氷の洞窟にて 紺碧告白ver.雑な前置き...
ひょんなことから、初心者の雀さんの代わりに峡谷レースを飛ぶことになった2人。
雀さんは紺碧にキャリーしてもらい、危ないところを助けてくれた雪白を気に入り、師匠になってくれと頼み、過度なスキンシップをしてきた。
温和な雪白が珍しくピシャリと断った後の話し。
紺碧は雪白からアクションがない限り、雪白に手を出すことはない。
今回は雪白の意思を確信して、ついに行動に出る。
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雪白に手を引かれ、岩山の途中に大きく口をあけた洞窟で休むことにした。
大きな氷柱(つらら)が夕日を受けて橙色にきらめいている。
冷たいはずなのに温かそうにみえるなんて不思議だね。
雪の上に直接座って、氷の壁に背を預ける。
星の子は寒さにも暑さにも強い、この洞窟で夜までいても凍えることもないだろう。
「あの、紺碧さん」
隣に座った雪白がなんだか改まった声を出した。 なにかな。
彼にしては珍しく迷っているようで、あぐらをかいた足の上で組んだ手を開いたり閉じたりしている。
「なぁに?」
優しく先を促すと、ようやく口を開いた。
「・・・紺碧さんにキャリーしてもらったあの子に、嫉妬してしまって・・・そんな自分が小さくて嫌なんですけど・・・」
最後のほうは消え入りそうな声だった。
前髪で隠れた頬の輪郭が赤く見えるのは夕日のせいではないようだ。
「嫉妬してくれたの?」
ちゃんと聞こえているのに、意地悪く聞きかえす。
こくりと縦に振られる頭。
どくり、と僕の鼓動が大きく動くのが分かった。
どうしよう、どうしようもなく嬉しい。
「小さいだなんてそんなことないのに。 嫉妬してもらえるくらい、好かれてるって、うぬぼれてもいい?」
「うぬぼれじゃなくて・・・なんというか、その、すごい、本当に・・・その・・・」
言葉を選ぶ葛藤が伝わってくる。
その先の言葉が聞きたくて、迷っている彼が愛おしくて、ついいじめたくなる。
そっと顔を近づけて、うつむいている雪白の顔を覗き込んだ。
・・・多分、僕たちは同じ気持ちだと思う。
目を合わせて感情の色を読み取り確信する。
彼は恥ずかしそうに視線を外すけれど、逆に僕は視線を外せなくなる。
「・・・僕も言っていいかな」
静かに言うと、少し意外そうに雪白は目だけで頷いた。
「さっきの子が君に抱きついているだけで、僕は嫌だったよ」
ね、初心者相手に、僕のほうが器が小さいでしょ。
「それにね、本当に格好悪いんだけど・・・紅藤(べにふじ)にも嫉妬しているよ」
ここで自分の師匠の名前が出るとは思わなかったのだろう、なんで、と唇が動いた。
「雪白くんみたいな弟子がいるから」
友人に嫉妬するなんて、雪白にはずっと隠してきた感情だ。
そんな内面を晒(さら)すことに恐れを感じながらも言葉を続ける。
「とても正直で純粋で芯が強くて。紅藤だから育てられたんだよね」
雪白を真っすぐなまま、彼の特性を見抜いて、そんな風に育てることのできた紅藤が、心底うらやましい。
一緒に暮らすようになり彼のことを知っていって、名前のように汚れのない眩しさに惹かれた。
師匠がいなくなって弱っている彼の心に踏み入るのは卑怯な気がして保護者の顔をしていたが、雪白のこんな表情を見てしまっては。
「キミの内側から感じる凛とした強さが、とてもまぶしい」
緊張で暴れそうになる鼓動を抑えながら、僕は雪白の目を真っすぐに見据え、今まで言いたかった言葉を言う。
「好きだ」
ああ、言ってしまった。
たった3文字がなんて重い言葉なんだ、息苦しくて深く息が吸えないほどに。
「師匠がいなくて寂しい思いをしているキミに言うのは、卑怯かもしれないね。でも、好きなんだ」
雪白は僕を好いてくれていると思う。
でもそれが僕の勘違いだったら、これまでの僕たちの関係は崩れてしまうね。
その恐れより、僕は自分の気持ちを伝えたくてしょうがなかったんだ。
雪白は僕から目を逸らさず少しだけ唇を動かしたが、声は出ず、かわりに表情が泣きそうに歪んだ。
下唇を噛んで下を向いた目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「・・・先に言うなんてずるいですよ・・・」
絞り出すようにつぶやいて、嗚咽で肩を震わせ、呼吸が落ち着くまで雪白は喋らなかった。
「俺が言おうと思っていたのに」
小さくつぶやいて服の袖で目元をぬぐうと、彼は顔を上げて僕を見た。
涙で潤んだ綺麗な瞳。
強い視線。
そう、その目が好きなんだ。
「俺も、紺碧さんが、好きです」
「・・・ありがとう」
鼻の奥がツンとしてしまって、僕は奥歯を嚙み締め目を閉じた。
「俺のところ、見てください」
有無を言わせぬ強い口調で彼は言い、両手で僕の頬を包み込む。
「・・・っ、紺碧さんは、時々意地悪だし、俺のところ子供扱いするし、すごい天然なところあるけど、そういうところも、す、好きです」
所々つかえながら一生懸命に伝えてくれるのが嬉しくて、僕はじっと耳を傾ける。
雪白の手は熱くて、少し震えているようだ。
こんなに泣いて緊張して、紡がれた言葉を受け取るのが自分だということがたまらなく嬉しい。
僕は四つん這いで彼の前に移動すると、にこりと笑った。
「僕の好き、は、雪白くんにこういうことをすることも含まれるんだけど、いいの?」
首を伸ばして鼻先が触れるくらいで止まる。
僕と氷の壁に挟まれる形になった雪白は少し身じろぎしたが、その目は揺らぐことがなかった。
それを是と受け取り、頬に口づける。続いて目元。薄い皮膚の感触。
もう一度確認するように目で問いかけてから、少し顔を傾けて唇を合わせた。
息を止めてじっと硬直しているような気配が雪白から伝わってくる 。
ついばむように軽いキスを繰り返してから、唇を使って雪白の唇の隙間を少し広げる。
さらに顔を傾けてくちづけると、お互いの口内の粘膜が触れ、濡れた感触がした。
雪白がひるんだように頭を引いたので、後頭部が氷の壁にコツンと当たる。
「逃げちゃだめ」
息苦しそうな、慣れない様子が僕の欲を煽る。
囁くように言って壁際に追い詰めるようにキスをして、怯える舌に優しく舌を絡める。
雪白は、ぎゅっと目を閉じて少し震えている。
怖い?気持ちいい?
怖がらないで、傷つけないよ。
頭をなでて、耳元、首、肩も優しくなでてやる。
夕日で照らされた氷の壁と、透き通るような髪に隠れた目元、真っ赤になった耳と頬、僕が濡らした唇。
縮こまった肩、両手はどうしようもなく行き場をなくしている様子だ。
僕は彼を抱き上げると、洞窟の奥へ移動した。
自分のケープを敷いてそこに雪白を下ろし、側に焚火を置き火を灯す。
「ケープ汚れちゃいますよ・・・」
「ありがとう、大丈夫だよ」
僕は上衣を脱いで雪白の下に敷く。
雪白の視線が、僕の身体に注がれるのを感じる。
でもそちらを見ると視線を外された。
横顔が緊張しているのが分かる。
彼の手をとり指を軽く噛み、手の甲に口付け、手首にキスをする。
羽のように軽いキスだが、手に触れる仕草もキスも愛情と優しさが溢れていて、雪白を大切にしたいという紺碧の思いが強いことがうかがえた。
「手が震えている。怖い?」
両手を包み込んでやって聞く。
「・・・怖くない」
拗ねるように雪白は僕を半眼で睨んだ、ちょっと強がっているようなそんな雰囲気だ。
緊張のせいで強張るを通り越して、硬直しているくせに。
靴を脱がして、足の甲にキスをする。
僕の両肩に手を置かせ、雪白の体をそっと横たえて抱きしめる。
耳元に、輪郭に、首筋に口付けながら、歯を立てないように唇で柔らかく噛んでやる。
上衣の合わせ目を開いて肌をさらし、触れるか触れないかくらいの柔らかさで腹から胸を撫でてやると、くすぐったそうに身をよじらせた。
雪白の胸部には闇に襲われた時にできた大きな傷跡が残っている。
古い傷で完全に塞がっているが、ひきつれて変色した皮膚と縫い跡が痛々しい。
非常に丈夫なはずの核(コア)にはヒビが入り、当時の惨劇がいかに酷いものだったのかを物語っている。
左胸の肉はえぐれ、乳首が跡形もない。
そっと傷跡を撫でると、もう大丈夫だから、と雪白が微笑んだ。
生きていてくれてありがとう。
核(コア)に額をつけて、願うように目を閉じる。
なめらかな肌にほどよくついた筋肉。
小柄だが引き締まった身体が、熱を帯び始めている。
雪白の両手は僕の肩に置いていたはずだけど、今は自分の顔を完全に覆ってしまっている。
手のひらを少しどかしてキスをする。
顔を逸らして逃げるような素振りを見せるけれど、逃さない。
濡れた音をたて口内の感じる場所を探し当てながら、胸の突起に焦らすような刺激を与える。
手のひらで全体を撫でたり先端だけ優しくつまんだり、ゆっくりとリズムをつけて刺激してやると、明らかに呼吸が弾んできて呼気にも熱を感じるようになった。
怪我のひどい左胸に触れた時、雪白の腹部や足に力が入ったのが分かった。
「もしかして、ものすごく敏感?」
乳首があった場所を指先で撫で、舌でざらりと舐め上げると、やめて欲しいのか頭を押さえられた。
痛いわけではなさそうだ。
「神経が皮膚の表面にあるんだと思います...ッぁ」
食いしばった歯のあいだから漏れた声。
初めて聞く雪白の声だった。
自分からこぼれ出た声に動揺して、当の本人は首まで真っ赤になっている。
可愛い。
そんな小さな嬌声など、これから気にする余裕もなくなるというのに。
ヌルい愛撫などやめて、我儘に乱暴に暴きたい。
泣かせて、鳴かせて、力ずくで、蹂躙してしまいたい。
しかしそれは間違いなく彼の肉体も精神も傷つける。
焦らず、ゆっくり拓(ひら)いていこう。
長い付き合いになるはずだから。
胸の反応を楽しんでいると、雪白と目が合った。
荒い呼吸で胸を上下させて、羞恥と困惑、そして情欲の混じった目をしていてそれが堪らなく僕を刺激する。
僕は見せつけるように胸の先端を舌先でねぶった。
奥歯を噛み締めて声を殺す様子が見たくて、再び顔を隠そうとする両手を素早く捕まえる。
「見られたくない・・・っ」
「僕は見たい」
暗黒竜と対峙した時のような好戦的な瞳だが、柔らかな愛情を感じさせる目で紺碧が言う。
雪白が身をよじらせ、自分を守るように脚を閉じようとするので、それを許さず自分の膝を脚のあいだに差し入れる。
「声が聞きたい」
柔らかく、繊細に刺激してくる舌が温かく触れるたび、痺れるような快感が身体の深くを焼くようで声が漏れそうになる。
「や、や、やだ...」
必死に声を殺しながら左右に首を振って拒否する雪白。
胸の淡く発光する核を愛おしげに撫で、汗ばんだ下腹部を指先でなぞって、パンツの上から雪白自身の形を確かめるように撫でると、すでに立ち上がっているのが分かった。
パンツを膝まで下ろすと、強張りが苦しそうに主張している。
手を離してくれと抵抗されるが僕は力を緩めることなく、雪白の身体を見下ろして目を細めた。
所々に散らされた紅い痕が焚火に浮かび上がる。
手の自由を奪われ、僕が与える刺激に抗いながらも昂(たかぶ)る快感に身を震わせる様子はとても淫靡で、無垢な身体に暴力的な性の衝動をぶつけたくなる。
「そそるね」
思い切り顔を背けて僕の視線から逃れるその首筋に、噛み付くようにキスをして痕を残し、片手で内腿を撫で上げて下肢の強張りを手中に収めた。
堪えられず濡れている先端に指をすべらせ弧を描き、ぬめりけを広げる。
捕まえていた手を解放してやると両手を僕の手に添えて動きを妨げ、雪白はいやいやをするように首を振った。
上下にしごいてやり、内腿や下腹部も手のひらで撫でると小刻みに痙攣するような反応が返ってくる。
「...っ...紺碧さん...っ」
切なそうに眉根を寄せて、僕の手を止めるように掴む雪白。
初めて誰かから与えられる刺激は強すぎて、自分の身体なのに全く制御できない。
高みへ追い詰められる快感と、その姿を見られることへの羞恥がごちゃ混ぜになっている。
「怖いです...俺、どんな姿をさらしてしまうか...っ」
「...怖がらないでいいよ。全部さらしていいよ。大丈夫だから」
添い寝するように抱きしめると、雪白はしがみついてきて僕の胸に顔をうずめた。
手の動きを早めると、その動きに合わせて呼吸も早くなる。
「雪白くんにも、こういう欲求があるんだね」
「俺も生きてますから...」
「上手に出せるかな?」
「子供ッ...扱い...」
苦痛に耐えるような表情で、しかししどけなく開いた唇から熱い吐息が漏れる。
「えっちな姿、とても可愛い。
イクところ見せて?」
「このまま?ここで出...ッ??
汚してしまう...」
「余計なことは考えないの」
いろいろ考えてしまうだろうけれど、今はただこの快感を貪って。
思考を奪うように、音を立てて口付ける。
もう僕のキスから逃げるようなことはなく、今度は雪白から求めるように舌を絡められる。
それに応えて深く口付けると、甘えるように息が漏れた。
普段、真面目で清廉な雰囲気の雪白が見せる乱れた姿は、とてもいやらしい。
もっと乱れた姿が見たい。
理性の戒めが外れた姿が見たい。
雪白の全身に力が入って、小さく震えると、僕の手に温かいものが広がった。
受け止められなかった白濁が下に敷いたケープに染み込んでいく。
「...ッ」
「よくできました」
たぶん、汚してごめんなさい、と言おうとしたのだろう。
雪白の言葉を遮って、僕は微笑んだ。
「...恥ずかしい」
「まだ序章」
汗で濡れた背を指でなぞると、雪白の肌に鳥肌が立つのが見えた。
そんなささいな変化さえ見逃さず、うっすら汗ばんだ肩をやんわりと噛んでやる。
雪白の手が僕のインナーの裾にかかって、遠慮がちに脱がせようとしてきた。
インナーの下には死相紋の彫り物と、奴隷時代のシリアルナンバーを削り取った古傷。
今回が、初めて雪白に肌を見せることになる。
しかしとても静かな気持ちで、僕はインナーを脱ぎ去った。
キミになら、見せられる。
「どう?」
馬乗りになって雪白を見下ろし、にやりと笑って見せつけるように胸を張る。
必要と思われる脂肪さえなさそうな、飛ぶために鍛え、削ぎ落とされた肢体が焚き火に浮かび上がり、見事な陰影を見せた。
死相紋をモチーフにした濃紺の彫り物は、核(コア)を中心に上腕、腹部まで広がっている。
雪白が手を伸ばして、胸板、核、腹の隆起をなぞり、脇腹の古傷に慈しむように触れる。
「...綺麗ですよ」
「お互い、傷だらけだ」
ふ、と2人で顔を見あって笑い、抱きしめあって口付けをする。
衣服のない抱擁は、肌の感触が熱くて生々しい。
「これからもっと恥ずかしいことをしようとしているけれど、大丈夫かな?」
雪白の固く閉じた膝を開き、肌をつたう指を下腹部のさらに奥へ滑らせる。
ひく、と唾を飲み込むように雪白の喉が動いた。
そっと割れ目の表面をなぞると、ぬるりと滑る感触。
柔らかい肉のあいだに指を差し込むと、温かく濡れた感触が伝わってきた。
ごく浅い部分を往復し、硬い部分は柔らかくほぐすように丹念に行き来する。
強張る身体を抱きしめて、撫でて、緊張をほぐしてやる。
優しく強く口付けられ、一方的に快感を与えられ、雪白は自分ばかり与えられてばかりでいいのだろうかと、そんな思いが脳裏をよぎる。
しかしそんな考えも、慈しむように愛でられ翻弄され、芯まで溶かされるような感覚に、自分の全てを彼に委ねてしまおうという妙な覚悟に変わった。
「入ってる。分かる?」
増やされた指が、ナカで曲げられて肉の壁を刺激する。
逃げたくなるような異物感と、奥底にほのかに感じられるような気持ちよさ。
頷くと、いい子、と額にキスが降ってきた。
ゆっくりと抜き差しされ、全身がゾクゾクと総毛立つ。
粘度の高い水音をさせて、少し節のある長い指が出入りする様子を、雪白は現実味のない感覚で見つめていた。
あんなところに、彼の指が入るなんて。
行為自体はもちろん知っていたが、まさに自分が経験することになるなんて。
でも、ずっと触れて欲しかった。
触れたかった。
首筋をなぞられ、胸をなぶられ、再び熱を持ち始めた自身をしごかれ、微かな痛みとともに痕をつけられ、愛撫が激しくなっていく。
腰を捕まえられ、入り口に紺碧自身をあてがわれ、指とは比べ物にならない質量とその熱さにひるみそうになる。
濡れて閉じている肉をこじ開けるように、ゆっくり挿入し、ついに根元まで雪白のナカに収まった。
雪白の目に、涙が、あふれる。
身体の深いところから迫り上がってきた熱い感触に心まで揺さぶられて、溢れてきた涙まで熱く感じる。
「痛い?つらい?」
涙を流す雪白の様子に、紺碧が静かに問いかける。
「平気...です。ただ、貴方とずっとこうしたいと思っていた...」
「雪白くん...」
「俺、いやらしいんですかね、紺碧さんとって、そんな想像ばかり...」
このタイミングで、雪白の涙声の独白。
乱暴にしないよう、なんとか冷静でいようと努めているのに全部無駄になってしまいそうだ。
「僕は、想像の中で何度も君を犯している」
「...え」
「今みたいにね?」
驚き見開かれる雪白の目を見て、僕は意地悪く微笑んだ。
少し強く、腰を打ちつける。
不意をつかれて漏れた雪白の声に艶っぽい響きがあるのを確認し、さらに強めに抜き差しを繰り返す。
初めて誰かを受け入れたそこは、まだ狭く硬さが残る。
丁寧にほぐされ、溢れるほど濡らされた内部は未熟ながらも淫らに紺碧の陰茎を咥え込み、きつく絡みつくような肉の感触に、理性が飛びそうになる。
奥まで突いて、かき混ぜて、貪りたい。
キミの脈打つ温かい体内、生きて鼓動する身体。
その中心の、手では触れない心にまで、触れることができたらいいのに。
「紺碧さ...ん...ッ」
「いい光景だ」
「ぁ...」
「ナカ、気持ちいい?」
「よ、よく分からない...ッ」
「そのうち、分かるね」
一瞬、動きをとめる。
名残惜しそうに雪白の腰が動く。
「分からせてあげる」
雪白を見据える、猛獣のような瞳。
冷たい青の瞳の奥に、欲望が燃え盛っている。
紺碧の本能の激しさに触れたような気がして、求められていることに喜びを感じて、腰の奥がきゅうと甘く疼く。
「声、出して」
「い、いやだ...」
「 雪 白 」
「...ッ!」
---呼び捨て。
普段優しい彼の、威圧的で有無を言わせない、迫力のある声色だった。
艶っぽい、耳に心地よい低音の声が鼓膜に触れて、背筋がしびれる。
同時に最奥を硬い先端で突かれ、目の前がくらりと歪んだ。
痛みや異物感よりも快感が勝ってきて、今まで感じたことがない奥から迫り上がるような気持ちよさに、身体の芯が焦げてしまいそうだ。
「ちゃんと感じられてるみたいだね。
いい子だ、雪白」
かけられる言葉にすら感じてしまって、自分から愛液がじんわりと滲み出るような、そんな感覚さえ分かってしまう。
食いしばった歯の間から唸るような声が漏れ、それには隠しようがない甘い響きが混じっている。
深く、リズミカルに奥を突かれ、雪白自身も紺碧の大きな手に捕まえられ、甘やかされ、苦しくて、切ない。
「は...ぁ...これ以上はッ...」
苦しくて、嬉しくて、気持ちよくて、許して欲しくて、感情が嵐のようで涙が止まらない。
「かわいいね」
「んん...いやだ」
「なにが」
「とにかく...もう...ッ...もう...」
汗をびっしょりかいて、荒い息をついて、見られたくなくて、手で顔を覆い隠し、両手で髪をかき乱す。
自分がどんな顔をしているのかも分からない。
とにかく酷い顔だろう。
「顔、見せて。
好きだよ。雪白」
手を捕まえられて、ぐしゃぐしゃの泣き顔をのぞきこまれる。
雪白はすがるように紺碧に口付けをねだった。
与えられる唇に、触れたかった唇に、何度も何度も口付ける。
あぁ、涙の味がする。
要領の分かっていない、情熱だけの下手くそな雪白のキスが。
表情も声も、なにもかも取り繕えない、ひっ迫したその様子が。
加虐心を、欲を煽る。
僕のことが好きだと、泣きながら伝えてくれた、震えた声。
初めての行為に内心怯えているのに、それを必死に隠して応えてくれたキミの気持ち。
真面目なキミが見せた、欲情するいやらしい姿。
全身で求めてくれる真っ直ぐな欲望。
そして...
そして...紅藤の弟子を奪ったという、例えようのない優越感、たまらない背徳感、支配欲。
大切に育てあげたであろう雪白を、新雪を踏み荒らすように汚し、紅藤の知らない雪白の姿を自分だけが知る。
ねぇ、紅。
雪白くんが告白してくれたとき、どれだけ耳が赤かったか知らないでしょ。
雪白くんの口の中がどれだけ熱いかなんて知らないでしょ。
雪白くんが射精するところなんて見たことないでしょ。
僕がいちから行為を教えて、慣らして、僕の陰茎を咥え込んで泣いている姿なんて...知らないでしょ。
僕のものにして、ごめんね?
(こんな風に考えるなんて、本当にどうしようもない思考回路だな)
思わず口元に笑みが浮かんでしまう。
「さ、もう一度イこっか...?」
雪白自身を包み込む手に力が入る。
今までの優しさは完全になくなり容赦なくしごかれ、ナカを突き上げられ、雪白は再び達した。
紺碧は雪白から陰茎を引き抜くと、その腹に白濁を吐き出す。
雪白に収まっていたそれは、冷たい空気のなか湯気が立ちそうなほど熱を帯びていて、どちらのものか分からない体液で濡れそぼっている。
しばらくどちらも話さず、静かな氷の洞窟にお互いの息遣いだけがかすかに聞こえていた。
「(き、気まずい...!)」
俺は寝転がったままで、動けなかった。
身体が辛いわけではない。
手加減してもらっていた気配も感じていたし、とても労ってもらったのも分かる。
さんざん泣かされて(...と思っているだろうが序の口だ)、恥ずかしいところを見られて(...と思っているだろうが序の口だ)目を合わせられないし、そもそも顔があげられない。
手慣れた様子で汚れを片付ける紺碧さんは、なんだか機嫌が良さそうだ。
「履かせてあげよっか?」
笑顔でパンツを差し出されて、俺はそれを奪うようにして受け取る。
起き上がった自分の身体を見て、しばし手が止まってしまった。
いつの間につけたのかキスマークがそこ此処に散らばっていて、先ほどまでの行為が現実なのだと訴えている。
「雪白くん、可愛いかったね」
にやにや。
端正な顔立ちに裏のある笑顔を浮かべて...裏しかない笑顔を浮かべて、紺碧さんは指先でキスマークを辿りながら楽しそうに目を細める。
首筋から胸、腹へと指でなぞられて、肌から受け取る刺激がまだ艶めいて感じる。
感触を思い出してしまい赤面した顔をそむけてパンツを履き、上衣を頭からかぶって着ると、紺碧さんに抱きしめられた。
痛くないか、身体は辛くないか尋ねてから、頬擦りしてくる。
先ほどまで俺の上で意地悪に笑っていた彼はどこへいったのだろう。
「意外とスキンシップ好きなんですね...」
「雪白くんだからだよ」
衣服ごと息が詰まりそうなほど抱きしめられ、慈しむように優しく言われて、嬉しさが込み上げる。
紺碧さんは自分の身支度を後回しにして、俺の身なりを整えてくれた。
どこまでも優しい人だ。
子供みたいに世話をされて少し恥ずかしかったが、こんな風に委ねてしまうのも心地が良いものだと思う。
地面に敷いていた紺碧さんのケープも上衣も、2人の下敷きになってぐちゃぐちゃのシワシワだ。
あぁ、ケープ、重かったろうに、ごめんな。
紺碧さんと...その、こういう関係になったけれど、なんだか信じられないな。
あ、いや、もちろんすごく嬉しい。
紺碧さん、たぶんいろんな人と付き合ってきただろうし、今も相当モテてる。
そんな中で俺を選んでくれたのが嬉しいな...。
初めて、その、キスして、...あー...うん、えっと...なんだか目まぐるしかった...。
全然余裕なんてなかったし、恥ずかしくて何がなんだか。
もっと落ち着いて構えていたいもんだな。
ところで、このキスマークはどのくらいで消えるものなんだ?!
首とか...見えるところについていないか?!
(完)
ここまで読んで下さってありがとう!