バレンタイン寮室のドアを開けると、どうやら乱くんの方が仕事が早く終わったみたいだった。
「……おかえり、薫くん」
「ただいま☆ ……あっ、それって」
「……うん」
乱くんは手にしている小箱の中を眺めていた。なんだか嬉しそう。初めの頃は、乱くんの感情がわかりづらかったけど、しばらくこうして一緒に暮らしているとだんだんわかってきた。……とはいえ、突拍子のないことをしてることもあるんだけどね。
話を戻すと、小箱の中にはバラが入っていた。正確には、バラの形をしたチョコレート。
「……渉くんからもらったんだ」
「そっか~、よかったね。……日々樹くん、ES中に配り歩いているみたいでさ、ほんとサプライズが好きだよね」
さっき見かけた日々樹くん(俺のことを『カオルンルン♪』と呼ぶのはそろそろやめてほしいところなんだけど)の姿を思い返して、そんな話をした。
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