Heart雲の隙間から月光が漏れていた。
ほとんど隠された月を、俺の恋人はぼんやりと見上げている。
エメラルドの瞳はその月を映しているようで、何も映していないようだ。
「Ren?」
俺は緑茶が入ったマグカップを彼に差し出す。
「……お!ありがとう」
俺に気づくと、こっちを向き、微笑んでそれを受け取り、口を付ける。
口角は上がっているもの、やはり何か物思いに耽っているようだ。
彼の瞳は緑茶の水面を映していた。
俺はそれを眺めながら、グリーンティー(Renとは違って砂糖入りの甘いやつだ)の缶を傾ける。
「何かあったのか?」
それとなくRenに切り出す。
いつもと様子が違うのは明らかだった。
「…大したことじゃないんだけどね。ちょっと自信がなくなっちゃって。」
笑いながらも、長いまつ毛は瞳に影を作っていた。
普段は明るく朗らかなRenだが、たまに落ち込んでしまったり自信がなくなってしまったりすることがある。
それは彼が忙しい時になりやすく、
実際最近もコラボや新しいオリジナル楽曲の作成などに勤しんでいる真っ最中だ。
最近は喉の調子も若干悪いようで、配信の頻度も落としているようだ。
「Ren」
俺は隣に座り、彼と自分の肩をそっとくっつけた。
Renは何も言わずに俺に頭をもたせかける。
「最近忙しかったもんな」
「……うん」
まだ声は沈んだままだ。
「俺は、なんでも真摯に向き合うRenを誇りに思うよ」
「……ありがとう」
Renは弱々しく微笑む
「俺、Renだから大丈夫だと思うんだ、分からないけど」
「何それ、根拠ないでしょ?……ははは」
Renが、笑い声を漏らす。
予想外の笑いに、俺はちょっとびっくりする。
「だ、だって!俺は!そう信じてるから!」
「どっぴ……もう!あははははっ」
でも、やっと笑ってくれた。
俺も嬉しくなり、Renの体を抱きしめた。
「……Doppi,ありがとう。俺、ちょっと疲れていたのかもしれない。」
「うん」
「でも、Doppiの声や言葉は笑顔にしてくれるね」
「それならよかった」
「俺……考えすぎていたのかもしれない」
「そんな日もあるよ」
「だから、『俺だから大丈夫』って思ってみるよ」
「事実だからな!恐れることは何もないから……な」
「うん」
「でも、無理はするなよ!倒れたら意味ないからな!」
「うん、本当にありがとう!」
Renは笑顔を見せる。
俺を映すその瞳は、満月のように淡く輝いていた。
いつのまにか雲は晴れ、月光が窓から差し込んでいた。