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    sbjk_d1sk

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    sbjk_d1sk

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    ギャグとコメディと茶番の鯉博です。女ドクターです。
    半分くらいから眠くなったのでかなりらくがきです。

    押しかけお泊りして一緒に風呂に入ってリー先生の父性が試される話「う、っくちゅ!」
     部屋のすぐ外に設置されている水槽でぱくぱくと餌を食べる金魚達を眺めているはずのドクターの口から寄声が上がり、リーは読んでいたゴシップ紙から思わず顔をあげ、扉を開いたままにしている部屋から外を覗きこみドクターを凝視した。
    「何ですか今の声」
    「ただのくしゃみだからそんなに見ないで」
     見世物じゃないんだぞと言いたげに手の甲を見せて追い払うようなしぐさをするドクターの手を掴まえてみれば、普段は自分より比較的に高い体温がすっかり同じくらいか、あるいは自分より冷えていることがわかる。ようやくリーは、自身が籠っていた部屋が然程広くないということもあってそれなりに温かったことに気づいた。麗らかな気温の日中と打って変わって、日が暮れたリビングはなかなかに冷えている。自覚の薄い冷え性のドクターの体には堪えるだろう。しくじったな、とリーは内心自身に向けて舌打ちをした。
    「気づかなくてすみません、大分寒くなってましたね」
    「いいんだよ。私が金魚を見ていたかったんだから」
    「自分の体より金魚ですかい」
    「そりゃあもちろん。見ていて飽きない、それに可愛い」
    「あなたの方がずっと飽きないし可愛らしいですよ」
    「はい、ありがとう」
     まともに聞く気のない返事をしながらドクターが視線を金魚に戻す。全く動く気のないドクターの腕を引いてリーはソファに強引に座らせてやり、部屋の隅に置かれた大きめのバッグをドクターの隣まで持ってくる。

     ――リーのところにお泊りしたい。きっかけはドクターのそんな一言だ。
     若い、学生にあたるオペレーター達が、ひとつの部屋に集まり夜通し遊ぶための菓子と飲料を購買部に買いに訪れているのをドクターは目撃した。ドクターは好奇心の塊なので、どうしてそのようなことをするのかと直接聞いてみた。するとオペレーター達は顔を見合わせ「どうしてだと思う?」「さぁ」「考えたことなかったかも」と口々に言い合ったが、最終的にはこうだ。
    「楽しいし、青春って感じだからです!」
     ふむ、とドクターは顎に手を当てて考え込んだ後、無粋なことを聞いた詫びにスナック菓子をいくつか奢った。若く明るく竹を割ったような性格のオペレーター達は、素直に感謝を述べて奢られてくれた。変に遠慮されたりするよりもずっと嬉しい反応である。「ドクターもやってみたらわかりますよ!」と、両手に菓子を飲料を抱えて去り際にアドバイスを贈って帰るオペレーター達に手を振りながら、ドクターは頭の中で自身のスケジュールを確認した。
     ドクターは好奇心の塊である。
    「今夜ここに泊まってもいい?」
     なので好奇心の下の行動力もずば抜けていた。
     来客を知らせるベルが鳴り響き、リーが事務所の扉を開けると目の前にはボストンバッグを両手にニコニコと愛想良い笑顔を浮かべるドクターが立っていた。ノーと言わせない圧を感じた上に、お泊りセット持参の上でのゲリラ来襲だった。そういうのは事前に連絡してくださいと言うと、ドクターは首を傾げる。
    「許可ならもらったよ。アもウンもワイフーも、一晩くらいならリーが困ることないって」
     何故世帯主ではなく子ども達に許可をとればいいと思ったのか。リーはドクターの一般常識的な知識に頭痛を覚えたし、子ども達へどうしてゴーサインを出してしまったのかと頭の中で問うた。リーの子ども達はドクターとリーの関係を祝福しており、割とリーよりも積極的に外堀を埋めてしまおうとしている。それとこれとは別にドクターへの言動には細心の注意を払えと説教をしてくるが、頼もしい限りである。しかしそんな気遣いとサプライズは今回は正直いらなかったな…とリーは思った。というか何故ドクターひとりで寄越した、お前らのうち誰かひとりくらい帰ってくるもんじゃないのか、なんで揃ってロドスにいるんだガキどもめ。リーは遠い眼をしてしまい、その眼を見たドクターが肩を落としながら「…もしかして、だめ?」と言うものだから、もうリーはお手上げだった。可愛い恋人のお願いは極力叶えてやりたいのが男の性だった。どうぞ、と招き入れてやれば嬉しそうに笑い、うきうきと喜びが隠しきれない足取りで事務所へとあがった。
     そこからしばらく談笑し、夕食を食べ、ドクターが金魚を可愛がり始めたりなどして、今に至る。
    「いい時間ですし、先に風呂入ってください」
    「え」
     着替えを出させるべくバッグを隣に置きながらリーが言うと、ドクターは何故か納得がいかないという風な声を上げた。
    「君が先に入りなよ。家主なんだし」
    「客人が先ですよこういうのは」
    「いいや君が先だね」
    「体冷やしてあなたが風邪ひいたら怒られるのはおれなんですよ。ほら駄々こねない」
    「やだやだやだやだやだ」
     いよいよ子ども同然にいやいやと駄々をこね始めたドクターに、この人こんなに子どもっぽかっただろうかとリーは考えた。オペレーター達に絶対的な勝利を齎す戦の神と言われてもおかしくはない指揮官が、このように我儘なことがあっただろうか。それが自分の前でのみ露わになっていることを思い出して、リーはそっと勝ち誇った笑みを浮かべる。しかし話は平行線で、互いに譲る気配がないのでリーは冗談でこう言ってしまった。
    「そんなに言うなら一緒に入ります?」
     対してドクターは手を叩いた。
    「名案だ。そうしよう」
     迷案だ。そうしようじゃないが?
     リーは頭を抱えた。軽率に口にするんじゃあなかったと後悔しても時すでに遅し、好奇心と行動力の権化のようなドクターはバッグから着替え一式を取り出して立ち上がった。
    「ほら早く。リーも着替え持ってきて」
     リーが落ち着きを取り戻したくて煙草を吸おうとすれば、今からお風呂に入るのに何吸おうとしてるんだとドクターに取り上げられてしまった。無情だ。
    「ちょ……っと待ってください」
    「嫌だね待たないよ。言質もとってあるからね。私を凍えさせたくないなら早く着替え取ってきてよ」
     嫌な脅し方を覚えたものである。それ以前にあなたは女性でおれは男性でしょう、そのへんどうなんですかと聞いてみれば「戦場で男も女もないから慣れているよ」とのこと。それはそれでどうなんだとリーは悩んだ。その言葉の意味が、怪我の治療に居合わせるなどで性別関係なく肌を見る機会が多いから、であることを願った。
     一応お付き合いをしているはずなんだがなぁ、とリーはため息をつく。恋人の貞操観念や羞恥心が心配になるばかりである。さて早く着替えを取りに行かなければ、ドクター自らリーの部屋に赴き箪笥を漁りかねない。リーはたった今作り上げた己だけの神へ祈りと懺悔を捧げた。おお神よ、どうか何もありませんよう。何かあってもその罪はおれとドクターとガキどもで五等分にしてください。
    「わかりました。でも先にドクターが髪と体洗って湯に浸かっていてください。そんなに風呂場広くないんですから」
     はぁい、と元気の良い返事がかえって憎たらしかった。

     シャンプーやトリートメントはワイフ―のボトルのものを使うよう教え、ドクターを脱衣所に押し込んだ。男のものを使わせるのは忍びなかった。脱衣所の外で扉の向こうを窺っていれば、しばらく衣擦れの音が続いた後、浴室へと繋がる扉の開閉音が無事聞こえたためリーは一番近くの適当な窓を静かに開け、ドクターから取り戻した煙草に火をつける。ニコチンを思い切り体内へと取り込み、毒煙と一緒に重たい気分を吐き出した。紫煙が空へと消えていく。このまま時が過ぎてくれたら、と半分死んだような心地で願った。
     しかし思い通りにならないのが世の常であり、恋人であるドクターという人だった。乱暴に扉を開く音が聞こえ、リーがびくりと肩を震わせる暇も与えず、今度は脱衣所の扉までも開け放たれる。若干水の滴るままドクターが乱雑にタオルを体に巻き付けながら、リーの前に現れた。
    「やっぱり私が出るまで入るつもりないじゃないか!」
    「馬鹿おい、窓!」
     思わず口から飛び出た荒い言葉遣いの通り、リーは普段のように自身を取り繕う余裕などなかった。つい今まで顔を出していた開ききった窓を急いで閉める。どこで誰が見ているかわからないというのに、よりにもよって開け放たれている窓にタオルを巻いているとはいえほぼ裸でドクターが近寄るとは思ってもみなかったのである。嫌な汗をかいたリーが窓の鍵まで締めて煙草を灰皿に押し付ける。どっと疲労感が背中に圧し掛かった。
    「なんて恰好で出てきて、」
    「なんで呑気に煙草吸ってるんだ!」
    「ちょ、今時追いはぎでもそんな風にはしませんって!」
     ドクターは非力なので、無理矢理リーの服を脱がせるには至らなかった。縫い糸が少しは駄目になるかと思ったが、それすらなかった。ドクターはとても非力だった。リーがドクターが歩いた跡に続く水を拭き取りながら脱衣所に入れば、逃がさないと言わんばかりにドクターが睨んでいた。目の前で脱げと目がリーを射抜いていた。
    「逃げないんで風呂場に戻ってもらえますか…あとタオル巻いたまま湯に浸かっててくださいね……」
     ドクターは静かに浴室へと戻っていった。リーは見られながら脱ぐ趣味はないし、脱げるほどの度胸もまだなかった。ひとつ脱ぐたび恥じに心拍数が上がっていく気がし、少し前に冗談を言った自分を呪った。なぜ自分の方が生娘のように恥ずかしがることになっているのか。冗談は仕事をサボる時だけにしようと固く誓う。恋人が貞操観念も羞恥心もまだまだ未発達な無敵の人間で逞しすぎるせいで、誰に対しても基本振り回す側のリーが振り回されっぱなしである。
     深呼吸をしながら自身も腰にタオルを巻いて、意を決して浴室への扉を開いた。
    「いらっしゃい」
    「お邪魔します……」
    「私がお邪魔してる側なんだよね」
     湯船に浸かったドクターが、浴槽の縁に頬杖ついて笑う。ほんのりと赤く染まった頬はもちろん肩もすっかり血色よく色づいて、
    「なんで目を反らしたの」
    「今から髪洗うんで」
     余計なものを見たり考えたりする前に視覚情報を遮断した。一般的に若い恋人同士であれば、相手の肌が見えるというのはラッキーなのかもしれないが、リーは若くはない。そしてドクターの恋人でありながらやや保護者の枠に食い込むせいで、ドクターにドキドキするシーンで素直にときめくことができない。可愛い年下の小さなドクターに劣情を抱くなと保護者のリーが耳音で囁く。
     無言で髪を洗い終え、体を洗おうとしたところでドクターが思い出したように「あっ」と声を上げた。客観的に見ればおもしろいくらいにリーがびくりと震えた。
    「なんですか」
    「リーの尻尾洗いたいな。洗ってもいい?」
    「そ……いえ、もう好きにしてください」
     それはおれがドクターに背中なり足なり洗ってもいいですかと聞くのと同じなんですよ、と言おうとしてリーはなんとかその言葉を飲み込んだ。冗談は仕事をサボる時だけと誓ったばかりであったからだ。ドクターは意気揚々と浴槽から立ち上がり、すぐにタオルに泡を立て始めた。狭苦しい浴室の中で尾をもっと伸ばしてくれないかとドクターから言われてしまい、ええい儘よ!とリーは丸めていた尾を伸ばした。
    「へぇ、こうなってるんだ。リーみたいな人はあまりいないから、鱗とか鰭とかどうなってるのか気になってたんだ」
     温かな手が尾を鱗の生える流れ通りに撫ででいる。なんで撫でているんだ、洗うって言っただろうが。リーは声には出さないがドクターを急かした。もう早く終わらせてくれ。嬉しいとか興奮するとかそんなことは全くなかった。ただただ一緒に風呂に入ったということが他人にバレることへの恐怖である。無心で体を洗っていると、後ろからくすくす楽しそうな笑い声が聞こえる。
    「リーの尻尾、やっぱり綺麗だね。こうして濡れてるときらきらしてて、宝石みたい」
    「もうあなたいい加減にしてくださいよ……」
     大きなため息を隠すつもりもなく吐き出してしまうと、なんで?と言いたげにドクターが首を傾げたが、リーは絶対に視界にドクターを入れるものかと意地になっていたので、ドクターのその反応を知らない。ドクターは熱心に慎重にリーの尾を洗い、もっと雑に洗っていいと言われても「鰭が破れたらいけない」と丁寧に鰭は手で直接洗った。ここでようやくリーは諦めがついた。もうここまで来たらなんも怖くねぇよな、と思えるようになりドクターから目を反らすこともやめた。父性のリーが恋人のリーを殴り倒したらしく、温まって血色の良い肌に微笑ましさを感じられるようになる。夜の世界にのみ生きてきたような白い肌、濡れそぼった髪、長い睫毛に縁どられた美しい瞳。その全てが普段目にしているものと異なって見えるのはきっと、
    「尻尾洗っていただいてありがとうございます、ドクター。それじゃあおれは先に出ますね」
    「お湯には浸からないの?」
    「おれはもう十分熱いんで大丈夫です。ドクターはもう少し浸かっててくださいね」
     張り倒したはずの劣情が起き上がるより先に、リーは浴室を離れることにした。
     はぁい、と元気の良い返事は先ほどよりはマシに聞こえる。少なくとも憎らしさは感じなくないあたり、精神的余裕は生まれているようだ。
     脱衣場に移り、体の水滴を拭き取り、寝間着を着て脱衣場を後にする。その足で先ほど閉めた窓を開け、新しい煙草に火をつける。いつもより乱暴に、あそぶこともせず煙草を一本消化した。己の中で作り上げたばかりの偶像である神と、子ども達にそっと心の中で呟く。神よ、おれはやりました。何もありませんでした、ありがとうございます。見たか悪ガキども、おれはやり遂げたぞ。何事もなく終わった。はは…ガキどもめ…お前ら覚えておけよ。嘘だ、一緒に風呂に入ったなんて言えるわけがない。
     微かに聞こえてくる聞き慣れない鼻歌はご機嫌で、ぐるぐると迷路に踏み込んでしまった思考にニコチンを届けるべく、リーは二本目の煙草を咥えた。
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    sbjk_d1sk

    DONE記憶を失って転生したリー先生と、連続する魂を持つドクターの鯉博。一部過去作から抜粋。
    オーニソガラムの亡骸 星の予言、星の花。星の光を探して、星屑と閃きを眺めて。



    「いらっしゃい、リー家の子」
     他人のテリトリーに足を踏み入れるのはいつだって、適度な緊張感と警戒心を必要とする。リーは詰めていた息を白色にしてそっと吐き、吐いた分の吸い込んだ空気が纏う花の香りにまたため息をついた。両親と比べ未発達な細く頼りない尾が揺れ、薄く柔らかな鰭が風にあそばれる。
     かつては龍しかいなかったという閉鎖的な集落はすっかり姿を変容させ、龍の数こそ多いものの昔に比べれば様々な種族が住み着くようになった。それにより貿易は一層栄え、利便性は改善し、知見や見解が広がったことで価値観も開放的な方向へと進んでいった。少年が足を踏み入れた家は、しかしそうなる以前――もう百年以上も前だ――に建てられた、異種族にまだ偏見や差別の考えがあった頃にその嫌う異種族に説き伏せられて建てられた家らしい。家屋自体は然程大きくはないが手入れが行き届いた庭は非常に美しく、季節の花や草木が目に鮮やかで、門扉を潜った直後だというのに足を止めて眺めてしまうほどだ。そのせいだろう。前を歩く冬空のようなその人が振り返り首を傾げた。
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