烏の濡れ羽色「Doppi~!髪乾かして~!」
風呂から出たばかりのRenが後ろからソファに座っていた俺に抱き着く。
さすがにタオルで拭いてあるものの、まだ髪はしっとりと濡れていた。
後ろから抱き着かれたことで、同じシャンプーのにおいが鼻孔をくすぐる。
同じにおいのはずなのに、いや同じにおいだからか、胸がときめく自分がいた。
「OK!こっち来て!」
俺はソファを軽くたたいて座るように促すと、
Renからドライヤーを受け取ってコンセントにさして、電源を入れる。
ドライヤーの温度を確認して、Renの頭に向ける。
「熱くないですか~」
「うん~ありがとう~!」
美容師の真似をしながら、Renに温度は大丈夫かこまめに聞く。
Renは間延びした声で答える。心地よさそうだ。
横顔を見てみたら、目を閉じてさえいる。
王子様という立場だから、誰かに何かをしてもらうのは当たり前なのだろうかと思いつつ、俺より短い髪を乾かしていく。
宇宙のような、黒くもつやのある、魅力的な色。
確か、日本語で「カラスノヌレバイロ」というのではなかったか?
Renの髪を表す良い言葉だと思う。
太くしっかりしていても柔らかく触り心地が良い。
こうして、大好きな人の髪を乾かすのは悪くない。
だいぶ乾いてきたので、ドライヤーの温度を「冷」に変えて軽く冷ます。
最後の仕上げに、前髪を少し整えて電源を切り、
目を閉じているRenの唇に軽く自分のものを触れさせる。
チュッ
「」
「ほい!できたよ~!」
「ぇあ...あ、ありがと」
これは髪を乾かすたびに毎回やっていることなのだが、
Renは慣れないようでいつもびっくりされる。
「Doppi、なんでいつも最後にキスするのさ?」
ドライヤーを片付けようと立ち上がった俺にRenは質問を投げかける。
「んー?なんでだろ?なんか、かわいいなーと思って?」
「ふはは!何それ!」
Renは花が開いたように笑う。
俺はそんな彼の唇にもう一度口を付けて、ドライヤーをしまいに行った。