舌の色もきみの色1#
「暑い……なんでこんなに暑いんですかぁ……」
「仕方ないよ、夏なんだから」
茹だって机に伏している私、カブさんは苦笑しながら麦茶を置いてくれた。
喉に流し込むと冷たさから少しだけ復活する。生き返ると呟くと、彼は口元を綻ばせた。
「でも、今年は酷暑だね。ホウエンでもここまで暑い事はなかったし」
「ホウエンでさえですか……」
昨年、一緒に里帰りさせて貰った時に南国の暑さを体験したが、あそこより暑いってこの星は今どうなってるんだ……?
うんうん唸っている私にカブさんは思い出した様に提案をした。
「少し涼を求めてかき氷でもしようか?」
「カキゴオリですか……? オニゴオリでなくて?」
ダンボールから上にレバーが付いた機械を取り出す。
「このかき氷機に氷をセットしてレバーを回すと氷が削れて落ちてくるんだ。その上にシロップをかけて食べるんだけど、なかなかだよ」
食べるかい? と問われれば一も二もなく頷く。
カブさんは製氷室を開けて食べる分だけの氷を取り出す。ボールに入れた氷は傍に置かれるだけで涼しく感じる。
数個の氷の塊を取り出しかき氷機で削ると、淡雪に似た柔らかそうな氷が積もっていく。
ふわふわの氷山が出来た所で止め、私の前に差し出してくれた。
「君は何味がいいかな? モモン味、タポル味それから……」
ダンボールの中から大量のシロップが出てくる。色とりどりに目を奪われながら、1つのシロップを手に取った。
「これは……?」
手に取ったシロップは他のものより赤く、透明度が高いものだった。
「それかい? イチゴ味だよ」
「モモンより透明度が高いですね……」
「安めのシロップだからね。果汁は入ってないんだよ」
「イチゴ風味シロップですか」
カブさんはそうだねと笑いながら肯定した。
サクサクの氷に赤いシロップをかけて私の前に置く。
「ゆっくり食べるといいよ。頭がキーンとなってしまうからね」
微笑みながら自分の分のかき氷も作り出す。
カブさんはだいぶ年上だけど物言いが可愛らしい所があると思う。そう言うときっとジジイをからかうんじゃないよと反論されるだろうけど。
食べ進めていくと、氷の冷たさで幾分か暑さがうちになる。
氷の山を崩している時にカブさんがおもむろに舌を出した。
「これ色味が強くてね、舌が色に染まってしまうんだよ」
ベッと出して見せてくれた舌が赤く染まっている。
「私もなってますかね?」
カブさんに見せるように舌を出すと、こちらに身を乗り出して顎に手を添えてくれた。
「どれどれ……?」
しげしげと見ながら、真剣な眼差しでどぎまきする。近いと言おうとした時、カブさんの唇が私の舌に吸い付いてそのまま唇を奪われる。
――甘い、冷たい、暑い。
何分経ったか分からないが、かき氷が先程より山が崩れている。
「卑怯だったかな?」
眉毛を八の字にして謝られると、少しだけムッとした気持ちも何処へやら。
惚れた弱みじゃないけどカブさんだし、いっかでまたかき氷を食べ始めながら。嫌じゃないです。と返した。
良かったと安堵するカブさんを見ていたずら心が湧く。
「カブさん、卑怯というなら続きはベッドの上で?」
ニコリと告げると、カブさんはスプーンを落とし、顔はシロップより赤く染まったのだった。