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    最近忘羨沼に落ちました

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    支部にあげてるものの再掲。
    現代高校生AU忘羨です。『ハロー、ハッピーバースデー』https://poipiku.com/602513/8742413.htmlの後日談になります。
    バレンタイン、前よりは進展してる二人。

    モーニン、ハッピーバレンタイン 二月という時期は、どうしてこうも寒さが堪えるのだろうか。暖房器具を使っていてもひんやりとした空気が部屋に充満している。カーテンの隙間から差し込む眩い日差しが朝を知らせ覚醒を促されるも、もぞもぞと魏無羨はベッドの上で布団に包まりそこから動こうとしない。
     本日は平日で、言わずもがな学生の身分である魏無羨は学校に登校しなければならない。そろそろ支度をするべきであると、頭では理解している。けれど、この温くて幸せな空間を自ら手放すのが惜しく、あっさりと欲に負けて再びうとうと微睡み始めてしまう。遅刻癖のある魏無羨が、より寝坊の頻度が増える季節である。
     入学した当時は、同級生兼幼馴染兼お隣さんの江澄がズカズカと自室に上がり込んで魏無羨を起こしに来てくれていたが、あまりの寝穢い様に早々に見切りをつけて来なくなってしまった。なんとも薄情な奴である。みの虫になっている魏無羨の名前を大声で呼びながら、遠慮なく身体を大きく揺らし、ベッドから引き摺り出されていたのは、今となっては懐かしい思い出だ。
     本当に大事な行事がある時は、江澄ではなく江厭離姉さんが起こしに来てくれていた。江澄と違って、彼女は終始一貫して優しく起こしてくれる。魏無羨の顔を覆い隠す毛布をそっとめくって、肩をゆっくりと揺らし、阿羨、と何度も根気よく声をかけてくれるのだ。甘露のようなこの時間が魏無羨は大好きだった。本心ではずっと目を閉じたままでいたかったけれど、起きないままで彼女を困らせたくはないから、心の内で葛藤しながらゆっくりと目蓋を持ち上げる。そうして雪解けを彷彿とさせる柔らかな笑みに迎えられ、おはようと挨拶を交わす。魏無羨だけが享受していたこの至福の時は、彼女が金子軒と付き合うようになってからは頻度が減ってしまい、魏無羨が金子軒を毛嫌いしている理由の一つになったのはまた別の話である。
    「————嬰」
    「——?」
     ふと、魏無羨の耳に優しい声が届く。一瞬、久しぶりに江厭離が起こしに来てくれたのかと思ったが、聞こえた低い声はどう考えても男だ。ならば江澄かと想起するが、彼であればもっと乱暴な手段を取るのでそれも違うと判断する。
    「……魏嬰、起きて」
     遠慮がちに、こんもりと山になっている布団をゆすゆすと揺らす。一体誰が己を起こしに来たのか、そんな好奇心が擡げ、魏無羨を支配していた睡魔は降伏する。のっそりとかたつむりのように布団から頭を出した。すると、こちらを心配そうに覗き込む白皙の人と視線がかち合った。
    「——藍湛っ!?」
     驚きのあまり、魏無羨はがばりと掛け布団を跳ね除けて起きあがった。見間違いではない。魏無羨の同級生であり、愛しい恋人でもある藍忘機が魏無羨の寝室にいる。
    「おはよう、魏嬰」
     やっと魏無羨が起床したことに安堵したのか、わずかに口角を上げて藍忘機が微笑みかける。この世のものとは思えない美しさに魏無羨はほうと見惚れながら、惰性で声を発した。
    「あぁ、おはよう藍湛……って、いやいや!おまっ、なんでうちに!?」
     はっと正気になった魏無羨は、現状把握のために藍忘機に問いかけた。
    「……朝一番に、君に会いたくて。家の前で待っていたら、すれ違った江晩吟にアドバイスをされた。君はまだ寝ているだろうから、用があるなら直接部屋に行った方が早いと」
    「それで、俺を起こしに来てくれたのか!?この寒い中、おまえを外で凍えさせるよりはよかったけど……用事ってなんだ?」
     同じく学生の藍忘機も登校するべき時間であるし、そもそも藍忘機の家は魏無羨の家とは真逆の方向の位置している。学校を通り過ぎて、わざわざ魏無羨の家を訪ねてきた理由が思いつかない。
     魏無羨が学校で何かやらかして、生徒会役員として藍忘機が取り締まりに来た、が最も考えやすいが、学校内のことを敢えて登校前に持ち出すのもおかしな話だ。何か特別なイベントでもあっただろうか——思い巡らせているうちに、ずいと魏無羨の目の前に箱が差し出された。
    「これを君に」
     華美ではない可愛らしい包装が施されたそれを、魏無羨は両手で受け取った。
    「ハッピーバレンタイン、魏嬰」
    「…………バレンタイン」
    「うん」
    「これはもしかして、チョコなのか?」
    「うん」
    「チョコを渡しに、わざわざうちに来たのか?」
    「うん」
    「〜〜藍湛、おまえってやつは!なんでそんなに健気ちゃんなんだ!!」
     ぎゅーっと衝動的に藍忘機に抱きつく。もらったチョコは潰さないように、気をつけながらだ。魏無羨にくっつかれた藍忘機は、強制的にベッドの上に両膝をつく体勢になる。さっきまで寒空の下にいただろうに、藍忘機の体温は服越しでも分かるくらいに熱かった。魏無羨に応えるように、藍忘機もその細腰を抱いた。
    「でも、チョコを渡すだけなら学校でくれてもよかったのに。こんな遠回りして、朝から大変だったろ?」
    「……一番に、君に渡したかったから」
     その一言で、魏無羨は思い出した。魏無羨の誕生日の時、藍忘機は一番に君を祝いたかったと悔しそうに嘆いていたことを。
    「おまえは本当に俺が大好きだな。誰よりも先に俺にチョコあげたいだなんて。まあ、俺もおまえが大好きだけどな!これ、中を見てもいいか?」
    「ああ」
     藍忘機の了承を得て、嬉々として魏無羨は包装を解く。蓋を開けてみると、まん丸の一口サイズのチョコレートが敷き詰められている。まるで宝石箱のように綺麗だ。
    「美味そうなボンボンショコラだ。どこで買ってきたんだ?」
    「買っていない」
     ふるふると藍忘機は首を横に振る。
    「え?」
    「私が作った」
     藍忘機の答えに、魏無羨は大きな瞳を驚愕で見開いた。
    「手作り、だって……?こんな店に並んでいてもおかしくない代物を?お菓子作りまでプロ級とは、俺を何度惚れさせたら気が済むんだ!」
    「何度でも」
    「ハハハ、おまえは俺を喜ばせる天才だな」
     魏無羨は藍忘機手作りのチョコを一粒摘むと、あーんと口の中に放った。一口噛むと、中からとろりとガナッシュが溢れてくる。スパイスの効いた香り高い味わいは、辛いものを好む魏無羨の味覚に合わせたものなのだろう。癖になる絶妙な甘さに、魏無羨は幸福感で満たされる。
    「美味いな!これを俺だけが味わうのはもったいないから、おまえにも幸せをお裾分けしてやろう」
     そういって魏無羨はまた一つチョコを口に含めると、両腕を藍忘機の首に巻きつかせて引き寄せる。
    「んぅ」
     藍忘機の唇を奪う。隙をついて口移しでチョコを渡すが、なぜか藍忘機は受け取ったそれを噛むことはなく舌で転がして魏無羨の方に返してくる。
    「むぅ、んんっ……」
     負けじと魏無羨も応戦する。舌を使って二人の間でチョコが行き来する都度、口腔の熱でじわりじわりとチョコが溶け、芳醇な味が互いの口いっぱいに広がっていく。それはまるで媚薬のように快感を喚び起こし、魏無羨の身体を熱らせ脳を蕩けさせる。
     藍忘機とのキスは、甘美で心地良すぎていつもやめ時がわからなくなる。このままいっそ終わらないで欲しいとも思う。けれども、段々と小さくなっていったチョコはついに溶け切ってなくなってしまう。くちゅり、くちゅり、舌の絡み合うやらしい水音を立てながら、チョコの味が消えるまでしつこく魏無羨の中を舐り、名残惜しそうに藍忘機はキスを解いた。
     はあと、冷め切らない吐息を零す。魏無羨の口周りは交わした唾液でべとべとだったが、藍忘機が持参したハンカチで綺麗にしてくれる。同様に唾液まみれの藍忘機の口元は、魏無羨が己のパジャマの裾で拭いてやった。
    「朝から熱烈だなぁ藍兄ちゃん。おまえにやるつもりだったのに、結局半分こになっちゃったぞ」
    「ちゃんと味わった」
    「それはチョコのことか?それとも俺のこと?」
    「…………」
     魏無羨がニヤニヤと訊ねると、藍忘機はうっすらと耳だけ赤くして口を噤んでしまった。
    「アハハ!散々濃厚なキスをかましといて、今になって恥ずかしくなっちゃうなんて。藍湛、可愛いにもほどがあるぞ」
     凛とした表情からは想像出来ない、案外柔らかな藍忘機の頬を魏無羨は両手で思う存分に押す。それを振り払うことなく、藍忘機は好きにさせたままだ。
    「さてと、目覚めのキスですっかり目は覚めたけど、楽しみ過ぎて遅刻になっちゃうな。優等生のおまえまで巻き込んじゃって、藍先生からきっと大目玉を食うぞ。いっそサボっちゃうのも一つの手だな」
    「私も一緒に罰を受ける。だから、共に行こう」
    「このまんま、たくさんいちゃいちゃしようって言っても?」
     両手で捕らえた藍忘機の顔を引き寄せて、じっと玻璃を見つめながらギリギリ唇が触れない距離で囁きかける。ゴクリと藍忘機が大きく唾を飲んだ音が、魏無羨にまで届いた。
    「っ……、それでも」
    「あっ、若干逡巡したな?でも、そこで目先の欲に流されない真面目なおまえが好きだから、そこは素直に従うよ」
     誘惑はかわされてしまったが、藍忘機が魏無羨の煽りに耐える様をみられたので満足する。うーんと思いきり伸びをして、やっと魏無羨はベッドの上から降りた。
    「おまえから最高のチョコをもらったから俺も返してやりたいんだけど、残念なことに料理禁止令を敷かれてるんだ。手作りは無理だけど、学校が終わった後に買いに行くよ。帰り道……だと校則で寄り道は厳禁だから、一回お互い家に帰ってから街で待ち合わせするのはどうだ?一緒に店を回って、おまえの気にいったチョコを買おう。それでそのままデートもする。いい案だろう?」
    「うん、とてもいい」
     藍忘機がふわりと花も恥じらってしまうほどの美しい笑みを浮かべる。
    「決まりだ!!放課後デートが控えてるって思ったら、今すぐ学校に行きたくなってきた!急いで着替えるから、すこーし待っててくれよ」
     朝から濃密な甘い時間を過ごし、この後もとびきりのデートプランが待っている。魏無羨の胸は期待で膨らみ、身支度する手を早めた。
     最愛の恋人と過ごす最高のバレンタインは、まだ始まったばかりだ。
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    azusa_mtm

    PAST支部にあげてるものの再掲。
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    モーニン、ハッピーバレンタイン 二月という時期は、どうしてこうも寒さが堪えるのだろうか。暖房器具を使っていてもひんやりとした空気が部屋に充満している。カーテンの隙間から差し込む眩い日差しが朝を知らせ覚醒を促されるも、もぞもぞと魏無羨はベッドの上で布団に包まりそこから動こうとしない。
     本日は平日で、言わずもがな学生の身分である魏無羨は学校に登校しなければならない。そろそろ支度をするべきであると、頭では理解している。けれど、この温くて幸せな空間を自ら手放すのが惜しく、あっさりと欲に負けて再びうとうと微睡み始めてしまう。遅刻癖のある魏無羨が、より寝坊の頻度が増える季節である。
     入学した当時は、同級生兼幼馴染兼お隣さんの江澄がズカズカと自室に上がり込んで魏無羨を起こしに来てくれていたが、あまりの寝穢い様に早々に見切りをつけて来なくなってしまった。なんとも薄情な奴である。みの虫になっている魏無羨の名前を大声で呼びながら、遠慮なく身体を大きく揺らし、ベッドから引き摺り出されていたのは、今となっては懐かしい思い出だ。
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