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    tyoko54_OPhzbn

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    tyoko54_OPhzbn

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    相談役夢、一気読み編。ちょっと、修正してあったりします

    相談役「今日はこの町で花火があるんですよ」
    物資の補給で立ち寄った島で、露天の商人はそう言った。
    「あら、いいじゃない! ペッツも花火を見るのは、はじめてねぇ」
    ファイアタンク海賊団。カポネ・ベッジの妻であるシフォン嬉しそうに笑った。
    その付き人である🌸は、シフォンを見て微笑み返し、ありがとうございます。と袋詰めされた商品を受け取る。
    「シフォン様は花火はご覧になったことはあるんですか?」
    船に戻る道すがら、そう尋ねると、そうねぇ、と少しだけ気まずそうに笑う。
    「ママの所では結婚式がある度に上がってたわ」
    息子、娘が結婚する度に盛大に開かれるお茶会は朝まで続き、
    夜にはそれはそれは壮大な花火が上がったそうだ。
    「アタシも、兄さん達といる時は楽しんでたわよ。🌸は?」
    「わたしは……」
    故郷は小さな村だったし、手持ち花火で遊んだことはあるが、見たこともないも同然だった。
    「ない、ですねぇ」
    「そうなのね、じゃあ、尚更よかったわねぇ」
    「頭目は花火は好きでしょうか?」
    「ベッジはどうかしら……?」
    見目が派手なシロシロの実能力から、派手好きに見られるが、ベッジという男はスマートなものを好む。
    実際、ファイアタンク海賊団の船員はドレスコードのシンプルなスーツに、各自で少しだけ装飾を許されているだけだ。
    「そういえば、ヴィトは花火が好きなはずよ」
    「相談役が?」
    「……🌸、あなた、ヴィトのこと"相談役"っていうの止めなさいって言ってるじゃない」
    罰が悪そうに🌸は小声で謝るが、もごもごと言い訳を述べる。
    「相談役は、相談役ですから……」
    「あのねぇ……あんたが、ヴィトがちょっと苦手なのは知ってるけど。それじゃヴィトが可哀想よ」
    「せんちょ……ローラ様にも言われました……」
    「ま!」
    ローラにも言われたの、とシフォンはため息を吐く。
    元はといえばローリング海賊団にいた、🌸は男世帯のファイアタンク海賊団でシフォンの付き人に抜擢され、身なりを付き人らしく綺麗に整えられたのだが……その時、同席していたファイアタンク海賊団の相談役であるヴィトにえらく褒められた。それから、🌸は彼が苦手なのだ。
    「だって……シフォン様、あの人!会う度に、今日もきれいレロ、とか可愛いレロ、とか……」
    「気に入られてるのねぇ……」
    うふふと嬉しそうに笑うシフォンに、耳を赤くして🌸は俯く。
    「わたし、ローリング海賊団では、男同然に過ごしてましたから、ああいうのは……」
    困ります。
    言葉遣いも必死に整え、ファイアタンク海賊団らしく過ごしてるが、元々は自由な雰囲気のローリング海賊団。ヴィトの挨拶代わりのような褒め言葉は🌸には少し刺激が強い。
    「まぁ、でも、"相談役"呼びはねぇ……」
    うーーーんと、考えてシフォンはそうだ!と手を叩く。
    「🌸、ヴィトと花火、見てきなさいよ」
    「…ふ、船で皆様で見るのでは……⁉︎」
    「いいからいいから!」
    それからはあっという間だった。船に戻るや否や、
    シフォンの部屋に連れ込まれ、子供の頃に着ていたというフェミニンなワンピースを着させられた。
    「少し大きいかしら?」
    「シフォン様!」
    パンツスーツで過ごしてる、🌸はスースーするスカートを必死で手で抑えて抗議の声を上げる。
    「大丈夫よ。ベッジにはアタシから言っとくわ!」
    「いえ、そういう問題ではなく!」
    「だって、やっぱり寂しいじゃない。"相談役"だなんて。それにヴィトはいい人よ。これを気に仲良くなってきなさい!」
    パンっと背中を叩かれ、よろよろとヨロケながら、もうコレはどうしようもできないぞ。と🌸は覚悟を決めた。

     陽の影ってきた、街を眺める。
    船を背に🌸は居心地が悪そうに先程から重心を左右に何度も移動させていた。
    「🌸〜ー」
    声に振り返ると、いつもの肩にファー付きの上着を引っ掛けたスーツではなく、どちらかと言えば軽装に近いワイシャツにタイを結んだ姿の相談役……ヴィトが大きな手を振っていた。
    「そ、相談役。こ、こんばん」
    ペコリと、頭を下げる。ひらりと動くスカートを思わず手で抑えて、チラリと背の高いヴィトを仰ぎ見る。
    「あの、いつもスーツは…?」
    「ニョロロ〜、それは🌸もレロ。とっても似合ってるレロ」
    「ど、どうも、」
    しどろもどろに答えると、ヴィトは少しだけ首を傾げた後、手を差し出した。
    「少し歩くらしいレロ」
    差し出された手に🌸は、怖気付いたように手をぶんぶんとふる。
    「相談役のお手を煩わせるわけにはいきません!大丈夫です!」
    ピシャリと言い切り、どちらの方角なのかも知らずにズンズン前に歩き出す🌸に、行き場の失った手で自分の頭をポリポリ掻くと、ヴィトは🌸にそれとなく道が違うことを伝えた。

     街外れ、少しだけ小高くなっている丘が穴場だと、なぜかヴィトはそう言った。
    「けっこう、歩きましたね……」
    街を見下ろせるその場所は、思っていたより船から遠く、🌸は心配そう船の方角をちらちらと見ていた。
    「🌸、船なら大丈夫レロ。ゴッティもいるし」
    はい、と答え、口籠る。
    道中も会話はなく、気まづい時間が流れていた。
    「おかみさんに行ってこいって言われたロレロ?」
    「え!」
    思わず漏れ出た言葉に、ハッとして口を抑えるが、ヴィトはニョロロと笑う。
    「別に構わねぇよ。🌸が、おれのこと相談役、って呼ぶのも」
    「えっと」
    言葉を失う。ヴィトはなんでもお見通しだったというワケだ。
    「ニョロロ、悪かったレロ。🌸がおれのこと嫌がってるのわかっちゃいたけど……」
    「そ、それはその」
    何か言わなければ、と言葉を探す。言い訳、弁解、本当にそうだろうか?
    口をなんとか開こうとした時、花火が上がった。
    🌸の目は奪われて、開きかけた口をポカーンと間抜けに開けたまま空に次々と打ち上がるカラフルな光を見た。
    「おーー、始まったレロ〜〜!」
    嬉しそうにサングラス越しに夜空を見上げるヴィトに、🌸は言葉を出すタイミングを失い、やっと口を閉じて空を見上げた。
    「頭目達も楽しんでるでしょうか……」
    「きっと船で楽しくやってるレロ〜」
    そう答えてくれたヴィトに、🌸は小さく俯き、花火の音だけが響く時間が続いた。
    最後に金色の光が何重にも重なった大きな連発がおわり、しばらく夜空を二人で眺めていたが、ヴィトが帰ろうと来た道を指差すと、🌸は閉ざしていた口を開いた。
    「嬉しかった、の!」
    「レロ?」
    振り返るヴィトに、🌸は勇気を振り絞り言葉を続けた。
    「人に、可愛い、なんて言われるの、はじ、めてで…その、」
    嬉しかったのだ。
    「恥ずかしくて…相談や、ヴィ、ヴィトさんのこと、まともにみれなくて…」
    子供っぽいのは重々わかっている。少し褒められたぐらいで舞い上がって、バカみたいで……。
    「わたし……」
    「ニョロロ〜、じゃあおれのこと嫌いじゃないレロ?」
    少しだけ🌸に歩み寄り、膝を曲げて視線を合わせてくれる。
    「うん…」
    「そりゃ、よかったレロ〜」
    いつも大きく開けている口をさら開けて、ヴィトは笑った。
    「帰りは、エスコートさせてもらってもいいレロ?」
    差し出された大きな手に、🌸、コクコクと頷くとちょこんと自分の小さい手を乗せた。
    「ニョロロ〜、嫌われちまってるとばかり思ってたレロ〜!」
    ヴィトはわざとらしく嬉しそうに言うと、静かな夜空が見守る中、🌸の小さな手を引いて、船に帰っていった。

    銃声と悲鳴。そして
    「シフォン様とペッツ様を誘拐しようだなんて」
    銃口を向け、引き金に手をかける。
    「バカな事したわね」
    乾いた音と共に撃ち込まれる弾丸に小さな断末魔が上がり、静かになった。
    銃をホルスターにしまい、沈黙する男に殴られて切れた口内に溜まった血を吐き捨てた。
    頭目に品がないと怒られるだろうか。
    「🌸!」
    「ローラ様」
    ズザザザと砂煙を上げながら路地裏に飛び込んできたローラに、🌸は笑顔を向ける。
    「シフォン様とペッツ様はご無事ですか?」
    「もちろんよ! 他の奴らも逃げ出したわ!」
    ちらっと目線を足元に転がる男に向けてからローラは、🌸の肩をポンポンと叩く。
    「ありがとうございます」
    ローラの気遣いに、ホッと息を吐く。
    こういうのはあまり得意ではない。
    自由奔放な性格からビックマムの所から逃げ出したローラの元で、自由に楽しく海で過ごし、スリラーバークの悪夢から解放され、ドレスローザでファイアタンク海賊団と合併したローリング海賊団。
    その後、シフォンの付き人としてファイアタンク海賊団としての仕事を全うしているが、自由を求めて海に出た🌸からすれば、この生活は少しだけ慣れない。
    「さ、行きましょう。シフォンが待ってるわ」
    「はい」
    ローラに背中を叩かれ、🌸は船に戻った。

    「シフォン様、ペッツ様、大丈夫でしたか?」
    「あぁ、🌸! よかったわ! あんたも大丈夫⁉︎」
    シフォンの腕の中で、
    キャッキャと笑いながら戯れてこようとするペッツに汚れるからと距離を置いた。
    「はい。主犯は頭目の指示通りに」
    「そりゃ、ご苦労だったな」
    シフォンの後ろから飛んできたベッジの声に、🌸は顔を上げた。
    「頭目!」
    「おまえもファイアタンク海賊団としての自覚が出てきたってこった」
    「勿体無いお言葉、ありがとうございます」
    頭を深々下げる🌸を見てから、ベッジはピッと指を差した。
    「だが、身なりが崩れてる」
    「…うっ」
    「さっさと風呂にでも入って整えてこい」
    ファイアタンク海賊団はスマートで品がなければいけないのだ。
    ちょっとした戦い如きで、胸元のタイを斬られ、足元は擦って泥だらけ。
    それではまだまだという事だろう。
    「シフォン様、ペッツ様。また後ほど」
    「ええ、ゆっくりしてらっしゃい」

    風呂まで歩きながら、🌸はコッコッと音を立てるヒールに痛みを覚えていた。
    「慣れないなぁ……」
    しゃがみこみ、ヒールの隙間に指を入れ踵を触る。
    「イタタ……」
    殴られて切れた口より、よっぽどこちらの方が痛い。
    そんな🌸にスッと影が覆いかぶさった。
    「レロレロ。🌸、しゃがみ込んでどうしたんだ?」
    「ヴィトさん」
    覗き込んでいたのは、ヴィトだった。
    「あ、えっと……大丈夫」
    パッと立ち上がり、なんでもないと言うように、トントンとヒールを履き直す。
    「わたし、お風呂に入ってこないと……」
    「……足、そのままで入ったら痛いだろ」
    「あ、」
    気づけば、ヒョイっとヴィトの大きな手で抱き上げられていた。
    「わっ、ちょっと、!」
    「ニョロロ〜、手当が先ロレロ」
    こんな姿、他の船員に見られたら恥ずかしいとジタバタ暴れるが、
    がっしりと腰を掴まれてしまっている為、逃げられない。
    「あの、ヴィトさん。船医室、逆、ですよね?」
    レロレロレーと、適当にはぐらかされ、ついたのはヴィトの部屋だった。
    「ちょっと待つレロ」
    そっとベッドに座らされ、🌸は困ったように部屋から出て行くヴィトの背中を見た。
    「……」
    落ち着かない。とても整った部屋だった。
    調度品は頭目の趣味だろう。ヴィトらしい物といえば、
    机の前にジェルマ66の書いてある世経の切り抜きが額に入れて飾ってあるぐらいだ。
    「待たせたな〜〜」
    ガチャリと扉を開けて戻ってきたヴィトは大きな桶と、真っ白なタオルを何枚か持っていた。
    タオルを床に敷き、その上に桶を置くと、ヴィトは🌸の小さな足に触れた。
    「ヒール。馴れないレロ?」
    そう言いながらそっとヒールを脱がされる。
    踵がグジュグジュになっているのが自分からでも良く見えた。
    ヴィトはチャプリと大きな手を桶に入れ、🌸の足をそっと洗う。
    チャプリ、チャプリ。
    泥を落として、血を落として、優しく手で撫でられる。
    「ヴィト、さん、その」
    「レロ?」
    膝をつき、自分を見上げるヴィトに、ドキリとした。
    「なんでも、ない、……」
    小声になり、目線を自分の足にだけ向けて、ヴィトから視線を外す。
    ヴィトは桶を横にずらし、🌸の足をやわらかいタオルで包み拭く。
    それもくすぐったくて、心臓が跳ねた。
    「終わったレロ」
    傷口は赤らんでいるが、泥も血も洗われて、綺麗になった足をヴィトはそっと両手で包む。
    「痛いの痛いの飛んでけロレロ〜〜!」
    パッと手を離してそう言うヴィトに、🌸はポカンとした後、思わず笑いをこぼす。
    「ニョロロ〜、やっと笑ったぜ。ココだけじゃなくて表情も酷かったレロ」
    足を指差した後、🌸の頬を指先でつついた。
    「えっ…」
    「どうかしたロレロ?」
    ヴィトにそう聞かれ、自分が撃った男が頭に浮かび、頭の後ろがサァァと冷たくなる。
    「……」
    ローリング海賊団は、ローラの自由さに惹かれて入った船員とスリラーバーク被害者の会で成り立っていた。🌸は前者だ。殺しや虐殺なんかを楽しむために海に出たわけでない。
    だが、ファイアタンク海賊団ではそうはいかない。暗殺家業が本業であり、稼ぎの要だ。
    シフォンの付き人と言えど、頭目が"殺せ"といえば、殺さねばならない。
    それは理解の上だ。
    けれども、慣れないのだ。
    ヒールも、殺しも。
    「わたし、やっぱり船降りた方がいいかな……」
    コレは、前々から🌸が思っていた事だ。ローラのことは大好きだ。
    シフォンも、頭目もファイアタンク海賊団の皆もだ。
    だけど、
    「向いてない……よね」
    ぎゅっと膝の上で、手を握る。
    「……おれは、🌸が出てくのは嫌だぜ」
    スッと頬に手を当てられ、視線を合わせられる。サングラスでヴィトの表情はよく見えないが、
    声色でなんとなくどんな顔をしてるかはわかった。
    「ヒールのことは頭目に言ってみればいいレロ。無理して履くこたねぇ」
    「うん……」
    それだけじゃないよ、と言いたかった。でも、ヴィトには理解されないだろう。
    "怪銃" の異名を持ち、ジェルマ66を愛してやまないヴィトは、根っからの"ヒール"好き。
    🌸のような甘い考えはきっと、理解が及ばない。
    「さ、風呂に入ったら薬を塗ってやるレロ」
    また、そこまで運んでやるレロと、ヒールを遠くへ置き、🌸を抱き上げる。
    「ちょ、ヴィトさん!!」
    「ニョロロ〜〜」
    笑うヴィトに釣られるように、🌸は笑った。

    甲板で月を眺めながら、ヴィトはあの小さな足と、悩む🌸の顔を思い出していた。
    「ヴィト。どうかしたか」
    「頭目」
    こんな時間に珍しいロレロ!と慌てると、気にするな、と一言告げる。
    「🌸のことか」
    「レロ……」
    頭目はなんでもお見通しだと、ヴィトはポツリポツリと🌸の話をした。
    「🌸は殺しに向いてねぇ」
    ローリング海賊団の雰囲気は入ってきた船員の印象でわかる。自分達のような殺し屋家業とは違い、
    海の自由を謳歌する彼らの仲間だった🌸にとっては、ファイアタンク海賊団は居づらいだろう。
    「だから今日、🌸が殺しをして帰ってきて……おれは、内心、嬉しかったレロ」
    やり遂げたのは他の船員から裏どりも取っている。🌸はちゃんと、殺しをして帰ってきた。
    それは、ヴィトにとっては喜ばしいことだった。けれど、🌸にとっては辛い出来事だった。
    「おれは、このまま🌸が悩むのは見ていて辛い」
    「……まぁ、慣れるのを待つしかねェな」
    同じ月を見上げ、ベッジは続ける。
    「おれ達は殺し屋だ。遊びで海に出てるわけじゃねェ。ヴィト、おまえが🌸を好いてるのは知ってるが、甘すぎるのは家族のためにならねェぞ」
    「それは、もちろんだぜ、頭目」
    相談役としてファイアタンク海賊団にいる自分が甘さを見せる訳にはいかない。
    けれど、ベッジも妻に甘いのは同じだ。
    気持ちはわかるのだろう。
    ふーーっと長く息を吐くと、ヴィトの背に手を伸ばし軽く叩いてやる。
    「ま、時間が解決する場合もある。思い悩みすぎねェこった」
    そう言い、ベッジは船内に戻っていった。
    月をまた見上げ、ハァと息を吐く。
    「🌸……」
    名前を呟き、月を見上げる。
    「早く、こっち側になっちまえば、楽なのに」
    あぁ、でもそんな🌸は、🌸なのだろうか。
    「レロレロ……」
    痛々しい踵と表情を思い、ヴィトは空を見上げ続けていた。

    『ローリング海賊団に入る前には、とある商船に乗っていました。わたしは商船の会計士でした』
    『初めて人を殺したのは、その商船です』
    『わたしが殺した人は私の元雇い主で、奴隷を使って商売をしていました』
    『とても酷い人だったので、殺すことに抵抗はなかったのですが……』
    『その時はまだ、自分の手を汚すことに慣れていませんでした』
    『手が震えて、怖くて、仕方なかったんです』
    『それでもなんとか殺せた理由は……』

    「…………」
    ファイアタンク海賊団の甲板にて、🌸は掃除の手伝いをしながら、
    「人を殺したことがあるか?」というベッジの質問に答えた日を思い出していた。
    🌸の話を聞きながら、ベッジは特に表情を変えることはなく、横にいたヴィトやゴッティもいたって普通の話のように聞いていた。
    それは、🌸のした事がファイアタンク海賊団では大した話ではないからだろう。
    「人殺し」
    ぽつりと言葉をこぼすと、近くで作業をしていた男が声をかけてきた。
    「ん?どうしたんだ?」
    「えっあっいえ!なんでもないです!」
    🌸が慌てて首を振ると、男は首を傾げながらも去っていった。
    「……はぁ」
    ため息をついて、デッキブラシで甲板を擦る。
    「おーい。🌸〜!」
    「おれ達これから飲みに、ちがった! 買い出しにいくんだ一緒に行かないか?」
    名前を呼ばれ、顔を上げると、リスキー兄弟が楽しそうにしていた。
    「そうなの?昼間からいいね」
    「だから、買い出しだって!」
    「そうそう」
    おしゃべりな2人は嘘が下手だ。見た目は強面だが、喋ると調子のいい2人との会話はローリング海賊団で過ごした日々を思い出し胸が暖かくなる。
    「わたしは、この後シフォン様とケーキ作るんだ」
    「へぇ!いいな、できたら食わせてくれよ!」
    「うん、あとでみんなにも配るね」
    2人の誘いを断ったことを申し訳なく思いつつも、笑顔を向けると🌸は掃除を再開した。



    「さ、今日はいちごシフォンケーキを作るわよ!」
    掃除を終えた🌸はシフォンと厨房に立ち、材料の確認をする。
    「卵、牛乳、砂糖……いちご。あとなんでしょうか?」
    「そうね、あとは、愛ね!」
    グッとシフォンは親指を立てる。
    「あ、あい!?」
    「冗談よ。うふふ」
    🌸が顔を赤くすると、シフォンは可笑しそうに笑いながら準備を始めた。
    「まずは生地作りね」
    シフォンの指示通りに行えば、まるで魔法のように工程が進んだ。
    次にいちごソースを作るため、鍋に砂糖とイチゴを入れ煮立てながら火加減を調整する。
    (……なんだか、血みたいだ)
    甘い砂糖の香り嗅ぎながら、🌸はぼんやりと考える。
    銃を撃った。自分が殺した。赤い血が流れた。
    脳裏に浮かぶ光景に、急に手先が冷えていく感覚を覚えた。
    「🌸、大丈夫?」
    そんな様子に気付いたのか、シフォンが🌸に声をかけた。
    「えっと……はい、大丈夫です」
    「気分が悪そうよ、座った方がいいわ」
    オーブンに生地を入れた後、シフォンは🌸に座るように椅子をすすめる。
    「あの……」
    「無理しないで」
    🌸の言葉を遮り、シフォンは彼女の背中をさすった。
    「ごめんなさい、ちょっとだけ休ませてください」
    🌸が言うと、「もちろんよ」と言って彼女は微笑む。
    「ありがとうございます」
    🌸も力無く笑うと、ゆっくりと腰掛けた。
    「何かあったの?」
    心配そうな表情を浮かべながらシフォンが尋ねる。
    「いえ、特に何もありません」
    「本当に?悩みがあるなら相談に乗るわよ」
    「本当です」
    🌸が答えると、シフォンは少し困ったような表情をした。そして、意を決したように口を開く。
    「ねぇ、🌸。あんた、今、幸せかしら」
    「えっ」
    予想外の質問だったのだろう。目を丸くする。
    「はい」
    🌸の答えを聞いて、シフォンはため息を吐いた。
    「🌸は嘘が下手ね」
    「え?」
    今度は🌸が驚く番だ。
    「いいえ、なんでもないわ。忘れてちょうだい」
    シフォンは誤魔化すように首を振る。
    「さ、生地が焼けるまでにデコレーションの準備よ!」
    🌸の手を引き、励ますように笑うシフォンに🌸は申し訳なさでいっぱいになった。

    ***
    「今日は、🌸が手伝ってくれたのよ!」
    大袈裟に言うシフォンと、口々に褒めてくれる船員のみんなにお礼を返して、
    🌸はそそくさと部屋に戻ってしまった。
    大所帯のファイアタンク海賊団では船員のほとんどは相部屋だが、
    シフォンの付き人の🌸は小さい個室を与えられていた。
    逃げ込める場所があるのは本当にありがたい。
    『それでもなんとか殺せた理由は……』
    「あいつが、許せなかったから」
    声に出してあの時の答えを繰り返す。
    そう、許せなかったから。
    殺した方が世のためだから、言い訳を盾に弾いた引き金の感触は忘れられない。
    「🌸、いるか?」
    小さなノックの音に、ベッドから起き上がる。ヴィトの声だ。
    「ヴィトさん?」
    「そうだ。開けていいロレロ?」
    「うん」
    頷くと、ヴィトはケーキの乗った皿を片手に持っていた。
    「おかみさんが🌸が食べてない、って」
    「わざわざ持ってきてくれたの?」
    🌸は慌てて立ち上がり、ヴィトからお皿を受け取る。
    「ちょっといいか?」
    後ろ手に扉を閉められて、🌸は少しだけ驚きヴィトを見上げる。
    「なに?」
    「ちょっと話したいことがあるレロ」
    真剣な声色に🌸は緊張しながら「うん」と返した。
    「……🌸、人を殺すのは怖いか?」
    「…っ」
    ドキリとする。それは先程考えていた事だ。
    「……うーん、どうだろ」
    「正直に言って欲しいレロ」
    「………怖かったよ。すごく」
    ポツリと呟く。言ってしまった。
    これでは殺し屋家業のファイアタンク海賊団に居場所はないも同然だ。
    ケーキの乗った皿を握り、赤いいちごソースを見つめる。
    「こないだ、シフォン様とペッツ様を拐おうとしたヤツらを殺した時も」
    眠れなかった、と。赤い血と硝煙の匂いが離れないのだ。
    「ごめんなさい」
    🌸は謝り、声を振るわせる。
    「……🌸」
    ヴィトは身体を屈め、🌸の名前を呼び頬に触れた。
    「🌸が人を殺すたびに、おれは嬉しい、って言ったら怒るか?」
    言葉に詰まる。そんな言葉が返ってくるとは思わなかったからだ。
    「🌸が、人を殺せば、🌸の手が汚れる。そうすれば、おれ達と同じになる。
    どんどんファミリーから抜けられなくなる。それが、おれは嬉しいレロ」
    そう言ってヴィトはケーキの皿を取り上げてから、その大きな手で🌸の手を包み込む。
    「この手が血で染まるたび、おれに🌸が近づいてる気がして愛しい」
    うっとりしたような声でそう告げられる。🌸は包まれる手が強張るのを感じた。
    あぁ、これが、本当に殺しを生業にする人の思考なのだと。
    頭がくらくらした。
    「じゃあ、それだけレロ」
    そっと身体を離し、ヴィトは部屋から出ていった。


    「言っちまった」
    嫌われただろうな。とヴィトは息を吐く。
    「でも、これでよかったレロ」
    もし、これで🌸が船を降りるなら仕方がない。ファイアタンク海賊団が殺し屋なのは変えられないのだ。
    「本当は嫌だけど」
    ずーーんと落ち込みながら、ヴィトは自室へと戻っていった。


    「シフォン様、ペッツ様。おはようございます」
    「ええ、おはよう」
    🌸は、シフォンの身支度を手伝いながら、そういえばとシフォンを見た。
    「今日は出港ですよ」
    ドレスローザから、いくつか島を渡ったが特に大きな収穫はない。
    物資補給以外は、ベッジが"仕事"をしてるようだったが、それぐらいだ。
    「次の航路ではなにがあるんでしょうか」
    「そうね、ローラを探して随分と航路を戻ってしまったから……」
    ベッジには悪いことをしたと、苦笑いするシフォンを見て、🌸首を振る。
    「シフォン様がローラ様を探してくれたから、わたしも、ココにいるんですよ」
    元気に言う🌸をみて、シフォンは心配そうな表情を向けた。
    「🌸、昨日はごめんね。変なこと聞いちゃって」
    「いえ、わたしこそ、キッチンでは具合悪くなってしまって……」
    申し訳ありませんでした、と頭を下げる🌸を止めると、シフォンはため息を吐いた。
    「あんた、本当に嘘が下手ね。朝食まで時間があるわ」
    座りなさいと、ソファを示される。
    🌸がおずおずと座ると、シフォンもその隣りに座った。
    「あんたが言いたくないならいいけど……もし話せることがあれば教えてちょうだい」
    シフォンの気遣いを感じながらも、🌸は言葉が見つからなかった。
    「…あたしはね、怖いと思うわ。できるかわからない」
    シフォンはそう言いながら、小さな🌸の手に自分に手を重ねる。
    「ありがとう。あたしとペッツの為に。ファミリーの為に」
    何を言いたいのかわかった。シフォンは🌸が人を殺した事を気に病んでるのを感じていたのだ。
    「いえ、当然です」
    うまく答えられていただろうか。声が震えていないだろうか。
    「……ねぇ、🌸。船、降りるつもりなの?」
    その問いかけに、🌸はギョッと身体を固める。そこまで見抜かれていたとは思いもしなかったからだ。
    「こんな事言うのも酷いと思うけど……あたしは🌸に居てほしいわ」
    ファイアタンク海賊団に居てほしい。シフォンはそう言った。ヴィトも、そう言った。
    「あんたはどうしたい?」
    「私は……」
    ローラがゴッティに惚れて出会ったファイアタンク海賊団とローリング海賊団。
    ドレスローザで盛大にあげた式の後、シフォンの付き人としてベッジから名指しされた日のこと。
    思い出すのは楽しい記憶ばかりだった。
    ペッツを抱っこして夜通しシフォンとあやしたり、ゴッティとぼーっと釣りをしたり、頭目に服を貰ったり。
    ヴィトと花火を見たことも楽しい思い出だ。それから、ヴィトにジェルマ66の話を沢山聞いたり、ヴィトと街を見て回ったり、ヴィトと……。
    「🌸…?」
    泣いていた。🌸はポロポロと涙を流していた。
    指で何度も拭っても溢れてくる。
    「私、降りたくないです……ココに居たいです」
    シフォンは手を重ねたまま、静かに🌸を見つめる。
    「でも、怖いです。人を殺すのが」
    「……そう。そうね。じゃあ、ベッジに話しましょう」
    「え……」
    それでは、船を降りろとベッジは言うのではないか
    「さ、涙を拭いて!いくわよ」
    立ち上がって部屋を出るシフォンの後を追うように、🌸も慌てて立ち上がった。


    ベッジの書斎の前で、🌸はシフォンに背を押される。
    「さ、さっきの話をしちゃいなさい!」
    「で、でも」
    「いいから!ほら、行った行った!」
    扉を開けると、ベッジは執務机の椅子に腰掛け、葉巻をふかしていた。
    「おはよう、ベッジ! 🌸が話があるんですって」
    シフォンにそう言われ部屋の押し込まれる。言い返す暇もなく、ベッジの前に立たされた。
    「か、頭目」
    ベッジは、ふーっと長く煙を吐くと、葉巻をもみ消し手をゆるりと組んだ。
    「どうした。🌸」
    「…わ、私」
    シフォンに言われた通り全て伝えた。
    ファイアタンク海賊団に居たいこと。だ
    けど、殺しをすると手が震えること。
    ベッジは口を挟まず、最後まで話を聞くとゆっくりと一度目を伏せてから
    🌸を見た。
    「甘い」
    「……はい」
    目線を下げそうになるのをグッと堪えてベッジを見る。
    このまま、船を降りろと言われるだろうか。
    だが、ベッジの口から出た言葉は思ってもない言葉だった。
    「ちゃんとできねェ事をできねェと言ったのは誉めてやろう」
    「え……」
    呆気にとられる。それからベッジは、ギシリと背もたれにもたれかかる。
    「適材適所。お前は元々、シフォンの付き人としてウチに入れた。シフォンを狙うやつは憎いか?」
    「当たり前です! シフォン様を狙うなんて、許せません」
    「じゃあ、問題ねぇな。お前はちゃんと引金を引ける」
    ベッジは新しい葉巻を取り出して、先をギロチンカッターで切りながら続けた。
    「お前は理由がない無辜の人を傷つけるのが怖いだけだ。理由がありゃ殺せる覚悟がある。お前は、シフォンを傷つけるやつは許せないと言った。理由がある。だから、お前は船に居ていい」
    船に居ていい。ベッジはそう言った。葉巻を咥えベッジは火を出すように🌸に目配せする。
    内ポケットからライターを取り出し、🌸はベッジの葉巻に火をつけた。
    「頭目。ありがとうございます」
    「きちんと仕事をしろ。ファミリーとしてな」
    優しい言葉だった。🌸の目頭が熱くなる。
    「……はい!」
    ベッジは🌸が泣いたのを気づかないフリをしててから、ついでにと足元を示した。
    「お前にヒールのある靴は向いてねェな。履き替えていい」

    セイルに止まっていたカモメが羽を広げて飛び立った、
    「出航ーーーー!」
    高らかに響く声に、船員たちが声を返す。
    次の航路に向けて船が風を受けて進む。
    🌸は、甲板でペッツを抱き抱えているシフォンの横で今まであったヒールぶん、縮んだ背をシャンと伸ばして立っていた。
    「いい天気ね」
    「はい!良い船出です!」
    ペッツも嬉しそうに笑いながらシフォンに甘えている。
    晴れ渡った空にカモメたちが群れを成して船を見送るように後ろに下がっていく。
    島の気候海域から抜ければ、まためちゃくちゃな天気に振り回されるのだろうが、今はまだ穏やかな海だった。
    「シフォン様。私、今朝のこと伝えないといけない人がいるんです」
    船に居ていいこと。自分はファイアタンク海賊団を辞めないこと。
    どうしても伝えなければいけない人がいる。
    「そうね!頑張るのよ!」
    シフォンにそう言われ、急に心臓がドキドキとしてきた。
    それでもちゃんと言葉にしないといけない。
    シフォンとペッツに見送られ、🌸は船内に戻ると、真っ先にヴィトの部屋に向かった。
    扉の前で、呼吸を整える。
    ノックをするために手を握ると、先に扉が開いた。
    「🌸!!?」
    「ゔ、ヴィトさん!」
    思わず出た声は、変に裏返っていて🌸は顔がカッと熱くなった。
    「おれの部屋に来るなんて珍しいな、どうかしたレロ?」
    「あの、私……」
    言い淀む🌸に、ヴィトは首を傾げる。
    言わなくてはいけない。この先も一緒にいるために。
    意を決して口を開く。
    「私、ヴィトさんのことが大好き!!!!!」
    その言葉を聞いた瞬間、ヴィトは固まった。
    そしてみるみると顔が赤く染まっていく。
    「え、え、え、急にどうしたレロ!?」
    「大好き。ファイアタンク海賊団のこと。頭目も、シフォン様も、ペッツ様も。ゴッティさんも、ヴィトさんも。みんな」
    だから、と
    「船、降りないよ。私はファイアタンク海賊団だから」
    勢いに押されるように話を聞いていたヴィトは、やっと言葉を飲み込んだのか
    自分を見上げる🌸の晴れやかな表情に気づいた。
    そうか、🌸はきちんと自分と向き合ったのだ。
    「……🌸。その好きって、ファミリーとしての好き、ってことか?」
    船に残る事はわかった。なら、今、ヴィトが聞きたいのは大好きの意味の方だ。
    ヴィトの言葉に、🌸は目を丸くして驚いていた。
    それから、困ったような笑顔を浮かべて俯き、小さな声で呟いた。
    「ううん。違うよ……」
    「🌸」
    腕を引き、部屋に🌸を引き入れる。そのまま扉を閉めれば、出航したばかりで賑やかな甲板からの音が遠くなり、今ここに2人きりだという事をいやでも意識してしまう。
    ヴィトは🌸を抱き寄せ唇を重ねる。驚いた様子の🌸だが、抵抗はない。
    一度離すと、潤んだ瞳で見つめてくる。もう一度重ねると今度は🌸も応えてきた。
    抱きしめていた手を片方外し、腰を抱くようにして抱き寄せると🌸が身を預けてくる。
    🌸の舌が遠慮がちに入ってきたのを絡め取ると、ビクッとして離れようとする。逃さないようにさらに深く絡ませた。
    「んっ……ふぁ……あ……」
    漏れる吐息に煽られながらも、ようやく口を離す。
    「🌸」
    頬に手を当てて、上向かせると視線が合う。涙の滲む目がこちらを見ている。
    「好きだ」
    そう言って再びキスをした。
    角度を変えて何度も、何度も。時折歯列をなぞったり、上顎を擦れば甘い声が聞こえてきて、それが更に欲情を掻き立てる。
    最後にチュっと音を立てて離れて、額を合わせる。
    「愛している」
    そう言うと、恥ずかしそうに顔を逸らされた。
    「私も……」
    消え入りそうな声だったが、しっかりと耳に届いていた。
    照れているのが可愛くて、また抱きしめて口付ける。
    「これから、ずっと一緒ロレロ」
    そう耳元で言うと、こくりと小さく首肯する気配がした。
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