檸檬「……本で、読んだんだ」
「だからってあんなことをする必要はないと思いますが!?」
こめかみを押さえながら、茨は叫んだ。この光景は二回目だ。床に正座する凪砂。その服には【私はブックルームでの騒動の犯人です】と書かれた張り紙がついていた。ただ以前と異なり、ここは事務所ではなく星奏館であった。そして、隣にもう一人――
「おやぁ? 毒蛇さんはご存じではありませんでしたか」
「そういう問題ではありませんが!?」
全く悪びれるそぶりも見せず、にこにこと愛想を振りまく渉の姿に、頭痛が酷くなったような気がした。
「……以前の時もそうだったけど、私の行いのどこに罪があったのかな。」
更には凪砂もこの調子であった。ブックルームから始まり星奏館中が上を下への大騒ぎになった原因二名は、自らの行いをまるで反省するつもりがないようだ。じきに寮監の敬人もやってくるだろうが、果たして彼もこの二人に灸を据えられるだろうか。それにしても頭が痛い。茨は大きくため息をついた。
「……私たちは何も危険なことはしていないし、誰も傷つかなかった。だから、ここまで叱られる理由がないと思うのだけど」
「そうですよ? 私たちは、ただ皆さんに驚きをお届けしたかったんです…☆」
「ええ、そうですね、被害は出ていませんし非常に驚きました。ですが!」
ああ、冷静に断罪を下したかったものだが、どうにもペースが狂わされる。茨は、せめてもの抵抗として二人をきっと睨みつけた。
「『画集を積み上げ、レモンを乗せる』この行為の意味はわかっていますよね!?」
「……うん」
「もちろんです!」
そう、彼らはただ、ブックルームの床に画集をうず高く積み上げ、その上に、レモンに偽装したミラーボール(渉曰く、よりAmazingな感動を与えるため、とのことだったが)を置いただけだった。
勿論、これはかの小説のオマージュしたものであったため、第一発見者となった創と薫はすぐに原典が思い当たった。大変有名なシーンであるため、誰かが真似をしたのだろうという想像は難くなかった。ただ、作中では主人公が、その置き去りにしたレモンが大爆発をする『想像』をしていた。あくまでも想像ではあったが、もし自分たちの目の前にあるレモンが本当の爆弾であったら……念のため敬人に相談に向かった二人であったが、会話の端々より聞こえてきた「爆弾」という物騒なキーワードに驚いて声を上げた者がおり、その声を聞きつけた者がまた別の者を呼び……こうして、星奏館が大混乱となっていたのが、少し前の事だ。
ただ実際には、そのレモンは爆弾ではなくただのミラーボールのため、集まった大勢のアイドルたちの前で七色のライトを放ち、さながらパーティのようにブックルームを照らしただけであった。そこから、このような悪戯を仕出かすのは誰か?と全員が考えた結果たどり着いた答えは渉であり、それは正解だった。しかし茨にとって想定外であったのは、その提案をしたのがまさかの凪砂であったことだ。
「……ただ、少し驚かせすぎてしまったことは、私たちの失敗かもしれない」
「そうですねぇ。次に生かしましょうか」
「これで最後にしてください!」
ズレた反省会を始めた二人に茨は三たび叫んだ。やはり、自分ではこの二人はどうにもならない。下手に凪砂に反発されても困る。英智は渉を咎めるつもりがないようだ。敬人も手を焼くことは目に見えている。一体どのように御すればよいのだろうか、と、茨は再びこめかみを押さえるのだった。