いまは遠い国のあなたへ『絶対やだ』
「え、そんなに? いつも前向きなやっくんがそんなに全否定するなんて逆に興味があるんだけど」
『うるせえな、いきなり何言い出すのかと思えばサルかよ』
「サルじゃありませんー、遠いところにいる恋人と、せめて声だけでもそばにいたいっていう恋心ですー」
『下心の間違いだろ』
「いいじゃん衛輔も俺も気持ちよくなれるんだし」
『へーえ、お前は入れられたら何でもいいのかよ』
「んなわけないでしょ」
『お前のせいで、こっちは物足りないんだよ』
「は?」
『お前が俺に教えたんだからな。お前のじゃないと届かない、俺のイイところ』
「……今度会うとき、覚えてろよ。ぜーったい寝かさねえからな!」
『おー、期待してる』
「ちょっとー、もー少し感情込めてくださいよー」
『代表合宿参加して、そのあと国際試合に出るってわかってて手ェ出す度胸に免じて、抱かれてやるっつってんだよ、こっちは』
「そんな度胸はないですね」
『はっ、お前のそーいうとこすげえ好きだけど、ときどき腹立たしいわ』
「えっ、ごめん」
『いいけど。俺のこともバレーも、大事にしてんのはわかってるけど、俺はそんなに柔じゃねえんだわ』
「それはさー、わかってるけど」
『うん。だから、帰国日一日前倒しにしたから』
「は? え? え? なんて?」
『だから、欲求不満の鉄朗くんのために、一日早く帰ってやるって言ってんだよ』
「ぐう……」
『なんだよ、嬉しくねえの?』
「嬉しいです! 嬉しいけど、俺だけが会いたいみたいなのはさあ、フェアじゃないと思うわけ」
『ばーか、俺だって一秒でも早く会いたいから時間作ってるんだろうが。なに、皆まで言わないと安心できないくらい、俺がいないの淋しいのかよ』
「淋しいよ」
『素直じゃん』
「ボクはいつも素直ですよ? だからさっきから電話でシたいって言ってんダロ」
『それは却下しただろうが』
「なんでだよ」
「そういや衛輔、空港着くの何時?」
『教えない』
「は? なんで?」
『教えたら迎えに来る気だろ』
「そりゃそうだろ。早く会いたいし」
『それは俺もだけど、だからダメ』
「なに、衛輔サンは俺の顔見たら我慢できなくなっちゃいそうなの?」
『うん』
「え、」
『15時くらいにはお前んち着くと思うから、それまでいい子で待ってろよ』
***
(家にいても落ち着かねえし、明日はたぶん昼まで外には出ないだろうから食料調達って思ったけど、明らかに買いすぎた)
「おかえり、ナイスタイミングだな」
「……ただいま、え、なんで」
「予定より早く着いた。シャワー借りたぞ」
「あ、うん、それはいいけど」
「すげえ量だな、夕飯なに? 久しぶりに鉄朗の野菜炒め食いたい」
「おかえり」
「ただいま」
「野菜炒めは作るし、デザートもつけるけど、今は衛輔が欲しい」
「てつろ、も、いいから」
「っ煽んなって、久しぶりなんだし、傷つけたくない」
「大丈夫、だから」
「大丈夫っ…て、え、衛輔さん後ろどうしたの?」
「帰ってきたらまずお前に会うのわかってんだから、準備くらいするし……なに? 楽しみだったの俺だけかよ」
「俺だって死ぬほど楽しみにしてたよ」
「死んだらできねーだろ」
「言葉のあやだよ、くそっ」
「なーんでそこで不機嫌になんの」
「…馬鹿なこと言うけど」
「わかってんなら言うな」
「衛輔が自分で準備してくれてたことにも、嫉妬してる」
「ふ、はははは!」
「ちょっと、やっくん! 今はやめて、泣きそう」
「だってお前が可愛いこと言うからさあ」
「……」
「俺はお前しか好きじゃないのに、何をそんなに心狭くする必要があんだよ」
「どうせ俺は小さい男ですよー」
「図体はこんなデカいのにな」
「でも衛輔だって、俺のデカいの好きデショ?」
「…まあな。指じゃ届かないところまで、満足させてくれよ?」
「やっくんがえっぐい腰使いとかになってなくてよかった」
「お望みなら考えてやってもいいが、それって向こうで誰かとそういう練習するってことだけど、それでお前は大丈夫かよ」
「大丈夫じゃないですね」
「じゃあ寝ぼけたこと言ってんじゃねえ」
「だって衛輔ってば美人好きじゃん。リエーフの姉ちゃんに鼻の下伸ばしたりしてたし」
「美人見ちゃうのは仕方ねえだろ、美人なんだし。そーいや、リエーフは今姉弟でモデルやってるんだよなあ」
「あ、いや、やっぱ今のナシで」
「お前が振ってきたんだろうが」
「ベッドで他の男の話しないでくださーい」
「あれ、でも久しぶりにしては感度よかったよね? 後ろ以外もいじってた?」
「うるせえな」
「ちょっと、衛輔さん、一人でするくらないなら通話でシてくれてもよかったじゃん。俺にも聞かせてよ」
「やだよ」
「なんでよ」
「なんでも! つーか、そんなあやふやなことより、今目の前にいる恋人を構えよな!」