あの子の好きなものを好きになりたい。 春まで生きる気がなかったのに冬物のコートを買ったのは、彼女が私に似合うと言ってくれたからだ。
彼女は、出会ったときには余命がついていた。正式名称は小難しく長い、簡単に言えば難病というもので、緩やかに死んでいくしかない状態で私の家の斜向かいの家に引っ越してきて、同じ学校に通うことになった。桜が葉を伸ばし始める春のことだった。
彼女の髪の毛は黒く、短かった。投薬の関係ですぐ髪が抜け落ちてしまうから、邪魔になるたびに切っているそうだ。ウィッグで簡単にイメチェン出来て最高。と言っていた。
彼女の肌は白く、やや青ざめていた。今まで外に出る機会はほとんどなかったという。学校でも体育の授業は木陰の涼しそうなところから友人に声援を送っていた。
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