赤髪海賊団がまだできたばかりの頃新人2人が入団した。ほぼ同時期の入団ということもあり、2人はセットで扱われることが多かった。
「ホンゴウ、ライムお使い頼めるか?」
「ああ」
「またこいつとかよ」
ライムはいい加減セットで扱われることが嫌になっているようだ。ホンゴウはというとそこまで気にしていない。お使いに行く理由も余ったお釣りはお小遣いとしてもらえるから若い2人は断らない。
「じゃあホンゴウに5000ベリー預けておくぞ」
ヤソップはどこから持ってきたのかわからないカエルのガマ口財布を渡した。受け取ると仲良く…とは言えないもののそれなりに会話しながら船を降りていった。
「だいたいなせっかく海賊になったってのにこんな生活前とたいして変わんねーよ」
「前?」
船に乗る前のお互いの素性はわからないから反射的に聞き返したが焦ったように濁された。
「んなこたーどうでもいいんだよ」
口調こそ適当だが頼まれたことはきちんとこなすライムはどこかお利口さんたのだと思う。お利口さんと本人に直接言ってしまえば容赦なくボコられるが。
「悪い悪い、それより早く酒屋を探そう、な?」
「おう」
そういえば歳を聞いていなかったことを思い出した。海賊なのだし法なんかは気にしないのだがなんとなく気になった。酒なんていくつで飲んだってうまいものはうまい。
「ライムって今年でいくつになったんだ?」
酒屋を探してキョロキョロ周りを見渡していたがスッと立ち止まった。
「おっとと急に立ち止まるなよ」
「別に歳なんて関係ないだろ」
「まぁそうだが…」
また機嫌を損ねてしまったかと反省する。今回はすぐに治ってほしいものだなと願う。この町は小さな港町だが小さいからこそ山の斜面まで建物が建っている。町は入り組んでいるし坂も多い。初めてくる者には少々難しい。
「ったくよりにもよってこんな町で俺たちの担当かよ」
「まぁまぁ」
「あ、住民に聞けば手っ取り早いじゃねぇか」
それもそうだと納得してすぐそばを歩いていた女性に声をかけた。
「あのーその辺りで酒屋ってありますか」
横から小声で囁かれた。
「お前そんな丁寧な口調で話せたのかよ」
なんだか煽られているようにも感じたが女性との会話を遮るわけにもいかず一旦無視した。
「ありがとうございます」
「長い」
そんなに話していなかったはずだが機嫌が悪いならしょうがないか。
「女と話すのは楽しいかよ」
「べべべ、別に男なんだからいいだろ」
ライムのスネ具合がMAXに近い。やばいなそろそろどうにかしてやらないといけないと策を頭の中で考えめぐらせる。
「早く酒場まで行くぞ」
先に足を進めていたのかいつのまにか2メートルほど先にいた。
「あぁ」
坂の上にいるライムの元へ行こうとすると、ふとゴロゴロと何かが転がってくる音が聞こえた。
「ぁん?」
ライムも気になって道の先を眺めているとオレンジ色の何かが転がってくるではないか。
「「はぁ?!」」
ともかくこのままだとアレに轢かれるため急いで避難する。ライムは何故かあの場から動かない。しかし危険なためライムを無理矢理動かすことにした。坂を駆け上がり担ぎ上げる。
「ちょっ!降ろせよ!」
「あっぶないだろ!」
足をジタバタと動かして抗おうとしている。
「だーかーらー!アレを避けたら下の町が危ないだろ!」
盲点だったとしか言えない。ライムは腰を掴む手が緩んだ隙にひょいっと地面に降り立った。どこからともなく愛用の武器を取り出して構えている。なんとなく悔しいと思った。だが今は俺もやらなくちゃならない。
「俺もやる」
「そうかよっ!」
気づけばアレは目と鼻の先まで近づいていた。止める策はないがとりあえず攻撃して止めてみることにした。
「ライムは俺と向かい合って前からアレを攻撃しろ」
「…おう」
一歩下がりお互いに武器を構える。タイミングはいつだって人に合わせる方が上手くいく。ライムが振りかぶる瞬間に合わせて互いに横に武器を振る。
バンっ!
2人に重みが乗っかってくるがしばらく耐えていると衝撃からオレンジの物体は破裂した。
オレンジ色の物体はカボチャだった。
「カボチャ…って」
「なんでまたこんなもんが」
放心していると怒号が聞こえてきた。
「バカもんが!!それはジャック・オー・ランタン用のカボチャだったってのに破壊してくれよって!!!」
頭の頭頂部から髪がかろうじて一本生えているへんな老人が上から駆け降りてくるのが見えた。
「もしかしてだが…」
ゆっくりと視線をずらして横を見ると覚悟を決めた顔をしていた。
「よし、ずらかろう」
よく見ると坂の下からも怒った住民が怒鳴っているようでその道は避けなければならない。
「ホンゴウ!こっちだ!」
身軽なライムはいつのまにか誰かの家の屋根の上にいた。足場を探して屋根の上に上がるとあとは楽に逃げられそうだった。家屋が密集してる分屋根も多い。
「今更だが手土産だけでも持って帰るか?」
走りながらライムはなにか思いついたようだ。
「だが今の俺たちじゃ店には行けないだろ」
お手持ちの武器でどつかれてしまった。
「お前なぁ海賊なら奪わねェとだろ」
さっきまで住民を助けようなんて台詞吐いてたのはどこのどいつだとツッコミたくなる。しかしツッコむ間もなくライムは下の町へ屋根伝いに飛び降りていった。
「あーあー待てって」
あの身軽な体躯がこういう時は羨ましいやらなんやら…。ともかく早く追いつくべく屋根を滑り降りたり飛び越えたりするうちに町の中央までついた。
「ライムーどこだー」
気だるげに名前を呼ぶが返事はない。
「あ!お前お化けカボチャ壊したやつだろ!!」
足元から声がした。
小さな子供が背伸びして喚いている。
「あれお化けカボチャっていうのか?」
屈んでやると踵をぺたりと地面につけて目を向けてきた。
「そーだよ!俺のじいちゃんが今年こそはって育てた最後のカボチャなんだよ!」
半分怒っているのか泣いているのかわからないほどの感情で喚いていた。小さな手でポカポカと殴ってくるが痛みは感じない。
「悪かったな」
「あやまるだけじゃ海軍はいらねぇよ!」
しかしそんなことを言われてもホンゴウにはどうすることもできない。
「わかったわかった。じゃあ俺はどうすればいいんだ?」
子供を宥めるように言うとしばらく考え込んでしまった。しまいには地面に座り込んで何か書き出している。
「よし!」
「何のよし!だ?」
見上げてきた子供の顔は見覚えがあった。いや、正確にはこの表情というのだろうか。これは───
「悪いこと思いついた顔…だな」
「そーだぜ⭐︎」
「うわっウィンクで星飛ばすなよ」
ひゅっと星を避けるように避ける。
「よけんなよー!」
面倒なことに巻き込まれたと思った。こんな子供吹っ切ることもできたのだが『海軍』という言葉を出されると海賊としてはまずい。渋々付き合うことにした。
「その前におっさんなんていうんだ」
一瞬凍りつきそうになった。子供とはいつも考えなしに言ってくるものだと実感した。
「俺は、そうだなゴウさんとでも読んでくれれば…」
「ゴウ行くぞ!!」
名前ぐらいは誤魔化そうとしたら早速呼び捨てにされた。だがホンゴウの前を意気揚々と歩く少年はなぜか笑顔だった。
「それでいいよ。お前はなんて名前だ?」
少年は答えてくれなかった。
「少年って呼ぶけどいいのか?」
「うん」
不思議な子だ。
少年はホンゴウを引き連れて細い道をずんずんと進んでいく。この町に住み慣れているのだろう。
「どこに行くんだ」
気になって聞いてみるがあとのお楽しみーとケラケラ笑われた。さっきまでカボチャがと泣き喚いていた少年はどこにいったというのだ。呆れながらもついていく。しばらく歩くとさすがにホンゴウが通れないほどの細い道に来てしまった。
「俺は通れないみたいだから他の道から行くか」
「何言ってんだよ。ゴウはでかいからちっちゃくなってもらうぞ」
「へ?」
ポカーンとしている間に動物の耳のような髪飾りを取り出していた。
「これは?」
「ふっふっふ」
またしても笑うばかりで答えてくれない。
「しゃがまねーとつけられないだろ!」
「はいはい」
屈むと頭に髪飾りをつけられた。違和感を感じて取ろうとすると腕を弾かれた。
「え、」
弾かれたことに驚く間も無く少年を見上げていることに気がついた。
「はぁ?!」
どういうことだ立ち上がると流石に少年より少しは背丈はあったがまるで縮んだようにしか思えない。だがそんなことあっていいのか。あり得ないだろ
「どどど、どういうことだよこれ!!」
「せっかくハロウィンなんだから子供姿じゃないとドレスコードに乗っ取れないだろ?」
子供のくせどこでそんなのを覚えたのかわからない。それに聞きたいことはそれじゃない。
「違うわ!なんで縮んでるんだって話だよ!」
仕組みというか普通に考えてあり得ない。偉大なる航路だとこんなことも起きるって噂は聞いたことあるがまだ普通の海だ。信じられない!
「信じられないってどういうこと?」
心の声が漏れていたようだ。少年には都合の悪いとこだけ子供らしくはぐらかされてしまう。ライムだって見つかっていないのに寄り道してこんなことになるなんて。
「ぁーーー‼︎」
「あらら、爆発しちゃった」
「誰のせいだと思ってんだこのガキ‼︎」
「いやここ改丁する流れでしょ」
いちいちメタ発言をしてくるんじゃない!