黒尾鉄朗の悪夢(後編)「牛島選手とは上手くやってますか、夜久選手」
「げ」
「げってなんだよ。第一声がそれって、あんまりじゃないですかー?」
パリへの切符を賭けたワールドカップに出場するため、ポーランドから帰ってきた夜久を代表合宿会場のロビーで出迎えると、あからさまに嫌な顔をされた。
ロシアにいた頃と同じようにハイブランドスーツに身を包んだ夜久からは、予想通り前とは違う香りがした。だけどそれは夜久だけのものではなかったことが、俺の意図を含めて夜久にはちゃんと伝わったらしい。満足を露わににっこり笑ってみせる俺に対して、夜久はサングラス越しにもわかるくらい憮然としていた。
「ちょっと話しません?」
「お前、これが話したい顔に見えるか」
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