詰めたかなみゆ-----------------------------
『Never give up』
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「ゲッ!」
書類の山と闘い三徹目を迎え、土日の休みに入ったがとうとう思考力と判断力が死んだ。朝食を食べた後、コーヒーを飲みながら残りに取り掛かっている間、彷徨はガシャンとマグカップを倒しコーヒーを書類にぶちまけてしまった。
「や、やっちまった…あー予備あったっけ?」
鞄からファイルを取り出そうとして、玄関から声がして上がり込む足音。
「彷徨ぁ~いる?うわっ、ひっどい顔!」
「三徹目…」
未夢は彷徨の目の下にくっきり隈が出来ていることを確認した。もれなくイケメンが台無しである。机の紙の山にも驚愕する。
「ひえーまた山積み…うちの生徒会って鬼なの?」
「強いて言えば会長がか?あの人うちじゃ有名な鬼畜鬼生徒会長らしいからな」
「これ、いつまで出来なきゃいけないの?」
「月曜日…」
「うわぁ…」
暫しの沈黙で、未夢がハッと思いついたようで提示してくる。
「よし、この未夢さんが彷徨に元気をあげましょう!」
「何ソレ……」
未夢は彷徨の腕を掴む。頬からは軽いリップ音。彷徨は豆鉄砲を喰らったようにキョトンとした。未夢の方を見やり、その顔は赤面状態だ。
「あ、はは……じ、じゃ、頑張ってね♡」
そのままスタコラサッサと退散していく彼女を見て暫し呆然。しかしすぐ、笑いが込み上げてきた。
「な、何だアイツ…くくっ、自分からやっといて照れくさいならしなきゃいいのに…ぶくくっ…」
可笑しいのに、頭の中は幸せな感情が溢れていく。次第に自然と活力になっていくのを感じた。
「ま、確かに元気貰ったからもう少しだけ頑張るとするか」
翌日。
見事に書類は捌ききっていたのを見て未夢は「おぉー」と手をパチパチさせた。彷徨の方はもう流石に限界で、机に突っ伏してくたびれ果てていた。
「さっすがー…と、言いたいけど、もしかしてわたしのおかげもあったりして?」
「………」
確かに、一理あるかもと彷徨は「まぁ、そうだな」と呟いてから未夢にキスをした。
「ちょ、何すんのよ急にびっくりするじゃない!」
「お前だって昨日そうだったんじゃん」
「あ、あれはー…」
「元気出たのは本当。だから返した」
舌をぺろっとする姿はいつもの彷徨である。前から変わらない。寝てない割には完全復活なのだろう。
「…………ば、バカ。もう!徹夜バカは早く寝なさいよね!」
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『許容範囲』
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「大雨警報かー。まぁここは平気だろうけど、ママ達の飛行機今日飛ばないかもね」
停滞している前線のせいで、天気は連日のように雨。加えて今日は大雨警報まで出ている。せっかくの夏休みも台無しである。先日から両親はいつも通り県外を飛び回って自宅にいない日が続き、久しぶりに帰って来る予定だったが、この天気。恐らく飛行機は飛ばないか遅延の可能性がある。1人で自宅にいる未夢は暇を持て余していた。
「…さすがに起きてるよね」
ちらりと時計を見て、一瞬雨が止んだのを見計らって西遠寺へ転がり込んだ。母屋の玄関は開いている。なんとなく「おはよー」と玄関先で声を掛けたが、それに対して反応は返って来ない。部屋に居るのだろうかとそっと移動して、本人がいるであろう私室の引き戸を開ける。起きてるかと思いきや、まだ夢の中のようでぐっすり眠っている。
「わー…まだ寝ているなんて珍しい…」
ふと机に目を向けると、これはまたどっさりと書類の山。恐らくまた夜遅くまで捌いていたのだろうと推測出来る。
「相変わらず追われているのね…その内ワーカーホリックって言われちゃいそうだね」
寝ている所を起こすのは気が引ける。また時間をずらしてからにしようと、部屋を立ち去ろうとしたら夢の中の住人が急に起き始めた。
「ぅ…ん─…………いま…何時だ……?」
「あ、今10時半だよ?」
「じゅー…じ、半…?」
「おはよ彷徨!まだ寝ぼけてる?」
まだ寝ぼけぎみの彼氏に面と向かって話しかける。
「………未夢…?」
「そうだよ?誰と思ったの?」
「…あー………やべー……寝過ぎた……」
「昨日も遅かったんでしょ?大変だね」
この所、寝不足ぎみだと話していたのを思い出したので、土日くらいゆっくりすればいいものをこのストイック人間はそう言うタイプではない。やれる時にやっちゃいたい人だからだ。
「んー……未夢…」
「なぁに?」
「起きたくねー…」
言いながら枕にしがみつく彼は、本当に高校生だろうかと笑ってしまう。
「あはは、休みだもん!たまには寝てればいいじゃない?じゃー…わたしも横になっちゃおうかな~なんて」
「いいよ…すれば…?」
冗談で言ったつもりだった。まだ寝ぼけたままなのかぼんやりしたような子どもっぽい表情で、柔らかく笑いながら言うもんだから思わずドキッとしてしまう。
「や、やだな彷徨~いくら何でも寝ぼけ過ぎだよ~シャキッと!」
「横んなるくらいじゃん…」
「そ、それはそうなんだけど…」
「ほら早く…」
「ちょっ」
いとも簡単に腕を引っ張られて、布団の上に寝かされる。隣の彷徨は真っ直ぐ未夢を見ている。
「…あ、思い出した。初めてここに来た時、こんな風に寝たの、あったよね」
謎の異星人の赤ん坊と意図せず3人で川の字で眠った記憶。今は2人だけど。あの時も、起きたら目の前の彼の顔が眼前にあって緊張したものだ。今は、大好きな顔が自分を見つめている。
「あー……あった…?」
「わたし達中学生だったもんね、びっくりだったよね」
懐かしい思い出。しかし彷徨の方は思い出に浸っている訳じゃないらしい。
「ん……」
「彷徨、眠い?」
「んー…」
「寝る?」
「……」
「え、ほんとに寝たの!?」
まさかの二度寝。余程疲れているのだろう。
「もう、横になれとか引っ張いといて……寝ちゃうんだもん…わたし1回帰るね彷徨。おやすみ、お疲れ様」
少しだけカサついている唇に、自分のを重ねて。ササッと自宅に帰った。
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「は…!?12時!?」
未夢が自宅に戻って約1時間半後ようやく彷徨が覚醒した。1日の半分をまさか睡眠で潰してしまったことを酷く後悔した。確か1回起きて、未夢もいたハズだったのに彼女も居なくなっている。
「あー…起こせよ未夢のヤツ~……」
起きれなかった事を彼女のせいにする当たり最低かも知れないが、どうせなら本当に引っぱたいてでも起こして欲しかった。
「ん?」
唇が少しだけテカっとしている気がした。まるでリップを塗られたような感覚。
「…?」
よく分からないが、まぁいいかと気にせず、ようやく布団をたたみ、朝食兼昼食を簡単に済ませてから、再び机に向かいたい所だったが、寝過ごしてダルい体では全くやる気が起きない。加えてこの大雨。
「雨すごいな…ますますやる気が……」
「彷徨やっと起きた!」
「わーっな、に?いつの間に…」
「そうだ鍵かけなきゃダメじゃない。おじさんでかけたっきりかかってなかったんだよ?」
いつ入って来たと言いたい言葉が出かかって飲み込む。
それより目立つのは雨のせいだろう濡れてしまっている未夢の方。
「タオルそこにあるから使え…」
「平気だよちょっとだけだもん」
「いや、あのなぁ…透けてんの」
彷徨は手で自身の目を隠して、畳まれてあるシャツとタオルを渡す。
「ほらっ、タオルで拭いて、オレのシャツだけど被っとけ貸すから」
ふいっとそっぽ向く。
「ご、ごめーんありがとう~」
「頼むからもう少し考えてくれよな…いくらオレでも…安全地帯と思ったら大間違いだからな。全く人の気も知らないで…」
決して無知ではないと思いたいが、未夢の場合は怪しい所がある。
「あ、はは…彷徨だからいいかなぁって」
「バカ未夢。ほんっっとにバカ。中学生みたいなノリでここ来るの勘弁してくれよ。何歳なってんなことしてんだ…」
「もー怒んないでよー」
「怒ってねぇよ呆れてんだよ」
ため息も深くなる。いつまで経っても無意識感が漂う未夢に心底どうしたらいいかまで悩み所になってしまいそうだ。
「今は、許容範囲ってヤツか…仕方ないなー」
「なに~?」
「こっちの話」
これだけ緩いのだ。この許容範囲をその内こちらから越えるしかない、と思うとちょっと気が遠くなりそうである。
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ながーい後書き
『許容範囲』
原作の彷徨くんてクールですよね、年相応じゃなく見えてしまうのもあると思う。だから寝ぼけ具合の時はちょっと幼くしたかったのと、何時までも安全な男だと思うなよって言う威嚇(?)をしたかった。
『Never give up』
ふっと思いついた超短いやつ。ついでに漫画にしたい単純なネタだったけど我には無理だった。でもラフとか描きなぐってやってた。笑
誰か漫画に起こして欲しいです 笑
だぁは、一旦書かないとか言っといてなんかまた出してるぞコイツ。正解です、小ネタ話だからいいかなーって!言うて糖度は普通。普通?ホントはもっとつめつめ溜め込んでいたのに間違って消してしまって生き残っていたデータしか出せなかったクッソやん。しょうもな!もっとゲロ甘にしたのもあったのにね。しょうもな!