本音「シフォン様、ペッツ様。おはようございます」
「ええ、おはよう」
🌸は、シフォンの身支度を手伝いながら、そういえばとシフォンを見た。
「今日は出港ですよ」
ドレスローザから、いくつか島を渡ったが特に大きな収穫はない。
物資補給以外は、ベッジが"仕事"をしてるようだったが、それぐらいだ。
「次の航路ではなにがあるんでしょうか」
「そうね、ローラを探して随分と航路を戻ってしまったから……」
ベッジには悪いことをしたと、苦笑いするシフォンを見て、🌸首を振る。
「シフォン様がローラ様を探してくれたから、わたしも、ココにいるんですよ」
元気に言う🌸をみて、シフォンは心配そうな表情を向けた。
「🌸、昨日はごめんね。変なこと聞いちゃって」
「いえ、わたしこそ、キッチンでは具合悪くなってしまって……」
申し訳ありませんでした、と頭を下げる🌸を止めると、シフォンはため息を吐いた。
「あんた、本当に嘘が下手ね。朝食まで時間があるわ」
座りなさいと、ソファを示される。
🌸がおずおずと座ると、シフォンもその隣りに座った。
「あんたが言いたくないならいいけど……もし話せることがあれば教えてちょうだい」
シフォンの気遣いを感じながらも、🌸は言葉が見つからなかった。
「…あたしはね、怖いと思うわ。できるかわからない」
シフォンはそう言いながら、小さな🌸の手に自分に手を重ねる。
「ありがとう。あたしとペッツの為に。ファミリーの為に」
何を言いたいのかわかった。シフォンは🌸が人を殺した事を気に病んでるのを感じていたのだ。
「いえ、当然です」
うまく答えられていただろうか。声が震えていないだろうか。
「……ねぇ、🌸。船、降りるつもりなの?」
その問いかけに、🌸はギョッと身体を固める。そこまで見抜かれていたとは思いもしなかったからだ。
「こんな事言うのも酷いと思うけど……あたしは🌸に居てほしいわ」
ファイアタンク海賊団に居てほしい。シフォンはそう言った。ヴィトも、そう言った。
「あんたはどうしたい?」
「私は……」
ローラがゴッティに惚れて出会ったファイアタンク海賊団とローリング海賊団。
ドレスローザで盛大にあげた式の後、シフォンの付き人としてベッジから名指しされた日のこと。
思い出すのは楽しい記憶ばかりだった。
ペッツを抱っこして夜通しシフォンとあやしたり、ゴッティとぼーっと釣りをしたり、頭目に服を貰ったり。
ヴィトと花火を見たことも楽しい思い出だ。それから、ヴィトにジェルマ66の話を沢山聞いたり、ヴィトと街を見て回ったり、ヴィトと……。
「🌸…?」
泣いていた。🌸はポロポロと涙を流していた。
指で何度も拭っても溢れてくる。
「私、降りたくないです……ココに居たいです」
シフォンは手を重ねたまま、静かに🌸を見つめる。
「でも、怖いです。人を殺すのが」
「……そう。そうね。じゃあ、ベッジに話しましょう」
「え……」
それでは、船を降りろとベッジは言うのではないか
「さ、涙を拭いて!いくわよ」
立ち上がって部屋を出るシフォンの後を追うように、🌸も慌てて立ち上がった。
ベッジの書斎の前で、🌸はシフォンに背を押される。
「さ、さっきの話をしちゃいなさい!」
「で、でも」
「いいから!ほら、行った行った!」
扉を開けると、ベッジは執務机の椅子に腰掛け、葉巻をふかしていた。
「おはよう、ベッジ! 🌸が話があるんですって」
シフォンにそう言われ部屋の押し込まれる。言い返す暇もなく、ベッジの前に立たされた。
「か、頭目」
ベッジは、ふーっと長く煙を吐くと、葉巻をもみ消し手をゆるりと組んだ。
「どうした。🌸」
「…わ、私」
シフォンに言われた通り全て伝えた。
ファイアタンク海賊団に居たいこと。だ
けど、殺しをすると手が震えること。
ベッジは口を挟まず、最後まで話を聞くとゆっくりと一度目を伏せてから
🌸を見た。
「甘い」
「……はい」
目線を下げそうになるのをグッと堪えてベッジを見る。
このまま、船を降りろと言われるだろうか。
だが、ベッジの口から出た言葉は思ってもない言葉だった。
「ちゃんとできねェ事をできねェと言ったのは誉めてやろう」
「え……」
呆気にとられる。それからベッジは、ギシリと背もたれにもたれかかる。
「適材適所。お前は元々、シフォンの付き人としてウチに入れた。シフォンを狙うやつは憎いか?」
「当たり前です! シフォン様を狙うなんて、許せません」
「じゃあ、問題ねぇな。お前はちゃんと引金を引ける」
ベッジは新しい葉巻を取り出して、先をギロチンカッターで切りながら続けた。
「お前は理由がない無辜の人を傷つけるのが怖いだけだ。理由がありゃ殺せる覚悟がある。お前は、シフォンを傷つけるやつは許せないと言った。理由がある。だから、お前は船に居ていい」
船に居ていい。ベッジはそう言った。葉巻を咥えベッジは火を出すように🌸に目配せする。
内ポケットからライターを取り出し、🌸はベッジの葉巻に火をつけた。
「頭目。ありがとうございます」
「きちんと仕事をしろ。ファミリーとしてな」
優しい言葉だった。🌸の目頭が熱くなる。
「……はい!」
ベッジは🌸が泣いたのを気づかないフリをしててから、ついでにと足元を示した。
「お前にヒールのある靴は向いてねェな。履き替えていい」