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    第三者から見た燭へしが好き

    #腐向け
    Rot
    #燭へし
    decorativeCandlestick

    燭へし惚気話 鶴丸編「この前長谷部くんに、怒られちゃったんだ。」

    「…ほう。」

     鶴丸は目玉だけをぐるりと動かし、周りに誰かいないか確かめた。生憎、昼飯の提供が終わった厨には、燭台切と己しかいない。鶴丸は、主の使いから帰ってきて昼食に出遅れたため、簡単に腹に入れられるものを用意してもらっているところである。厨には、完成した料理や調理器具を置くための机があり、椅子も備え付けてある。普段は、厨番の連中が芋の皮剥きや枝豆の鞘取りに使っている。また、夜中に腹を空かせた連中が、密かに夜食を貪るときにも重宝されている物だ。鶴丸はそこに座り、手際よく卵をかき混ぜ親子丼を用意する彼の様子をぼんやり眺めているところであった。燭台切は長めの後ろ髪を束ね、藤紫のエプロンを着けている。使いの途中で雨に降られた鶴丸同様、燭台切の髪も少し濡れていた。燭台切光忠にしては、非番らしく砕けた出立ちであった。

    「怒られたって、何をしでかしたんだ?」

     飯の礼も兼ねて友人の話に付き合うかと、水を向けてやる。燭台切は肉を食べやすい大きさに切り分けながら、口の端を持ち上げた。

    「この前、演練場で特が付いたばかりの長谷部くんが困っている様子でね。声をかけたんだ。それを見て、長谷部くんがよその俺にデレデレしすぎじゃないかって怒っちゃったんだ。それに、どうせお前もおぼこいへし切長谷部の方が好きなんだろうって、しきりに拗ねちゃってさ。可愛いよね。」

    「ほーん…。」

     お気づきかと思うが、これはいわゆる「惚気」である。そして鶴丸は、自分は燭台切光忠の惚気を聞くプロフェッショナルであると自負していた。

     まず、ここでは絶対に「そうだな。」などと適当に返事をしてはいけない。ここでいう彼の「可愛いよね。」には、「僕だけが彼の本当の可愛さを知っているのは当然として、それを僕の前で惜しげもなく見せてくれる彼って可愛いよね。誰もそんな長谷部くんを見たことはないだろうけど。」という意味が込められている。つまり、へし切長谷部の可愛さに下手に共感するのはご法度だ。骨董品の素人が、熟練の鑑定士を前にして「この壺は良い品ですねぇ。」などとのたまうような愚かな行為である。実際問題、鶴丸は長谷部のことを可愛い部類に分類したことは一度としてない。燭台切がそう思っているのならまあそう思わせておけ、といった所感である。燭台切は声を弾ませ、三つ葉を用意しながら続ける。

    「彼って最近、僕が他の刀に靡くはずないって分かっていて、わざと拗ねてみせるんだよね。僕を困らせることで、甘えてくれてるっていうのかな。」

     今日の伊達男は、いつになく恋刀について饒舌である。長谷部の反応がよほど嬉しかったようだ。我が本丸のへし切長谷部はかなり悋気深いたちであるが、付き合いはじめの頃は隠している様子だった。「長谷部くんって嫉妬という感情を知らないのかな。」と燭台切に真面目くさって相談されたことすらあった。周りの刀からしてみれば、燭台切が演練でよそのへし切長谷部と少し話すだけで静かに殺気立つ長谷部の様を知っていたので、皆一様に「お前は背中に目玉をつけたらどうだ」と思ったはずだ。
     交際期間が長くなり関係が安定したことで、嫉妬する己を彼氏が心底可愛いと思っていることに、長谷部もようやく気付いたようであった。もちろん燭台切も長谷部を心配させぬように、無闇に嫉妬を買う行動をしないよう気を付けているらしい。とはいえ、自分の恋刀と同じ顔のへし切長谷部が困っていると、ついつい放っておけないのは彼の元来の気質のようだ。長谷部もそれを理解してからは、気持ちが安定したようだった。

    「それで、光坊はどう対処したんだ?」

    「今の長谷部くんが艶やかで経験豊富なのは、全部僕が教えてあげたことの結果だろう?付き合ったばかりの長谷部くんって、驚くほどなんにも知らなかったんだから。だから、今の長谷部くんがいつだって僕にとっては最高だよって改めて 教えて あげたよ。」

    「…そうかい。」

     教えてあげた、に付随する行為が言葉で伝えるだけではなかったのは明確であるが、藪蛇なので突っ込まないでおいた。気付けば、すでに美味そうな親子丼と味噌汁が眼前に用意されている。鶴丸が礼を言ってから食べ始めると、燭台切はそのまま向かいの椅子に座った。表情からして、一通りの惚気を聞いてもらって満足したようである。
     長谷部と恋に落ちてから、燭台切はますます人の身を楽しんでいるようであった。もともと器用でなんでも卒なくこなすことができる刀だけに、何か一つのものに固執する様子は見られなかった。それが長谷部と出会ってから、大好きでお気に入りの存在を「僕色」に染める楽しさに目覚めたようである。人の身や心に起こるあれこれに戸惑う長谷部に対して、「大丈夫だよ。」とさも紳士然として手助けをし、自分なしでは生活できぬように仕向けることに愉悦を感じている節があった。まあ長谷部自身も、そうした燭台切の執着を喜ぶようなたちなので、まさに破れ鍋に綴じ蓋といったところである。


    「食べ終わった後、食器はそのままでいいよ。長谷部くんもそろそろ起きてくるだろうから、彼にもお昼を用意してあげないとね。」

     なるほど、つまり今の話は今日起こった出来事だったらしい。通りで、非番のはずの燭台切が一人でいたわけだ。燭台切の髪がしっとり濡れていたのは、風呂上がりだったからだ。あらかじめ多めに用意された親子丼の食材は、訳知り顔で鍋の横に並んでいる。出汁の味が少し甘めだったのは、長谷部の好みに合わせたからか。

    「それじゃ、熱いお二人さんが揃う前に退散するかね。」

    「そんな遠慮しないで。お茶を淹れるよ。」

    「気持ちだけもらっておくぜ、光坊。」

     廊下からぺたぺたと足音が聞こえてきたので、鶴丸は最後の一口をかきこみ、流しに置いた。普段はしゃきしゃき追いつけないほど早足の彼がこの足音をさせるときは、完全なる「甘えたモード」のときである。二振とは長い付き合いなだけに、鶴丸も引き際を心得ていた。それじゃあご馳走さん、と言って厨を出る。首筋に紅の印をつけた長谷部とすれ違ったが、あえて声はかけないでおいた。

    俺も、馬には蹴られたくはないのでね。


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