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    さかな

    @fish_and_sakana

    青春鉄道二次創作を書いています

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    さかな

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    紙端国体劇場様青春鉄道二次創作
    小さくなった内房の話

    書きかけ
    多分この後お昼は外房が持ってくるし、千葉ズ総出で構ってくれるし、お昼寝タイムあるし、お夕飯だってみんな揃うし、いつの間にか中央さん居座ってるし、次の朝には戻ってるかもしれないし、戻ってないかもしれない

    内房の話 ――え?
     内房は混乱した。それはもうとても。
     身体の違和感に起き上がろうと思った。視界に入った手が随分と小さい。それだけでも意味が分からないのに、立ち上がっても低い視界。鏡を見れば随分と昔に見た自分の姿が映る。
     ――えぇ?
     ペタペタと自分のほっぺを両手で触るが、本物だ。本物でないわけがないのだが。夢でもなさそうだ。鏡に触れても変わらない。実は鏡の世界でした、というわけでもないようだ。
    「そ、そとぼぉぉぉぉっ!」
     慌てて隣室の外房の元へ走る。
     いつも通り走っているはずなのに随分と遅い。取手も高くて使いづらかった。
     今日二人揃って蘇我駅にいる日でよかった。そう思っているのにそこまで思考が回らない。何が起きているのか、把握することもできず。ただただ、外房に助けを求めることしか頭になかった。
    「おい、外房! ヤベェ!」
     布団に入って寝ている外房にドスッと乗っかる。外房が寝ている時間、となると相当早い時間、もしくは夜の遅い時間だ。そんなことを考える余裕もなく内房は外房を揺する。こんな意味の分からない状況で独りぼっちは怖かった。
    「寝てんなって外房! マジやべぇ!」
     助けて外房!
     半泣きで叫んでしまったのは致し方がない。怖くて仕方がなかったのだから。
     余程うるさかったのだろう。外房は「ダーッ! っるっせぇ!」と叫びながら起き上がった。内房としては起きてくれただけで充分だ。一人は怖かった。
     ただ、外房の起き上がる勢いが思ったよりも良くて後ろへ転がる。布団があるので大して痛みはない。
     起き上がって身体を伸ばしてようやく。
     外房は内房の方を見た。
    「あ? う――木更津?」
    「内房で間違いないですけど!?」
     バッと起き上がりながら叫ぶ。確かに大きさ的にはそうなるだろう。
     小さなモミジの手、ぷにぷにしている頬、小さな身体。恐らく見た目の時代を考えれば、今の内房は木更津の時の大きさ。それでも彼に木更津扱いされるのは違う気がして。
    「いや、完全に見た目は木更津だわ。俺が可愛い子を間違えるわけがない」
    「発言だけ聞けばヤベェ奴だわ」
     起きてものすごく混乱していたはずだ。だが、内房よりも外房の方が混乱しているように見えるのはなぜか。いつも冷静な外房が、内房が小さくなったくらいでこんなに混乱している。おかげで内房も冷静になれたわけだが。
     ――そう、小さくなっただけだ
     もとよりあまり考えるのは得意ではない。仕事に支障がないのなら問題ないだろう。総武もこんな小さいことを気にするような狭量でもないのだ。なら、さっさと仕度した方が良いのだろうか。
    「つかなんで? 京葉がなんかしたのか?」
     ハッとした様子で外房が言う。まさかの飛び火に内房は遠くを見る。
    「朝起きたら小さくなってたんだよ……どうしよう」
    「俺に任せろ、木更津」
    「だから内房」
     そろそろ訂正も面倒になってきたな。
     別に名前が違うと言っても昔の呼び名だ。
     気にするほどのことでもないのかもしれない。
     内房は首を傾ぐにとどめた。

     ***

     千葉駅へ出勤した時点で、内房はとても疲れていた。
     あれから状況を理解した外房へ仕事の準備をする。そう告げると外房の様子が変わったのだ。彼は慌てて「今日は休め」と。
     別に元からそこまで賢いわけでもないし、身体が小さくなっただけだ。今は極端な力仕事はないのだから、身体が小さくても困らない。職員達も事情を話せば協力してくれるだろう。
     そう伝えたが、外房の主張は変わらなかった。
     ならば総武に指示を仰ぐべきだ。そう主張した内房に外房はやっと頷いてくれた。それから、どこから出したのか今の内房にピッタリなサイズの国鉄服を出す。着せてくれようとするので、自分で着ると伝えた。その時の外房は随分落ち込んでいるように見えたがなぜなのだろうか。
     それから外房の作ったご飯を食べてやっと千葉駅へ。
     自分で歩けるのに、外房に抱っこされて移動。確かに今の内房は小さいので歩くのは遅いが。駅では職員からは誰との子だ? と何度も聞かれた。自分は内房だと主張すると理解してもらえたようだが、もう答えるのも面倒で外房にくっ付いていたのは便利だと思う。
     ――俺、もう頑張ったって……
    「総武さん! 成田! 内房が……!」
     千葉駅の詰め所へ入れば外房に呼ばれた二人がいた。
     久留里は少し遅い時間に千葉着で、東金は更に時間がズレている。そのことを内房はすっかり忘れていたが、外房はちゃんと覚えていたらしい。混乱していても情報整理ができるのは本当に羨ましいと思う。
    「んあ? 騒々しいな外房――ってガキ?」
    「なに? とうとう内房との間に子どもができた? 内房似で良かったね」
    「いや、俺内房なんだけど」
     もう何度目かになる言葉に沈黙が落ちる。
     というか、成田の「とうとう」ってなんだ? と内心首を傾ぐ。外房を見上げても、特にそこに言及することはないようだ。内房を抱く腕を強くしながら彼等へ寄る。そろそろ降ろしてくれてもいいのだが、それを言うタイミングを逃してしまった。
    「内房似の子どもなんざ要らねぇ! つか、この子だけで十分だわ!」
    「違う、そうじゃない」
     もう何なんだ。
    「おう、内房。冷静だな」
     総武が近付いてきて声をかけてくれる。そろそろ本当に疲れた。
    「最初はマジで焦ったんスけど、外房がこうだから、なんか……ハイ」
     理由を考えるよりも外房の暴走を止めないと大事になることは分かっている。外房は今でこそ内房と並んで遊んでくれるが、実力は拮抗していない。彼の方が圧倒的に実力は上なのだ。卑下しているわけではない、事実。
     だから、外房が混乱して周りに被害を出すのだけは止めなくてはならない。それは、多分内房にしかできないことだから。
    「まぁ、正しい判断だわな……とりあえず、お前はどうしたい?」
     しっかり内房の目を見て言ってくれる総武に内房は返事に迷う。
    「はぁ!? ちょ、なに考えてんスか、総武さん!」
    「オメーには聞いてない、外房。――内房はどうしたい?」
     外房の反論をひと睨みで封じて、再度内房へ問う。
    「俺、内房だから、仕事できます」
     記憶まで退行しているわけではない。
     総武に伝えれば彼は「よし」と笑った。
    「じゃぁ、内房は勤務な。そろそろ久留里が来るだろう。今日は久留里と行動しろ。小さい身体で一人だと不便だろうからな」
     確かにそうだ。
     チラリと外房を見上げれば、総武と外房がアイコンタクトを取っているのを見た。内房の知らない彼等だ、分かるはずもない。
    「とりあえず、茶ァ飲んで落ち着くか」
     総武の言葉に何となく空気が緩んだ気がした。

     ***

     見目だけ幼くなった内房を、「木更津ちゃんだ! 可愛い!!」と楽しそうな久留里に預けて、総武はやっと一息ついた。
     外房と内房が揃って出勤して、久留里がきて楽しそうにしていたところまでは良い。その更に後に出勤してきた東金が外房の逆鱗に触れたせいで阿鼻叫喚だ。内房の見目が小さくなって彼が木更津と呼ばれていた頃を追憶している外房に対して、「合法ショタ」はガチの禁句。中身が内房じゃなかったら、総武もキレてるところだが。
    「そろそろ東金が遅延しかねないと思いますよ、総武さん」
     茶をすすりながら言う成田に総武は溜め息を吐く。
    「お前が止めろよ……あの外房は面倒だぞ……」
     あの男が何よりも大切にしていた子だ。あの子に何かあれば当時の房総は止められなかった。そんな状態に戻りつつあるのは、あの子が儚い姿をすることに耐えられないから。今でこそ対等に喧嘩などしているが。
     もともと外房の方が身体能力を始め能力が高い。体格が同じになって、それでいて様々な武術を二人で習いに行っていたのは総武にとっていい思い出だ。軍事的な拠点だから、というお上からの命令のことを知っているのは総武だけだが。
     おかげで彼等の能力はおおむね同等。但し、喧嘩は除く。喧嘩は武術じゃない。感情的になったそれで急所を狙い続けるなんて冷静な思考がないとできないだろう。強い感情とそれとは別の思考回路。それを持つ外房の方が実は強い。
     ――でも、今は誰も俺からあの子を奪わないでしょう?
     そう言って冷静な思考を封じている外房にゾッとしたのは総武だけじゃない。実害がないから、総武も黙っていられることだ。
     だが今はダメだ。
     あの子の見目が幼い。それだけで、外房はあの子を奪われると警戒する。
    「でも、あの外房がずっと内房と一緒にいると内房の精神衛生上良くないですよね」
    「否定できないな」
     外房が隠した真実に気付いてしまえば、傷付くのは他でもないあの子だ。喧嘩をすることが対等だと教えたつもりはないが、あの子はそう思っている。対等な喧嘩こそ、と。
     ――誰だ、そんなこと教えたヤツ
     と元房総鉄道の二人組をみて再度大きく溜息を吐くこととなった。
    「オメーらいい加減にしろよ。外房もそう神経質になる必要はねぇだろ」
     アイツは内房だ。それはちゃんと生活能力が相応にあること、仕事はできると言い切ったことから分かる。見目が幼い子どもという儚い存在というだけで、あの子の意思を尊重しなくていい理由にはならない。ちゃんと意思決定ができる。
     それが分かっているだけでも十分だ。
     なにより、総武も中央と入れ替わったことがあるが寝れば治った。あの子も寝れば治る可能性がないともない。万が一の時に慌てればいいだろう。まだ慌てる必要はない。
    「でも総武さん、あの姿は」
     グシャッと表情を歪める外房に総武は言葉を探す。
     分かっている。外房は何よりも内房に何かあることが許せないことくらい。だからと言って見目の幼くなった内房に不自由を避けていい理由はないのだが。
    「誘拐とかされたら、って考えるのも分かるけど、内房には久留里もいるし職員達もついてる。あの姿で一人になることはないよね」
     成田の言葉に沈黙が落ちる。
    「誘拐?」
     別の逆鱗に触れたことを察して成田を睨んだ。当の本人はニッと笑っているので、誰の味方か分かったものじゃない。
    「子ども目当て、っていうのも聞かない話じゃないでしょ?」
     外房を煽っている成田を眺めながら、総武も社用スマホを弄るのは致し方がないだろう。
     ――確かにあるな、って思っちまったからな
     久留里と内房線職員に通達を出すのは致し方ないだろう。
    「ほら、合法ショタ!」
    「お前はマジ黙ってろ、東金」
     外房が暴走したら大変な思いをするのは誰だと思っているのか。

     ***

     内房は久留里に抱っこされていた。
    「いや、俺普通に移動できるけど」
     歩いている時は手を引かれ、疲れたなと思えば久留里の腕の中。多少の疲れくらいなら我慢できるのだが、久留里は納得しなかった。それどころか、抱っこしてるから寝ても良いよとすら言ってくる。今更、プライドだなんだというつもりはない。何年も一緒に居るのだ、久留里が案外に子どもを世話できることも知っている。
     それに対してどうこういうつもりもない。なにせ、幼い頃は彼の方が立端はあったし、体力もあった。国鉄と県営の所属の違いが育ちの違いを生んだのは考えるまでもない。
    「見た目が木更津ちゃんだから、可愛くって仕方ない」
    「そーかよ」
     パッと笑って言うものだから、内房もツッコミ疲れた。
     そう言えば、千葉駅を出てから駅員達に見守られることはあっても、内房がこのサイズのことに何を言う職員もいない。恐らく、総武が通達か何かを出したのだろう。本当にその辺りしっかりしている、憧れの格好いい御人だ。
     楽しそうな久留里を腕の中から見上げて首を傾ぐ。
     ――コイツ、こんなに大きかったっけ?
     抱っこされていて思ったが、内房をずっと抱えているというのにびくともしない。不安定になることもなければ、落とされそうになることだって当然。
     ――なんだかなぁ……
     一人だけ立派になられたみたいで寂しくなる。多分そうだ。
    「でも内房、よく仕事するなんて言ったよな。なにかと物騒じゃん?」
     サラリと言われた言葉に内房は目を丸くする。久留里もそれを理解したのだろう。小さく笑って「小さい子は昔と同じく危ない」と再度言った。
    「昔は儚い存在でいつ命が奪われてもおかしくない存在だった」
     久留里の穏やかな声がする。語り掛けるように伝えてくるそれを、内房は上手く噛み砕けない。
    「今は性犯罪とか誘拐とか。そういうのもある。内房、今実は結構危ないと思うんだよね」
     総武さん達、それ気付いてるのかな? サラリと久留里は言った。
     ――そうだ、コイツは
     いつも内房達が気付かないことに気付く。勘が良い外房達とは違う、事物を斜めに構えてみているのかと思うような。全く違う視点で指摘されることが多いのだ。
    「だから、木更津ちゃん。今日は1人行動禁止でーす」
     軽い調子で言ってくれるのは、内房が怖がらないためだろうか。
     ――さすがに、怖がるほど精神的にガキじゃない
     それでも、抵抗できない怖さを知らないわけではなかった。忘れていたけれど。力は確実にいつものようにはいかない。人間達にも、力で敵わないだろう。
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