タイムリミットまで2人を送ってから3日程経った頃、学校が休みだったし、ゆっくり西遠寺の敷地内を散歩した。ただ、なんとなく回りたくなって。ううん、目に焼き付けておきたいな、が本音。
ぐるっと回ってお寺の鐘撞き場。
「あ…」
彷徨が立っていた。あそこは一番高い場所だし、今日は少し風があるから、彷徨の髪がフワフワと揺れている。背を向けているからわたしにはまだ気が付いてなさそう。
本当にびっくりだった。3日経っても信じられない。
「…わたしを…好き…だなんて…信じられないや…でも…」
嘘じゃないんだって実感してる。
傍に行きたい。そう思って、鐘撞き場の石段を上がる。
──────────あと、どれくらいの時間残ってるのかな?
彷徨はまだ背を向いてる。呼びかけた。
「彷徨」
「ん?」
ゆっくり彼は振り返った。好きだなぁ、やっぱり。
でも、今一番言いたい事はそっちじゃない。わたしは近付いてゆっくり肩に寄りかかって、額を付けた。聞こえるように伝えて。
「……あのね、ありがと…」
感謝だ。
「ちょっと離れるだけだもんね。大丈夫」
「…」
「大丈夫、だから…言いたかったのお礼」
「…」
「西遠寺にいたのが彷徨で、良かったって」
さ、中に戻ろうかなって離れようとしたけど、出来なかった。彷徨がわたしの肩を掴んでる。
「…な、何?」
「それ、こっちのセリフ。急に礼とか……まるで今日でお別れみたいな感じに聞こえるんだけど」
「え、やだなそう聞こえる?いや、でも実際あとどれくらいこっちにいられるか分からないでしょ?伝えたい事は喋っちゃおうかなって?」
「やめろよ…今そんな事言うの」
あれ?彷徨、怒ってる?
「な、何?怒ってるの?」
「…ただ、今はそういうの聞きたくねぇだけ」
「ご、ごめん…」
ケンカっぽく、なっちゃったかなぁ?彷徨はまた背を向けてしまった。
「わ、わたし戻る、ね…」
いたたまれなくなった。すり抜けて行こうとして、今度は逆に呼び止められた。
「未夢」
「…え?」
振り向きざまに抱きすくめられて、心臓が跳ねる。
「かっ…」
「仮にもし今日が最後だとしたら…」
「…」
「……行くなよって、言っちゃいそうで、悪いけどちゃんと見送れない」
「…彷徨、寂しいって思ってくれてるの?」
「…ん」
そっか。
「同じだ…わたしも、やっぱり大丈夫じゃないや…」
大丈夫な訳ない。全然大丈夫じゃなかった。寂しいな。