幸福物資昼食時間は放送委員が流す内容はリクエスト音楽や、生徒からのコラム。と、いつもと変わらない放送が聞こえる。緊急の場合、生徒会からのお知らせもある。今日は生徒会からのお知らせを筆頭に、放送が始まった。
『本日は、生徒会からのお知らせを先にお話します。生徒会、2学年副会長お願いします』
そこで放送委員がバトンタッチ。
『生徒会からです。来週の月曜日の全校朝礼にて…』
彷徨は2学年副会長を担っているから、今の放送が聞こえ始めると女生徒は大体湧く。まぁ、わたしもちょっとソワソワしちゃうけれど。そんな中、クラスの女子が。
「ねぇ、西遠寺くんいつもより声に覇気ないよね?」
「そう?変わらなく無い?」
「そうかなぁ?」
鋭い女子は鋭い。そう、遡ることこの2週間、彷徨はかなり疲れている。文化祭の打ち合わせが始まって、生徒会は実行を兼ねている。毎日のようにすり合わせをしなきゃいけないらしくて帰りも遅いし、今日は金曜日とも相成っているからかますます疲れている感じだった。
このままだと気絶するかも知れない。
放課後、帰る前に珍しく図書室に寄った。目的は心理学みたいな。少しでも疲れを無くしてあげたいっていう親切心から。背表紙だけ見ていると、『マッサージによる効果』と書かれた本を見つけて手に取った。目次を見ると、幸福物資が1番最初にある。マッサージによるホルモン分泌に関してってことらしい。頭がいい方じゃないからよく分からないけど、次のページで目に止まった。
【感情や気分を高めてくれる幸福物質】
・セロトニン
心にやすらぎを与え、精神を安定させる物質。不足するとうつや精神に影響を及ぼします。
・エンドルフィン
快楽物質と呼ばれ、高揚感を高める物質。痛みや苦痛を和らげ、免疫力を高めてくれます。
マッサージをすることでストレスは軽減な上、この2つが出るらしい。
「使えるかも…!」
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生徒会を終えた彷徨が帰宅した所を確認して、少し時間を開けてから母屋に駆け込んだ。彷徨の私室を開けるとぐったり気味で横になっていた。わたしが来た事に気が付いて起き上がる。
「…ん?何?」
「大丈夫?」
「しんどい」
「ふっふー、そんな彷徨にお知らせです♡マッサージさせて?」
「ま…マッサージ?」
怪訝な顔。そんな顔すぐに崩してやるんだから。
「だって彷徨ずっと疲れてるでしょ?マッサージってやっぱり気持ちいいと思うよ?手貸してくれるだけでいいから」
疑り深そうだけど、素直に応じてくれるようで片手を差し出してくれた。
「…いいけど」
「では、施術開始ー」
「施術って…」
自分の指先を手のひらに滑らせていく。幸福物質、出るといいんだけどなぁ。彷徨の手は前より確実に、大人の手に近付いている。ゴツっとする部分もある。わたしが何かドキっとしちゃったけど、そこにゆっくり指圧をかけた。
「…こうかな?どう?何かこう…出て来た?」
「何が」
もしかしてヘタクソなのかな?彷徨全員気持ちよさそうに見えない。
「未夢」
「ん?」
「もうちょい右。強めに押して」
「あ、うん」
もしかして、気持ち良くなって来てる?
「あー……これは悪くないな…」
「おぉっ!えっ、気持ちいい?」
「大分…いい。ついでに肩もやって。放課後まで座りっぱなしで書き物あるからガチガチなんだよ…首痛いし」
「何か、おじいちゃんみたい」
「オイ」
でも、せっかく貰ったリクエスト。やらない訳には行かないので頑張ってみよう。肩もみなんて小さい時パパにした以来だ。まさかそれを彼氏さんにするとは思ってなかったけれど。
グッと力を入れて押した。特に首の付け根あたり。
「ぐっ、いってぇおま…力入れすぎ」
「あ、ごめん」
「肩だけでいいから…」
「は、はい」
肩もみ始めて数分。ちょっと手が痛い。でもやってるとわたしも何かふわふわしてくる。自分の手で、誰かを、大切な人を喜ばせてあげられているなら、わたしだって嬉しい。わたしも幸福物資が出てるかも、って思える。
「ど、どう?」
「ん、気持ちいい…楽…」
よかったぁ。
「じゃあ交代」
ん?交代?
振り向いて来た瞬間のリップ音。はれ?今…
「頭の中、フワッフワにしてくれてどうするつもり?何狙い?」
「え…いや、狙ってなん…て」
「また変なもん吹き込んだ?例えばセロトニンとエンドルフィン出させてストレス軽減して貰えばおれも未夢も一石二鳥って?」
ひいぃぃ、何か読まれてる?何で的確なの
「ま、待ってよ!わ、わたしはただ彷徨の疲れが少しでも取れて貰えたらなって…!」
「もう十分。だから今度は交代、な?」
べ、別のスイッチを入れてしまった、かも?