詰めただけ※SSと1本読み切り
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『色』 三太と彷徨
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急に呼び出して来たと思ったら突然、『お前変わったよな』と言われた。
変わった所なんか特に無いけれど、内面の事らしい。
客観的な意見として、少なくとも中学1年までは『自分と他人』白と黒しかない精神でしかなかったと言う。
でも、中2になって、アイツらが来て4人になって、そこに『自分と他人』以外が来たから淡く色が付いた。
「つまりその期間がお前を人間にした!」
「まるで人を化け物扱いだな」
「まぁ俺から見たら、お前は整いすぎてるからさ!」
「整いすぎ、ねぇ…」
そうだったとしたら幼少期の環境下だろうなとはっきり言える。
でもそれは誰もが悪いことではない。
それより大事なのは今だろう。
「じゃあ、今のおれはどう見えているんだ?」
「幸せ全開じゃん!そんなの彷徨が1番分かってるだろ?」
幸せ…か。
「ふはっ…そうかもな」
「うわ…笑い方は前よりこっわい。なんか花飛ばしてそうで」
「調子に乗んな」
「いででで!」
強いて言えば、色がはっきりになった、が答えだろうな。
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『嬉しい傷』 かなみゆ※大人に近いんで事後表現あり
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「うー…朝だー…えっもうこんな時間」
隣で寝ていた人も身体を半分起こして、早くも着替えようとしていた。
「はよ」
「おはよ…あっ!」
見つけてしまった背中の掻き傷や爪を立てた痕。
昨夜付けてしまったのだろう。
「ご、ごめん、背中、痛いでしょ?」
「ん?何か付いてるか?」
傷のある当人は気が付いておらず、何の事と言わんばかりにきょとんとしていた。
「わ、わたし昨日、爪…」
鏡で確認。
「これか?ん~そう言われるとなんかビリっとした痛みがあったようなそんな気も…」
「うぅ、すみません…」
「でもお互い様じゃん。おれも昨日ちょっと加減出来なかったし。こんな傷、寧ろ男冥利に尽きるってもんだろ」
「う、うぅ…」
昨日の光景がフラッシュバックする。
薄暗い部屋の中でも分かる余裕がない顔、息使い。
そして自分も、結局は求めてしまっていたことも。
全てだ。
「わー恥ずかしいー」
「ほら、そろそろ着替えるぞ~やること山のようにあるんだからな」
「え…」
「まさか、忘れてんのか?今日は3年ぶりに夜はアイツら来るんだぞ?」
「あ、そっか!」
久しぶりに中学時代の親友達との会合。
飲み明かすぞーなんて豪語していた人もいたっけ。
その前に買い出しやら大掃除やら、調理支度やらで大忙しだ。
時刻はただ今11時。
「結構寝すぎたから急ぐぞ!」
「うん!」
遅れた分を取り戻すべく、楽しい時間を迎えるための準備を進めるのであった。
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『とある家庭』 親子
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「こらー未宇!待ちなさーい、ちゃんと拭かなきゃだめでしょー風邪引いちゃうんだから!」
「やー」
2歳と少しになった娘は、見事お転婆に成長しており、特に風呂上がりは体を拭く前に脱衣所から逃げ出しやすい。
「あ、パパ未宇止めて!」
バスタオル抱えて、裸の娘を追いかける未夢。
なるほど、とキャッチ。
「うー!」
「こら未宇。女の子なんだからちゃんとパジャマ着てから出ておいで?でないと…」
「?」
「パパが擽っちゃうぞー」
コショコショと未宇が大笑い。
「やー!くしゅぐったいー!」
「ほらこうなるから。お風呂上がりはちゃんとパジャマ着る。パパと約束出来るか?」
「はーい」
「ほれママ~今のうちに拭いとけ」
彷徨から娘を受け取り、ようやく体拭き再開である。
「この子ったらもー!ホントパパの言う事は聞くんだから」
「そりゃ、未宇はパパのこと大好きだもんな?」
「しゅきー!」
「えぇーっ!未宇はママのことも大好きでしょ」
「しゅきー!」
「もー可愛い子なんだから!」
似た者親子が可愛いのでつい笑ってしまう。
それはそうと、せっかく作った出来たての夕飯が冷めてしまう。
「あ、2人共、夕飯出来てるぞ」
「「はーい!」」
「ぶはっ、ホントお前達そっくりだな!」
なんて幸せ者だと思いながら、食卓へ向かうのだった。
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『泣き顔まで綺麗だなんて』 彷徨と未夢
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彷徨は大きくなってから、泣いたことってあるんだろうか。
そんなことを考えていたら、読書を楽しむ当人が何か察したようにこちらに視線を向けた。
「…今何か変なこと考えてただろ?」
「え、なんの事よ!ま、まーただ?彷徨って泣くことあるのかなーって」
「はぁ………?何を狙ってるかと思ったら…」
「あ、あはーいや、ただ大きくなってから泣いたことあるかなーって」
「ったく…最後に泣いた記憶なんてガキの時だけだと思う」
予想通りの答えだ。
「だ、だよねー」
「恐怖からとか、感動して泣くとかもなかったの?」
ある訳ない。
普段から恐怖心や感動等から涙を見せる姿なんて1度も見た事ないのである。
微塵も見せないようにしてるだけかも知れないが。
「泣いた顔見てみたいとか下らないことばっか考えるなよ…」
「ふーん、そうなると逆に泣かせたくなりますけど?」
「ゾッとするようなこと言うなよ………トリハダ立つから」
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見れども見れども泣くなんて絶対になさそうだ。
それとも涙腺なんて退化してもう無いんじゃないかを疑う。
「おい…こっち見すぎ…怖いから…」
「…何の本見てんのよ?」
「お前には難しいヤツ」
「は、腹立つ~」
「今いいとこだから勘弁」
「つまんなーい」
それから少し、うっかり寝てしまった未夢。
慌てて飛び起きた時気が付いた。
本人は拭う素振りもない。
目線は本から離さない、でもそこに綺麗な雫が流れていたことに目を奪われた。
思わず思う。
(綺麗…)
泣いていたら正直バカにしちゃうかもなんて最初は思っていたが、そんな考えはすぐ消えた。
泣く姿なんて、滅多にない激レア。
未夢はすーっと指先で彷徨の目尻をすくう。
「うわ、何っ」
「え、気が付いてないの?!」
「何がだよ」
「そうか~感動で泣ける気持ち、まだちゃんとあって安心したよわたし」
「何を言って…え、何でおれ涙出てんの?」
「えー無意識」
何か泣き顔まで綺麗だなんて腹立つのはわたしだけかな。
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『弱点』 かなみゆ
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西遠寺彷徨(16)のスペック。
これは弱点を探るためのメモ!
現在高校2年生、身長171cm、体重57kg。
2Aクラス委員兼生徒会執行部所属、及び副会長も担う。
文武両道、容姿端麗、誰が見てもイケメンと称される程のハイスペック高校生。
苦手科目はなし、何でも出来る頭脳の持ち主で、2学年での成績は常にトップの超が付く優等生。
炊事などの家事は男子高校生ながらおおよそ出来る。
あまりにも甘いお菓子は嫌がるが、好きな食べ物はカボチャと言うギャップもある。
誰からも頼られる人望の厚さ、冷静さ、頭の回転の良さ、ぶっきらぼうに見えるけど優しい一面もあり、人のことをちゃんと考えてくれる、モテまくりの人間。
彼女は、「わたし」、とまで書いてシャーペンを置いた。
どう足掻いても弱点なんかない。
一緒に住んでいた期間も含めて4年は一緒にいる。
これまで色々な角度から彼を見て来たが、弱点になりそうな所なんか未だに1個も見付けられない。
(本当に完璧な人間なんじゃないの?実は妖怪?)
と疑いたいレベル。
1回くらいギャフンと言わせたいのに、それは難しいことなんだろうか。
「むぅ………」
ピンポーン、と自宅のチャイムが鳴る。
約束の時間通りだ。
「あ、待ってたよ彷徨~お願い助けて」
「どれだよ分かんないとこって」
そう、今日は課題を教えて貰いたくて朝から呼び出したのだ。
「これ、この数式がさっぱりなのよ」
「んー……あぁ、これか。ここはちゃんとポイントがあって…」
声は前よりちょっとだけまた低くなった気がして何だか聞き心地がいい。
文句言いながらも何だかんだで勉強も教えてくれるし、本当に弱点どこ?
「…い、おい未夢、聞いてる?」
「えっ」
「えっ、じゃねぇよ教えてんですけど!?」
「しゅびばしぇん…ひゃからほっへふままないれー」
「ったく…もっかい言うからちゃんと聞けよ」
「はーい」
数時間、しっかりみっちり教えて貰った。
教え方もうまいんだよね。
わたしみたいな多少おバカさんにでも分かるように話してくれるもの。
弱点何かないよ、これは。
「ありがとう教えてくれて!はいこれ!お礼に駅前に出来たプリン専門店で買ったの。何とプレミアムカボチャプリンでーす!案外ね、甘さスッキリだよ」
「ふーん…」
早速1口食べ始めた。
「あ、うまい。へーさんきゅ」
よかった気に入ってくれたようだ。
「彷徨、飲み物何する?」
「ブラック」
「はーい」
最近コーヒーはブラックしか飲まない。
舌はもう大人みたいなものじゃない。
弱点…もう探すの止めようかな…と諦めの境地にもなってきた。
「ん?何これ」
「あ!」
そのミニメモ帳はさっきまで書いてたやつ、お願い見ないでと止めようとしたけど間に合わなかった。
「………」
「………あ、えっとそのメモはですね…」
「散々一緒にいるのに更におれのこと調べたいのか?弱点ねぇ」
「え、えっとぉ~…」
「はぁ、バカだな。おれだって弱点くらいあるぞ?」
「え、本当に」
「ふーん、気が付いてないのか?」
「ん」
「なんだと思う?」
いつもの理解して確信を持っているような笑み。
悔しいが全く分からない!
「な、何…?」
「分かるまで待ってるから今後用の追加課題だな」
「えぇ~何それー」
「答えが分かったら教えろよ。正解だったら」
「だったら…?」
「身をもって体感してもらうから」
何それどういう意味。
分かるまでそれからすごくかかりました。
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『声だけでも聴きたくて』
おまけの読み切りかなみゆ
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満天の天体がよく見える高台にあるお寺。
自然のプラネタリウムに大満足だ。
「キレー…」
いつになく、綺麗な星空を見せる夜。
外の涼しさを求めて自宅を一歩出れば出会えた夜空。
あの空の向こうには、もっと知らない世界がある。
(ママやパパ程じゃないけど、こういうの見ちゃうと余計宇宙に興味湧いちゃうよね)
そしたらいつしか、あの子達にもまた会えるよね、なんてちょっぴり昔を思い出して。
「はー…涼しー…」
エアコンのように人口的に作る涼しさもいいが、自然の中の涼しさには勝てないものがある。
夏も大分折り返しシーズンで、日中は暑くても夜はひんやりするようになって来た。
それでも半袖はまだ必須だが。
時刻はまもなく深夜。
明日も早いがなんとなく眠れなかった。
(彷徨は、もう寝ちゃったかな?)
ここからだと、母屋側の彼の部屋は見えない。
こんな時間だけど会いたいなぁなんて思ってしまう自分がいる。
(偶然、たまたま、出てなんて来ないよね…。あ、電話、してみる?)
パジャマのポケットから取り出したスマホ。
履歴の最新日時は今日の朝、彷徨からによるもの。
押したいけど、躊躇してしまう。
寝ていたら起こすことになって申し訳ないし、でも、声くらい聴きたい気持ちもあって迷っている。
でもやっぱり、後者の方が勝った。
(わ、………1コールだけ…)
着信履歴の彷徨をタップして、電話をかけるへスライドさせる。
1回で出なかったらそれで止めよう。
耳元から聞こえる向こうの電話へ繋ぐ音が流れてくるが、流石に1コールじゃ気付かないよね、とすぐそれをオフにする。
(出る訳ないよね~時間も時間だし)
と思っていると、スマホが急に鳴り出して。
慌てて画面を見るとそこには声だけでも、と聴きたくてかけた先程の名前。
(ど、どうしよう起こすなってお怒りの電話かもー…)
イッキにゾッとしてしまったが、震える指で通話をスライドする。
「も、もしもし?」
『…どうした?風呂入ってたから着信あったの分かんなくて』
至って普通の彷徨の声が聴こえ、安堵したのも同時に嬉しさも込み上げる。
話せている、と。
「え、あ、お風呂だったの!まだ入ってなかったのね」
『横になってたらうっかり爆睡してた。最悪なんだけど』
しくじったと頭を抱えているのだろう、聞き慣れたため息まで聴こえ、クスクスと笑う。
『で、何か用だったか?急ぎ?』
「あ、う、ううん違うの。ただ、その、わたし何か眠れなくて今外なんだ」
『外』
「言っても家の玄関先ね。で、そのちょっとだけ………彷徨の声聴けたらなーって…」
言って恥ずかしくなる。
なんと言うか女々しい。
『……』
電話の向こう側の人の反応はない。
(え、呆れた?呆れてる)
なんて思っていると、耳元からの声は予想外のもので。
『……そっち、行こうか?』
「えっ」
返事する前に来てくれるかも知れないって思ってバッと玄関方面を見たいが、
「え、いいい、いいよもう遅いしただ声聴きたいなってだけだったから!」
『………………まあ、そうだなもう日付変わってるし明日早いしな』
ここでやっぱり出て来てとは既に言いづらいし、それに多分会ったら、離れたくなくなるから。
ならやはり、声だけでもう十分だ。
「あ、ありがと折り返しくれて」
『ちゃんと戸締りして寝ろよ』
「うん、大丈夫!おやすみなさい」
『あぁ、おやすみ』
(折り返してくれた……)
通話を切る。
電話は今でも緊張してしまう。
表情が見えないし、予想しずらいからだ。
でも、耳元に響いて来る声が心地良いのは事実。
「はー……悔しいけどわたし、彷徨のこと好き過ぎじゃない?………でも、安心したから何か眠れそう」
自宅に入りきちんと鍵をかけ、2階の自分の部屋。
電気を消して、もう一度スマホ画面。
無料のメッセージアプリを使って、彷徨のTLに先程のことへのお礼に改めてメッセージを送っておく。
既読は付かなくていい。
返事も要らない。
朝気付いてくれたらそれでいい。
「よし、寝よ!」
いざ、寝ようとしたらピコンとアプリの通知音。
まさか、とその画面を展開し、返ってきた返事に顔を真っ赤にする。
『さっきは折り返しありがと!嬉しかったよ!また明日ね』
『言った手前正直会うか迷った。でも、お前が断ったからそれでいいと思った。多分会ったら、離したくなくなるかも知れなかったから。じゃ、おやすみ』
こんな返事じゃもう余計に寝れないと叫びたくなっていて。
案の定朝は寝坊し、担任にコンコンと説教を受けることになるのであった。