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    shizuki_042

    成人腐敗済。

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    shizuki_042

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    メリバ百合
    メインキャラ2人なんですが、二人とも死にます。

    #百合
    Lesbian
    #メリバ
    meliva

    あの子の好きなものを好きになりたい。 春まで生きる気がなかったのに冬物のコートを買ったのは、彼女が私に似合うと言ってくれたからだ。
     彼女は、出会ったときには余命がついていた。正式名称は小難しく長い、簡単に言えば難病というもので、緩やかに死んでいくしかない状態で私の家の斜向かいの家に引っ越してきて、同じ学校に通うことになった。桜が葉を伸ばし始める春のことだった。
     彼女の髪の毛は黒く、短かった。投薬の関係ですぐ髪が抜け落ちてしまうから、邪魔になるたびに切っているそうだ。ウィッグで簡単にイメチェン出来て最高。と言っていた。
     彼女の肌は白く、やや青ざめていた。今まで外に出る機会はほとんどなかったという。学校でも体育の授業は木陰の涼しそうなところから友人に声援を送っていた。
     彼女の鞄にはいつも不思議なぬいぐるみの飾りがついていた。可愛いとも、かっこいいとも言えないそれは、色だけはピンクや水色に統一されていた。
     家が近く、席順も近いということで私と彼女はほかの子たちに比べると仲が良かったと思う。仲の良さに関しては人それぞれだから、本当にそうかと言われると難しいところだが、お互いがお互いを優先する機会が多かったため、仲が良かったと言って差し支えないだろう。彼女は『余命がついている病弱でファンシーな転校生』というレッテル過剰な女の子だったので、思春期真っ只中の特別でありたい少女たちにとても人気があった。そして、そんな彼女と仲の良い私に不快感を覚える少女はなかなか多くいたらしい。
     学校からの帰り道、たまには寄り道でもして帰ろうということになった。通学で利用する主要駅のビル内にはティーン向けの服屋がたくさん並んでいる。きらきらファンシーなものは私には似合わないのであまり通うことは無かったが、彼女にはよく似合ったのでそれだけで通うことはしばしばあった。
     ちょうど季節の変わり目で、セール品になったまだまだ活用シーンがあるだろう服がワゴンに入れられ、少し先の季節で重宝するだろう服が所狭しと並んでいる。
     その中で、彼女がいつもは選ばない服をじっくりと眺めていることに気づいた。
    「珍しいね、それ。気に入ったの?」
    「うん、あなたに似合うと思って」
    「私に?」
    「そう、あなたに。あなたは背が高くて、髪も長いからストーンと一直線にきれいに見えるんだよ。いつもは制服着いてわからないだろうけど、紺とか、青とかの寒色よりはオレンジとか赤とかの暖色が似合うと思うんだよね。補色もいれてきっちり締めたらかなりかっこよくなると思う。そして、そのすべてをまとめるのがこのコート。テーラードジャケット? コートっていうの? ちょっと名前曖昧なんだけど、真っ直ぐシルエットが出るのが本当にあなたに似合いそうで、ちょっと重めのグレーを選んでインナーは彩度低めの落ち着いたのを選んで、アクセントにボルドーのIラインスカート選んでショートブーツ履いたら滅茶苦茶に合うとおもうんだよ」
    「良くわかんないんだけど……隣にはいつも通りファンシーなあなたがいてくれる?」
    「もちろん。二人の仲が一体どんなものなのか一見するとわからないぐらいファンシーになってあげる」

     そんな会話をした数日後、彼女が死んだ。急性心筋梗塞だったそうだ。私は急いで彼女が良いと言ってくれたコートを買った。金木犀の花がすべて地に落ちる、秋の終わりのころだった。
     そのあとのことはよく覚えていない。通夜にも葬儀にも出た気はするけど何を話したのか全く覚えていない。頭の中にはずっと重めのグレーのコートがあった。
     彼女がいなくても坦々と日常は続く、進路希望票を書き。共通一次を抜け、志望校の試験を受ける。何もしていないのに、春が来てしまう。
     学校の行事の忙しさに嫌気がさした私は学校をさぼって彼女の墓へ向かった。彼女が勧めてくれた重めのグレーのテーラードコート、トップスは白のニット、ボトムスは銀糸の踝まであるIラインのスカート、黒いタイツをはいて、黒のストレッチブーツ。首にはワインレッドのスヌードを巻いた。
     墓誌には彼女の名前しか書かれていなかった。彼女は元がここの土地の人ではなかったから、家族が新しく墓所を手配したのだろう。海が見える、小高い丘の上に立っている。享年17歳。闘病の末の享年17歳。
     私は彼女と出会ってから、彼女がうらやましくて仕方がなかった、誤差があるとは言え余命が決まっている。そんな幸せなことがあるだろうか。私は常に自分の死が知りたかった。
     彼女は4月生まれの17歳。私は2月生まれの16歳。
    彼女の墓を柄杓と布巾で清める。仏花はまだみずみずしい。彼女の家族の誰かがよく来るのだろう。
     「雪、私はあなたが似合いそうだと言ってくれた服を買ったよ。長い髪も美容室でトリートメントしてもらってきた。サラサラつやつやでちょっと怖い。いつか見せてくれるって言っていたファンシーな服が気になるから、これから見に行くことにするね。もともと春まで生きる予定はなかったし。そもそも冬も生きる気なかったし。私の寿命を決めたのは雪だったね」
     彼女の墓の近くには、鬱蒼とした林がある。私は以前よりそこに目をつけていた。
     都合の好さそうな木を見繕い、縄を固定し首にかける。あとは足場の台を倒せば運が良ければ一瞬で気絶からのお陀仏。運が悪かったらそれはもう苦しんで死んだろう。
     けど、だから何だというのだ、私と雪が会うためにその程度の障害、有って無いようなもんだろう。こっちは、雪が言ったファンシーな服が見たいのだ。
     もうすぐ春が来る。



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    蛇足設定
    ■彼女(雪)
    難病で手の尽くしようがないので緩和治療だけしつつのんびり女学生ライフを楽しいでいた。都市は人が多すぎて面倒なので、田舎過ぎず新幹線の駅があるとこを選んだら香奈枝に会った。卒業までは生きられるかもと思っていたが、そんなことは無かった。生きてたら小さなネイルサロンを開く。

    ■私「香奈枝」
    日々をだらだら生きてる女子高生。身長173㎝髪の毛を切るのが面倒なので腰のあたりまで髪を伸ばしている。雪が勧めてくれた服を着てルンルンで首つり自殺を決行。
    この世界の宗教関係がどうなっているかわからないか病気で死んだ雪は天国へ、自殺で死んだ香奈枝は地獄に行ったものと思われる。雪が生きていたらサロンの裏方で手伝いする。
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