暖かいヤキガシ島。ふっくらタウン。
香ばしい焼き菓子の香りが町中に広がる中
唯一、お菓子で出来ていない建物。それが彼女の住まいだった。
あらゆる種族が揃う国。万国。
その名にふさわしく、◯◯もまた特別な種族だった。
陽の光に当たれない、地下の世界で暮らす種族の王の娘。
白い髪に白い身体。陽の光に晒されるだけで痛みを持つ肌。
それが者珍しく、美しいとも不気味だとも言われる。
出歩けるのは夜だけ。だから、家に窓はない。
そんな◯◯の花婿としてビックマムが選んだのはシャーロット・オーブンだった。
すっかり陽が暮れた時間になり、◯◯は扉を開ける。街灯の灯りが扉から差し込む。
まだ寝静まるのは早いが、昼ほどの活気はないふっくらタウンの中を◯◯は歩いていく。
「◯◯様。今日もオーブン様のお迎えですか?」
お店を閉める準備をしているカヌレ菓子の店主が声をかけてくれる。
「そうなの! 今日はどうだった?」
立ち止まり、世間話を少しする。すると、カヌレを貰ってしまった。
この街の人はみんなやさしい。
毎日どこかのお店の人になにかもらっている。
まだ、嫁いで1ヶ月も経っていないのに、白いその姿に何を言うでもなく
街のみんなは「オーブン様が結婚してめでたい」「お似合いだ」と口々に伝えてくれる。
それもこれも、オーブンの人柄だろう。みんなに好かれているのだ。
「オーブンさん! おかえりなさい!」
大臣としての仕事場である館から出てくるオーブンを見つけ、◯◯が大きく手を振って声をかける。
「◯◯。ただいま」
こちらを見ると暖かい笑顔を見せてくれた。歩み寄ってくるオーブンを見上げ、その笑顔を見ると幸せな気持ちになる。
緋色の髪に、優しい瞳。大きな身体はネツネツの実の能力のせいもあってか
普通の人より暖かい。
「今日は忙しかったですか?」
「ああ、少しな」
オーブンと小さな◯◯とが手を繋ぐのは大変で、オーブンが◯◯の歩幅に合わせてゆっくりと歩きながら家路につく。
「ここの暮らしはどうだ?」
「みんな優しいです。今日はカヌレを貰ってしまいました!」
カヌレが詰まった箱を見せて微笑む◯◯を見て、オーブンも微笑む。
「昼間は退屈じゃないか? 難儀なものだな。太陽にあたれないというのは」
「大丈夫です。モンドールさんがくださった本がたーーくさんありますから!」
「あぁ、そういえばそうだったな」
なんてことのない会話をしながら街を歩いていく。
「◯◯。毎日、迎えに来てくれなくてもいいんだぞ。この時間ならまだ空いてる店もあるし、この時間から開く店もある」
ほら、と明かりのついている店先を示す。
「昼間は屋内で退屈だろ。本があるといえな」
遊んできてもいいのだと言うオーブンに、◯◯はぶんぶんと首を振った。
「いいえ! 私、オーブンさんとこうやって帰るの好きなんです。こう、毎日デートしてるみたいで……嬉しくて」
頬を赤らめる◯◯に、オーブンは思わず足を止めた。
「……お前は本当に可愛いな」
「え!」
まじまじと見られながらそんな事を言われ、◯◯は顔がカッと熱くなる。
「そんな、そんな」
ワタワタと手を動かして落ち着きを無くす◯◯を見て、オーブンはまた微笑むのだった。