バレンタイン寮室のドアを開けると、どうやら乱くんの方が仕事が早く終わったみたいだった。
「……おかえり、薫くん」
「ただいま☆ ……あっ、それって」
「……うん」
乱くんは手にしている小箱の中を眺めていた。なんだか嬉しそう。初めの頃は、乱くんの感情がわかりづらかったけど、しばらくこうして一緒に暮らしているとだんだんわかってきた。……とはいえ、突拍子のないことをしてることもあるんだけどね。
話を戻すと、小箱の中にはバラが入っていた。正確には、バラの形をしたチョコレート。
「……渉くんからもらったんだ」
「そっか~、よかったね。……日々樹くん、ES中に配り歩いているみたいでさ、ほんとサプライズが好きだよね」
さっき見かけた日々樹くん(俺のことを『カオルンルン♪』と呼ぶのはそろそろやめてほしいところなんだけど)の姿を思い返して、そんな話をした。
「……そうなの?」
待って。乱くんの声、なんか、動揺してない? 同室になったばかりの俺だったらきっと気づかなかっただろうけど、今の俺ならわかる。乱くん、動揺してる。
「あ……うん、次はニューディの事務所に行くって」
「……ありがとう、薫くん。ちょっと出かけてくるね」
小箱に蓋をして、乱くんは外に出て行った。……あー、これはちょっと面倒なことになっちゃうかも? 乱くんと日々樹くん、最近仲いいみたいだもんね。でも、日々樹くんが蒔いた種だし。乱くんは無事日々樹くんを見つけられるのかな、と考えながら、俺も小箱を開けることにした。