灯火 貴方の中に長野上官はいらっしゃるのでしょうか? まあそう聞いても、貴方は答えてはくださらないのでしょう。……
そのような、そこはかとない未練のようなものが読み取られても不思議ではない書き出しで、信越本線が北陸新幹線に対して綴った手紙を、置き手紙として長野駅に残したのは、澄んだ青空に、薄くちぎれたような雲が浮かんだり風に乗って移動したりする、穏やかな秋の訪れを思わせる日のことだった。そしてこの日はまた、北陸新幹線が高崎駅・長野駅間を開業させてからちょうど二十五周年を迎えた日でもあった。令和四年の十月一日である。この年は国に鉄道が開業してから百五十年を迎え、さらには東日本の誇る全ての新幹線が五年刻み、あるいは十年刻みの周年を迎える年であるために、年始からどことなく浮き足立っている雰囲気がゆく先々で見てとれた。一声の産声が新橋駅に響いてから百五十年もの月日が経つ日を僅か二週間後に備えて人々の気分も高揚している、ちょうどそんな時期に北陸新幹線は二十五歳の誕生日を祝われたのだった。空模様は晴れやかな日に相応しかった。
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