キャプテン「🌸〜起きておくれよ〜」
翌朝。ベポに揺り動かされ、目を覚ます。
「ん……おはよう、ベポ」
「おはよー! 🌸、よく眠れたかい?」
「うん。ぐっすり眠っちゃったみたい」
昨日の出来事を思い出しながら、伸びをする。
「あ、キャプテンもいるぜ!」
慌てて立ち上がると、目の前にローがいた。
「わっ、」
驚きすぎて変な声が出た。
「おれの部屋で騒ぐな」
「ごめんなさい……」
しゅんとする🌸を見て、ローは「ふぅ……」と短く息を吐き出すと、「朝食に行くぞ」と言い歩き出した。
「え? あの、キャプテン……」
「なんだ?」
「一緒に行くんですか?」
「ああ」
当たり前だろう?と言わんばかりの顔でこちらを見る。
「……はい」
ペンギンとシャチとは食堂で出会った。2人とも🌸の顔を見ると、心配そうな顔をしたが、2人ともすぐに明るく迎え入れてくれた。
「🌸って何者なんだ?」
食事中、🌸の隣に座っていたペンギンが言った。
「何者もなにも……人間だと思うけど」
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
困ったような表情をされ、ますます困惑してしまう
「わたしなにか、した?」
「いや、むしろ感謝してるよ。🌸の種族のこと教えてくれてありがとうな」
そう言い頭を下げるペンギンに、「えぇーー!?」と🌸は驚く。
「そんな、わたし、むしろ迷惑かけてるんじゃ……」
「🌸が何を苦手としているのかわかったってよかった、だろ?」
「……」
「それに、🌸のおかげでおれ達助かってるぜ。その聴覚。すごいよな」
ペンギンは、ニッコリ笑うとご飯を食べ始めた。
(うわー……優しい人達だな)
胸の奥がじんわり温かくなってゆく気がした。
「おい、🌸。おまえの種族の特性を教えろ」
朝食後、船長室に呼ばれた🌸は、いきなり質問された。
「特性ですか……」
「ああ、クルー全員に伝達しろ」
「わかりました」
ローの姿を見ながら考える。
(特性って言ってもなぁ……。なにがあるんだろう?)
「えっと、わたしは明かりが苦手です」
「ああ。それによる不調はなんだ?睡眠不足のほかにあるか?」
「……赤灯の中にいるとたまに目眩が……でもこれは慣れると思います」
「他には」
「……あとは……特に思いつかないですね」
「そうか」
「はい」
ローはパラパラと手元の紙束を捲る。
「次の浮上は明日だ。おまえも夜になったら街に出ろ」
「へっ……なんでですか?」
「おまえに必要なものを買う。昼に他のクルーが食料の買い出しに行く」
(は?)
「えっと、あの、ちょっと待ってください! キャプテン!」
「なんだ」
「キャプテンが、ついてくるんですか!?」
「あたりまえだ。何か問題でもあるか?」
「ない、ですけど。普通、キャプテンは船にいたほうがいいのでは……」
「おまえの能力を把握しておく必要がある。おれは医者だ。怪我をした時、病気の時はどうする? 誰が治療をする?」
「……はい」
🌸は反論できなかった。
「明日の夜6時にここに来い。浮上の事は他のクルーに伝達しておけ。遅れるなよ」
「は、はい!!」
こうして、🌸は初めての買い物へと出ることになった。
***
「キャプテン、本当に行くんすか?」
「2人っきりってデートみたいすね〜」
夕食後のミーティングを終え、各自解散となった頃。シャチとペンギンは、ローに声をかけた。
「心配ならお前らも一緒に来るか?」
「「行きます!!!」」
元気よく返事をする2人を見て、ローは小さく笑った。
「じゃあ、準備をしてこい。20分後に出発する」
「アイアイ!」
2人は嬉しそうに食堂から出て行った。
「ポーラータング、浮上します」
🌸は緊張した声で、そう告げる。
自分がハートの海賊団に入ってから、はじめての浮上だった。
ソナーマンとしても、個人としても酷く緊張する。
(こんなんで大丈夫かな……)
「心配そうな顔だな」
隣に立つローに、見透かされてしまったようだ。
「いえ、そんなことは……」
「あまり気負いすぎるな、おまえより技術があるクルーがカバーする」
「はい……」
ふぅーと息を吐き出すと、🌸は意識を切り換える。
(今は目の前のことに集中しよう)
「ポーラータング、停止しました」
「よし、降りるぞ」
潜水艇から降りたローは、🌸、ペンギンとシャチを連れて街へと向かう。
「あの、キャプテン……」
「なんだ?」
「必要なものってなんですか?」
ローはシャチを指差す。
はーい、というように手を振るシャチをみて、🌸の頭は疑問でいっぱいになる。
「サングラスだ」
「はい?」
思わず聞き返してしまった。
「だから、サングラスだ。おまえには必要だろう」
なるほど。サングラスをかけていれば、赤灯も少し和らぐということだろうか。
「🌸、おれとお揃いにするか?」
にーっと笑いながら肩を組んでくるシャチのサングラスを見る。シンプルなデザインだしシャチにはとても似合っていたが、自分にはどうだろう。
「ううん、普通のでいいよ」
「そっか、残念〜〜」
ペンギンは、🌸とシャチの様子を黙って見ていたが、混ざりたくなったのか、🌸を中心に空いている方の肩を組んだ。
「深いキャップも必要だろ!寝る時にさ」
ペンギンはいつも目深に帽子をかぶっている。なるほど、その手もあるわけだ。
「うーん、確かに、わたしの髪色、目立つもんね」
🌸の髪の毛は、肌同様に白い。
「そうだな〜、綺麗だけどな!」
「それか、染めるしかないんじゃないか?」
「おい、ペンギン、シャチ。🌸が歩き辛いだろ。離れてやれ」
振り向かずに、そう命令するローに、2人はアイアイと🌸から離れた。
(わたしも、もう少し身長があればよかったのに……)
この3人の中だと、自分は1番小さい。背の高い2人に挟まられると、まるで自分が子供になったような気分だ。
その気分は連れてこられた雑貨屋でも感じることになった。
他の種族と交流の少ない自身の国ではこんな、"なんでもある"雑貨屋は見たことなかった。
目を輝かせている🌸をみて、ローは「子供だな」と小馬鹿にしたように笑う。
何か言い返そうとしたが、シャチとペンギンが早速、サングラスや色付きの伊達メガネの棚から
「キャプテン、これどうですか?」
「キャプテン、こっちもいいんじゃないっすか?」
と、あれでもない、これでもないと商品を手に取っては、ローに見せている。
「キャプテン、これは?」
「キャプテン、これどうですか?」
当の本人は置いてけぼりだ。
「おい、つけるのは🌸だ。おまえらが選んでどうする」
「いいじゃないっすか! 選ぶ楽しみぐらい楽しませてくださいよ!」
「そーだ、そーだ」
とブーイングが飛ぶのを見て、🌸は思わず吹き出す。
「なんだか、3人は兄弟みたいですね」
「……」
ローに、ほーー? という顔で見下ろされるが、🌸はツンと横を向いた。
「こ、子供っぽいって馬鹿にしたからです」
そう言うとローはフッと笑った。
「あぁ、悪い。ついな」
そう言って、ポンポンと頭を撫でてくるものだから、余計に子供扱いされたようで恥ずかしくなる。
「🌸、これはどうだ」
シャチとペンギンのチョイスを無視して、ローが差し出したの緑のグラスの入った、サングラスだった。
「緑は赤色の光を抑える。これなら少しは夜の時間帯が楽だろう」
医者らしい理に適った選択だった。
試しにかけて店の小さな鏡に顔を写す。
「キャプテン、変じゃないですか」
「🌸、似合ってる!」
「可愛い!」
聞いてないのに、シャチとペンギンが囃し立てる。
「それからこれだな」
鏡越しにローは片手に持っていたものを🌸の額にあてがう。
後ろで結びあげれば、それはバンダナだった。
「寝る時に目をそれで覆えばいい」
マシだろ? と。言われ、🌸は頷くことしか出来なかった。
「色はそれでいいな? すまない、この2つの会計をたのむ」
店員に声をかけるローに、🌸はハッとした。
奴隷としてヒューマンショップに連れてかれる寸前だった自分はお金なんて1ベリーも持ってないのだ。
「キャプテン、わたし、お金……」
「気にするな」
支払いを済ませ、袋詰めされたサングラスとバンダナを受け取り
🌸はすっかり気分が落ち込んでしまった。
「いいなー🌸だけ。キャプテンおれにも新しいサングラス買ってくださいよー」
「じゃあ、おれ新しいキャップ欲しいです!」
「おまえらは自分で買え」
ピシャリと言い放つローに、2人はシュンとする。
「……キャプテン、わたしに、なにかできることありますか?」
「なんだ急に」
「だって、こんなに良くしてもらって……。わたし、なにかお返ししたいんです」
「……」
ローはしばらく黙り込む
「ソナーマンとしての腕をあげろ。それがおれ達、そしてポーラータングを守ることに繋がる」
「アイアイ、キャプテン!」
抱えていた袋をだきしめ。🌸は居住まいをただした。
ここから、ここからきっと何かが始まるんだ、そんな期待を胸に感じ、
3人に連れられ、🌸はポーラータングへの帰路を歩いたのだった。