かな吸い自室で買ったばかりの本に目を通しているとぽすん、と背中に来た感触。未夢がくっついて来る事は別に珍しい事ではない。ぐりぐりと顔を擦り付けて来るので、突然の甘えた症候群になっているのだろう。
付き合い始めたばかりの中学の内は、急に距離を詰めると挙動不審になり、顔を真っ赤にしていたのが嘘のようである。それを考えると、付き合って来ただけの経験値は確実に未夢に蓄積されているだけの事はある。
(成長したじゃん…)
自身との関わりに対して未夢自身から積極性を増して来ている様子に、構わずとも笑みを浮かべた。ただ、今は彼女に構うより申し訳ないが本に集中したかったので、その代わり、そのまま好きなようにさせた。
暫くするとどうだろうか。ピタリと擦り付けがなくなった。顔は背中にくっ付いたままだったけれど。多分、自身が構わなすぎてつまんなくなったのだろう。
(仕方ない、いい加減構ってやるか…)
しおりを挟み、本を閉じて未夢に向き直そうとした時だった。
────すー…………はー…………………。
(…ん…?)
深呼吸の様な、いや、鼻で呼吸としては随分勢いがある。止まないどころか繰り返している。
────すー…はー…すー…はー…。
(えっ…?…なんだ、コレ…)
よく分からない恐怖感に襲われていた。未夢がこんな珍行動した事は今までなかったから尚更だった。
「なぁ…未夢…おまえ何、してんの?」
「…吸ってるの」
(す………)
「かな吸い…」
(何それ怖ぇんだけど)
「だって、いい匂いだから…」
「匂い吸ってるって意味分からねえよ!」