実りある日まで暴れ狂う友人を尻目に隙を見て誓った口付けも、ブーケを投げようとしてドレスにつまづいてブーケをバチンと床に叩きつけてしまい、自分も盛大にこけて大爆笑になったブーケトスも。
「「せーのっ」」
シャッターが切られる直前に仲間達から蹴飛ばされた新郎新婦。前のめりに滑って、盛大に転んだ瞬間にシャッターが降りたことも、そんな婚礼がよもや日中にあったとはと、お風呂上がりでほけっとしながら西遠寺の縁側に座っていた未夢。籍も入れたので、正式に姓が【西遠寺】に変わったドキドキが収まらない。
(ど、どうしよう…)
披露宴あたりだろうか友人達に言われたのが、
『新婚初夜は多分今日あたりになるから楽しみだね?』
と言われ顔を真っ赤にした時、隣の彷徨にもバッチリ聞こえていたらしく、飲んでいたシャンパンを盛大に吹いて噎せており、『新郎しっかりー』なんて言われていた。
「もー、あんなこと言うなんてー…でも…」
そうなったらそうなったで、受けるべき時が来たも同然だ。覚悟は決まった?と言われると身構えそうだが。
「うわー…緊張するよー…」
「おい」
「ほぎゃ」
振り返ると彷徨が首にタオルをかけて、風呂から出たことを知らせに来たようだ。
「……風呂上がりにそこにいたら風邪引くぞ…」
「…ひゃい…」
「………部屋にいる」
そう言い、その場を離れて行った。
未夢の脳内では緩やかにフローチャートが構築されていく。
お互い風呂上がり
↓
部屋にいると言われる
↓
向こうは部屋で待ってる
↓
つまりYES
噴火しそうだった。
ひいぃぃと思考回路がショートしつつ、控えめに彷徨の部屋をノックすると「どうぞ」と反応。ゆっくり開けると頬杖をつきながら座って本を読んでいた彷徨。未夢はあたりをキョロキョロさせながらささっと入って戸を閉めた。
「…挙動不審」
「うっ…ち、違うもん!」
「…披露宴で言われたアレが気になってんの?」
「な、ななな」
「図星じゃん」
うっ、と未夢は顔を手で隠した。ダメだ、恥ずかしさでまともに会話出来やしないとパニックになっていた。
すると、その手を外されて「顔見たい」なんてのたまうので、ヤダヤダと押し返す。
「もっ、無理無理!ヤダ!」
「夫婦なんだからいいじゃん」
「か、彷徨だってシャンパン吹いてたじゃない!動揺したんでしょ」
「そりゃあんな至近距離での会話聞こえない訳じゃないからなぁ」
焦れったいと勢いだけで未夢を抱き込んだ。こつりと額を合わせて「さぁ、どうする?」と逃げられない距離で言われてしまい、未夢はなおパニックに。フルフルと肩を震わせる。
(あー…これは駄目だ…)
落ち着かせるのが定石とシフトし、抱き締めて背中を摩ったりトントンしたりする。
「…な、なんで余裕なのよ…」
「余裕はないぞ?ただ、未夢の扱いには慣れてるってだけ」
べっ、と昔のように舌を出す仕草にドキッとした。
「よし、今日は寝るか」
「へっ…?」
「囚われすぎ。別にな、無理にする必要は全くないんだから。未夢次第だよ。」
「…でも…」
「はいはい、いいからいいから。その内な」
ぐいぐいと彷徨に背を押されて布団に横にされ、彷徨も隣に敷いた布団に潜り込んだ。途中になっていた本を拡げ始める。
「か、彷徨…」
「んー?」
返事はするが、視線はペラリとページを捲っている。
「じゃあさ……」
「ん?」
「一緒の布団で、寝ようよ」
「…」
ようやく未夢の方を見た。彷徨のパジャマの袖を緩やかに掴んで彷徨を見つめている。
「はー…」
「な、何よその溜息…」
「人を悩ませるのが本当に得意な奥さんだなぁって…」
「な、何よぉ!」
「初夜は無理でも一緒には寝たいって…何かすげぇ。相手がおれでよかったな。おれじゃなかったらとっくに喰われてるよ」
「くわれ…バカー!」
「分かった分かった」
のそりと未夢に詰めるように言いながら布団に潜り込む。
「これでいい?」
「………バカ」
「はいはい、おやすみ」
腰に回された腕にドキッとしつつも、何事もなかったように眠りに入ったようで、未夢は少しだけ申し訳なくなった。
(…ごめんね…もうちょっとだけ、待っててね…)
そう思いながら、謝罪を含めて頬に口付けた。