘘じゃねえよ!」
     バスを降りたルースターが向かったのは、綺麗に管理のされた墓地。生憎と海は見えないけれど、木々に囲まれるような小高い丘の上、開けた空を望むように幾つもの墓石が並んでいる。
     開いている門を目の前にしてルースターが足を止めたのは、そこに、ここにいるはずのない男がいたからだ。
     一瞬、随分と似た男がいるものだとスルーしようとして、大慌てで意識がしっかりと男に向いた。そうしたら、待ちくたびれたというような顔で男が花壇から腰を上げたのだ。
     見間違えようもなく、その声も間違いなく。何故なのかさっぱりわからないけれど、ハングマンがいる。
     思わず小走りで近付けば、少し嬉しそうに口角を上げた顔が見えた。
    「何してんだよ」
    「お前待ってた」
    「いや、だって、ここに来るなんて、一言も」
    「まあ、そこは優秀な俺なので?」
     得意げに片笑むハングマンを見つめて、ルースターはもう一度ぐるりと周囲を見渡した。再度「俺だけだっての」と文句が聞こえたが、信じられるわけがない。
     この場所のことなんてハングマンに話したことはないし、誰にも今日行くなんて言っていない。部隊にも、ただの休暇としか伝えていないのだ。もしもルースターのセルフォンを覗き見た不埒な輩がいたとしても、セルフォンには予定を入れてもいない。飛行機の予約はしたけれど、それでこの場所はわからないだろう。
     少しばかり引きながら「えぇ……」と呆然とすれば、ぽんと背中に手を当ててきたハングマンはいつもの笑顔で頭を軽く門のほうに振った。行かないのか、とか行こうぜ、とか。そんな意味なのは理解したけれど、やはり何故ここに彼がいるのかがわからない。気持ち悪いなと思ったのは伝わったのだろう。門をくぐって静かな墓地へと歩き出せば、穏やかな声がその口から聞こえてきた。
    「まあ、白状すれば、大佐にちょっと聞いた」
    「……マーヴ」
     額を押さえて天を仰ぐと、背中に手を回したままの隣のハングマンはクツクツと喉で笑って、眩しそうに空を見上げて目を細めている。
     そんなに眩しいだろうかと思いながら眉を寄せ、ニッコリと笑ってサムズアップしているようなおじの姿を思い描いて、呆れにも似た溜息が吐き出された。
    「でも、なんで、今日ここって」
    「休暇が今日からだって聞いた」
    「誰に」
    「ファンボーイ」
    「あいつ……」
    「で、お前はどっかにけじめ付けに行くって前言ってたから、知ってそうな奴に片っ端から聞きまわった」
     さも当然のように口にするけれど、その労力は大変なものだろうし、何より執着心が凄すぎて怖い。あからさまに顔を引きつらせるルースターを片眉を上げて見てきたハングマンは、お前が心配だったんだよ、と少し目を伏せて笑った。
    「信用されてない」
    「休暇の日数必要なけじめって、よく考えたら怖いだろうが」
    「……そうかもしれないけど」
     一日や二日で終わらないから、休暇を使うというのならよっぽどのことか。本当に大丈夫なのか。遠く離れた地で巡り巡った考えは、ハングマンにそんな無謀な行動を起こさせたらしい。
     片っ端の相手が誰で、一体何を聞いたのかはおおよそ想像がついて。ルースターは幾つもの思い浮かぶ顔に悪かったと思い、緩く頭を振った。
    「それで、マーヴから何を聞いたんだよ」
    「お前のご両親の故郷と、墓のある場所」
    「……そう」
    「今日が、二人が顔を腫らして自由になったって宣言した日だって、言ってた」
     ああ、と声が漏れた。
     やはりマーヴェリックは知っていたのだ。両親が自由を得て、共に歩き始めた日を。
     結婚をした日ではないけれど、特別な日を。
    「――俺の両親さ、ショットガンマリッジだったらしいんだよね」
    「へえ」
     今でこそ珍しくもない結婚の形の一つだが、三十五年前ともなれば、それぞれの親族の反応が悪かったのは想像ができるだろう。
     ハングマンが頷くのを見て、ルースターは目を細めた。
    「アナポリス出たばかりの父さんと、ずっと待ってた母さんと、二人で幸せになるはずだったのに……。俺が出来たことで、両方の家族から勘当されたらしいんだ」
    「お前は悪くないだろ」
    「だって、俺が出来なかったら二人は両家から祝福されてたんだぜ?」
     順番が違うだけで、両親はその結婚を祝福されず。父親が亡くなったあと母は、女手一つで懸命に自分を育ててくれた。幼い頃から不思議に思ってはいたのだ。どうして自分には祖父母がいないのか。母の口から話しが出ないのか、と。父親のように、すでに他界しているのかもしれないと察して母に聞くことはしなかったけれど、いつだったか、マーヴェリックと二人で母が仕事から帰ってくるのを待っていた夜。自分のルーツを遡るという学校の宿題をやっていた時、祖父母の存在の有無を初めて問いにした。
     両親とずっと親しかったマーヴェリックは、母がルースターを身籠ったというのを大喜びしたと言っていたから、知っているかもしれないと思ったのだ。
     その時確かにマーヴェリックは「知ってるよ」と言い。「今も元気だと思う」と小さく笑っていた。つまり、祖父母は健在で。でも母親はいないものだとして生活していて。
     どうしてそんなことになったのかを、わからないと首を傾げるほどルースターは幼くなかったから。両親の年齢と自分の年齢と、二人が結婚をした年。そして、父親が海軍兵学校を卒業した年齢を客観的に見て。ああ、と納得した。
     微妙に合わない計算が、祖父母と両親の関係を表している。
     自分がいなかったらとは、考えなかったけれど。でも、もっと遅くに母の元に来ていたら。朝から晩まで働いて、それでも明るい笑顔を絶やさなかった母は、両親からの協力を得て、もう少し楽ができたのではないか。そう、考えてしまう。
    「それはあくまで、ご両親と家族の関係が良好だったら、だろ? 世の中にこれだけ人がいれば、それだけいろんな家族がいるんだ。親子だからって、無条件で仲がいいってことはあり得ないだろ」
    「……そういうもん?」
    「そういうもん」
     背中に回っている手が、優しく撫でて叩いてくる。気にしなくていいんだと言うようなそれは、家族という形に強い憧れを持つルースターを憐れんだり馬鹿にしたりするようなものではなく、ただ、凝り固まったようにそう考えることを辞めさせるような、そんな温かさがあった。
    「うちの姉は、旦那の両親とは仲が良くないぞ? 当たり障りなく関係を築いてるようだが、家に帰ってくると文句ばっかりだ」
     本当か嘘かわからないことを話し、小首を傾げるハングマン。そういう家族もいるのだと、その顔は笑っている。
     もしもの話しをしたところで、時間が巻き戻ることはない。そうだったらよかったのにと、後悔にも似た払拭しきれない気持ちが、胸にこびりつくだけ。
     子供ができて結婚をして、たった二年で父を失った母はどんな気持ちで自分を抱きしめたのだろう。辛く酷い言葉を口にすることはない、という確信はある。
     でも自分の両親に、助けを求めたい時もあったのではないか。
     首を傾げるハングマンは、それはあったかもしれないがと目を細めて空を見上げる。倣って見上げてもそこは灰色の空で、白々としていて目が細まるだけだ。
    「お前はきっと聞き分けのいいよくできた子で、支えてくれたアンクルたちが大勢いて、絶縁しているとしたらそんな親に助けを求めるより、その時そばにいてくれる人を頼ったんじゃないか?」
     もしかしたら、夜遅くに後悔して泣いていたこともあるかもしれない。でもそれはルースターの想像でしかないし、もしマーヴェリックたちが相談されていても口にしてこないのなら、知られたくないことなのだろう。
     子供の頃なら、何でどうしてと知りたがっただろう。でも、もうルースターはいい大人で。知られたくないことの一つや二つ、当たり前に持っている。重ねた年齢だけそれはあるのだ。伊達に父親の年齢を超えていないし、じきに母親の年齢も超えるのだから。
     祖父母のこと、両親に兄弟がいたらおじやおばのこと、彼らに子供がいるのなら従兄弟のこと。
     どこかにいるかもしれない血の繋がった親戚は、見たことも聞いたこともないから想像しかできないけれど、今まで生活してきた中で、いなくて不便だと思ったことは一つもないのが事実。
    「なんか、アンクルたちに会いたくなったな」
    「おい、俺がいるのにそっちかよ」
     突然父親を失って、大変だったに決まっている。それを大変なことだと微塵も見せなかった母はきっと、ルースターのために笑っていたのだ。
     そばで見守って、手を貸して、それこそ所謂親戚のような距離感でいてくれたおじたちは、ルースターがしっかりと巣立ちを迎えるまで、確かに見守ってくれていたのだから。若干一人を、除いて。
     どこか不貞腐れたような顔を見せるハングマンの背を叩き返して、ルースターはこてんと首を傾げた。
    「ジェイクはアンクルじゃないし」
    「当たり前だろ!」
     話しが噛み合ってないんだが、と笑うハングマンにつられて笑うと、悶々と考え込んでいたもしもがやはり馬鹿らしく感じられる。
     ルースターは緩やかな曲線を描く舗装された小道を外れ、綺麗に刈りそろえられている芝生をサクサクと踏みながら、ハングマンを誘導するように小道を外れる。
     どこだったか思い出せないかもしれないと、バスの中では不安に思っていた両親の墓石。この場所に来て歩いて、迷うことなく足が向かうことが、少し嬉しかった。
    「綺麗にされてるな」
    「管理にお金払ってるし、それくらいしてもらわないと……」
     白い墓石は長い年月による劣化は見られるけれど、苔生しているわけでも汚れてしまっているわけでもない。きちんと手入れがされている様子が一目でわかるくらい、綺麗にされている。それは相応の料金を管理会社に支払っているから当然だと、ルースターは笑ったのだけれど。
    「……花、だな」
    「……だな」
     二人が足を止めたその場所には、手向けられた花が揺れていた。
     まだ新しいそれは、ルースターが訪れるよりもずっと前に誰かが来て置いたのだ。
     パッとハングマンを見れば、俺じゃないと首を振る姿がある。
     他にこの場所を知っているのは、ハングマンにここを教えたマーヴェリック。あとはおじたち。ハングマンでないのなら、おじたちの誰かか。真っ先に浮かんだのはマーヴェリックだが。
    「マーヴ、かな」
    「んー、それはないだろうな」
    「なんで?」
    「大佐は数日前から、チャイナレイクに缶詰だって言ってた」
     直近で彼に連絡を取っているハングマンの言葉に、ルースターは息を吐き出しながら頷く。わからないと言う少し気持ちの悪いものを吐き出したかったのだ。大して出せていないけれど、少しだけ楽になったような気がしないでもない。
    「管理の人、とか?」
    「そんなサービス付きなのかよ」
    「いや、ないと思うけど」
     肩を竦めるルースターにハングマンは小さく笑って、その場に静かにしゃがみこむ。墓石の周りは本当に綺麗にされているため何もすることがないので、ただじっとそこに刻まれている文字を見つめている。その隣に同じようにしゃがみ、手向けられている花束の隣に持ってきた可愛らしいそれをそっと置くと、ふわりと優しい風が小さな花を揺らした。
    「デートで重宝しそうな花束だ」
    「だろ。父さんに、母さんに渡せよって思って」
     ふふ、と肩を揺らして笑うと、隣から柔らかい笑みを貰った。少し気恥ずかしくて、ちゃんとは見れなかったけれど。
    「俺、薄情な息子だからさ、軍に入隊してから一度も、来てなかったんだ」
    「……そうか」
    「行かなきゃって何度も思ったのに、自分のことで手いっぱいになって、ようやく気付いたのがこの前お前に会った時」
    「なるほどな」
     いい加減に顔見せに来なさい。とでも、母は言いたかったのだろうか。少し違うような気もするけれど、夢でしっかりとした母の声で呼ばれた名前は今も思い出せる。
     行かなくてはと焦燥にも似た気持ちを抱えたのは事実で、そのことを最優先にしようとして、危うくハングマンと喧嘩になるところだった。落ち着いて深呼吸をして、よく考えれば焦らなくてもいいことだというのに。あの時はごめんと思いながら、ルースターはハングマンをチラリと見る。
     特にやることもないこの場所で、顔は写真で見ているけれど会ったことはない人たちの墓の前で、ハングマンはただじっとその墓石を見つめている。何を思って考えているのかはさっぱりだが、その横顔には帰りたいというような様子は見受けられなくて、少しだけ安心した。


     帰るためのバスを待つ現在、ルースターは再びの酷い眠気に襲われている。
     途切れたはずの眠気は墓地を離れて数分と経たずにルースターを襲撃し、ハングマンの支えがなければひっくり返りそうな勢いでふらつく羽目になっている。呆れたような顔はしたものの、しっかりと肩を支えてくれたハングマンには感謝しかないが、回るような視界にもう目も開けていられず。立ったまま眠れそうだと呟けなかった言葉はどこかに飛び去り、ルースターは情けなく眉を下げた。
    「あと少ししたら来るはずだから、踏ん張れ」
    「わかってる……。眠い」
    「……昨日のお前の部隊の様子はハーバードが教えてくれたが、散々だったらしいな」
    「……そうなんだよ、もう、今朝はハイテンションだったよね」
     踊って歌って、異様な光景で仕事をしていたという。
     ハングマンの顔は見えないから想像するしかないけれど、感じる空気は苦笑が混ざっていたから、なんとなく想像はできたのだろう。仕方のないやつだと笑っているような気がした。
     静かな、何もない風景に溶け込みきれない二人は、ただじっとバスが来るのを待つ。
     空港がある方面に向かうバスは二時間に一本しかなく、タクシーを呼ぶには時間がかかる。少し待てば来るようだとわかったから揃ってバスを待っているが、ルースターは大人しく空港に向かうつもりでもハングマンはどうするのか。ぼんやりとそんなことを考えていると、静かな空気に震える駆動音が聞こえてくる。ハングマンの顔が音の聞こえたほうを向いて、遅れてルースターも目を開けた。
     ゆっくりとやってくるバスは驚いたことに時刻通りで、本当に乗るやつか? とハングマンが呟いている。でも眠気に襲われる目で見た行き先の文字は確かに乗る予定のバスが向かう場所。市内でも定刻通りのバスは珍しいのにな、と怪しい呂律で呟いたら、本当だと同意して笑う音が聞こえた。
     バス停に佇む二人の前にやって来た古めかしいバスは、キイと音を立てて停車する。遠慮なく乗り込んだ車内には二人ほど乗客がいて、ふらつくルースターを抱えるハングマンはバスの後方に向かうと二人掛けの座席を選び、窓際にルースターを押し込んで腰を下ろした。ほぼ同時に動き出すバスは、ガタガタと揺れながら一度目にしてきた道を戻っていくように動き出す。
    「ほら、寝てろ」
    「ん、悪ぃ」
    「着いたら起こす」
    「ん」
     窓のほうに頭を預けようと座り直すと、その肩をグイと引っ張られてハングマンの肩に頭が乗った。
    「……重いよ?」
    「知ってる」
     何を今更。そんな表情が見えて、思わずぽかんとしたルースターは、込み上げるような笑いを必死に抑えながら、居心地のいい場所を探して頭を動かした。骨と筋肉しかない肩は、いざ枕にしようとするといい場所があまりないのだ。
    「硬ぇよ」
    「膝枕してやろうか」
    「硬いだろ」
    「だろうな」
    「でもここよりいいかな。お邪魔します」
    「おおい!?」
     ずり、と下がる体をそのままに、少し座席が窮屈だけれどハングマンの太ももに頭を乗せれば、肩よりもずっと柔らかい肉の感触が頬に感じられた。
    「冗談だったのに」
    「ええ……」
    「もういい、そこにいろ」
     仕方がないと体を起こそうとするルースターを押さえつけて、その頭が少しでもちゃんと太ももに乗るようにと、座席の端までズレるハングマン。体の大きいルースターが座席で横になれば、当然非常に狭いのだ。ルースターも尻を壁に押し付けるように移動して、少しでも寝やすい間隔を取るが体勢的には少し厳しい。それでもルースターは体を横にできたことで、とうとう睡魔に白旗を上げた。
    「……ぁー、なんで、本当、いつもここに来ると、天気悪いんだろ」
     脳裏に過った両親の墓石と、手向けた花束と、白んだ灰色の空。まただと思ったことが口から出て、ハングマンの「は?」という疑問の声にはもう応えられず。
     ルースターは心地のいい温かさを持った、少し硬い反発力のある太ももの上で眠りの世界へと落ちていった。





     静かに寝息を立て始めたルースターを見下ろしたハングマンは、最後にもにゃもにゃと呟いていたことを頭に反芻して、ようやく理解した。
     窓に向ける顔は、いろいろな気持ちが混ざっていて一つでは言い表せない。でも、そこから目を離して、もう一度見下ろしたルースターを見つめる眼差しは、愛おしさを隠しもしないもの。
    「なあ、ブラッドリー。今日は快晴だぞ。……もう、そのフィルターは外していいんだ」
     そっとこめかみに唇を寄せて、離れ際に隈のある目元をそっと撫でる。
     ルースターを待ち伏せたハングマンは、墓地の開門と同時にあの場所にいて。ぼんやりと恋人がやってくるのを待ち続けていた。
     その間に墓地にやって来たのは、開門から数分後に訪れた老夫婦が三組だけ。軽い会釈で通り過ぎた三組の夫婦は、違和感のない時間を経て門を出て行った。ただ、ある一組の夫婦が抱えていた花束は、ルースターの両親の墓に手向けられていた花束と、同じ。
    「……ごめんな、言えなくて。今度ちゃんと、言うから」
     ルースターの目に灰色のフィルターをかけている事情を知って、果たしてハングマンが見たものはルースターをどうしてしまうのか、全く分からなくて。弱腰になったハングマンは、そっとそのことを隠してしまった。
     割り切って仕方ないと笑うルースターが、どれだけ傷を抱えているのかわからないから。だから、ハングマンはごめんと気持ちを込めて頬に口付ける。
     もっとしっかり、お互いに腹を割って話し合って。全てを曝け出さなくても、傷付いて立ち去ってしまうことが無くなり、ちゃんと自分の隣に、腕の中に戻ってきてくれるのだと揺ぎ無い確信が持てるようになったら。今日の日のことを伝えよう。
     その時には、青い晴天の空の下にある両親の墓を見つめられるといい。
     もう一度見つめる窓の外は、飛んだら気持ちがいいと思える、そんな青空が広がっている。
     空港に着いたら、どうしようか。
     ルースターは休暇全てをこの地に使うのかと思っていたが、素直に帰ると言っていた。もしかしたら残りの期間、落ち込む気持ちを整理する時間に中てるのかもしれない。そうだとしたら、一人にさせたくない。
     なら、ハングマンが取る行動は一つ。
     バージニア行きの航空券を二枚買うのだ。
     大した荷物も持たずに来てしまったが、財布とセルフォンがあれば今の世の中どうとでもなる。ルースターの家にはハングマンの着替えもあるのだから、何を気にすることはないだろう。
     ――ああでも、空港着いたらなんか食いたいな。
     腹が減った、と苦笑して。きっとルースターも起き抜けに腹が減ったと口にするだろうなと思って、太ももに乗る柔らかな髪を撫でた。





     ――ね、ブラッドリー。
      私たちはあなたが選んだパートナーに口出しなんてしないから。
      いや、さすがに、犯罪者とか指名手配犯とか、マフィアなんてのは論外だけどね?
      あなたにいつか……歳をとっておじいちゃんになっても、ずっとずっと一緒にいたいと思える人が現れたら、ちゃーんと紹介してね。私もパパもその人と家族になりたいから。
      いいこと? 私たち以上に幸せになるってわからないと、認められないからね!


     ああごめんね、母さん。
     俺の大切な人、一緒にいてくれたのに、紹介し忘れちゃったよ。
     今度は必ず、ちゃんと紹介するよ。
     大丈夫、ずっと、……ずっとずっと、一緒にいたい人だよ。


     申し訳ないと眉を下げる視線の先。
     赤いバラと小さなカスミソウの花束を持ったキャロルが、ニックに肩を抱かれて笑っていた。
     そんな二人を見つめて、くしゃっと笑うブラッドリーは、口の端に温かい感触を仄かに感じて。
     顔いっぱいに、幸せに満ちた笑顔を浮かべた。

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    Replies from the creator

    tooooruuuuakn02

    DONE【ハンルス】
    リクエストの「ハンとの約束を悪気なく本気で忘れるルス」
    「ルスの誕生日を間違えるハン」
    です!大変お待たせしました!
    合わせてしまいましたが前半が約束忘れたルスで、後半が間違えるハンです。
    一応、前半後半同じハンルスです。

    ルースター誕生日おめでとう!

    (なんでそれを忘れるの?な二人です。ただ本当にど忘れしただけです)
    それは大切なことなのです ルースターが来ない。
     約束の時間はとっくに過ぎて、もうじき針が一周するところだ。
     ポイント・マグー航空基地に来ていると連絡があったのは一昨日で、もっと早く言えよと悪態を吐いたのはその連絡をもらった数時間後。返信が遅れたのは、勤務をしていたのだから仕方がない。
     それに対して忘れてたと、ヘラリとした顔を容易に想像させる文面が届いて頭を抱えたのは、情けないことにいつもどおりだ。
     マメな連絡をアイツに期待するなと苦い顔で口にしたのは、長いこと友人をしているフェニックスだった。友人にはそうでも恋人には違うだろうと、高を括っていたのは果たしていつまでだったか。そのとおりでしたと負けを認めるような悔しさを滲ませながら、連絡不精なルースターと、大変に大雑把なやり取りで今までどうにかやってきた。
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