きみにほろよい部屋に入った瞬間、言葉を失った。
「け、京……?」
部屋の真ん中では部屋着姿の京が、膝を抱えてちょこんと座っていた。まるで小動物みたいで可愛い。のはいつものことだけど、異様なのはその周辺の光景だった。
「えっ、一人で飲んだのか…?」
京の周囲には、アルコールの350ミリ缶が6個転がっている。全て口は開いていて、空き缶のようだった。ほろ酔い気分を楽しめる、甘めの味の度数3%のアルコール。俺が最近風呂上がりのアイスの代わりにしようと買い溜めてあった6缶セットの中の1セットに違いなかった。
「うん、ひとりでのんだ」
赤い顔をした京は、ぽやぽやとした表情で、妙に嬉しそうに口を開いた。すごいでしょ、とでも言いたそうな口振り。アルコールのせいか、少し幼い感じになっているようだった。
「まじか…え、もしかして何も食べないで飲んだ?」
部屋には酒のつまみになるようなものが何もない。あった痕跡もない。もしや空きっ腹に約2リットルものアルコールを流し込んだのかと訊ねる。予想は的中した。
「うん。これだけで美味しかったから」
「…はあ…そりゃ、こんなになるはずだな…」
度数が3%とはいえ、空きっ腹で飲めば吸収が深まる。妙にふわふわしている理由がわかって、俺はため息をついた。
「とりあえず、水。脱水起こすから、寝ちゃう前にたくさん飲んでおこう。待ってて」
京の周りに散らばっている空き缶をまとめると、台所に運んで処分する。そうして冷たい水を大きめのコップに入れ、ぽやぽやした京の元に戻る。
「はい、飲めるか?」
「ん。ありがとう」
京は俺の手から水を受け取ると、こくこくと喉を鳴らして飲み始めた。両手でコップを持つ姿が小動物のようで、その様子に思わず安堵する。
「はあ…、なんでもなくてよかったあ……。それより、なんでいきなりこんなに飲んだんだ?普段、全然飲まないのに」
そう、京は日頃はアルコールを好んで飲まない。それなのに、俺の帰りが遅くなる今日に限って、何故こんなに。何事もなかったから良かったけれど、もし一人の時に急性アルコール中毒とかになったらどうするんだ。
叱りたい気持ちを込めたまま、京ほ両頬を包んで目を覗き込む。アルコールのせいか、とろとろに溶けた瞳はいつもより蠱惑的で、思わず先に目を逸らしてしまった。触れた手のひらが熱い。手のひらが熱いのか、京の頬が熱いのか。そんなことを考えていたら、京の手が俺の手首を掴んだ。そうしてそのまま、ぐい、と手を引いて後ろに倒れ込む。引かれた体も重力に逆らえなくて、そのまま京の体にのしかかるような体勢になった。
「わ、京…っ」
「…かったから」
「え?」
最初の言葉がうまく聞き取れない。よく耳を澄ましてもう一度、聞き返す。
すると京は赤い顔をまた赤くして、「…寂しかったから…」とだけ言った。そうして、
「憧吾がいつも飲んでるのを飲みたくて。試しに飲んだら、憧吾の味がして、止まらなくなった」と。
「……俺の味、って………」
俺が童貞だったらもうとっくに死んでいるようなキラーワード。クリティカルヒットを食らった気分で、脳がクラクラする。
アルコールが入った京は妙に積極的だった。ぼんやりとした俺の唇に吸い付くと、そのままぺろりの舐めて、誘ってくる。まんまと誘いに乗って舌を入れると、応じるように絡ませてくるからたまらなくなる。
「でも、やっぱり本物の方がいいな。甘くて」
キスの合間に京が言う。キスでアルコールがうつったのか、俺の体もすっかり熱っている。
「……じゃあ、もうあんなに飲むなよ…?」
押し倒した体勢のまま、流れに任せて京の服の中に手を入れる。触れた素肌が妙に熱いのも、京に染み込んだアルコールのせいなのだろう。