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    昔まるで美少女だった冬ちゃんともやしAU 加筆版 えちパートまだないですすみません( ˘ω˘ )

    かわいいあのこ 1

    物憂げな灰青色の瞳。緩くウェーブし、日が当たった部分が暖色に輝くブルネットは肩につくかどうかの長さで、横顔に落ちかかって白い肌を際立たせる。小花柄のレースで飾った象牙色のアンティークドレスが夏の陽射しに透けて揺れるさまは、現実感が薄くどこか霊みたいだ。けれどその人は消えたりはせず僕に気がついて顔を上げ、まだ夢の中のように薄い唇を少し開きっぱなしでゆっくりと首を傾げた。
    こんなに可憐で美しい人は見たことがなかった。

    その木炭画は作者のスティーブ・ロジャースが描きかけで満足していないと語る今の状態でも人を惑わす魅力を放っており、ロジャースのアトリエで偶然その絵を目にしたコールソンが一目惚れをした。アトリエに置かれていてはもったいない、手放さなくてよいのでぜひ展示だけでもと熱心に口説いたが、画家は頑として首を縦に振らず、スティーブの絵のファンであり強力な後ろ盾であるティ・チャラも巻き込んで談笑中にそれとなく公開したい旨を伝えても結果は変わらなかった。
    「そこをなんとか! 定着剤をかけてきちんと保存されているということはご自身でも気に入っておられるのでしょう?」
    「それは、まあ……。だが何度言われてもあれを公開する気は無いよ」
    「コールソンがここまで君に食い下がるとは、私としてもますます見てみたくなる」
    「……申し訳ないが殿下の頼みでもこればかりは」
    これまで自作にさほど執着せず鷹揚に作品を画廊へ渡していたスティーブに取りつく島もなく断られ、コールソンは天を仰いで嘆いた。スティーブは強い意志のこもった視線を紅茶の水面に注ぐ。
    「絵だとしても彼を衆目に晒すというのは、どうも……」
    「彼?」
    コールソンとティ・チャラは、スティーブが言い淀んだのとは別の部分、絵の中の少女が He と表現されたことに引っ掛かりを覚えた。スティーブははっとして頬を掻く。なにも繕えていない不器用な微笑みに二人はますます興味を引かれ、公開の件はひとまず置いて描かれた人物についてだけでも教えてくれと乞うた。しかしモデルに関してもスティーブは口を開こうとしなかった。
    言わなかったというより言えなかったのだ。絵のモデルである十二歳のバッキーとの思い出は午後のお茶へ供するには激しすぎた。

    ジェームズ・ブキャナン・バーンズは僕が戯画化せずに描きたいという欲求を覚えた数少ない人物の一人だ。十代の夏、僕とバッキーはたくさんキスをし、触り合った。靴下も靴も履いたまま、ズボンと下着だけ急いで下ろした即物的な格好で秘部をこすり合わせた。すてぃーぶ、もっと、もっとさわって、と舌足らずに甘くねだる声の幻聴が聞こえ、誰に指摘されたわけでもないのに咳払いをする。
    初めて会ったとき、僕はバッキーをてっきり女の子だと思い込んだ。彼が性別を超えて美しかったことに加え「お父様」のコーディネートによってスカートやワンピースをよく着ていたことも勘違いに一役買った。彼が男性だと分かったのは交流が始まってからずいぶん経ったあとだ。愛らしい華やかな衣装は彼によく似合っており、男だとか女だとかで着る服を制限するのは馬鹿らしいことと教えてくれたという点については彼の「お父様」に同意している。奴の所業を許せはしないとしても。

    幼い頃、僕は今より病弱で学校へいけないほどだった。国全体が豊かとは言えず、父は戦死し、母は二人の生活費と僕の命の維持費のために看護師として昼となく夜となく働きに出ていた。住む場所は二階を間借りした小さな部屋。親切な大家夫妻、穏やかな気候、静かな暮らし。幸せで、少し寂しかった少年時代。
    いつも通り一人ぼっちでやることもなく庭に出る。スケッチブックと鉛筆を持ってきたが膝の上に載せているだけになっていて何も思い浮かばない。視界の端を白っぽい猫が走って行った時は、お、と思ったが、すぐどこかへ隠れてしまった。探すほどの気力は無い。ただ医者に勧められた日光浴を行っていると、どこかから囁き声がした。
    「猫ちゃん、猫ちゃん? でておいで。あそぼ」
    少しこもった甘い声が近づいてくる。庭の茂みが音を立てて揺れ、何かがズボッと出てきた。頭を振って顔を上げたのは垂れ目の大層愛らしい子だった。柔らかそうな黒茶の髪と白いワンピースが葉っぱだらけだ。その子は僕を見て、口が半開きのまましばし止まり、大きな目をさらに見開いて首を傾げた。
    「……お前、人間に変身できるのか?」
    「なに言ってる?」
    「さっきの猫じゃないの?」
    「そんなわけないだろ。白っぽい猫を探してるならさっきそのあたりに……」
    指差した先に、折よく猫が姿を現した。それを見たその子が繁みからころんと出て起き上がり近寄ろうとする。猫は距離を保とうと踵を返す。
    「あっ逃げちゃう。追いかけよう」
    「ええ?」
    「早く!」
    なんで僕まで? と問いかける間もなくその子が鹿のような足取りで駆け出したので、つられて追いかけてしまった。しかし相手の足が速く悔しいかな全くついていけない。隠れようとする猫をぐんぐん追いかけていく。薄いワンピースが風になびいてきれいだ。僕の心臓と肺は早々に限界を訴えていたのに、もっと見ていたくて我慢して我慢して我慢した末、バクンと一際大きい動悸が肋骨を内側から打って、砂利道に足を取られ転んだ。
    「え……? おい、大丈夫か? 聞こえる? ねえ! ……!」
    あの子が気づいて戻ってきてくれた足音がして、揺すられ、大丈夫だと手を握り返したいのだが指一本動かない。激しすぎる血流で声が遠い。頭が万力で締めつけられたようになり、苦しみから逃れようと目を瞑って、そのまま意識を失った。
    無理をしすぎた。死ぬかも。でも僕なりの無理をする理由があったんだと母さんへ伝えたい。
    冷たいもので額を拭われ気がついた。火照った頭にひんやりとした感触が気持ちいい。その冷たいなにかに頬擦りすると髪を撫でられ、そうっと呼ばれる。
    「起きた?」
    「うん……くらくらするけど……死んでないみたい……」
    「よかった」
    ぐすっと鼻を啜る音がし、陽の光に痛む目を叱咤し瞼を開くと、潤んで水面のようにきらめく瞳と目が合った。
    「びっくりした」
    「悪かった。猫は?」
    「どこかいった」
    「僕が本当に猫だったらよかったな」
    その子は眩しげに目を細めて頭を振った。とろけるような笑みから目が離せない。
    「君が僕をこの木陰まで運んだの?」
    「うん。お前すごく軽いな。軽すぎ」
    「うるさいぞ」
    僕が痩せっぽちであることを考慮しても子供が子供を運ぶのは難しいのに、腕力といい脚力といい、僕と違って身体能力の高い子のようだ。それで眩しく見えるのかも。きっとそうに違いない。
    「もう一回ハンカチ濡らしてくるから、ちょっと頭どける」
    頭を草の上におろされると、溶かしバターのような芳香が遠のき、頭の後ろがすうすうして、今まで自分が膝枕をされていたことに気づいた。まだ頭は痛かったが矜持を支えに何とか自力で座る。もっと膝枕されていたいなんていう煩悩は早く風に吹かれて飛んでいってくれ。
    「ハンカチありがとう」
    「ううん」
    「洗って返す。どこに住んでるの?」
    「……内緒」
    「教えてくれないと返せない」
    「いい、あげる。お父さまとの約束で内緒なんだ。ごめん」
    急激に色を失った表情から何かおかしいとは思ったが、恐縮しているのがよく伝わってきて無理に聞くことはできなかった。
    「じゃあ僕の家を教えるから今度待ち合わせしてくれる? お願い」
    その子は小さな舌でぺろっと上唇を湿らせ考えてから、いいよと指切りをし、バッキーという名前を教えてくれた。

    あくる日、コンコン、と人為的な音がしてそちらを見ると窓からバッキーが覗いていてギョッとした。二階の窓は人に覗かれるのに慣れていない。開けてというジェスチャーをしきりにするので開けてやる。
    「どうやって……」
    「木を登った」
    言葉の通り、バッキーは僕の家の庭の木の枝に座って足をぷらぷらさせていた。綺麗なレースの服と靴下に木屑や葉っぱの欠片がついているが全然気にしていないようだ。少女人形のような見た目に反したわんぱくさが小気味よい。
    「ハンカチをもらいにきた」
    「ああ、取ってくるから入りな」
    「いいの?」
    「人に見られたらびっくりされるよ。ほら」
    「うん」
    ほっそりした手を取って窓から部屋へ招き入れる際、触れ合った肌からぞわっとした何かが起こったので慌てて手を離し、階下に借りたハンカチを取りに行く。
    「待ってて」
    早足で階段を降りるが、なぜ自分はこんなに焦っているのだろう? きっと窓から人が入ってくるなんて初めてだからだ。あと、同じくらいの年頃の子と話すのが久しぶりだし。
    階下には誰もいない。唯一の肉親である母は生活のため病院へ働きに出ており、大家夫妻は大通りに構えた雑貨屋を営業中。なんとなく隠したくて母が出かけてから内緒で洗って干したハンカチは春風でカラッと乾いていた。
    「お待たせ……」
    部屋が空っぽで、一瞬帰ってしまったのかと思ったが、バッキーは入口から死角にある僕の机の前に立っていた。置きっぱなしだったとはいえ人のスケッチブックをめくって持主が戻ってきたというのに挨拶もない。
    「勝手に見るな」
    「これ、お前が描いたの?」
    怒りを込めたんだぞ、聞けよ。スケッチブックを取り上げようとしたら倍の力でひったくられた。こいつ、と思って怒鳴ろうと顔を上げたら、キラキラした眼差しを浴びせられ言葉が喉に引っ込んだ。
    「お前のスケッチブックだよな? お前が描いたの? 全部?」
    「そ、そうだけど」
    「すごい! 天才!」
    とろっと目が細まるシロップみたいな笑顔。僕への賛辞を次々口にし、ページをめくってはきゃあきゃあと喜ぶ。
    「他は?」
    「ここに……」
    勢いに乗せられ小さな本棚を指差すと、バッキーは迷わず手を伸ばして全部のスケッチブックと、紐でくくったバラバラの画用紙を抜き出し、机の上で広げる。横目で見た頬は桃の実のように淡く染まっている。あ、描きとめたい。
    「わあ、すごいなあ。すごい。全部すてき。猫はない?」
    「猫……どこかに描いたな……猫好きなの?」
    「大好き」
    にこっと屈託なく言われるとどきんとして、愛されているのは僕じゃなくて猫なのに、と思うと深い悲しみに襲われた。この子といると心臓が疲れる。でもなんだか離れがたい。
    「ほら、猫」
    「かわいい! かわいいかわいい、もっと見せて」
    「猫はこれしか無い」
    「じゃあ描いてよ」
    「えー、急に描いてと言われても……」
    「それなら猫を探しに行こう。見たら描ける。行こう!」
    「ちょっと、おい、押すな」
    無理やり画材を持たされ背中を押されて陽の下に連れ出される。僕の手を引いて先を行く白いスカートの裾を伸び始めた草が掠め、光の粒にしか見えない小さな羽虫が視界に舞う。
    「猫を描くのに交換条件を出してもいい?」
    「どんな?」
    「君を描きたい」
    「そんなのいくらでもどうぞ」
    僕らは出会ってからすぐ毎日会うようになった。学校に行っていない僕は時間を持て余していたし、バッキーも日中学校に行っている様子はなかった。僕は天邪鬼で、バッキーが足繁く通ってくると冷たくし、それで相手が会う頻度を減らすと機嫌を損ねた。照れくさくて、でも恋しくて、自分でも自分が変なのは分かっていた。
    「スティーブ、顔が赤い。また風邪か?」
    バッキーが心配そうな目をして、きめ細やかな手の甲で僕の頬を撫でた時、産毛という産毛が逆立った。触れられたのは体の表面のはずなのに芯まで痺れたのがおそろしくて思わずその手を払う。
    「急に触るな! 風邪なんかひいてない」
    「部屋で休んだほうが」
    「うるさいな、僕の勝手だろ。早く遊びに行くぞ」
    「行かない。お前の体調が悪い時に無理させたくない」
    「無理じゃない」
    「行かないったら行かない」
    「あっそ。勝手にしろよ」
    僕らはどちらも頑固者だったのでしょっちゅう言い争いをした。そしていつも、少しだけ大人のバッキーが折れて遊びに来てくれて、僕はそれを受け入れてやるという体裁を保たせてもらっていた。本当はまた来てくれてとてもほっとしていた。
    画材をなぞる指の小鳩のような優美さを、濃い重たそうな睫毛を、ブルネットの猫っ毛を、柔らかそうな口元を、何枚スケッチしてもしたりない。白状しよう、僕はバッキーが好きで、欲しい。蠱惑的な東欧系の顔立ちも、しなやかな肢体も、近づいた時にふと香る甘酸っぱい汗の匂いも、意外と大らかな考え方も、存在丸ごと愛おしい。最初は、この浮かれた気持ちはいつか収まるだろう思っていた。だが想いは日々強まるばかりで、バッキーが健やかに笑っているだけで胸が潰れそうになった。
    初の恋心に輪をかけて僕を困らせたのは、バッキーを見ているとあそこがムズムズしてとにかく擦りたいという強い気持ちに襲われるようになったことだ。自分の手でも、枕でもいい、あわよくばバッキーにめちゃくちゃに擦りつけたい、そんな欲求を覚える自分に危険を感じる。くそ、おしっこをしたいときみたいにムズムズする。バッキーを想像しながらそっとそこを右手で揉んでみると、気持ちよくて気持ちよくて手の動きが激しくなっていく。
    「ああ、バッキー……バッキー……!」
    夜、ベッドの中で何度汚したことだろう。自慰をしてしまった時は翌日まで背徳感で何事にも身が入らない。せっかく相手が遊びに来てくれたのに無為に時間が過ぎ、時計を見たバッキーが立ち上がる。
    「帰らなきゃ」
    「もう? 日が長くなったからまだまだ明るい」
    「門限は17時」
    「お父さまね」
    「……ごめん」
    「別に」
    自分のせいで満足な時間が過ごせなかったくせに、僕は「お父さま」への対抗心もあってバッキーにきつく当たる。バッキーは苦しげに目を伏せて立ち尽くし、もう一度腰を下ろすと、ぎゅっと膝を抱き締めた。
    「……帰りたくないな」
    相手も一緒に居たいと思ってくれているのだ、と僕は舞い上がる。
    「泊まっていけばいい」
    「ううん……でも……」
    「なんでも描いてあげる。ゲームもしよう」
    「……おうちの人がきっとだめって言う」
    「そんなの聞いてみないと分からないだろ」
    「じゃあ聞いてみて。今日は帰る」
    「バッキー、いつからそんなに臆病になったんだ。平気だよ」
    食い下がったがバッキーの意思は固く、17時に間に合うために風のように走って行ってしまった。僕はその日、帰ってきた母にまとわりついてバッキーがいかにいい子であるか、この交友が有益であるかを説き、バッキーの両親の承諾を条件にお泊まり会開催の許可をもぎ取った。
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